下院科学委員会におけるナノテクノロジーの環境面・安全面での影響に関する公聴会:概要

 

NEDOワシントン事務所
松山貴代子
2005年11月18日

下院科学委員会は11月17日、ナノテクノロジーの環境面・安全面での影響に関する公聴会を開催した。同公聴会では下記の問いについて、政府、業界、環境保護団体の代表者から意見を聴取した。

  1. ナノテクノロジーの環境面・安全面での懸念がナノテク関連製品の開発や商品化に及ぼす影響は何か?
  2. 現行のナノテクノロジーに関する理解に基づくと、ナノテクノロジーの環境面・安全面での影響についての第一の懸念は何か?
  3. ナノテクノロジーの環境面・安全面の影響に関し、最優先の研究分野は何か?誰が研究資金を負担し、誰が研究を行なうべきか?
  4. ナノテクノロジーの環境面・安全面での影響に関する懸念に対応する、連邦政府および民間の現行研究努力は十分であるか?十分でない場合は、どのような付加的ステップが必要か?

同公聴会に出席した証言者5名は下院科学委員会に書面で証言を提出していることもあり、公聴会の席での口頭による証言は各自5分間であった。ここでは、下院科学委員会のSherwood Boehlert委員長(共和党、ニューヨーク州)の開会の辞、証言者5名の発言、および、質疑応答について概説する。

<開会の辞>

Sherwood Boehlert委員長(共和党、ニューヨーク州)

朝の証言者(政府代表のClayton Teague博士を除く)の書面証言はことの外に一致を見せ、ナノテクノロジーの環境面・安全面に関する一層の研究が必要であることを明示している。ナノテクノロジーの莫大な経済的ポテンシャルを実現させるには、この技術が引き起こし得る問題の理解に一層の投資を現時点で行なわねばならない。問題の発生する前、そして、政府・業界・環境保護者の間にコンセンサスが存在する今こそが、行動を起こす時である。「フレームワーク」(注1)が来年発表される予定であるが、科学委員会ではこの「フレームワーク」と、同じく来年発表される2007年度予算案を期待するものである。

<証言>

全米ナノテクノロジー調整局(NNCO)のClayton Teague局長の発言

国家ナノテクノロジー・イニシアティブ(National Nanotechnology Initiative = NNI)の調整・企画・実施を担当するナノスケール科学工学技術小委員会(Committee on Nanoscale Science Engineering and Technology = NSET)には、24の政府機関(注2)が参加し、ナノテクノロジーの環境・健康・安全面(environmental, health and safety = EHS)に関する研究の調整で協力している。ナノ材料やナノ製品への被ばくが引き起こし得る健康・環境へのリスクを理解し、これに対応することを主目的とする研究には、2006年度予算で3,900万ドルを計上している。ナノテクノロジーが悪影響を引き起こすことが明らかになれば、科学に基づいて、必要な予防措置や規制を判定し策定する意向である。

Lux Research社のMatthew Nordanリサーチ担当副社長の発言

ナノテクノロジーの利益をフルに享受するためには、ナノテクノロジーをリスポンシブルに開発する必要があり、その為には、ナノテクノロジーのもたらし得る真のリスクと知覚リスク(perceptual risk)の双方に対応しなければならない。EHSリスクの評価は、ナノテクの毒性に関する確かなデータ、および、明確な政府規制に基づいて実施されるべきであるが、現時点では双方とも非常に限られている。米国政府は、業界がリスポンシブルにナノテクノロジーを実用化し、消費者が十分な情報に基づいてナノテク製品の利益とリスクを判断することを支援できると我々は確信している。そのために、我々は政府に下記を提言する:

  • ばらばらに行われている毒性研究努力を一つにまとめるため、全米科学財団(NSF)、欧州委員会のナノサイエンス・ナノテクノロジー局(Nanosciences and Nanotechnology Unit)、および、日本の経済産業省(METI)は、国際ナノ粒子毒物学機関(International Nanoparticle Toxicology Authority = INTA)を創設すべきである。
  • 基本的なナノ粒子毒性研究の実施を保証するため、米国政府は国家ナノテクノロジー毒物学イニシアティブ(National Nanotechnology Toxicology Initiative = NNTI)を設置すべきである。NNTIの年間予算は、現行EHS研究予算の2倍から4倍にあたる、1億〜2億ドルとすべきである。
  • ナノテクノロジー研究開発の廃止を主張する非政府機関(NGO)は、主要な懸念材料として規制の欠如をあげることが多い。そこで、環境保護庁(EPA)は、食品医薬品局(FDA)、厚生省の国立労働安全衛生研究所(NIOSH)、消費者製品安全委員会(CPSC)といった省庁と協力して、ナノ粒子応用に関する規制面での曖昧さを排除する明確なプランを2006年までに確立すべきである。

デュポン社のKrishna Doraiswamy博士の発言

EHS問題を調査するために開発されるナレッジ(知識)やツールや方法はナノスケール科学工学界で広く共有されねばならない。従って、EHSは国家努力であるべきであり、政府が予算を供与すべきである。また、ナノ材料の製造会社が実施した安全性研究では、一般市民により懐疑的に受けとめられる可能性もある。

ウッドロー・ウィルソン国際センターのナノテクノロジー・プロジェクトのディレクターであるDavid Rejeski氏の発言

ナノテクノロジーのEHSリスクに関する知識には大きなギャップがあり、単独でこの問題に対応できるだけの財力をもつ国はないため、国際協力が必要不可欠である。ナノテクノロジーに期待されるベネフィットは莫大であり、米国も含めて世界各国には計算違いをしたり、つまづいたりする猶予はないと信じる。米国政府はナノテクノロジーに関して一般市民を啓蒙し、市民の参加を推進する必要があるが、その好機の窓(window of opportunity)はこの1年であろう。

環境保護団体Environmental DefenseのRichard Denison博士の発言

連邦政府のEHS研究予算は現在、NNI予算の約4%(4,000万ドル)である。環境NGOや大手化学企業、ナノテクスタートアップ会社や投資機関という多種多様な組織が、現在の連邦政府ナノテク開発投資の中から更に多くの予算を、EHSリスクの確認と評価に回すべきであるという見解で合意している。Environmental Defenseでは、これを最低でもNNI予算の約10%(1億ドル)まで増額すべきであると考える。また、EHSリスクの確認は、業界の自己管理よりも政府主導が望ましい。EHS影響の研究に関しては、適確な研究が行なわれなければならないため、全米科学アカデミー(National Academy of Sciences)の環境研究・毒物学委員会(Board on Environmental Studies and Toxicology)に助言を求めるべきである。

 

<質疑応答>

Boehlert委員長(共和党、ニューヨーク州)

ナノテクノロジー分野で、米国は現在どこにランクするか?

Lux Research社のNordan副社長

我が社は先頃14諸国を調査し、国別ランキングを発表した。現時点では米国が第一位であるが、他諸国が急激に追い上げている。特に、中国はナノテク刊行物で現在第2位にあり、将来の飛躍が期待される。私は先頃中国を訪問し、15のスタートアップ会社と製造会社を視察したが、ナノテクの商品化では中国が米国よりも進んでいるという感想をもった。中国の急進はEHSリスクを気にしていないからだと説明する者がいる。だからといって、米国も規制を緩和すべきであるということにはならない。我々に必要なのは、明確な戦略である。

 

Bart Gordon下院議員(民主党、テネシー州)

NNIの下での現行EHS研究予算は十分だと思うか?

NNCOのTeague局長

十分である。

他の4名の証言者

十分だとは思わない。

 

Gordon下院議員

年間1億ドルならば十分だと思うか?

ウッドロー・ウィルソン国際センターのRejeski氏

具体的な数字をつけるのは困難である。

 

Gordon下院議員

連邦政府が新たな予算をつけることが出来ない場合、NNIを再編して、EHS研究へ予算を回すことを支持するか?

NNCOのTeague局長

4,000万ドルというのは、EHSリスクの理解と対応を主目的とする研究の予算であって、この他に、NIOSHや国立衛生研究所(NIH)やNSFは、EHSが主目的ではないもののこれを含む研究へ別途、投資している。現行ナノテク研究予算をEHS研究に回すことには反対である。

他の4名の証言者

新予算が不可能な場合には、NNI予算の使途変更を支持する。

 

Gil Gutknecht下院議員(共和党、ミネソタ州

バイオテクノロジーを例にあげると、バイオテク企業は農耕従事者に遺伝子改造作物を売りつけることでは素晴らしい仕事ぶりであったが、一般市民に遺伝子改造作物を知ってもらうことでは落第点であった。ナノテク業界はどうであろうか?

Lux Research社のNordan副社長

ナノ粒子は多種多様であり、全てが悪影響を引き起こすわけではないだろう。しかし、一つの腐ったリンゴが業界全体に悪名をもたらすこともある。ビジネスという観点からして、一般市民の啓蒙は企業の関心事ではない(デュポンのような例外はあるが)ため、政府がリードする必要がある。

デュポン社のDoraiswamy博士

誤解をふせぐ為には、透明性が必要であり、全ての利害関係者との一層の協力が必要である。一般市民への理解を求める為には、専門用語、学術用語の確立が重要になる。標準機関が現在これに携わっている。

ウッドロー・ウィルソン国際センターのRejeski氏

一般市民は、誰がナノテクノロジーを評価し、悪影響が発生した場合には誰が責任をとるのか?を問うている。ミディア利用に長けたNGOが波紋を起こし、一般市民の意見に影響を与えてしまう前に、連邦政府が市民啓蒙でリードをとるべきである。

 

Vernon Ehlers下院議員(共和党、ミシガン州)

破棄処理やエンド・オブ・ライフの問題はどうか?

NNCOのTeague局長

EPAを始めとする幾つかの省庁が、同問題を慎重に検討している。2006年度予算で、ナノ粒子のライフサイクル研究の提案を募集するが、予算は年間800万ドルである。

ウッドロー・ウィルソン国際センターのRejeski氏

エンド・オブ・ライフ問題は非常に重要であるが、現在のリスク評価では同問題を殆ど扱っていない。

 

Russ Carnahan下院議員(民主党、ミズーリ州)

米国における次世代のナノテク・エンジニア育成はどのような状況か?

NNCOのTeague局長

NSFがK-2からK-12、および、大学・大学院までの教育支援プロジェクトを持っている。更にNSFは先頃、ボストン科学博物館を中心とするインフォーマルなナノスケール科学教育ネットワーク(Nanoscale Informal Science Education Network)を創設したところである。

Joe Schwartz下院議員(共和党、ミシガン州)

一言だけ、規制が研究能力を妨げてはならないことを指摘したい。規制は健全な科学に基づくべきものであり、ヒステリアに左右されるべきではない。米国はナノテクノロジー分野でトップである必要があり、トップを維持する必要がある。


注釈:

1:下院科学委員会のスタッフJoe Pouliot氏によると、このフレームワークは、全米ナノテクノロジー調整局(NNCO)が他のNNI参加省庁からのインプットを取り入れながら策定している「環境・健康・安全面の研究に関する枠組み(framework for environmental, health and safety research)」を指すという。

2:2004年12月7日に「国家ナノテクノロジー・イニシアティブ戦略プラン」が発表された段階では、NNI参加機関は22であったが、その後、農務省の森林管理局と教育省の2機関が加わり、NNI参加機関は24になっている。


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