(2002/6/14)

“Valley of Death”から“Darwinian Sea”へ

米国における議論と対応策

 

2002年6月14日
NEDワシントン事務所

1.“Valley of Death”を巡る問題点

米国では80年代から、基礎的な研究段階と商業化段階との間には、資金供給が欠如する領域が存在し、それが研究開発の成果が円滑に商業化、あるいは新規事業に結びつくことを阻害する領域があることが指摘されている。

つまり、あるアイデアを元に基礎的研究を行おうとする場合には、NSF、NIH、DOE等の連邦政府が提供するある程度の研究資金が存在する。しかし、それが開発段階に入ったり、スケールアップが必要となる領域になってくると、NISTのATPや各省庁のSBIRといったプログラムは存在するものの、(成功すればそれは民間企業の利益につながることから)基本的には民間企業がリスクを取るべき段階であるとして政府の資金的バックアップは困難となる。

他方、ある程度マーケットの予見性がある領域では、民間企業も先行投資として商業化のための開発投資を行う。しかし、民間企業からすると、まだまだ実用化には距離があり、研究開発的な要素が残っている段階については、資金供給には後ろ向きにならざるを得ない状況に置かれる。

そこで問題となるのが、両者の間の領域における資金供給をいかにして埋めるかである。勿論、80年代における議論を踏まえ、DODにおける基礎的研究実施と調達のうまいリンケージを民生部門でも制度化するために、SBIR制度やATPといった制度が導入されているものの、そのインパクトは限定的である。

そして、米国が90年代に経験したことの一つに、経済の急速な発展の中で潤沢な資金を有するベンチャーキャピタリストやエンジェルがこの領域にRisk Moneyを供給することで、新たなビジネスが生まれ、その果実を大企業等もうまく活用という、良好な循環的状況が出来ていたことでもある。

しかし、この数年の急速な米国経済の調整局面において、このRisk Moneyの供給が急減したことから、このような状況を危惧する者から何らかの対策が必要であるという声が再び高まりを示しているという状況にある。

2.“Valley of Death”から“Darwinian Sea”へ

本来この領域は、新たな発明、アイディア等が未熟なままではあるが数多く存在し、あるものはInnovation に到るという一連の状況を指すものである。このような“領域自身”は混沌としたものであり、それがゆえに潜在的な創造性を有するものとして、ネガティブな評価が与えられるべきではなく、有意義なものと高く評価されるべきであるという指摘がなされている。

そこで、最近では、“Valley of Death”というのは、ネバダのDeath Valleyを連想させ、何もない不毛の土地という悪いイメージを連想させることから、そうではなく、創造性に富み新たなInnovation を生み出すものとして“Darwinian Sea” (そこから新たな進化が次々に生まれてくる洋々たる場)という呼び方に変えるべきであるとの議論が行われている。

 

3.各主体の対応

(1)政府のアプローチ

このような問題は、観念的には判りやすいものの、実態はどのようになっているのかの把握が不十分ではないかとの指摘があり。その現状及び分析について、DOC/NISTが中心となり評価を進めているところ。この9月にも各技術分野毎に、どのような性格の資金がどの程度の規模存在するかについてのレポートが公表される予定であり、それを踏まえた政策議論が進展すると見られている。

現在、見直しの議論が進められている6つのDOC/ATPの見直し事項の一つに、従来は企業しか受給者になれなかった(下請け、あるいはコンソーシアムの一員での参加は可能であった)ものを、大学がリーダーとなることも認めるという事項があるが、このギャップを埋める一つの方策として考えられている由。

また、NSFは、本来、基礎研究の振興をミッションにしているところであるが、一方で、中小企業向けのSBIRも有している。その中SBRIプログラムにおいては、基礎的な研究を進める上で必要となる計測制御機器の開発等も含まれる等実用化に近いプロジェクトも数多く手がけている。

そして、それらのプロジェクトをより早く商業化に結びつけるため、3年程前から通常のPhaseIIに続きPhaseII-Bという段階を新たに設け、C/V、事業売上げ等の外部資金の取得を前提に、NSFが追加的な研究資金の提供を行うという方式を導入。これは、まさに、Valleyを基礎段階から埋めようとする方策である。

さらに、NSFのSBIRにおいては、この春から事業化に近い段階まで達してはいるものの投資が得られていないPhaseIIB研究資金受給者と、他方で資金はあるものの投資先が絞り込めずに困っているエンジェル、V/C等の間を繋ぐために、資金的援助は全く行わないもののNSF自身がこれらのマッチングを図る、“Match Maker”アプローチを開始したところである。

(2)大学を巡る動き

米国の大学では多額の大学の基金を元に各種事業に積極的な投資を行っているところが数多くある。そして、従来は外部のV/Cに投資をしていたが、そのような一般的なV/Cは有望な技術を見極める目もなく、リターンが思わしくないとの指摘もあり、中には大学自らが、外部から財務管理の専門家等を雇い入れ、技術の目利きは大学教授等が行うという、学内のインベンションに対しRisk Moneyを供給するアプローチを拡大してきている動きもある。このアプローチは、自らProprietary Informationをコントロール可能であり大学としても利点が多いという側面も有しており、大学からすれば望ました方式であるとの話もある。

また、資金的な面からのみではなく、“場”を提供するという観点から、大学を評価するべきであるという議論もなされている。特に、混沌としてはいるものの新しいアイディアやInventionが数多く転がる中で、外部からのビジネスマンから政府関係者も含めて、色々な種類の人間が集まり、新たなInnovationにつながっている現在の米国の大学は、他の組織・機関では存在しえず、“場”として重要である。

(3)民間企業のアプローチ

本来的には、このような領域に対するリスクマネーの供給は、エンジェル、V/Cというつた民間サイドの資金供給が重要な役割を果たすものと考えられる。

しかし、民間企業について見れば、Corporate Fundingが、このギャップを埋めるひとつの方策として位置づけられる。80年代後半から、ほとんど民間企業は基礎的な研究から手を引いたが、これに代わって、自らのポートフォリオ戦略に基づき、大学やベンチャー企業との協力関係を構築している。また、企業によっては、新たなInnovation を求めて、企業内にあってはできない研究環境を作り出すためにも積極的にSpin-offを後押ししている企業も多いとのことである。

このようなアプローチに関連し、意外と活用されているのが“Consortium”ではないかと言われている。具体的には、HP, Intel, 3Mといった企業は、自社からSpin-offした企業や新興ベンチャー企業を、単に投資という形態のみではなく、共同研究・共同事業という形で戦略的に囲い込むためにConsortiumを活用していると言われている。

具体的には、Consortiumを通じて、ベンチャー企業のサポート、そして(やがては買収等を念頭に)、かなりの量のRisk Moneyを供給しているといわれている。連邦政府のConsortium Actが90年代に、単に研究開発のみでなく製造まで含むようになった背景にはこのような動きがあったといわれている。


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