(2002/8/30)

米国カリフォルニア州における自動車CO2排出規制を巡る動き

2002年8月30日
NEDOワシントン事務所

1. 概要

2002年7月22日、カリフォルニアGray Davis州知事は、カリフォルニア大気資源委員会(ARB;Air Resource Board)に対して、2009年型自動車モデルを対象に可能な限り現実的(Maximum Feasible)なCO2などの地球温暖化ガス削減基準を2005年までに作成するよう命じる法律に署名を行った。

この基準は、個別のモデルに対してではなく、各自動車メーカのラインナップ(Fleet)平均についての条件であり、自動車メーカーは自動車以外の分野からもCreditを購入できるものとなっている。

この法案(AB1058)は、Fran Pavley(民)カリフォルニア下院議員によって昨年2月に提案されたものであり、その後、幾度にもわたる議論が行われ、ようやく2002年4月1日に上院の主要な委員会を通過。しかし、上院本会議の議決を得るためには反対派の抵抗が強かったことから内容的にはほぼ同じであるが、ARBの権限の限定、SUVをはじめとする自動車の価格上昇につながらないようすべき等経済面での配慮事項を明記する等の内容を追加し、AB1493として上院本会議の議決を得ている。

この7月1日の下院本会議の最終採決に当たっても熱心な議論が展開されたが、政党間の対立色が前面に出、共和党議員30名は全員反対、民主党議員50名のうち41名が賛成(棄権9名)という、わずかの差で議決されるに到っている。そして、7月22日にDavis州知事の署名が行われ、州法として成立した。

この法律自身、具体的基準値が規定されている訳ではなく具体性に乏しいものであるが、全米初の自動車排気ガスに関する温暖化ガス規制で、他州に拡大する懸念が持たれており、次期大統領候補の一人と噂される民主党Davis氏が知事を務めるカリフォルニア州(この秋に知事選)における決定でもあり、関心が持たれている。

そして、保守派からは“ブッシュ政権が地球環境問題で適切な対応をとらなかったことからカリフォルニアの先行を許してしまった”、“過去のClean Air Actの導入の際も、(共和党)政権が適切な対応をとらず各州が独自に規制を導入し、それを避けたい産業界が業を煮やし全国一律のClean Air Actを導入させたことの二の舞になる”等と関心を持たれている。

そこで、ここでは、本法律の賛否を巡る関係者の議論及び、この決定を踏まえた自動車業界の動き等についてまとめてみた。

(これまでの流れ)

2001年2月23日 AB1058法案がFran Pavley(D)議員により提案

2001年5月31日 一部修正のうえ下院を通過

2002年4月1日  上院関連委員会を通過

2002年6月27日 AB1058を修正の上、AB1493として上院を通過

2002年7月1日  下院を通過

2002月7月22日 Gray Davis州知事の署名

 

2. 法律を巡る議論

(1)法律の概要

AB1493は、カリフォルニアARB(Air Resource Board;大気資源委員会)に対して、自動車からの温暖化ガス排出規制のための基準の制定を求めている。これは、個別のモデルに対してではなく、各自動車メーカのラインナップ(Fleet)平均についての条件であり、自動車メーカーは自動車以外の分野からもCreditを購入できるものとなっている。また、カリフォルニアCAR(Climate Action Registry)に対しては、温暖化ガス削減報告制度についての手続及び様式導入に際して、ARBと協議を行うことを要求している。

そして、この基準の適用は2009年型モデル以降についてであるが、具体的基準等は、2005年末までに作成することとなっている。

また、幾度かの議会での議論を経る過程で、@基準を導入する際には技術的可能性及び経済的影響を考慮し“可能な限り現実的で費用対効果が大きい方策”を探る、AARBが規制を導入した後でも議会は委員会を設け毎年審査を実施し規制内容について修正を求めることが可能、BARBの権限について自動車税、燃料税、走行距離制限、SUV等への重量・速度制限等については触れることが出来ないという多くの制約が課されたものとなっている。

また、ARBは、もし連邦政府が同時期に同等な、あるいはより効率的な基準を設定した場合、自ら規制を導入しなくても良いという規定まで含むものとなっている。

(2)推進派

本件は、幅広い分野からの支援を受けたものとなっている。連邦議会レベルでも、カリフォルニア州選出のBarbara Boxer、Dianne Feinsteinの両民主党上院議員及び28名の下院議員が強力な支援を行った。また、San Francisco, Los Angels, San Diego, San Jose, Santa Monicaといった都市はいずれも支援に回ったし、当然、Blue Water Network, Coalition for Clean Air及びNatural Resources Defense Councilという3大環境団体も支援した。

そして、100を越える産業界や科学者たちが賛同の意思表明を行ったことに加えて、Cameron Diaz, Leonardo DiCaprio, Barbara Streisandといった芸能界の有名スター達25名も支援を表明している。

推進派は、この法律の必要性を説くための多くのデータを提示し、カリフォルニアの住民の健康を守るためには厳しい規制が必要であり、このような前向きな取り組みについての全米最初の州になるべきとの議論を繰り広げた。

世界で5番目の大都市であるカリフォルニアは、全米1番のCO2排出源となっているとともに、世界のCO2排出量の約2%を占めている。そして、州の排出温暖化ガスの約40%は自動車によるものだと指摘。特に、現ブッシュ政権の地球温暖化に対する取り組みの遅れを指摘し、カリフォルニア州としては今後10年内に極めて高価な緩和費用に直面する可能性が高いことから、国レベルでの政策が実施されるまで待てないとの議論が展開された。また、カリフォルニはシェラネバダ山脈の氷河が、予想以上に早く溶け出してしまうことなどから、地球温暖化によって大きな影響を受けるとの指摘までなされている。

また、Public Hearingや利害関係者との討論会で推進派は、“単にCO2のみでなく他の温暖化ガス削減も合わせて考えることによって、より効率的な対応が可能であり、新しい法律が導入されても追加的に必要となるコストはない”との議論を展開している。

さらに、ARB(Air Resource Board;大気資源委員会)は、温暖化ガス排出抑制は、2004-5年のARB総会より早い時期から、乗用車の排出規制見直し議論の中に取り込まれるかもしれないとの姿勢を示している。

(3)反対派

この法案に反対を唱えたのは、主として州の共和党議員及び米国自動車製造連盟(AAM;Alliance of Automobil Manufacturers)に代表される自動車業界であった。AAMは、当該法案は州内の全ての自動車を所有し運転するためのコストの大幅な増加につながるとして大きな問題であると主張した。 反対派は、CO2はTail Pipe排出ではないことから、SOxやNOxと異なり排気ガス処理技術では対応できず、燃費向上によってのみしかCO2削減は達成出来ないものであると反論。つまり、CO2削減のためにはメーカは燃費向上しか対応策がなく、そのためメーカは小型・軽量な車を製造するしかなくなる、そしてそれは、カリフォルニアからいくつかの人気車種がなくなる等消費者の選択肢が限定されるということを意味しているとの議論を展開した。

AAMは、“州法と連邦法間のConflict”という観点から、州法による自動車からのCO2排出規制の決定は違法であるとの問題を投げかけた。CO2の排出規制を行うことは、“連邦法で既に規定されている連邦燃費規制の州規制版であり違憲である”と非難している。

また、反対派は、カリフォルニア州の世界の温暖化ガス排出に対する影響度は0.1%程度であり、世界の気候変動に関しては、無視できるほど小さいと主張している。また、最近の自動車は70年のそれに比べ97%も少ない排出量であり、これは今後7年間で75%の追加的排出低下を意味すると指摘している。そして、AAMは、環境問題へのより良い解決策として燃料電池技術を支援することに力を入れるべきだとしている(自動車メーカは、既に燃料電池や代替技術に対して、年間$180億もの研究開発費を投じている)。

Davis知事の署名後、AAMはAB1493の法的正当性について、法廷で争うと発表している。その根拠として、AAMは、CO2排出量を抑えるということは、より少ないガソリン消費、つまり、燃費を抑えるということと同等である。そして、よい燃費を達成するためにはCAFリ準を引き上げるということと同義であるが、CAFモヘ、環境関連の法規制は、州間の交易の条件を公平にするために必要な条件として、憲法における州間取引条項に該当することから、州法の規制対象ではなく、連邦政府の規制対象であると指摘している。

従来より、より高い燃費になったら、より人々が運転したがるという論点から、自動車業界は、CAFモフ強化には反対している。強化されたCAFリ準は、これらに適合するために高価な新技術を開発し導入させることにつながる。これらの新技術のためのコストは、車両価格の上昇を通じて消費者に転化され、販売台数が減少する。

また、SUVのような人気はないにも拘らず小型・軽量の車を製造せざるを得なくなると、自動車メーカは燃費は良いが市場価値が低くて安全面でも劣るより小型の車の販売を拡大しなければならなくなる。そして、そのための追加的コストをバランスさせるために、人気はあるものの、大型の燃費の悪い自動車の価格を引き上げざるを得なくなるとして反対している。

 

3. 議会における議論と州知事のスタンス

(1)議会におけるやり取り

AB1058は、反対派の執拗なキャンペーンの結果、一般市民からはネガティブな感触を持たれていた。しかし、AB1493として修正・提案されたことで、多くの議員の支援を取りつけることが出来たものと言われている。

このような中、最後のキャスティング・ボートを握ったのはCardoza下院議員であった。Cardoza議員は、従来、自動車業界からの執拗な働きかけによりAB1493に対する採決を棄権していたが、上院議長であるJohn Burton(D-San Francisco)との間で取引があり、最終的には賛成に回ったと言われている。

彼は1996年以降3度にわたって、Bay Areaのドライバーに対するより厳しい排気ガス規制を求める法案を準備してきたが、いずれも上院での審議が十分行われない状態であった。ところがAB1493の採決の翌日、Burton議員は、州の全員が既により厳しい規制に適合しているとして、“Bay Areaのドライバーに対してより厳しい排気ガス監視を行うことを支援する”と発表している。

Cardoza議員とBurton 議員は、何らの取引が行われたことは否定しているが、Burton議員は、“両施策共に汚染を低減することを目的にしているのに、一方のみを支援し他方をつぶそうとすることは矛盾している”と発言しており、また、Cardoza議員もBurton 議員に自らの関心は伝えているが、“引き続き(Cardoza議員提出の)排気ガス規制法案は上院での審議が引き延ばされるであろう”としている。

(2)Davis知事の動き

温暖化ガス規制に対して支援の意は示しつつも、Davis知事は法案の審議期間中にはその立場を明確に示さなかったし、下院が最終的に議決しても、しばらくは“素晴らしい公共政策ではあるが、多くの修正が行われており議決案通りに署名するかどうか未定”と立場を明確にしていなかった。

結局、今年の7月22日、Davis知事は当該法案に署名したが、Washington Postの社説では“ブッシュ政権が地球温暖化問題に対して適切に対応しなかったことから、カリフォルニア州に当該問題に対する先手を許してしまった”と評価されている。また、Davis知事は、“特定の技術的な解決策を押し付けるのではなく、むしろ自動車業界は排出量の削減に向け各メーカの独自の対応を図るべきである”としてARBの強力な介入に対する疑念を抑えようとしている。

2002年秋に再任の選挙を控えるDavis知事は、AB1493はARBが新たな温暖化ガス排出基準を作成することのみしか規定していないことから、署名に際して特定の規制の可能性にはまったく触れなかった。しかし、Davis知事は、環境派の支持を得ることに成功している。

8月5日に、California League of Conservation Votersは次の知事選におけるDavis 氏支援についてアナウンスした。同日、Davis氏の選挙キャンペーン放送において、“同LeagueからもDavis州知事は新環境派であると評価された”とする、一方、“対抗馬のBill Simon氏(共和党)は石油・ガスを扱う大企業を擁護している”として環境面及び最近の企業スキャンダルの面からマイナスのイメージを与える動きに出ている。

このように、一方では、カリフォルニアの利益を追求しつつ企業の圧力に屈することのない環境に優しい知事だというイメージを作ることに成功し、他方で、この法律自身、自動車メーカには何ら義務を課しておらず、カリフォルニア州民の選択の自由を制限するものとして非難されることもないという状況を作ることに成功している。つまり、AB1493はDavis知事の再選に向けWin-Winの状況をもたらしていると言われている。

 

4. 自動車業界各社の動き

今回のカリフォルニアの動きに前後した自動車各社の動きは以下の通りとなっている。

(1) GM

GMは、今年の2月にAUTOnomyという全てが電子的にコントロールされる燃料電池車のコンセプトカーを発表するとともに、この7月には、“2002年9月中にはプロトタイプ車を出す”と矢継ぎ早に燃料電池車への取り組みを発表している。

このプロトタイプ車は、シャーシは全アルミ製、車体はファィバーグラス製で、シャーシの後ろに搭載される燃料電池は94kWの出力であるとしている。また、電力系統は約11inchの厚さの“スケートボード”と呼ばれる下部車体に収められ、水素燃料はシャーシの中心部に置かれる3本の柱状のタンクに詰められ、その総車体重量は1,900kg(4,180lbs)となっている。 

そして、エンジンは存在しいことから、これまでのエンジンフードは存在せず、フロントグラスは運転席の足もとまで延るデザインとなっている。

もう一つの特徴は、アクセル、ブレーキが全て電子的にコントロールされることであり、また、上部車体のみを付け替えることが出来る構造になっている点であり、オーナはボディーを頻繁に交換できる構造になっている。GMでは、2010年までには市場に出したいとしている。

また、この7月、GMは、2010年までに廉価な燃料電池自動車を市場に出すために、ニューヨークに300人を超える研究者を結集した新たな燃料電池の開発センターを開設すると発表している。既に、ドイツの安全機関から1inch平方当たり10,000lbsの圧力まで耐え得る水素タンクの認証を得ており、これにより300miles走行可能な燃料を積める技術を確立するなどの状況にある。研究開発担当の副社長によると、GMは100万台の燃料電池車を市場に出す最初のメーカとなることを目指しているという。

このように、燃料電池の技術開発には前向きに取り組みつつも、CAFリ準の見直しには強く反対しており、環境派からは非難を受けている。

GMは、CERES(Coalition for Environmentally Responsible Economics)の会員であると喧伝しつつも、燃費向上には反対していることから、環境派からは、単にCERESを利用しているだけであると非難されている。そして、連邦政府のCAFリ準について議論を進める中で、GMとCERESの関係は悪化していると言われている。

(2)Ford

カリフォルニア州の新しい法律に対するFordの立場は、不明確なものとなっている。一時、Alliance of Automobile Manufacturingが指摘するとおり、産業界や州政府がこの法律の本当の影響を評価するためにはもっと時間が必要であるとして、カリフォルニア州を相手取って訴訟を起こすことはしないと発表。そして、“自主的目標の設定に向け規制サイドと協力していくことを望んでいる”としていた。しかし、その後の発表では“カリフォルニア州を訴訟することを否定しないし、AB1493に対して依然反対である”としており、州政府からは反感を買っている。

技術面では、先日、2003年後半にはSUV EscapeのHybrid車を発売すると公表しており、これ加えて、Land Rover Freelander、Volvo XC90、Mazda TributeといったブランドのSUVについてもそのHybrid車の発売時期を探っているといわれている。また、Fordは、Toyotaとの間で、バッテリー、電動モータ、電力機器の低コスト化に関しての協力協定を結び、Hybridについての技術仕様の標準化を図ることを考えていると言われている。

2000年には、Ford社は2005年までにSUVの燃費を25%改善を達成するとしていた。これは、Mazda,VolvoやLand Roverといった提携関係にある他のブランドについても適用されることとなっている。しかし、この2002年8月、Fordはいくつかの燃費向上技術については予想通りに開発が進んでおらず、先の目標の達成はかなり困難であると公表した。そして、Fordの環境・安全担当の副社長は、予定通りSUV平均の燃費を現行の16(25Km)miles/gallonから20(32Km)miles/gallonにまで伸ばすと繰り返してはいるが、そのため会社内では多くの対応が必要であると留保している。

また、Fordも、積極的に燃料電池の研究開発を行っているが、彼ら自身、燃料電池はより長期にわたる目標であると位置づけている状況。先日もバラード社と共同で水素を燃料とする内燃機関(エンジン)により駆動される固定式発電機を開発したと発表するなど、当面は内燃機関の燃費改善により焦点を当てている様子が伺える。

(3)Daimler Chrysler社

Daimler Chrysler社は、ドイツにおいては燃料電池本体の研究を、そして米国では水素製造についての研究開発を進める体制を取っている。

同社は既に、Merucedes-BenzのCITARO City Busをベースにした燃料電池バスをバンクーバで導入。このバスは、圧縮水素を詰めた燃料ボンベを屋根に載せた構造で時速80kMで走行可能であり、今後、2003年までに欧州のいくつかの都市に導入が予定されている。

さらに、燃料貯蔵技術についてニュージャージ州にあるMillenium Cell社に対して、パッケージが容易で再利用が可能な粉状・液体状の塩化ホウ酸水素(NaBH4)を用いた燃料電池の開発を委託している。そして、米・欧の共同開発により、航続距離300mile、時速80mphの性能を有するクライスラーTown&Country Natriam実験車を開発したとしているが、その詳細は明らかにされていない状況にある。


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