(2002/10/7)

米国における連邦政府研究開発予算のリバランスに向けた最近の動き

2002年10月7日
NEDOワシントン事務所

1.米国では、NIH予算がこの5年間で倍増の約270億ウになったのを中心にバイオ分野における政府研究開発予算が大幅に伸びている。そして、その結果、米国のバイオ分野における研究は確実に進んでいると言われている。

しかし、数学・コンピュータ科学、物理、化学、工学等の研究分野における予算はインフレ分を考慮するとむしろ減少しており、研究活動の停滞、研究者・学生数の減少、そして、ひいては米国の競争力の減退に結びつく可能性が高いとして、そのバランス見直しに向け、国内における議論が広がりつつある。

2.90年代当初は、米国の連邦政府研究開発予算の約半分が防衛関連研究開発であり、他の分野については、NIH、NASA、DOEの3省庁がそれぞれ100億ウで並ぶという構造であった。

図 1 主要省庁別研究開発費推移(1992〜2003年度)

クリントン政権になり、そもそも長期的視点から国の医療費負担を低減させるためにも、バイオ分野の研究開発を強化するという方向にはあった。しかし、これだけ急速な伸びを示したのは、2003年までの5年間でNIH 予算を倍増させるというクリントン大統領の公約によるところが大きい。

ブッシュ大統領もこれを追認する形をとっており、NIH予算は1998年の138億ウから、2003年には273億ウとなり、ほぼ倍増計画が達成される見込みとなっている。

3.一方で、この10年間、NASA、DOE、NSFなどの省庁の研究開発予算は横ばいとなっており、この間の米国経済のインフレを考慮すると明らかに減少傾向にあると言える。

また、これらの研究開発予算を分野ごとに見ても、ライフサイエンス関連の研究費は突出して伸びているのに対して、工学、物理、化学、数学・コンピュータサイエンスなどの分野はほとんど増加していない。

図 2 科学技術関連連邦支援額推移(1970〜2001年)

大まかにいって、研究開発費の多くが大学、研究機関に流れている(防衛分野は除く)が、米国の大学等では、教授や研究者は外部からの競争的資金を獲得してこないと研究設備の購入も助手等の雇用もできないし、研究相当分の自分の給与もでないという構造になっている。

つまり、ある分野における政府の研究開発予算の縮減は、当該分野の研究者・学生数、研究施設等の研究環境を大きく損なう構造となっている。

(日本の国立大学では、ラフに言うとMEXTから一人頭いくらという人頭研究費が支給され、さらに競争的資金といわれる科学研究費が支給されるDual Support制になっている)

4.特に、IT、材料、工学関連の企業からしてみると、採用したい分野の学生やドクターが十分存在せず、大学との共同研究をしようにも実験施設が老朽化している、研究助手がおらず十分な研究が行われていない等から魅力に欠ける状況になっていると言われている。

このような状況が今後も続くと、企業としても優れた研究者を求めて海外に研究所を移さざるを得ない、ひいては米国の競争力の低下につながるとして、懸念を示すものも出てきている。

5.そして、この8月28日には、大統領に対する科学技術関連の諮問委員会であるPCAST(Presidentユs Council of Advisors on Science and Technology)からも、

  1. 物理学と一部お工学分野の予算を増加させるべき。2004年度予算において、物理学および工学(電気、機械、化学、冶金・材料の主要4分野)について2002年度から倍増させるべき
  2. 米国市民青対象に科学工学分野を専攻する大学院生への大規模なフェローシップ・プログラムを創設すべき
  3. OSTP(大統領科学技術政策局)は、連邦研究開発投資が、国家的ニーズ、国際的競争、人材育成に適合したものかを評価するための手法を開発すべきである

という3点を柱とする提言が出されるに至っている。

6.2003年度でNIHの予算倍増期間が終わるということもあり、NSFやDOEについてもその予算の倍増法案が議会で審議(委員会レベルでは承認)されたり、先日は、ナノテク予算の増額を含んだナノテク研究開発法案も出されたりしている。

今後、2004年度の連邦政府予算の議論が進む中で、“ひいては米国産業の競争力の維持”というキーワードで、研究開発予算のリバランスに向けての議論が進展していくものと考えられる。

(以上)


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