NIH再編を巡る議論について
―全米科学アカデミー「NIH組織構造委員会」報告―

 

2003年10月
NEDOワシントン

1.背 景

5年間でNIH予算倍増という計画が達成され、年間270億ウという巨額な予算がNIH内部の27にも上る研究機関/センター(職員約1.8万人)及び大学等に支出されているが、本当にその予算が効率的、効果的に管理されているのかについて疑問を呈する声が聞かれ始めている。

このような中で、連邦上院議会においても、財政度・健康福祉省予算案の審議の一環として、NIH (国立衛生研究所)に対し「NIHの現在の構造と組織が21世紀の科学のニーズに向けて最適に設定されているか」について検討を行うとともに、また、全米科学アカデミー (National Academy of Sciences: NAS)に対して「NIHの構造についての調査・分析」を行うよう命じた。

これを受け全米科学アカデミーに設けられた、基礎科学、臨床医学、支援団体の代表及び大規模で複雑な組織管理の経験があるメンバー21名の委員で構成される「NIH組織構造委員会」では、2002年7月から1年以上もの期間をかけて検討を行い、さる2003年7月29日に報告書が発表された。(委員長は生命倫理学者でプリンストン大学・元学長のShapiro氏、全米科学アカデミーの一部である国立研究評議会 (National Research Council: NRC)と医学研究所(Institute of Medicine: IOM)が支援)

2.「NIH組織構造委員会報告」の概要

(1)NIHが直面する課題

このレポートでは、先ず、NIHが直面する課題として、

  1. 明らかに、科学の世界と研究されるべき健康上の課題について、多くの変化が起こっている。連邦議会と大統領イニシアチブの結果、NIHの予算は、270億ドルという現在のレベルまで倍増した。しかし、絶え間なく続く変化とともに、NIHがあまりに分断化されてしまい、最も重要なバイオメディカルと健康問題に効果的に取り組むことができなくなっており、あるいは健康上の喫緊の課題に十分迅速に対処できなくなってきているという懸念が出てきている。
  2. NIHは、実質的な意味では一度も再編されたことがない。過去半世紀の間、国民の健康上の懸念と科学技術が大きく変化したにも係わらず、NIHは研究所の増設を行ってきたのみである。

等と指摘し、それに対する対応策として、以下に示す勧告を取りまとめている。

(2)14項目の勧告

  1. 運営管理の中央集権化が研究の土台を壊さないことを確保すること
    健康福祉省がNIHの運営管理を集権的にしようという動きがあるが、こうした動きはNIH機能を阻害しかねず、慎重な対応が必要。
  2. NIHの研究機関/センター数の変更を検討する開かれたプロセスを創ること
    NIHの構造は、疾病別の支援団体の圧力をはじめとする複雑に進化している社会的状況や政治的な力がNIH研究機関の広範な合併を妨げており、議会における見直しが必要。
    しかし委員会は、@類似の中毒、疾病を扱う国立アルコール乱用・中毒研究所 (NIAAA) と国立薬物乱用研究所 (NIDA)の統合、A2003年4月にヒトゲノム解読を完了した国立ヒトゲノム研究センター (NHGRI )のプロジェクト開始時の起源となった国立一般医学研究所 (NIGMS)への併合を示唆。
  3. プログラムの合併と新しいリーダシップ・ポジションを創ることにより、NIH全体の臨床研究を強化すること
    各研究機関が有するいくつかの臨床プログラムについて横断的な統合を進める。そのため国立臨床研究・研究資源センターを設けるべき。
  4. NIHを横断する戦略プランとそれを実行する資金を増強すること。その規模は、NIH予算の5%から開始する
    連邦議会は研究機関を横断するプログラムに対しNIH所長に一層の自由裁量権と資金を提供すべきである。委員会は、NIH全体予算の5%がNIH横断イニシアチブに行くべきであり、4−5年のうちには10%以上に増加すべきであると勧告している。
    (NIH所長のZerhouni 氏は現在「ロード・マップ」を作成中であるものの、それを実行するための資金は限られている)
  5. NIH所長室の権限を強化すべき
    予期しないニーズに対応するため、NIH所長の裁量で支出できる予算を拡大すべき
  6. 新しい所長室とプログラムを創設するためのプロセスを確立すること
    いかなる研究機関を閉鎖する場合にも、科学的議論と公益を熟考するためにNIH所長が「パブリック・プロセスを開始する」ことを連邦議会は要求すべきである。また、支持団体と協議したり、科学的シーズ(新しい研究組織の申し立てを含む)の検証を行うための特別委員会を活用することを提案。
  7. ハイリスク・ハイリターン研究を支援するNIH所長の特別プロジェクト・プログラムを創設すること。その予算として10億ウ程度を充当すること
    ハイリスクであるものの、極めてイノベーティブでハイリターンな研究については、標準的なピア・レビュー手続を飛び越えて迅速に審査する、所長室直轄のプログラムを創設すべきである(DARPAと同様なプログラムを想定)。
  8. 所内研究において、イノベーションとリスクを取ることを促進すること
  9. 研究開発投資データ・情報管理システムを統一すること
  10. 研究機関/センター・ディレクターの任命につき在任期間と条件を設け、研究機関/センター・ディレクターの評価プロセスを改良すること。
    NIHはリーダーシップの交代により恩恵を受ける。研究機関ディレクターの毎年の職務業績レビューと5年の在任期限を勧告する。また、外部評価の活用も考慮すべき。
  11. NIH所長の任命について在任期間と条件を設けること
    大統領によって任命されたNIH所長は、国立科学財団(the National Science foundation)のディレクターのように、任期は6年とすべき。
  12. 国立がん研究所 (National Cancer Institute: NCI)の特別地位を見直すべき  
    現在、NIH所長とは独立し、大統領の直接の管轄下にある国立ガン研究所 (NCI) のような特別な地位を見直すことを提案。
  13. 諮問機関(advisory council)への人選は、研究専門性や問題に対するコミットメントによってのみ行うべき
    ブッシュ大統領が設置した生命倫理委員任命の際に問題となった政治の委員選定への関与は、「科学と健康に関する関係者」にとっての現在の懸念である。委員は、専ら科学/臨床の専門性や問題に対するコミットメントの理由で選抜されるべきである。
  14. 研究管理・支援に対する資金を増加すべき

 

5.委員会報告に対する反応

2003年7月31日付の「Nature」誌は、“問題は、このレポートから何が実現するかである”と指摘している。“同様の提案を行った1984年の医学研究所(Institute of Medicine)についての検討結果は議会によって実践されなかったからである。

しかし、NIHは、研究者に対する給与支払、NIHグラント受給先がNIH幹部に対して支払った講演報酬、そして、NIHプログラム管理者が1995年に解任させられたにもかかわらず、年間10万ドルもの給与が支払われ続けた問題等を抱えており、政治家たちが当時よりも現在はNIHの問題に関心を抱いているのも事実“。議会が今回の報告書を無視する可能性は低いと見られている。また、上院スタッフも本報告書を「非常に役に立つ」としており、多くの議論がかなり迅速に予算委員会で進展していくであろうと述べている。

一方で、前NIH所長のVarmus氏は「たくさんの良い考えはあるが、彼らはNIHはどのように理想的に構成されるべきかという問題に本当に取組んでいない。もし本当に取組んでいたとしたら、これらの再編案に対しものすごい抵抗があるだろう(実際にはそれほどはない。)」と言う。また、国立ヒトゲノム研究センター(NHGRI)・ディレクターのフランシス・コリンズ氏は、委員会がいくつかの研究機関を合併することを提案していることを「驚くことではない」と言うものの、「思慮に富んだ国民による議論」が最初にあるべきだしている。

NIH本部副所長のKington氏は、NIHはこのレポートを“自己分析の第一歩”、“規模と複雑性が増大した組織にとって自己を客観的に見る良い機会”としている。そして、実施にあっては、幅広い関係者からのアドバイスを求めると述べている 。(1)

また、現NIH所長であるZerhouni氏が、10の研究機関/センターの運営評議会を新しく選抜すると7月下旬に発表したことは、意思決定を効率化し“強い組織をさらに強化する努力”ではあるものの、今回の報告書の提言とは直接関係ないとしている。

また、報告書では健康福祉省が研究資金の検査など様々なNIHの機能を集中化したり外部委託しようとする取組みについて疑問を呈しているが、これに対して、カリフォルニア工科大学学長のバルチモア氏は、“勇敢である”とし、“彼らはここで、2つの大きな影響力―ブッシュ政権と連邦議会―と闘っている、すばらしいことだ”と評しており、NIHを守ろうとしているコミュニティから評価されていると言われている。

 

(参考資料)

各勧告のポイント

勧告@:経営の中央集権化が、研究の土台を壊さないことを確保するべき

現在、保健社会福祉省が、予算、財政、調達に関して、NIHの経営・管理機能を中央集権化しようとする動きがある。しかし、委員会はこうした動きに対して、NIHの有効性を損ねる可能性があり、注意深い調査をしてからのみ検討されるべきだとして批判的である。

委員会はレポートの中で次のように述べている。「NIHレベルであれ、健康福祉省レベルであれ、NIHにおける合併整理や管理機能の中央集権化に対するいかなる努力も、NIH特有の状況と研究・教育ミッションを遂行することによる成功についての注意深い調査をしてからのみ検討されるべきである。中央集権化が、NIHのベストの研究教育提案/プログラムを識別・発見し、資金提供し、そして管理する能力を損なわないことを確保するために、構造化されよく調査されたアプローチが使われるべきである。」

勧告A:NIHの研究機関/センター数の変更を検討するパブリック・プロセスを創るべき(NIGMSとNHRI、そしてNIDAとNIAAAの合併があり得ることを含む。)

委員会レポートでは、「研究機関/センターの数の変更についてかなり深く考えた、そして関心に応えるにあたり、連邦議会の要求を受け、あるいはNIH所長の判断により、NIH所長は、提案された変更の科学上のニーズ、機会、そして結末と、それに対するパブリック・サポートのレベルを評価するためのパブリック・プロセスを導入すべきである。(新たに研究組織を)追加することの提案については、それを支援する資金等の調達可能性も査定されるべきである。」

研究機関/センターの大規模な再編は今のところ賢明ではないと委員会は結論付けているものの、効果的であることが期待されるいかなる組織も、組織構造の凍結状態という重荷に耐える必要はない。そして、全ての現存するユニットが将来も同じ関連性や独立性を持つとは限らない。それゆえ、国民、科学コミュニティ、またはNIH所長は、内部・外部のアドバイザーたちと協力して、ユニットの追加、控除、あるいは合併を、適切な時に連邦議会に提案することができるべきである。

委員会はさらなる研究のため、2つの合併勧告をしている。すなわち、1つは、国立アルコール乱用・アル中研究所 (The National Institute of Alcohol Abuse and Alcoholism: NIAAA) と国立薬物乱用研究所 (the National Institute on Drug Abuse: NIDA)の合併。もう1つは、2003年4月にヒトゲノムの解読が完成した国立ヒトゲノム研究センター (the National Human Genome Research Institute: NHGRI )と、そのプロジェクト開始の起源となった国立一般医学研究所 (the National Institute of General Medical Sciences : NIGMS)の合併である。

しかし、そのような変更は、上記にまとめられたプロセスを利用して行われるべきだと考える。しかしながら、委員会と議論した様々なグループによる例外的なニーズについての並外れた説得力ある主張のため、所外・所内プログラムのいくつかの臨床研究構成要素を合併し、国立臨床研究・研究資源開発センター(the National Center for Clinical Research & Research Resources)を創設することを勧告する。

勧告B:プログラムの合併と新しいリーダシップ・ポジションを創る事により、NIH全体の臨床研究を強化するべき

NIHは、臨床研究事業でのより良く統合されたリーダーシップ、資金供給、そして管理のための新しい組織戦略を追求すべきである。その戦略は、個々の研究機関/センターの所内・所外研究プログラムに現存する組織ユニット・活動を基に築かれるべきであり、それらを差し替えるべきではない。それはまた、非営利と民間セクターとのパートナーシップを含むべきである。具体的には、いくつかの所内・所外プログラムは、国立研究資源開発センター(the National Center for Research Resources: NCRR)を核にして国家臨床研究・研究資源開発センター(the National Center for Clinical Research and Research Resources : NCCRRR)と呼ばれる 1つの新しい事業体として統合されることを勧告する。加えて、臨床研究担当副所長は、所長室で任命されるべきであり、副所長として、そして新しい事業体の代表として職務を果たすべきである。

勧告C:NIHを横断する戦略プランと資金を増強するべき。その規模は、NIH予算の5%から開始する

委員会は、NIHの研究機関/センターの大規模な組織再編を勧告していない。しかし、国家の科学上と健康上の目標を達成するためには、NIHには多くのユニットからの資金を、個々の研究機関/センターの範囲を超えた優先度の高いイニシアチブのために集結し、調整する新しいメカニズムが必要だと結論付けた。

複数の研究機関によるプロジェクトの共同資金は発生するものの、それらのプロジェクトがどの程度まで本当に真のコラボレーションなのか明らかではない。従って、「複数研究機関の資金」は、活動の計画と実行が開始から終了まで1つの研究機関を超えて関与する「NIHを横断するイニシアチブ」と区別されるべきである。分野横断的な新しいイニシアチブの集結と調整を達成する最適な手段は、複数年で順次交代するNIH全体の戦略的プランニングを通じて開始されるべきで、しかも全ての研究機関/センターを巻き込む期間限定の戦略イニシアチブによるべきである。

委員会の勧告は次の通りである。

a. NIH所長は、NIHを横断する計画プロセスをリードすることを公式に連邦議会によって付託されるべきである。その計画プロセスとは、分野横断的な主要な問題とそれらの問題に関係する研究・教育機会を特定し、期間限定の複数年数の主要研究プログラムを与えることである。このプロセスは定期的に――おそらく2年ごとに――実施されるべきであり、科学コミュニティと国民からの十分なインプットを含むべきである。

b. NIH所長は、全ての研究機関にまたがるNIH横断的イニシアチブにおける投資目標を含め、NIHを横断する予算のための科学的論理的根拠を連邦議会の関係委員会に提示すべきである。例えば、初年度ではNIH全体予算の5%を平均目標とし、4−5年のうちに10%以上に増やすことが適切かもしれない。

c. 予算委員会は、予算の正当性と、計画されたNIH横断的イニシアチブと指示された予算の割当てにおける各ユニットの関与についてNIH所長と各研究機関/センター・ディレクターからの宣誓証言を、毎年審査すべきである。連邦議会は、予算目標値を、予算報告書の表現の中で含めるべきである。委員会は、NIH全体予算の5%から開始することを勧告する。

d. 各研究機関/センターが、選択したNIH横断的イニシアチブのための予算の対象割当てを使用することを確保すること。各ユニットへの年間予算の割合は、NIH所長がそのユニットが特定のNIH横断的イニシアチブのための出費をしたことを確認するまで、「第三者預託」として取り扱われるべきである。

e. NIHを横断する計画プロセスを実施し、このプロセスから出現するイニシアチブを「ジャンプ・スタートさせる」ために適切な数の追加フルタイム・スタッフをサポートするための資金を、大統領は予算要求の中で含むべきであり、連邦議会は所長室のためのNIH予算の中で含むべきである。

勧告D:NIH所長室の権限を強化するべき

予期せぬニーズを満たそうとする時、予算を変更できる大きな自由裁量権限や管理上の役割を支援するため、より十分な予算が所長室に与えられるべきである。

とりわけ、もし所長にNIH全体のイニシアチブのためのNIH横断的な計画を実施する責任と権限が与えられているのならば、所長予算のそのような計画コストを考慮すると、所長予算は増大される必要がある。

勧告E:新しい所長室とプログラムを創設するためのプロセスを確立するべき

勧告Aの新しい研究機関/センターの創設や研究機関/センターの合併・解散の提案を評価するためのパブリック・プロセスは、所長室の中の事務所の創設、合併、解散する提案にもまた活用されるべきである。そのプロセスは、科学上のニーズ、機会、提案された変更がもたらす結果、それを支援するために用意できる資源の見込み、そしてそれに対するパブリック・サポートを評価するために使用されるべき。

勧告F:ハイリスク・ハイリターン研究を支援するNIH所長の特別プロジェクト・プログラムを創設するべき。その予算として、10億ドルを充てること

潜在的にハイリターンを与えるかもしれない研究にもかかわらず、NIHに存在するリスク回避的な組織環境はハイリスクな研究を行うことを困難にしてしまう可能性がある。そこで、研究機関/センター予算の外部に位置し、所長室直轄として資金供給される所長特別プロジェクトの必要性があると委員会は考える。

そのプログラムの目標は、ハイリスク・イノベーティブな研究プロジェクトの資金補強をするメカニズムを提供することである。委員会はDefense Advanced Research Projects Agency (DARPA)を模範とするプログラムをイメージしている。

ハイリスクで潜在的にハイリターンな例外的にイノベーティブな研究プロジェクトを開始する資金を供給するため、所長特別プログラムという別個のプログラムが所長室に設置されるべきである。NIH所長に報告するそのプログラム自体のリーダーを持つべきである。外部委員会からのプログラム内容についてのアドバイスと一体化したプロジェクトを管理するために短期のプログラム・マネージャー(2−4年間)のスタッフをもつべきである。そのプログラムは迅速な審査と将来性のあるプロジェクト開始を許容する構造を持つべきである。

もしピア・レビュー方式が適切だと考えられるならば、そのプログラムは、ハイリスク・ハイリターンのプロジェクトを選抜することを任務とする特別に設置された委員会によるピア・レビューを使うべきである。連邦議会は、10億ドルの新しい資金を提供することを準備すべきである。その資金は、この試みに対し年間最大10億ドルまで拡大させ、少なくとも8−10年間支援することにより、十分な数のプロジェクトが実を結ぶことができ、そしてプログラムの取り組みに対する十分な評価がなされうる。プログラムのレビューは、中間指導をするため5年目の間に行われるべきである。

勧告G:所内研究において、イノベーションとリスクを取る事を促進させるべき

委員会は、NIHの所内研究プログラム(the Intramural Research Program: IRP)は、単に外部コミュニティの内在化ではなく、むしろ外部コミュニティが着手できない際立った研究をすべきであると確信する。IRPが潜在的に際立った貢献をすることができることと、独自性と質の両方こそがIRPに必要不可欠な正当化理由だということに、これまでほとんどウェイトが置かれてこなかったと委員会は考える。

勧告H:投資データ・情報管理システムのレベルを統一するべき

パブリックに対する説明責任とリーダーシップはNIHの管理上、重要な側面である。NIHのパブリックに対する説明責任を強化し、リーダーシップの継続活力を確保するためのいくつかの方法を委員会は提案している。

投資レベル・データを時間通りに収集、分析、報告するため、情報管理手段・インフラにおける現在の欠陥に取り組まなくてはならない。この問題には、何を追跡記録し公表するのかというNIH全体の合意、そして継続した定義を用いたデータ・コード化のための単一の方法を発展させることが求められる。

そして、特定のトピックに関係はしているものの、直接には当てはまらない時のように、研究には付きものの不確定性に取り組まなくてはならない。一度、発展させたならば、その統計の最新性は保たれるべきで、その正確さは品質管理を通じて確保されるべきである。NIHはまた、NIH資金で訓練され、支援された科学者の研究業績の追跡と分析を改善しなくてはならない。

勧告I:研究機関/センター・ディレクターの任命につき在任期間と条件を設け、研究機関/センター・ディレクターの評価プロセスを改良するべき

a. 全ての研究機関/センター・ディレクターは、5年の在職期間、任命されるべきである。2度目の5年期間の可能性は、NIH所長の推薦に基づくべきであり、そのためには職務業績についての外部評価を求めることを考えるべきである。研究機関/センター・ディレクターの雇用・解雇の権限は、健康福祉省長官から、NIH所長へ移すべきである。

b. 科学上と管理上の責任遂行における研究機関・ディレクターの職務業績を年度ごとに査察するプロセスを確立すべきである。その査察の結果は適切に、所長諮問委員会(the Advisory Committee to the Director)と/または国民代表評議会(the Council of Public Representatives)に情報提供すべきである。

勧告J:NIH所長の任命につき在任期間と条件を設けるべき

大統領によって任命されたNIH所長は、大統領によって後に罷免されない限り6年の在職期間、務めるべきである。2度目の6年期間の可能性は、職務業績について肯定的な外部評価と健康福祉省長官の推薦に基づくべきである。

勧告K:国立がん研究所の特別地位を見直すべき

国家がん法(the National Cancer Act)によって、国立がん研究所(the National Cancer Institute: NCI)に与えられた特別地位は見直されるべきだと、委員会は考える。大統領がNCI所長を任命し、NCI予算はNIH所長を飛び越えて進むため、NIHとNCIの目標、ミッション、リーダーシップの間に、不必要な食い違いが生じる可能性がある。科学上と管理上の理由により、この特別地位は再考されるべきである。

勧告L:諮問機関(advisory council)への人選は、研究専門性や関係問題に対するコミットメントによってのみ行うべき

他の連邦政府・科学エージェンシーのように、NIHは、非連邦政府の科学者、健康支援団体代表者やその他の人々から構成される諮問委員会(研究会、評議会、理事会)を、プログラムの評価や政策・優先度の作成上、専門家のできるだけベストなインプットや付加的な観点を確保するため幅広く最大限使用している。

NIHは、2002年5月時点で、他のいかなる連邦政府エージェンシーよりも多い140の諮問委員会を有していた。健康福祉省長官は32の委員会を任命し、NIH所長は74の委員会を任命し、大統領は2つ任命した。任命プロセスにおいては、大統領は一般的に長官の推薦に従う。そして長官は、時には自分たち自身が選んだ候補者を加えるものの、一般的にはポジションを埋めるにあたり、NIHと研究機関の所長のアドバイスに従う。

過去には、行政府がNIHに対しより大きな権力を振るおうとした。そして、明らかになった諮問委員会の任命プロセスの政治化について摩擦が生じていた。本委員会は、メンバーは賞や政策の見直しや承認をする上で、彼らの科学上の、あるいは公衆衛生の専門性を提供できる能力を有するがために、これらの諮問グループに任命されるべきであると考える。メンバーは、政治的・イデオロギー的地位を促進させるために選抜されるべきではない。

諮問評議会の使用と責任は各研究機関の間で実質的に異なる。ある諮問評議会は研究機関の目標を定めることに活発に関与しており、ある諮問評議会は研究機関の職員からアドバイスや関与をほとんど求められない形式上の活動に制限されている。諮問評議会は、優先度の設定と研究機関の計画プロセスにおいて定期的に一貫して相談されるべきであり、プログラムの告示と応募に関する意思決定に活発に関与すべきであり、目標達成とパブリックとのコミュニケーションにおける研究機関の説明責任を確保するよう働きかけるべきである。研究機関のディレクターが諮問評議会と関係を持つマナーは、研究機関/センター・ディレクターの評価の判断基準となるべきである。

勧告M:研究管理・支援に対する資金を増加するべき

管理・間接費をできるだけ低く抑えることが望ましいものの、これらの費用に対する適切な資金は、研究・教育プログラムをスポンサーする組織を含め、いかなる組織の有効性にとっても必要不可欠である。NIHでは、これらの機能に対する資源(例えば、所外活動の管理、いくつかの所内研究プログラムのコスト、プログラム開発、優先度の設定、教育とアウトリーチ、新しい情報システムの入手と維持、職業開発、そして施設管理)は、NIH を構成する様々なユニットの研究管理・支援 (the Research Management and Support: RMS)予算を通じて流れる。1990年代初頭には、連邦議会はRMSへの制限を課し、その増加を抑えた。1990年代半ばには、RMSは削減され、それ以来、増加はほとんど許されなかった。2001年財政年度には、RMSは全NIH予算の3.3%を占めたが、1995年の4.5%からは下がっている。全NIH予算に対するRMSのシェアは1993年財政年度以来、毎年減少している。委員会は、NIHの有効性は、その主要な研究ミッションとその説明責任両方を適切に支援する十分な資源が不足していることから、今では危険にさらされていると感じる。

そこで、連邦議会は、世界クラスの270億ドル/年の研究組織の効率的運営に必要不可欠な管理コストをより正確に反映するために、研究管理・支援の予算を増加させるべきである。


注釈:

  1. Jocelyn Kaiser, "A Low-Stress Scheme for Overhauling HIH's Structure," Science, Vol.301, 1 August (2003): 574-575, the American Association for the Advancement of Science.

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