ブッシュ大統領の2006年度予算:概要(その2)

NEDOワシントン事務所
松山貴代子
2005年2月15日

 

ブッシュ大統領は2月14日、イラクとアフガニスタンの米軍駐留費用(749億ドル)、イラク及びアフガニスタン治安維持軍の訓練・装備費、および、津波の救援費を盛り込んだ総額820億ドルの補正予算要求を議会へ提出した。イラク戦争のコストはこれで、3,000億ドルを超えることになる。対テロ戦争・イラク戦争の費用は膨み続け、2009年までに半減させると公約した財政赤字も拡大の一途であるが、ブッシュ大統領は減税恒久化を求める立場を崩さず、政府支出の制約で対応するという。このため、2月7日に発表されたブッシュ大統領の2006年度予算案は、同政権が温存してきた国防省の幾つかの主要兵器開発プログラムにも削減のメスを入れるという厳しい内容になっている。このレポートでは、7億3,300万ドルという研究開発(R&D)予算増額の約57%を受ける国防省(注:1)、2003年度までは5ヵ年予算倍増計画に沿って大幅な増額を享受したものの、それ以降は予算が伸び悩んでいる厚生省の国立衛生研究所(National Institutes of Health)、および、内務省、環境保護庁、そして、運輸省の予算について概説する。

■ II. 国防省

国防省の2006年度予算は、2005年度予算(4,001億ドル)を192億ドル(4.8%)上回る4,193億ドル。但し、この増額の内の157億ドルは、軍事要員、および、軍事行動や装備維持予算の増額であって、兵士の昇給、対テロ戦争のための特殊作戦部隊1,400名増員、アフガニスタンおよびイラクの治安維持部隊の訓練や装備、対テロ戦争で死亡した兵士の遺族に対する遺族手当の大幅な増額、等に回されることになっている。従って、莫大なイラク駐留経費を賄うため、B-2ステルス爆撃機やF/A-22戦闘機、次世代原子力潜水艦や新型駆逐艦といった幾つかの主要兵器開発プログラムまでが削減対象となっている。

ブッシュ大統領就任以来、国防省R&D予算は毎年数十億ドルづつ増額されてきたが、2006年度予算要求では、同省R&D予算として前年度予算(704億2,200万ドル)比で僅か0.6%(4億1,700万ドル)増の708億3.900万ドルを計上するにとどまっている。英国との協力で進められている次世代戦闘機(Joint Strike Fighter)、および、未来戦闘システム(Future Combat System)は2006年度にも増額を受ける反面、ブッシュ政権の最優先プロジェクの一つであったミサイル防衛R&Dの方は2005年度レベル(87億8,300万ドル)を10億800万ドル下回る77億7,500万ドルまで削減される。基礎研究と応用研究の予算はこの3年間の傾向に違わず、各々12.8%と14.7%の削減、開発予算は昨年度よりも伸び率は遙かに低いながらも、14億2,800万ドル(2.2%)増額の653億3,100万ドルとなっている。2006年度の同省R&D予算で唯一勝者といえるプログラムは、防衛先端研究局(Defense Advanced Research Projects Agency = DARPA)であるが、それとて、前年度比3.6%の増額にすぎない。国防省R&D予算の内訳は下記の通り:         

(単位:100万ドル)

2005年度
2006年度要求
2006年度 対 2005年度

基礎研究

1,513

1,319

194減 (12.8%減)

応用研究

4,851

4,139

712減 (14.7%減)

開発

63,903

65,331

1,428増 (2.2%増)

施設・設備

155

50

105減 (67.7%減)

合 計

70,422

70,839

417増 (0.6%増)

国防省予算のハイライト:

  • DARPAの2006年度予算は、前年度の29億7,700万ドルを1億700万ドル上回る30億8,400万ドル。DARPAの2006年度R&D予算は昨年同様に、基礎研究を支援する防衛研究科学(Defense Research Sciences)予算が前年度を3,950万ドル下回る1億3,010万ドルの要求となる一方で、応用研究予算(前年度比7.4%増の14億4,250万ドル)と先端技術開発予算(3.1%増の14億6,170万ドル)は増額となっている。応用研究予算には、エレクトロニクス技術への2億4,200万ドル、認知(cognitive)コンピューティングシステムの2億80万ドル、情報通信技術への1億9,880万ドル等が含まれているほか、先端技術開発予算には、センサー技術の1億8,950万ドル、宇宙プログラム技術への2億2,380万ドル等が盛り込まれている。
  • 危険な作業を行う無人車両・無人機(unmanned vehicles)に17億ドル。
  • 陸海空軍の大学研究イニシアティブ総予算は、2005年度の2億9,400万ドル(注:2)から4,600万ドル(15.7%)削減され、2億4,800万ドル。
  • 陸軍と海軍のインハウス研究予算は各々、11%と20%の削減で、総額は4,200万ドルから3,600万ドルに減少。
  • 陸軍の2006年度未来戦闘システム(FCS)予算は、前年度比6億ドル増の34億ドル、次世代戦闘機の予算は、前年度比4億ドル増の50億ドルとなる。
  • 連邦政府の研究所や優良センター、大学付属研究センターを活用して民間部門の研究にてこいれする産学研究センターの予算は15.7%減の8,190万ドル。
  • 2005年度に増額となった防衛EPSCoR計画予算(注:3)は、2006年度に30.2%削減され、920万ドル。
  • 化学・生物兵器防衛(Chemical Biological Defense)の予算は1億8,300万ドル(25.6%)という大幅増額で、8億9,800万ドル。
  • 軍民両用の科学技術計画は廃止。

 

■ III. 厚生省の国立衛生研究所

2006年度の厚生省の裁量的予算は、前年度レベルを約1%下回る672億ドル。同省R&D予算要求額は(注:4)5,500万ドル増額の288億700万ドル。この内、国立衛生研究所(NIH)のR&D予算は2005年度比0.5%増の279億4,100万ドル。インフレ率にも歩調を合わせられず、24年ぶりに事実上の減少となっている。基礎研究と応用研究の予算が各々、0.8%と1.6%の微増となった一方、施設・設備予算が大幅に削減されている。NIHのR&D予算内訳は下記の通り:

(単位:100万ドル)

2005年度
2006年度要求
2006年度 対 2005年度

基礎研究

15,121

15,246

125増 (0.8%増)

応用研究

12,382

12,575

193増 (1.6%増)

施設・設備

297

120

177減 (59.6%減)

合 計

27,800

27,941

141増 (0.5%増)

                                                

NIH予算のハイライト:

  • 2006年度NIH予算の約84%は米国内外の3,000以上にのぼる研究機関での研究・教育活動を支援するグラントやコントラクトに費やされ、約10%にあたる27億9,200万ドル(2,300万ドル増)が基礎研究や臨床研究活動プログラムという内部研究に、残りがNIH内の研究施設維持や研究管理支援等に充てられる。
  • バイオ防衛研究(biodefense research)の2006年度予算要求は5,600万ドル増の17億9,100万ドル。この内の9,700万ドルは、核・放射能・化学的脅威への対抗策を開発する研究活動を支援するため、公共健康福祉緊急資金(Public Health and Social Services Emergency Fund)で計上される。2006年度のバイオ防衛研究では、ペストや野兎病、バレー熱やエボラ出血熱、および、ボツリヌス中毒症用ワクチンの臨床開発を継続することが、優先事項となる。
  • 医療研究ロードマップの2006年度予算は前年度を9,800万ドル上回る3億3,300万ドルで、その主要テーマは、(1)発見への新たな道(new pathways to discovery);(2)未来の研究チーム;(3)臨床研究事業の活性化に分類され、各々に、1億6,900万ドル、4,400万ドル、そして、1億2,000万ドルが計上される。
  • 中小企業革新研究(Small Business Innovation Research)と中小企業技術移転研究(Small Business Technology Transfer Research)の予算は、900万ドル(0.4%)増額で6億1,600万ドル。グラント交付数は9件増えて2,191件となる見込みである。
  • 研究プロジェクト助成(Research Project Grant = RPG)の予算はNIH R&D総予算の55.5%にあたる155億ドルで、前年度の0.4%増となる。新規の競争グラント交付数は9,463件(247件増)、小企業グラント数は9件増の2,191件と予定されている一方で、交付済みの継続グラント件数が658件減少するため、RPG総数は2年連続で減少となる。また、RPG提案の競争率が高まり、成功率は5年連続で低下し、21%(昨年は27%)と一層厳しくなる見通しである。

 

■ IV. 内務省

内務省全体の2006年度予算要求額は、前年度比1%減の107億6,000万ドル。同省のR&D予算も、前年度の6億1,500万ドルを3,300万ドル(5.4%)下回る5億8,200万ドルに削減されている。内務省の主要科学機関である米国地質調査局(US Geological Survey = USGS)の2006年度R&D予算は昨年に続く削減で、前年度(5億4,100万ドル)比4.6%減の5億1,600万ドルとなっている。ブッシュ政権ではUSGSが行う研究優先分野を再検討し、優先度の低い研究から約3,700万ドルを新規プログラムへと再配分しているほか、鉱物資源プログラム予算の2,850万ドル削減も提案している。

内務省予算のハイライト:

  • 重油漏れ研究(Oil Spill Research)プログラムの2006年度予算は前年度と同額の700万ドル。
  • 米国議会が北極圏野生生物保護区域(Arctic National Wildlife Refuge = ANWR)掘削解禁法案を成立させ、2007年に第一回リース販売が始まることを想定し、2006年度ブッシュ予算案では24億ドルのロイヤルティ収入を見込んでいる。
  • 昨年度予算で削減を受けたUSGSのマッピング・遠隔センサー探査・地理学調査(Mapping、Remote Sensing, and Geographical Research)の予算は、1,470万ドルの増額で1億3,300万ドル。
  • USGSの生物研究は前年度レベルより120万ドル増額され、1億7,290万ドル。
  • USGSの地質学活動予算は、前年度より2,110万ドル削減されて2億810万ドル。これには、国立海洋大気局(National Oceanic and Atmospheric Administration)との協力で構築する全米津波探知・早期警報システム予算(注:5)の540万ドル、炭素隔離研究予算の50万ドル(前年度比50万ドル減)等が含まれている。

 

■ V. 環境保護庁

環境保護庁(EPA)の2006年度全体予算は、前年度より4億5,200万ドル(5.6%減)少ない76億ドル。同庁のR&D予算は削減となってはいるものの、2005年度レベル比を僅か300万ドル(0.5%)下回る5億6,900万ドルとなっている。2006年度予算では、昨年削減となった基礎研究と応用研究の予算が増額され、昨年は増額であった開発予算が2,800万ドルの削減に転じている。EPAのR&D予算内訳は下記の通り:

(単位:100万ドル)

2005年度
2006年度要求
2006年度 対 2005年度

基礎研究

66

70

4増 (6.1%増)

応用研究

365

386

21増 (5.8%増)

開発

141

113

28減 (19.9%減)

合 計

572

569

3減 (0.5%減)

EPA予算のハイライト:

  • クリーンエア・世界気候変動(Clean Air and Global Climate Change)費目の総予算は2005年度大統領要求額より4,200万ドル(3%)削減。
  • EPAの国土安全保障活動予算は前年度の73%増で1億8,500万ドル。7,900万ドルという増額分の内訳は、@飲料水処理場の汚染を早期に警報する「水資源監視官(Water Sentinel)」という新しいパイロッ計画を5都市で開始するための予算として4,400万ドル;Aテロ攻撃で汚染された環境の浄化技術研究および即時対応の為の予算を1,940万ドル増額;B安全なビル研究プログラム(新)予算として400万ドル;C環境関連研究所の対応準備を支援する新活動に1,160万ドル。
  • 省庁間イニシアティブである気候変動科学プログラム(CCSP)への予算は、2,100万ドル(注:6)
  • スーパーファンド浄化に、前年度予算を3,000万ドル上回る13億万ドルを要求。2006年度にはスーパーファンド用地40ヶ所の修復・浄化作業を終了する見通し。
  • 放棄された工業用地を再開発するブラウンフィールド計画の予算は、2005年度予算(1億6,400万ドル)を4,600万ドル上回る2億1,070万ドル。

 

■ VI. 運輸省

2006年度の運輸省全体予算は前年度レベル(580億ドル)比0.1% 減の575億ドルであるが、R&D予算は6,000万ドル(8%)増額の8億800万ドルとなっている。開発予算が昨年同様に削減されたものの、基礎研究、応用研究、および、施設・設備予算は増額になっている。昨年同様、2006年度予算要求においても5つの重要戦略目標を掲げ、各々に下記の割合で予算を配分している:

(1) 安全性の向上に26.1% [2005年度は24.4%]
(2) 全市民の移動性(mobility)改善に64.5% [64.9%]
(3) 世界的交通網連絡の改善に0.5% [変化なし]
(4) 環境保護の6.7% [7.9%]
(5) 国家安全保障の支援に0.9% [0.8%]

(単位:100万ドル)

2005年度
2006年度要求
2006年度 対 2005年度

基礎研究

38

41

3増 (7.9%増)

応用研究

423

494

71増 (16.8%増)

開発

269

254

15減 (5.6%減)

施設・設備

18

19

1増 (5.6%増)

合 計

748

808

60増 (8.0%増)

運輸省予算のハイライト:

  • 2004年11月30日に発足した新組織「研究・革新技術局(Research and Innovative Technology Administration = RITA)」の2006年度予算は3,900万ドル。RITAは、@インテリジェント交通システム(Research and Intelligent Transportation System)といった革新技術R&Dの推進;A包括的交通統計の研究・分析・報告;B交通関連分野における教育・訓練を調整・助長・査定する。
  • 連邦高速道路局(Federal Highway Administration)の予算に盛り込まれた2006年度研究・インテリジェント交通システム予算は、4億2,560万ドル。
  • 米国高速道路安全局(National Highway Traffic Safety Administration = NHTSA)の研究分析予算は2005年度を600万ドル上回る9,400万ドル。
  • 連邦鉄道局(Federal Railway Administration)は、北東部諸州他の通勤電車の運転継続を監督する陸運局(Surface Transportation Board)の2006年度予算は前年度より1,000万ドル多い4,600万ドル。次世代高速鉄道イニシアティブ予算は、通勤電車システムの将来についての審議がこれからとなるため、2006年度予算はゼロ要求。
  • 大統領の水素燃料イニシアティブへは、研究・特別プログラム局(Research and Special Programs Administration)およびNHTSAから前年度より100万ドル多い200万ドルを計上。


注釈:

1:2005年度予算では、62億3,300万ドルという増額の約79%にあたる49億6,000万ドルが国防省に充てられた。

2:ブッシュ政権は2005年度予算として2億5,450万ドルを提案したが、米国議会によってこのレベルまで増額された。

3:2005年度の大統領要求額は960万ドルであったが、議会がこれを1,300万ドルに増額した。

4:厚生省の疾病予防センター(Center for Disease Control and Prevention)もR&Dを行っているため、厚生省R&D予算が全額NIHに計上されているわけではない。

5:総額3,750万ドルをかける新2ヵ年計画。ブッシュ政権では、2005年度の補正予算要求で810万ドルを要求する意向である。残りの2,400万ドルは、NOAA予算で計上される。

6:2005年度大統領要求額と同額であるが、議会が承認した前年度予算よりは100万ドルの増額となる。


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