(2003/2/20)

米国の最近の燃料電池関連のエネルギー政策を巡る動き

2003年2月20日
NEDOワシントン事務所

近時、米国政府は燃料電池への取り組み等の動きが活発化しているが、その背景にある要因として、輸入石油依存度の低減というエネルギ-セキュリティーへの対応という側面、そして、環境問題への対応策としての側面の両面がある。

ここでは先ず、ブッシュ政権のエネルギー・環境に関する基本的立場と産業界との関係を整理し、そして、さらに燃料電池を巡る政府、議会、そして各般の産業界の動きについてまとめてみた。

1.ブッシュ政権のエネルギーについての基本的取組み

(ブッシュ政権の誕生とその性格)

ブッシュ大統領就任当時は、天然ガス、石油(特にガソリン)価格の高騰、カリフォルニアを中心とする電力需給問題等に直面。民主党クリントン政権のエネルギー政策の失敗を指摘する一方で、低廉かつ安定的なエネルギー供給確保を公約。

他方、選挙で辛くも逃げ切ったブッシュ政権の発想の基本は中間選挙において再選されること。そのために、石油、エネルギー、鉄鋼、自動車産業等Old Economy産業からの支持取り付け、前回選挙で共和党支持に転じたウエストバージニアをはじめとする石炭産出州の票の確保であり、農家に対する配慮であると言われている。

また、主要閣僚、スタッフ等にこれら業界からの人間が多く起用されており、それを見るだけでもブッシュ政権の性格が計り知れるといわれていた。

(国家エネルギー計画の策定)

このような中で、チェニー副大統領をヘッドとした閣僚会議を設けて、総合的なエネルギー政策を議論し、国家エネルギー計画としてとりまとめ。ANWR問題に代表されるような“開発か自然保護か”、あるいは国民に生活スタイルの見直しを迫る“省エネルギーか供給拡大か”といった議論が国内で沸き起こった。

同計画では、エネルギー・セキュリティーの確保を第一義的な目標として定め、このため、石油の海外依存度低減、エネルギー供給の拡大に向けた各般の取り組みを講じることを明確化。その内容は、“まるで経団連からの規制緩和要望書”と思える程の内容で、エネルギー産業界の影響力を見せ付けた形となっていた(この間、チェニー副大統領はエネルギー産業界と数多く接触しており、その際の資料の提出を巡るGAOとWHの争いは大きな議論に)。

勿論、最終的な報告書の中では、世論の高まりも踏まえ省エネルギーの重要性について強調されているものの、エネルギー利用効率化という切り口に限定。米国では電力の送電ロス等がかなり大きいこと、送電網を全米で張り巡らすことは困難であること等から分散型エネルギーの促進という視点が中心となっている。

燃料電池については、このエネルギー利用効率化という観点からの位置づけが与えられている程度で大きなプレーアップが行われているわけではなかった。

なお、ANWRが開発された場合、それから得られる国へのロイヤリティー料は再生可能エネルギーR&Dに振り向けられるスキームを提示している。

 

2.環境問題への取り組み

(上院におけるマジョリティーの変化)

このようなエネルギー政策の展開と前後し、エネルギーと不可分な環境問題に関していくつかの展開が見られている。

先ずは、就任早々、ブッシュ大統領自身“発電所からのCO2は有害物質ではなく規制はしない”と明言したことである。これは、従来からClean Air Actの下でCO2を規制すべきか否かについて議論が戦わされている中で、環境積極派でNJ州知事から環境庁長官に就いたホィットマン長官が、地球環境問題は重要であり発電所からのCO2規制も検討する可能性があると方々で発言を始めたことに対し、石炭業界が強い危機感を感じ強力なロビーを行った結果、共和党保守派議員から大統領に基本的姿勢を問うレターを出させ、それに大統領が“CO2は規制せず”と言わせるというシナリオを作ったと言われており、石炭業界の政権への影響力の強さを示した例だと言われている。

このような強硬な動きに対する反感もあって、従来より、発電所からのCO2規制を支持しており、一連の大統領の対応を見て議会制民主主義について危機感を抱いた、当時共和党のJeffords上院議員が離党を表明。共和党、民主党50:50であった上院の勢力関係が、49:50(独立派1)となり、民主党がマジョリティーを取る状況にいたった。その結果、議会におけるエネルギー関連法案の審議が混迷を示す一つの要因となったとの指摘もある。

(京都議定書の否定と地球環境に関する基本スタンス)

また、2001年3月には、京都議定書は温暖化ガスを大量に発生している途上国が対象となっていないこと、経済への影響が甚大であること等から瑕疵があり、米国は批准しないとの大統領のアナウンスが行われている。

この頃、地球環境問題に関する閣僚レベルの会議がかなり頻繁に開催されていたが、サミットを前にした閣僚レベルの会議で、一度は大統領自身、何らかの枠組みは必要であるという考えにいたったものの、直後に、エネルギー業界からの圧力もあり、チェニー副大統領が大統領に直接話をし、その考え方を覆させたと言われている。また、興味がもたれるのは、この会議の事務局は、環境問題担当でも国際問題担当でもなくWHの国内問題担当だという点で、この問題がいかに石炭、石油等の国内業界対策と言う性格を有しているかが計り知れる。

そして、2001年7月には、京都議定書に替わるものとして、今後の米国の地球環境問題に対する取組みをアナウンス。基本的には、地球温暖化問題には根拠が乏しく、まずは現象の科学的解明が必要であり、当面、規制の導入ではなく自主的取組に委ねるとともに、革新的な技術開発に取組むという方針を公表。その後、2002年2月にクリーンスカイイニシアティブとして、その具体的姿を明確化し、先般出されたクリアVISIONもその流れに乗ったもの。

このような環境面での取り組みは、多くの企業の支援を得る一方で、民主党、環境積極派からは、その後ろ向きの姿勢に対して批判の声が上がっている。

 

3.CAFE直しを巡る議会等における議論

共和党が大幅なリードをとる下院においては、トーザン議員のリードの下でブッシュ政権の国家エネルギー計画に沿った形のエネルギー法案が早々に可決された。

しかし、既に民主党がマジョリティーとなった上院では、ANWR、MTBE、CAFE電力構造改革、RPS、そして、地球環境問題等長い時間をかけ審議され、当然のことながら民主党寄りの法案が可決されることとなった。

特にCAFEを巡る議論は、大きな関心を呼んだ。上院における議論と平行して、議会はNAS(National Academy of Science)に対して燃費向上に関する技術的可能性について検討を依頼。その結果、“現在利用可能な技術を用いても十分現状以上の燃費向上は可能である”との結論が出された。これに対して、自動車産業界は猛反発し、公開ヒヤリングの実施等、再検討する一幕も。

産業界の考え方は、国民のニーズがSUVやライトトラックにシフトした結果全体としての燃費が悪化しているのであり、CAFE基準のの強化は、軽量な車両の開発に向かわざるを得ず、安全性の低下につながりかねないと強く反発。

上下院の採決を調整するために開催された両院協議会では、燃費削減に関しては、2006年から2012年の間に少なくとも50億ガロンの消費削減をするということで合意されたものの、ANWRや地球環境関連事項で上下院が合意に達せず、そのうち選挙で上院が再び共和党マジョリティーとなったことから、第107議会ではエネルギー法案は成立していない。

 

4.近年の燃料電池への関心の高まり

(エネルギー政策上のプライオリティの変化)

ブッシュ政権は、輸入石油依存度の低下を掲げたものの、仮にANWR等国内における石油開発を進めても海外依存度を大幅に低減できる程のインパクトを持ち得ないことは明確。他方、需要面から考えると、その45%が自動車用であるが、かといって自動車の燃費向上を求めることは業界との関係で困難でということで、ガソリン自動車を代替する燃料電池自動車に関心が高まったのは当然の流れ。

この背景には、自動車産業のお膝元のミシガン州出身のエイブラハム長官の存在も大きいと言われており、最近“炭素ベースの経済社会から水素ベースの経済社会への移行”、そして、燃料電池の重要性を強く説いてきている(昨年11月に、海外の政府・メーカも招待し開催されたDOEの燃料電池自動車セミナーはミシガン州で開催)。

(議会の動きと産業界)

燃料電池に関しては、90年代に入り研究開発等を促進するための動きが徐々に広がり、いくつかの法律が成立しているが、特に、注目すべき人物として挙げられるのが、前下院議員で科学技術委員会の委員長を務めていたBob Walker氏(共和党)である。

彼は1995年に水素生産技術を含む燃料電池の研究開発を促進するための“Hydrogen Future Act”を導入した経緯がある。同氏は、Pennsylvania州出身であり、地元に米国最大の水素製造販売会社の“Air Products社”を擁しており、燃料電池には大きな関心を持っている。そして、DOEのホームページ掲載されたFreedom Fuel Initiativeに関するページの水素タンクの写真に、同社の水素タンクの写真が載せられており、Air Products社の政府との関係の強さを物語っている。

なお、2年前に下院議員をやめ、DCでコンサルタントをやっているが、2001年に設置された“Commission on the Future of the U.S. Aerospace Industry”の初代の議長(名誉職)にブッシュ大統領から任命されており、密接な関係を有していると言われている。また、彼のコンサルタント会社のクライアントには、GMも名前を連ねている。

(自動車産業界のスタンス)

 実は、93年にクリントン政権が誕生した際に、ゴア副大統領主導で燃料電池自動車の研究開発を進めようとした経緯がある。しかし、当時、WHが10年以内にプロトタイプを作ることを迫ったために、ビッグ3はそれに反対し、燃料電池車ではなく従来のエンジンの改善を前提とした産官連携の次世代自動車パートナーシップ(PNGV)として結実している(この中で、燃料電池の研究開発は進められてきている)。

その後、日本や欧州メーカが相次いで燃料電池車が路上での実証試験開始したりしたことから、ビッグ3のスタンスも大きくは変化しつつある。昨年2月に発表されたFreedom CARイニシアティブにおいては、何ら具体的開発目標もスケジュールも示さないものであり、自動車産業界は歓迎。

しかし、これは日本もメーカでも同様だが、自動車に搭載される燃料電池システムの部分は、まさに各企業の競争力の源泉であり、政府から口出しされることについてはネガティブであり、政府に期待するものとしては、民間で行うにはハイリスクな触媒、反応膜の開発等個別の要素技術に限定されるべきであるとのスタンスを依然とっている。

むしろ、自動車メーカは、自らの努力ではどうにもならない燃料の供給確保、貯蔵、インフラの構築や、水素の安全性の問題等についての政府の支援を求めており、先日のFreedom FUELイニシアティブに対しては自動車業界の期待も大きいものとなっている。

(エネルギー業界の関心)

当面、水素の供給源として見られているのが天然ガスであるが、その生産状況を見ると、テキサス、ルイジアナ、メキシコ湾岸に全米の生産量の半分以上が集中している。これらの地域はまさに、共和党が強固な地盤を有する地域でもあり、石油・天然ガス業界の強いサポートがあり、また、全米の水素供給業界団体のNational hydrogen Associationの構成メンバーを見ても、前述のAir Products社に加え、BP, Chevron Texaco, Shellなどの大手石油会社も活発な活動を行っており、これら業界のロビー活動の結果が、単に燃料電池システムのみでなく、インフラ整備も含め政府がR&Dを支援する今年のFreedom Fuel Initiativeの原動力になったといわれている。

また、水素の製造源として天然ガスのみならず、石炭、バイオマス、原子力といった多様な分野の研究開発に取り組む仕組みにすることによって幅広い関係者の賛同を得るようなプログラムになっている。

 

5.当面の動き

京都議定書の否定、CAFE基準への後ろ向きな取り組み等もあり、国民からは一部批判的な声も聞かれている。これに対して、中間選挙を控えWHとしては、何らかの対応が求められつつある。

一方で、選挙に向け、エネルギー産業や自動車産業をはじめとする産業界からの支持も必要な状況に置かれる中、環境負荷もなくクリーンで、CAFEの議論と異なる次元の燃料電池自動車への取り組みは、ブッシュ政権が環境への前向きな姿勢を国民に示す上でも極めて有利に働いている。また、石油・天然ガス等といったエネルギー産業にもマーケットの拡大につながりプラスで、燃料電池車開発で国際的に競合状況にある自動車産業も政府の取り組みを評価するという状況にある。

つまり、民主党も含め環境派も、これらの取り組みを批判できない構図となっており、ブッシュ政権としては今後とも燃料電池への支援を拡大していく方向にある。


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