(2002/2/18)

ATP補助金制度の見直しを巡る議論について

2002年2月18日
NEDOワシントン事務所

先日(2月5日)、商務省エバンス長官より、“The Advanced Technology Program:Reform with a Purpose”と題する、ATP制度の改革案が公表された。

その中では、企業補助金とのイメージの払拭、より研究段階に近いプロジェクトへのシフトという基本的な考え方の下、具体的に@大学がリーダシップを取るプロジェクトの承認、A大学・非営利法人に対する特許権の付与、B大企業参加の維持、C収益納付制度の再導入、D商業化前段階(pre-compititive)プロジェクトへの特化、E民間人材の活用による採択審査・評価という6つの改善策が打ち出されている。

エバンス長官は、ATPにより行われた研究開発は、米国全体の経済的発展や利益に繋がる可能性を秘めており、この改革によってATPはより効果的なものとなるとしている。

そこで、ここでは商務省の改革案を中心に、NIST、ATP担当者からのヒヤリング等も踏まえ、現状についてまとめて見た。

 

1. ATP予算を巡る議論

ATP制度は、ブッシュ前政権時代に導入されたものであるが、クリントン政権下では共和党主導の議会において大幅なカットを経験するなど、常にイデオロギー面からの標的にされてきた制度である。

特に、ブッシュ政権になって始めての2002年度予算においては、上院における巻き返しもあり、最終的には1億8,500万ウの予算がつけられたものの、当初の大統領要求では新規プロジェクトへの予算は“ゼロ査定”となり大きな関心を呼んだ。

そして、2003年度大統領予算要求においても、外見上前年度比7700万ウ減の1億800万ウとそれなりのレベルを維持しているように見えるが、ATP制度自身は意味はあるが民間に任せるべき部分まで政府が関与しており問題であるとして、新規プロジェクト分はわずか3500万ウと極めて低いレベルとなっている。

 

2.昨年の議会における議論

昨年の大統領要求が“ゼロ査定”で行われた後、議会、とりわけ民主党がマジョリティーを占める上院において、Brancomb教授等の大学関係者から、ベンチャーキャピタリストまで広範な証人の参加を得てATPの存続の価値について公聴会で熱心な議論が行われた。

そこでは、一様に米国の経済にとってATPは有意義であるとの指摘がなされる一方で、ベンチャーキャピタルの立場からは、本来民間に任せておくべき開発をATP資金が賄っており、民業圧迫となっているとの問題提起が行われている。

いずれにせよ、2002年度予算は、議会における議論等を通じ、2001年度の1億7,700万ウから1億8,700万ウと1,000万ウの増になっている。今年度についても、議会において同様の展開となる可能性はあるものの、ATPに加えて、今回はMEP(Manufacturing Extension Program)予算が昨年度の1億600万ウから13万ウと“ほぼゼロ査定”となっており、議論の論点が広がることは必至であり、予断は許されない状況となっている。

 

3. 改革案の概要

@ 改革案1:ATPジョイント・ベンチャーにおける大学リーダーシップ促進

大学が、ATPジョイント・ベンチャーのリード機関となることを許可し、大学の持つ貴重なリソースを活用する。

これまでATPは商業化を念頭にしており、参加資格は、単独応募であれば民間企業のみ、ジョイント・ベンチャーの場合は、大学はパートナーとして参加できるものの、リーダー機関は民間企業に限られていた。しかし、ATPの対象が基礎研究や応用研究にシフトするため、大学の持つ基礎的知識が重要になってくることを受けこの改革案が出されている。

A 改革案2:ATPから生まれた発明に関し大学・非営利団体に対して知的所有権を認める

ATPジョイント・ベンチャーのメンバーである大学と非営利団体に対して、発明の知的所有権について交渉できる権利を与える。ATPはバイ・ドール法の対象外であるが、大学や非営利団体に知的所有権を認めることで、ATPに参加しようとする大学・非営利団体の数を増やせるとともに、ATPプロジェクトの成果のさらなる商業化が見込める。

B 改革案3:ATPジョイント・ベンチャーにおける大企業の参加維持

年間売上25億ドル以上の大企業については、ATPジョイント・ベンチャーのメンバーとなる場合に限ってATPへの参加を認める。ATPの参加要件を中小企業だけに制限すべきとの指摘も頻繁に聞かれるが、中小企業向けにはSBIRがあること、そして、ジョイント・ベンチャーの実施には複雑なプロジェクトの実施経験が豊かな大企業の参加が重要等の理由から、大企業参加を制限するべきではないと判断。また、大学や非営利団体、中小企業は、大企業の持つマーケティング手法や技術的能力を学ぶことが可能な点も指摘されている。

C 改革案4:成功したATPプロジェクトに対する収益納付制度の導入

ATPは、これまでにも予算増減を繰り返し、プログラムとして不安定なものとなっていたため、返納金をATP資金として再投資することで、ATP財源の安定化を図る。

このため受給者は、ATPプロジェクトから生まれた製品や発明による売上の5%を、毎年ロイヤルティー料として連邦政府に返納、納付限度額はATP投資額の500%とする。

D 改革案5:ATP資金は「死の谷」克服のために利用

商業化に近い段階のプロジェクトに対する資金提供を制限し、科学的・技術的な障害(「死の谷」)を克服するために資金供給を必要としているプロジェクトを優先する。

ATPによる資金提供は、民間セクターによって資金提供がなかなか行われにくい商業化前の段階に対するものであることを、応募書類審査の際の判断基準として取り入れる。

E 改革案6:ATP応募書類審査と評価プロセスの改善

ATP応募書類の審査委員会に民間セクター出身の人材を取り入れ、応募書類審査・選択プロセスの質を高める。特に、技術的審査については、これまでNIST研究者を中心とした政府スタッフのみで構成されていたが、民間の人材を審査員として登用することで、民間でどのような技術が開発されているか、また民間でどのような技術が必要とされているかを判断する際に、民間専門家の知識を活用することができる。

 

4. 改革案を巡る主要な論点

(1)収益納付の義務付け

改革案では、ATPの支援を受けて商業化に成功した企業は、製品や発明によって得られた売上合計の5%を毎年ロイヤルティー料として財務省に返納しなければならず、このロイヤルティー料は最高ATP投資額の500%までとされている。

収益納付義務付けの理由として、@安定したATP財源の確保、AATPプロジェクトによる利益の平等な分配、B連邦政府活動の効率性向上の3点を挙げている。

@ 財源が不安定であったため、応募しようとする企業からプログラムの継続性について懸念が広がっている、特に昨年9月のテロ以降、ATPが連邦予算の中でプライオリティーを与えられない可能性が増大。そこで、返納金を財源とすることで、ATP予算財源を安定的に確保し、参加企業との関係も向上可能。

A ATP開始から2000年9月の間に、168件の技術が商業化されている。これらの中には市場で成功した技術も多い。これらの利益は1企業や1産業セクターだけではなく、米国経済全体に平等に分配されなければならない。そのため一旦政府に利益の一部を納入させる。

B 収益納付によって連邦研究開発投資のリターンが最大化され、連邦リソースの効率的な利用が図られる。

商務省次官フィリップ・ボンド氏(Philip Bond)によると、税金が製品立ち上げ成功の原動力になったからには「納税者に利益を配分するべき」と述べている。また、NIST局長も、ATPを民間のベンチャーキャピタルと比較して、「投資家として、リスクが高くてプロジェクトが失敗すれば、ロイヤルティー料を受け取ることはできない。しかし、プロジェクトが成功すれば、投資家として利益配分にありつくのが当然である」として、返納義務付けに賛成の意を表している。

しかし、返納義務付けについては、NIST内外からその効果について疑問の声が上がっている。例えば、ATPシニアエコノミストによれば、“プロジェクトに参加する企業から成功した製品・発明について売上金の一部を返納させるというのは一見理屈が通っているように思えるが、製品販売による税収入増加や雇用数増加、地元への投資増加といった間接的な経済インパクトの方が、返納よりも効果的”また、“現在は収益納付義務が無いので参加企業もこの商品はATPのおかげで成功したと評価してくれており前向きに回っているが、収益納付義務を課すと、そもそもATPは使いづらくて成果なんて出ていないと企業側は素直に成果をATPに申告しなくなることは自明。そして、そのチェック体制、コスト・フィットを考えると大変なこととなる”との指摘がなされている。

実は、ATPに収益納付制度を導入する試みはこれが最初ではなく、ATP開始当時には、特許ライセンシング収入に限って、一部返納が義務付けられていた。しかし、NISTのベメント氏によると実際に実行すると面倒くさく、ATP参加企業とNISTスタッフの両方からの強い反対にあったため、1992年の法律改正時に中止されたという。

その後、1995年2月の商務省予算審議の際には、David Skaggs下院議員(CO-D)が、ATPプロジェクトから成功したものについては返納を行なうべきとの発言を行なっている。この席で、返納の手法として政府へのストックオプション譲渡がよいと案を出した。政府は、企業が製品販売によって利益が出るようになれば、ストックを売却して、その利益を政府赤字に充填することができるというのがスカッグス議員の意見であった。

しかし、スカッグス議員の案は議会内外において不人気で、議会で真剣な議論が行なわれることはなかった。当時のロナルド・ブラウン(Ronald Brown)商務長官は、返納は、ATP企業の事業や収入について調査するためのスタッフが必要となるため、「新たな官僚制度の創出(a whole new bureaucracy)」につながるとして批判している。また、当時のATP局長代理も、「聞こえはいいが、やってみると悪夢である」と述べている。

このようにATPでは返納の義務付けは1991年以降行なわれていなかったが、連邦政府研究開発プログラムの中では、DOEのクリーン・コール技術プログラム(Clean Coal Technology Program)や国防総省が行なう研究開発・製造プロジェクトの一部を始めとして、返納制度を設けているものもある。

(2)商業化に近い段階のプロジェクトに対する資金提供の限定

これまで、ATPは、民間企業でリスクが高く行い得ないような、先端領域における研究開発に対して支援を行うこととされている。しかし、そもそも米国経済の発展のためのプログラムでもあり、その審査過程ではその経済的インパクト等を判断材料としていることから、商業化に近い段階にあるプロジェクトに対しても資金提供が行われて来ている。

一方、従来より基礎研究と実用化研究の間にある“多大な資金を要する科学的・技術的な障害(The valley of death)を克服するための政府の資金的援助が不足しているとの議論が存在すること。また、昨年のATPを巡る上院における議論でも、従来のプロジェクトの中には、民間のベンチャーキャピタリストが担うべきものもかなり含まれているとの指摘がなされているところ。

そこで、改革案では、ATPの対象プロジェクトとして民間の資金が得られにくい科学技術の研究段階のものに限定することとされている。

これに対して、NISTの担当者からは、“収益納付を義務付ける一方で、商業化があまり近くなく直接的には収益が期待でき難いようなプロジェクトの採択は行わないようにするというのは矛盾している”との指摘もなされている。

(3)大学・非営利団体に対する知的所有権の付与承認

現行のATP根拠法(American Technology Preeminence Act)では、知的所有権取得が認められるのは営利企業に限定されている。そこで、大学や非営利団体が議会や商務省に対して働きかけを行なっていた。

既に述べたように、ATP根拠法では民間企業にのみ知的所有権付与を認めるとの表現のみに留まっている。そこで、NISTではこの法律を反映し、大学や非営利団体への知的所有権授与の制限を明記する運用規則作りに1993年8月から着手したが、これに対して、大学や非営利団体から反対の声が上がったのである。

大学や非営利団体をメンバーとして擁する政府関係会議(Council on Governmental Relations、以下CGR)は、NISTに対して、知的所有権の制限によって、大学や非営利団体がATPに参加しようとするインセンティブが失われると警告した書簡を送付している。大学側は、ATP根拠法を定めた議員の意図は知的所有権の制限ではないこと、また、そのような扱いはバイ・ドール法の精神に反するとしてNISTの動きを阻止しようと試みた。CGRのメンバーである、MITなどの有力なリサーチ大学や非営利団体も単独でNISTや議会に嘆願書を送っていた。

一方NIST側は、大学や非営利団体への知的所有権授与の制限を定めるための規則作りは、1991年の法律の精神をそのまま反映したものであるとして強固な姿勢を崩さなかった。特に、ATP根拠法は、非営利団体ではなく、営利機関への支援を行うためのプログラムについて規定しており、非営利団体については、ATP以外の連邦プログラムで支援が行なわれているから、特にATPにおける知的所有権保護は行なわなくてもよいとの見解を示した。

しかし、上院議員スタッフがFederal Technology Report誌に匿名で明かしたことによると、ATP根拠法で非営利団体や大学への知的所有権について触れていないのは、議員スタッフによると「innocent mistake(単純なミス)」であったという。議会スタッフが、この法律で明確にしようとしていたのは、ATPプロジェクトから生まれた結果は海外ではなく、米国内において享受されねばならないということであり、また、ATPの参加主体が米国企業であったことから、法律では知的所有権の取得承認を「米国企業」に制限したという。議会側では、ATPの主目的は米国企業への支援であると解釈していたものの、大学や非営利団体がパートナーとして参加することについては異議はなく、議会スタッフの見解としては、「ATPコンソーシウムの参加企業や機関が知的所有権は大学に与えるべきであると考えれば、それはコンソーシウムの判断に従えばよい」というのが実際のところであったようである。

このため、NIST側の動きに対して、1993年10月に、上院商業委員会の議長Ernest Hollings議員(SC-D)が、ATPプロジェクト参加機関は、知的所有権の分配についてATP参加企業・機関が独自に決定できるような権利を与える法律改正の可能性について独自の調査を行なっている。CGRによるロビイング活動も活発となり、議会ではATP根拠法を改正して、知的所有権を大学や非営利団体にも認めるような条項を加える法案が2つ(S4、HR820)提出された。審議は長期間に渡って行なわれたものの、どちらの法案も自然消滅となっている。

NISTは最終的に1994年1月にATP運用規則 を発表し、知的所有権取得は米国営利企業のみに認めることを正式に発表した。当時の商務省技術担当副長官のメリー・グッド博士(Mary Good)は、バイ・ドール法の精神がATPに生かされない理由として、「バイ・ドール法はあくまで技術移転制度であるが、ATPでは技術発展のためのプログラムであり、両者は全く違うものである」と答えている。

しかし、エバンス長官による改革案では、ATPジョイント・ベンチャーに参加する大学や非営利団体への知的所有権取得を認めている。この知的所有権制限撤廃の理由となったのは、以下の2点であると言われている。

@ 1990年代に大学・非営利団体の技術移転活動が活発となり、米国経済の振興につながっただけでなく、知的所有権に関する専門知識やノウハウが大学等に蓄積されてきた。これまで企業と違って知的所有権の誤用や非効率的な利用が心配されてきた大学や非営利団体であるが、知的所有権の扱いについては問題なく行なわれると判断できる。

A 大学や非営利団体への知的所有権制限によって、ATPへの参加を促すインセンティブが損なわれている。特に大学は技術移転を重要な財源確保のための活動として捉えており、知的所有権が得られないのであれば参加する意味がないと考える傾向にある。大学等の参加によりATPの意味が向上する。

 

5.議会における動き

エバンス改革案は、既にOMBで承認されており、これから議会において、改革案に従ったATP根拠法の改正の是非が審議されることになる。

下院科学委員会議長のSherwood Boehlert議員(NY-R)と、下院科学委員会環境・技術・標準小委員会(Subcommittee on Environment, Technology and Standards)の議長であるVernon Ehlers議員(MI-R)は、商務省スタッフと面会する機会を設け改革案について話し合っており、この中で、両議員はATPの継続については同意するものの、エバンス改革案については議会で慎重な審議を行ないたいと答えたといわれている。

ATP改革案に対する議会の公式な動きはまだないため、議会がどのような反応を示すのかについてはまだ不明であるものの、今後引き続き注視が必要。


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