SSTI第8回会合「テクノロジーベースの経済開発」
(その1)

 NEDOワシントン事務所
松山貴代子
平成16年10月28日

非営利団体のSSTIがペンシルバニア州フィラデルフィア市で、10月13日から15日の3日間、「テクノロジーベースの経済開発(Technology Based Economic Development = TBED)」というテーマで第8回目の会議を開催した。出席者は大学・州政府・地方政府・連邦政府・州議会・民間部門と広範な分野を代表していたが、特に、州政府の経済開発関連省庁と民間部門からの参加者が多数であった。ここでは、同会議に出席したリサーチャーBryce Hestermanのメモに基づいて、彼の出席した6つのテーマ別セッション …連邦政府の研究開発予算;連邦政府のテクベース労働者養成プログラム;州政府の支援と地域的協力;ナノテクノロジーの将来;公衆のナノテク懸念に対する認知と対応;製造業の将来… について概説する。

I. 会合の全体的印象

今回のSSTI会議の基調を決めたのは、(1)米国経済の不振;(2)アウトソーシングの増加;(3)中国やインド等の急成長諸国との競争激化;(4)有能労働者 (特に製造部門で) の不足;(5)イノベーションの商業化奨励策不足といった懸念であり、地方・州・国家の経済をイノベーションによって改善するべく、州政府・民間部門・大学・公共機関の協力が必須であるという切迫感が感じられた。会議全体としては、(1)科学技術研究開発を奨励する州政府や連邦政府の様々な先導戦略;(2)スタートアップ企業の製品市場化を支援する方法;(3)経済新興諸国と競争するために、政治や産業部門等の境界線を越えたパートナーシップの形成が中心議題となっていた。

II. テーマ別セッション

A. 連邦政府の研究開発予算:全米科学振興協会 (AAAS) Kei Koizumi氏の発言

連邦政府の歳入が減少しているにも拘わらず、研究開発 (R&D) 歳出は過去4年間で激増し、2005年度予算要求案では史上最高の1,320億ドルに達している。しかしながら、R&D予算増額分の殆ど全ては兵器開発と国土安全保障に費やされており、増額の恩恵を受ける省庁が国防省・国立衛生研究所 (NIH)・国土安全保障省 (DHS) に限られていることが明らかである。この先5年間も兵器開発と国土安全保障および宇宙探査向けの連邦R&D予算が増大する傾向が続き、それ以外のR&D分野は減少すると予想される。

連邦政府のR&D予算動向は下記の通り:

  • 国防省の科学技術研究予算の15%が兵器開発に向けられた為、実質的にはその他分野が全て予算削減を受けている。
  • NIH予算は1998年からの5ヵ年予算倍増のおかげで大幅増額を享受したものの、現在では増額率が引き下げられて、僅かな上昇に留まっている。また、NIH予算の増額分はバイオディフェンス用である。
  • DHSの2004年度R&D予算は10億ドルで、2005年度には12億ドルまで増額となる可能性(1)がある。2005年度の増額分の殆ど全額が、生物兵器対抗技術に充てられる。
  • ブッシュ政権の2005年度予算要求に盛り込まれたR&D予算の省庁別内訳は、国防省が50%、NIHが25%。これに、米航空宇宙局 (NASA) の9%、エネルギー省 (DOE) の7%、全米科学財団 (NSF) の3%が続いている。
  • 国防省R&D予算は自省研究所へ計上される一部を除き、殆どが民間企業へ割り当てられ、NIHのR&D予算の大半は大学の研究支援に使われる。従って、こうした機関へのR&D支援額は増大している。
  • 議会は、国防省とDHSの2005年度歳出予算法案を可決したのみ(2)で、その他全省庁の予算としては暫定予算の継続決議を可決したにすぎない。この為、各省庁では、兵器やバイオディフェンスに無関係のプログラムを新たに開始することが困難となっている。
  • 省庁間イニシアティブでは、情報技術予算が前年度並み、ナノテクノロジー予算は国家ナノテクノロジー・イニシアティブで先頃認可された予算には程遠いとはいえ一応増額、気候変動科学の予算は減少となっている。

B. 連邦政府のテクベース労働者養成支援: New Economy Strategies社のRichard Seline社長、および、イリノイ州商業経済開発省のLori Clark女史の発言

幾つかのニューテクノロジー業界が抱えている問題は、仕事をこなせる高度熟練労働者が不足していることである。科学工学系を専攻する大学生が減少していることが、その主要原因となっている。地方・州・連邦政府および民間企業もこれまでは労働者育成予算を社会奉仕と見なしていたが、最近では、労働者養成と経済開発は相互に依存し関連するという見解に変ってきている。こうした変化によって、労働省グラントに限定されていた連邦政府支援の資金源も、9省庁に拡大されている。現行の労働者養成グラントは、産業界が主導的役割を担うことを推進する為に産業界にインセンティブを提供するというものであるが、新たな施策は単なる連邦政府インセンティブの枠を越え、学生を特定分野で訓練するプログラムを策定するために成長企業と大学を結び付けることになる。主要な例は下記の通り:

  • 大統領の高成長職種訓練イニシアティブ (High-Growth Job Training Institute) の下で労働省は現在、ヘルスケアとバイオテクノロジー産業を対象に提案を募集中である。グラントの総額は1,000万ドル。
  • サンディエゴ・バイオマニュファクチャリング計画は、特定技能の認定プログラムを設立するために民間企業がコミュニティカレッジに財政支援を行なうというもので、これは連邦政府にとっても良い手本となる。
  • 新市場税控除 (New Markets Tax Credit)(3)は、コミュニティ開発組織 (Community Development Entities = CDEs) への投資に対して所得税控除を与えるものであるが、CDEsへの投資が労働者育成に使われる可能性がある。

この他、新興産業では、労働者をレイオフせざるを得ない衰退産業を熟練労働者のポテンシャルな供給源と見なすことも出来る。例えば、石油化学系の科学者はバイオケミカル産業にとって理想的であろうし、軍事諜報活動の専門家はバイオインフォマットで成功する可能性が高い。

C. 州政府の支援と地域的協力

同セッションでは、世界市場でも競争の出来るテクノロジーべース経済を構築する方法として、地方主義 (regionalism) に焦点があてられた。中部大西洋岸諸州の各代表が自州政府のTBED推進施策を概説し、その後で、中部大西洋岸諸州間のコミュニケーション及び協力網を改善するために取るべき地域的な努力が討議された。同セッションで紹介された各州の技術的支援および融資政策は下記の通り:

 ペンシルバニア州:

TBED奨励という面では、同州は中部大西洋岸地域のリーダーと見なされているため、同州の施策は他州にかなりの影響を与えている。

1) 技術的支援

  • ワークフォース・リーダーシップ助成計画
  • 新経済技術奨学金 (New Economy Technology Scholarship) プログラム
  • 大学を中心として設置された10〜20箇所の中枢的な技術革新ゾーン

2) 融資政策

  • 研究開発 (R&D) 税控除 (現在は3,000万ドルだが、この倍増を計画中):ペンシルバニア州でR&D投資を行い、更に、連邦政府R&D税控除の資格を有する企業に対して、ペンシルバニア州内での研究活動支出の10%を税控除として認めるという内容。年内に使える控除額は税債務額の最高50%に制限されるが、未使用の控除額はその後最高15年間繰越し可能である。
  • 研究開発税控除の譲渡 (R&D Tax Credit Assignment):2003年12月以降にペンシルバニア州税務局からR&D税控除が認められたものの、税債務額がないために控除額を活用できない企業は、未使用の控除額を他社へ譲渡売却することができる。
  • ベンチャーキャピタル推進資金として3,200万ドル
  • 総額2億5,000万ドルのベンチャーキャピタル融資保証計画
  • ダイレクトベンチャーキャピタルとして6,000万ドル。この内の半分は、フィラデルフィア以外への投資として保留。
  • エンジェル投資家のネットワーク

 ニュージャージー州:州政府経済開発公社のCaren Franzini女史の発表

1) 技術的支援
  • スタートアップ会社の事業計画作成を支援
  • リサーチ大学を中心とする技術革新ゾーンへの投資

2) 融資政策

  • ペンシルバニア州のR&D税控除譲渡計画に倣った、テクノロジー事業者税証書移譲プログラム (Technology Business Tax Certificate Transfer Program:年間4,000万ドル) … テク企業が現金を調達するため、R&Dクレジットを同州の他企業に額面の最低75%で売却することを認める。対象となる企業は、雇用者が225人未満で、従業員の最低75%がニュージャージー州勤務の会社。
  • 生命科学ベンチャーキャピタル基金
  • 政府の直接貸付 … 企業は収益があがった時にだけ返済義務を負う。
  • 10人の新雇用を創出するハイテク企業に対する助成金

 デラウェア州:州政府経済開発局のJudy McKinney-Cherry女史の発表

1) 技術的支援
  • 特許や商標サービス、および、法的な助言を提供するバーチャル・テクノロジー・インキュベータ
  • デラウェア大学のグラント申請過程の支援

2) 融資政策

  • テクノロジーベースのシーズ探索基金 … スタートアップ会社を対象とする5万ドルのグラント
  • アウトソーシングに対抗する為の競争基金 (総額1,250万ドル)

 メリーランド州:州政府のAris Melissaratos事業経済開発長官の発表

1) 技術的支援
  • 連邦予算を活用して、コミュニティを拡張し、クラスターを構築 … バイオ基盤整備に4億ドルを投資。従って、ナノテクノロジー産業とナノバイオテクノロジー産業の育成が同州の焦点。

2) 融資政策

  • 海外投資家からの投資促進を目的としたベンチャーキャピタル基金

D. 上記発表後の討議

他州ではなく他国との競争が真の問題であるため、各州は競い合うことをやめて、自州の特性を活かした産業の発展に力を入れるべきであり、また、隣接州同士での競合産業の開発を避ける為に、互いのコミュニケーションを改善し、相互協力をしていくべきであるという意見が主流であった。中部大西洋岸諸州間に見られる地域的特性として下記が上げられた:

  • 中部大西洋岸4州は2005年6月に、国際バイオテクノロジー会議 (BIO 2005) をフィラデルフィア市で共同主催する予定である。
  • 州内にW. L. Gore社とデュポン社という燃料電池のエクスパートを抱えるデラウェア州は、燃料電池に関する地域フォーラムを主催している。
  • NSFやNIH等の連邦省庁から多額の科学技術R&D予算を受領しているメリーランド州は、地域科学技術フォーラムを開催している。
  • 中部大西洋岸地域におけるナノテク関連業界の発展を加速させる目的で、中部太平洋岸ナノテクノロジー同盟 (Mid-Atlantic Nanotechnology Alliance) が形成されている。
  • 連邦交付金の獲得で、カリフォルニア州のような下院議員多数の州に対抗出来るよう中部太平洋岸諸州の下院議員を集結させる目的で、上記4州の副知事がSMART (Strengthening the Mid-Atlantic Region for Tomorrow) という地域コーカスを形成している。


注釈:

  1. 2005年度DHS歳出予算法案は2004年10月18日に大統領の署名によって法制化され、R&D 予算は12億ドルと確定した。
  2. 同会合でKoizumi氏がプレゼンテーションを行った10月14日の時点では、13本の歳出予算法案の内、国防省歳出予算と軍事建設歳出予算の2本が既に法制化され、DHS歳出予算法案とコロンビア特別区歳出予算法案の2本が議会で可決されていた。但し、R&D予算を含むものは、国防省歳出予算法とDHS歳出予算法案の2本だけであるため、この発言になったと思われる。因みに、DHS歳出予算法案とコロンビア特別区歳出予算法案の2本は、2004年10月18日に大統領の署名を得て、法制化された。
  3. 財務省のプログラムで、認定されたコミュニティ開発組織へ投資を行う納税者に投資額の29パーセントを連邦税から削除することを認めるというもの。

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