科学技術政策に関する大統領候補フォーラム:概要

 

NEDOワシントン事務所
松山貴代子
平成16年10月13日

 

10月4日に首都ワシントンで、「科学技術政策に関する大統領候補フォーラム:主要な相違点 (Presidential Candidates' Forum on Science and Technology Policy: Key Differences)」という会合が開催された。全米科学新興会(AAAS)主催の同フォーラムには、元下院科学委員長でWexler & Walker Public Policy Associatesの現会長であるBob Walker氏がブッシュ-チェイニー側代表として、元ホワイトハウス科学技術政策局(OSTP)局長で米科学者連盟の現会長であるHenry Kelly氏がケリー-エドワーズ側代表として参加し、(1) 気候変動政策と水素経済;(2) 国立衛生研究所(NIH)と全米科学財団(NSF)の将来予算;(3) 米航空宇宙局(NASA)予算;(4) 胎性幹細胞研究の支援;(5) 健全な科学を政策に転換するプロセス、という5つ主要点について論議した。ここでは、同フォーラムに参加したNEDOワシントン事務所リサーチャー Bryce Hesterman のメモを基に、両サイドの相違点を報告する。

 

1. 気候変動政策と水素経済

<ケリー側>

水素経済への移行だけで、エネルギーや気候問題を解決出来るとは思わない。水素燃料の開発だけに頼るのではなく、他のエネルギー技術への投資を継続して、化石燃料依存度の低減に努めるべきである。ケリー候補は、近未来の高効率自動車普及台数を増やすため、消費者とメーカーに200億ドルのインセンティブを提供する計画である。また、クリーンコール技術の推進にも100億ドルを予定している。気候変動については、米国が国際交渉の座に戻るべきであると考えている。

<ブッシュ側>

水素経済はエネルギー問題と気候問題の解決に大きく貢献する。同計画の目標はエネルギー供給の削減ではなくその増大であり、水素経済によって、消費者需要に見合ったエネルギーが供給されるほか、排出を削減することも可能となる。既存技術から判断すると、2015年の目標は現実的である。温室効果ガスを放出しない代替エネルギー源開発の国際協力の良い例が、水素経済国際パートナーシップ(IPHE)である。

2. 国立衛生研究所(NIH)と全米科学財団(NSF)の将来予算

<ブッシュ側>

NIH予算を5年間で倍増する目標が達成されたため、多様な分野の支援を目指していくことは当然である。

<ケリー側>

NIH予算は倍増されたものの、現在ではインフレ率以下での上昇率が見込まれているにすぎない。ケリー-エドワーズ組はNIH予算の着実な増額にコミットしており、NSF予算の倍増を確約する。

3. 米航空宇宙局(NASA)予算

<ブッシュ側>

大統領のNASA政策の焦点は、火星への有人飛行である。月面着陸を世界で初めて成し遂げた米国は新技術開拓の先導者と見なされたが、火星への有人飛行にも同様の意義があると考える。大統領は、火星ミッションの為に適宜な(moderate)投資を引き続き支援する意向である。

<ケリー側>

ケリー候補は大統領同様に、NASAの宇宙探査ミッションを大いに支持している。しかしながら、大統領が提案する「適宜な」予算で、人間を火星に着陸させられるとは思えない。また、火星ミッションの成功に必要な予算増額が要求された場合、地球観測や先端航空学といった重要ミッションが軽視されるという懸念がある。

4. 胎性幹細胞研究の支援

<ブッシュ側>

ブッシュ大統領は、幹細胞研究に資金交付を行なった初めての大統領である。連邦研究費の大半は成人幹細胞利用研究向けではあるものの、胎性幹細胞研究にも昨年は1,000万ドル、今年は2,500万ドルが給付されている。大統領は、同研究の倫理問題に関する審議行詰りを回避するために、主として成人幹細胞研究を支援する政策を取ったものであるが、成人幹細胞研究は十分な研究成果を生み出している。

<ケリー側>

胎性幹細胞研究は膨大な医学上の進歩をもたらすものと期待されるため、胎性幹細胞研究への政府支援は増額されるべきである。カリフォルニア州では先頃、胎性幹細胞研究に30億ドルを計上する法案を発表したが、ケリー候補はこのカリフォルニア州法案を支持している。

5. 健全な科学を政策に転換するプロセス

<ケリー側>

著名科学者48名が署名した憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists = UCS)の声明が指摘するように、ブッシュ大統領は、エイズ・気候変動・幹細胞研究に関連する決断を行なう際に科学的データを無視または不正操作している。また、カリフォルニア工科大学のDavid Baltimore学長が「サイエンス誌」の論説で指摘したように、ブッシュ政権の決断は健全な科学よりも、保守的宗教観や経済ベースの政治観の影響を強く受けている。政策は秘密裏に決定され、意志決定プロセスが透明性を欠くほか、大統領の受けている科学的アドバイスの質も疑問である。ケリー議員が大統領になった暁には、意志決定プロセスをオープンにして、健全な科学が政策決定を主導することになる。

<ブッシュ側>

気候変動科学プログラム(CCSP)を新設したことからも明らかなように、ブッシュ政権は健全な科学の答申にコミットしている。しかしながら、科学的データの幾つかは健全な科学とは言えないものであり、これらは意志決定に使用されるべきではない。元々の報告書も読まずにUCS声明に署名した科学者が数名いることを考慮すると、同声明は政治活動であるとしか言いようがない。


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