米国における製造業競争力強化を巡る動きについて

2003年9月2日
NEDOワシントン中西

 

90年代を通じて着実に拡大を示してきた米国製造業ではあったものの、米国景気の後退に伴い、2001年から一転して縮小し、その後も引き続き停滞を続けている。とりわけ、雇用面から見ると、全米労働者数の1割強を占める米国製造業労働人口は、2001年以降一貫して大幅な減少を示しており、地域経済に対する影響は深刻なものとなっている。

今回の製造業の低迷要因の一つとして、低く押さえられている中国人民元等を背景とした中国からの安価な製品の大量流入によるもの影響が大きいとの批判が大きい。

一方で、地域経済への悪影響、米国製造業の競争力低下等への危機感が高まりを示しており、国内の製造業の再活性化に向け、製造業振興を所掌する部局の新設をはじめ、議会、政府を挙げた取組みが進められているところ。ここでは、その動きをまとめて見た。

1.米国製造業を巡る状況

(1)米国製造業及び雇用の低迷

92年に約2.9兆ウであった米国製造業の売上高は、90年代に着実な伸長を示し、2000年には4.12兆ウに達した。しかしながら、2001年に入り急減速し、2002年には3.86兆ウにまで低下し、低迷を続けている。

図 1 米国における月間製造業売上高の推移
(1992年1月〜2003年6月、季調済)

出典:商務省統計局発表資料(http://www.census.gov/mtis/www/data/text/mtis-sales.txt

また、この10年間における全米製造業労働人口の推移(図2)を見ると、2000年までは製造業労働人口は1,700万人前後で推移していたものの、2000年末頃から急激な労働人口の減少が始まり、2001年1月に1,718万人であった製造業労働人口が2003年7月(速報値)においては過去10年間で最低の1,463万人にまで縮小している。つまり、この3年半の間に255万人の製造業分野における雇用が失われたこととなっている。

また、製造業労働者が米国労働者数全体に占める割合は約11%程であるものの、2001年1月以降の全米労働者数減少分のうち80%が製造業におけるものであるという数字も出されている。 (1) 

このように、製造業の問題については、“Jobless Recovery”と指摘されるように、生産活動面では、減少が一段落する一方、労働力人口は引き続き減少を続けるという状況にあり、雇用面での影響が大きく取り上げられている。

図 2 米国製造業労働者数推移(1993年1月〜2003年7月)

注:未季節調整。2003年6月、7月は速報値
出典:労働統計局(Bureau of Labor Statistics)

特に、製造業は五大湖周辺(ミシガン州、オハイオ州、インディアナ州、ウィスコンシン州など)及び南部(ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、ジョージア州、アラバマ州、ミシシッピ州など)をはじめとする一部の地域に集中しており、米国製造業の不振は、製造業に依存する地域の経済に大きな打撃を与えている。

例えば、工作機器と家具製造の町として有名であったイリノイ州ロックフォード市の現在の失業率は11.3%で、国内平均失業率(2003年7月で6.2% (2))の約2倍となっている。また、ノースカロライナ州カンナポリス市の繊維大手企業のピローテックス社(Pillowtex)は、安い外国製品に市場を奪われ今年7月末に倒産。工場・流通施設の閉鎖に伴って、カンナポリス市内だけで5,000人、その他の地域で1,500人程度の解雇を行なっている。この大規模解雇はノースカロライナ州史上最大の規模となっており、解雇された従業員のうち200人が公共料金を払えずに水道を止められた話が既にニュースになるなど、市民の生活への影響が地元でも懸念されている。 (3)

図 3 製造業への依存度が高い地域

注:「依存度」は各地域の個人収入のうち製造業が占める割合を元に計算。33.3%以上の場合「高依存度(図中の濃い青色部分)」
出典:Chad Wilkerson, "Trends in Rural Manufacturing," in The Main Street Economist. December 2001.

特に、80年代後半から90年はじめにかけての製造業の不振の際には都市部を中心に雇用が縮小したのに対し、今回の製造業低迷の特徴としては、地方(Rural)に特に影響が大きいという点である。

つまり、90年代の経済発展の過程では、製造コスト低減のために米国内の都市部から地方に生産拠点が移り、その結果、地方の経済、雇用の拡大に繋がった。しかし、今回の景気の低迷では、その地方に展開した事業がコスト面で立ち行かなくなり、中国や旧東欧諸国への生産拠点の移転、安価な外国製品の流入が起こり、地方への影響が強く出ているという点が特徴的であるともいわれている。

図4 都市部・地方部における製造業労働人口減少の比較

出典:Chad Wilkerson, "Trends in Rural Manufacturing," in The Main Street Economist. December 2001.

 

(2) 製造業低迷の要因

米国製造業が失速している要因としては、@米国経済の停滞、A米国企業の製造業拠点の海外移転、B米国企業による安い製品を提供する外国企業のサプライヤーとしての選択、C安価な外国産製品に対する消費者の志向等を主な要因として挙げることができ、これによって、特に中小企業が廃業・規模縮小に追い込まれるケースが増加している。

このため、米国政治家やエコノミスト、産業界では、日本製造業が米国市場を席巻した「80年代の再来」になるのではないかという懸念も湧き上がっている。80年代と異なるのは、脅威の先が日本ではなく中国等であること、影響を受ける業種が80年代は半導体と自動車産業に偏っていたが、今回はハイテク分野だけでなく、繊維や工作機械などのローテク分野を含む製造業全体に渡っているという点である。

特に、安価な中国製品の輸入が急増していることに対する反発は産業界の間で強まっており、ブッシュ政権に対し、対中赤字拡大問題是正のために中国に強硬な態度を取るよう求める声が高まっている。全米最大の製造業の業界団体である米国製造協会(NAM:National Association for Manufacturing)は、この問題について強い懸念を示しており、米ドルに対する人民元の為替相場は、1ドル=8.27人民元前後でここ数年間固定されており、この相場は、「あるべき為替相場の60%ほどで意図的に低く抑えられている」 と批判している。(4)

また、中国政府が人民元の対ドル為替相場を不当に低く維持していることで、安い労働力を利用した中国製品(商務省のデータによると中国製造業における平均時間給は46セント(5))が米国市場に大量に出回り、対中貿易赤字の原因を作っていると分析もある。

さらに、対中貿易赤字は、2002年に初めて1,000億ドルを突破した後、2003年には通年で1,200億ドルを上回る見通しとなっており(図3参照)、米国製造協会は、現在の傾向(中国から米国への輸出が年間20%増、輸入が年間12%増)が5年間続けば、2008年には対中赤字額は3,300億ドルにまで拡大すると警鐘を鳴らしている。(6)

図5 米国の対中貿易赤字の拡大

出典:Testimony of Franklin J. Vargo, NAM, Before the Subcommittee on Commerce, State, and the Judiciary of the House Committee on Appropriations, on How Trade with China Affects American Manufacturing. May 22, 2003

このため、WTOなどの公式な手段や二国間協定を通じて人民元切り上げを求めるべきという声は高まりを示しており、ブッシュ政権では、今回の財務長官のジョン・スノー(John Snow)に続いて、商務長官のドナルド・エバンス(Donald Evans)を10月に中国訪問させる予定としており、その際、人民元の問題についても取り上げるものと見られている。

同時に対中対策だけでなく、製造業に特化した税クレジットの新設、製造技術トレーニングの提供といった国内プログラムの整備や、さらには、以下の通り、国内製造業を保護するための部署を新設するべきといった声が議会や民間から出るようになっている。

2.議会における動き

108回議会(2003〜2004年)では、商務省に製造業支援のための部署やポジションを設置することを主な目的とした法案が現在までに4つ提出されている。前107回議会(2001〜2002年)では同様の内容の法案は1つも提出されていないことからも、2003年以降に製造業支援を組織面からも進めたいという議会側の意向が強くなっていることが読み取れる。

(1)各法案の概要

4つの法案は、下院と上院それぞれから2本ずつ提出されているが、いずれもその内容は予算措置を盛り込んだものではなく、商務省に製造業の振興を所管する部署やポジションを様々なな形で設置するという組織改変を中心としたものである。

表 1 商務省内に製造業支援を目的とする部署新設を定めた法案(108回議会)

出典:議会図書館発表資料を元にワシントンコア作成

4つの中で最も早く提出されたのが、アーネスト・ホーリングス上院議員(Ernest Hollings、サウスカロライナ州選出民主党)の「2003年米国製造業救済法(Save American Manufacturing Act of 2003、S.592)」(7) である。この法案では、商務省内に「製造業課(Office of Manufacturing)」を新設し、米国製造業の維持と拡大のための政策実現や、米国内外の製造拠点(特に軍事産業)の調査・分析を行なわせることが定められている。

この法案が提出された約2ヵ月後には、商務省に「製造担当次官(Under Secretary of Commerce for Manufacturing)」のポジションを新設することを定めた法案が下院において提出されている。本法案の正式名称は「商務省に製造担当商務次官職位を新設する法案(H.R. 2172)」(8) であり、発起人はサデウス・マッコッター下院議員(Thaddeus G. McCotter、ミシガン州選出共和党)である。この法案によると、大統領が指名し、議会の任命承認を要する製造担当次官は、製造業の拡大を目的とする政策展開や、製造業関連政策の調査を行なうこととされている。また、毎年、議会に対して、米国製造業の現状・将来、関連政策・法律について分析した報告書を提出することが義務付けられている。

さらに、マッコッター下院議員が提出した法案と殆ど同様の内容を定めた法案が、上院においても提出されている。ジョージ・ボイノビッチ上院議員(George V. Voinovich、オハイオ州選出共和党)による「商務省に製造担当商務次官補職位を新設する法案(S.1326)」(9) がそれであるが、この法案では、次官ではなく、「製造担当次官補(Assistant Secretary of Commerce for Manufacturing)」のポジションを新設することとなっており、職務内容は前述の法案と同じ内容となっている。

最後に、7月25日に下院において提出された法案は、通称「2003年米国製造業法(American Manufacturing Works Act of 2003)」案と呼ばれており、マーク・ユダル下院議員(Mark Udall、コロラド州選出民主党)が中心となって作成したものである。この法案では、「製造技術局(Manufacturing and Technology Administration)」を新設し、現在、技術局(Technology Administration)、NIST、NTIS(National Technical Information Service)の3局が行なっている業務を統括させることが定められている。製造技術局は、民間セクターにおけるニーズ・問題などを分析し、製造業支援のための政策を行ない、地域クラスターやセンターの支援や、さらには技術トレーニングの提供など、様々な活動を行なうことになる。さらに、民間代表者を含む14人のメンバーから構成される「製造諮問委員会(Manufacturing Advisory Board)」も設立することとなっており、米国製造協会、全米知事協会(National Governors Association)、現代化フォーラム(Modernization Forum、MEP支援団体)、先端製造全米連盟(National Coalition for Advanced Manufacturing)などの民間団体の代表者を民間代表者として起用することが想定されている。

これらの法案は現在審議中であり、法律として成立するかどうかは現在の時点では不明瞭である。しかし、議会で製造業保護の機運が大きな高まりを示しつつあるのは事実である。

 

(2)製造議員連盟設立の動き

このような傾向は、下院において「製造議員連盟(Manufacturing Caucus)」が米国製造業促進を目的として新設されたことにも裏付けられる。設立の中心となったのが、ドン・マンズーロ議員(Don Manzullo、イリノイ州選出共和党)とティム・ライアン議員(Tim Ryan、オハイオ州選出民主党)の2人である。

「製造議員連盟」には設立当初より、29名の議員が参加しているが(表2参照)、民間のニーズや問題点を把握するため、民間セクターの参加も促しており、米国製造協会、製造協会(Manufacturing Alliance/MAPI)、製造技術協会(Association for Manufacturing Technology)、全米機器・機械協会(National Tooling and Machining Association)の代表者も第1回会合に出席している。

「製造議員連盟」の活動の中心は、議員やブッシュ政権に対する製造関連問題の啓蒙活動であり、人民元などの外国通貨の対ドル為替相場の恣意的切り下げ問題、貿易障障壁や税金などについて取り上げ、「米国製造業の国際競争力の強化」を図る政策の発信を行なうことになっている。さらに、米国多国籍企業に対し、「アメリカズ・ジョブ・ファースト(Americaユs Job First)」と銘打った啓蒙活動を行ない、部品サプライヤーとして米国企業を選ぶことを薦める予定である。

 

備考)下院には1993年に議員連盟の1つとして「下院製造タスクフォース(House Manufacturing Task Force)」が設けられているが、これはニューヨーク州選出のジャック・クイン議員(Jack Quinn、共和党)とマサチューセッツ州のマーティン・ミーハン議員(Marty Meehan、民主党)が代表を務めていることから分かるように、米国北東部と中西部の議員を中心とした組織で、活動もMEPプログラム支援を中心としたものであった。一方、今般新設された「製造議員連盟」は、MEPだけではなく米国製造業全体の問題を取り上げることとなっており、従来の「下院製造タスクフォース」に比べるとより広範囲の活動を行なうこととなっている。

表 2 下院製造議員連盟参加議員

出典:Manufacturing & Technology News, メManufacturing Gains Momentum in Congress; New Caucus Tells Multinationals to Put ヤAmericaユs Job First.ユモ August 4, 2003, Volume 10, Number 15

 

3.連邦政府の動き

(1)大統領府における動き

 大統領の科学技術政策に対する民間の意見を反映する場として、民間企業のトップ、有識者から構成される大統領科学技術諮問委員会(PCAST;Presidentユs Council of Advisors on Science and Technology)においても、製造業の問題について、この春から検討が開始されているところである。具体的には、“High Technology Manufacturingの今後の課題“として議論が進められており、この秋にも報告のとりまとめが行われる予定となっている。

(2)各省庁の動き

@“GATE−M”

各省庁レベルでは、数多くの製造技術関連のプログラム・プロジェクトが進められているところである。しかし、民間サイドからは、重複が多い、製造技術関連R&Dを担当する部局が分散しており再編が必要である等の強い要望が出されていた。そこで、政府としては、商務省、国防省、エネルギー省、NASA、NSF等の6省庁から構成される“GATE−M”という各省連携促進のための取組みを、本年3月から開始させたところである。

このGATE-Mでは、既存のプログラムに関する情報交換、必要に応じた協力の促進を行うこととなっており、先ずは、2003年中に白書を取りまとめる予定となっている。また、当面の課題として、@サプライチェーンコスト、品質及び信頼性に影響を与えるIntelligentな技術の利用を促進する“Intelligence in manufacturing”、Aナノ、マクロスケールのシステム・技術を扱うこととされている。

ただ、この取組みは、新たに恒常的な組織が設けられたり、新規予算が割り当てられるといった大きな動きではなく、既存のプログラム等に関する連携強化にしか過ぎず、そのインパクトは極めて限定的であると考えられる。

A国防省DODにおける動き

各省庁におけるR&Dプログラムの中で、製造分野に特化している唯一のまた、最も大きい規模の予算として、国防省が長年にわたって支援をしている“ManTech”と呼ばれるプログラムがある。この“ManTech”プログラムは、陸軍、海軍、空軍のそれぞれが予算計上しているが、国防省全体で、2003年予算$213百万ウ(02年は$240)となっている。なお、このプログラムについての民間の資金負担率は平均で約50%であり、事業規模としては、ほぼ倍の規模となっていると言える。さらに、NSF、DOE、DOCといった他省庁との共同研究も進められている。

R&Dの内容としては、@金属加工・製造、A複合材加工・製造、B電子部品加工・製造、C先端製造システム・製造管理、D代替品対応、E安全・低環境負荷兵器の6分野に焦点を当てたものが取り上げられている。

また、最近、DODでは、SEMATECHをモデルとした次世代フラットパネルディスプレーの研究開発コンソーシアムの設立についての動き(2004年から5年間で54百万ウ)の動きや、DARPA(防衛先端研究計画局)も新製造技術研究開発イニシアティブの検討を進めているといった、安全保障の観点からの製造技術力支援の動きも見られる。


注釈:

  1. "Manufacturing sector gets candidatesユ attention," The Union Leader. August 2, 2003.
  2. 米労働省発表データ。http://www.bls.gov/cps/home.htm
  3. The Union Leader
  4. Booming China trade rankles US,モ Christian Science Monitor. August 5, 2003.
  5. "Has the US Lost Its Manufacturing Edge?," St. Louis Post-Dispatch. July 4, 2003.
  6. 下院歳出委員会公聴会(5月22日)「The Effects of Chinese Imports on US Companies」におけるNAM国際経済関係担当副社長フランクリン・バーゴ氏(Franklin J. Vargo)の証言より。
  7. http://frwebgate.access.gpo.gov/cgi-bin/getdoc.cgi?dbname=108_cong_bills&docid=f:s592is.txt.pdf
  8. To establish the position of Under Secretary of Commerce for Manufacturing in the Department of Commerce,http://frwebgate.access.gpo.gov/cgi-bin/getdoc.cgi?dbname=108_cong_bills&docid=f:h2172ih.txt.pdf
  9. To establish the position of Assistant Secretary of Commerce for Manufacturing in the Department of Commerce, http://frwebgate.access.gpo.gov/cgi-bin/getdoc.cgi?dbname=108_cong_bills&docid=f:s1326is.txt.pdf

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