2005年エネルギー政策法に対する各界の反応

 

NEDOワシントン事務所
松山貴代子
2005年8月31日

ジョージ・W.・ブッシュが大統領就任直後に着手した包括的な米国エネルギー政策の策定は、『2005年エネルギー政策法(Energy Policy Act of 2005:以下、「エネルギー政策法」という)』が2005年8月8日に成立したことをもってようやく終了した。ニューメキシコ州のサンディア国立研究所で行われた署名式典で、ブッシュ大統領は、この法令が記録的な高値を更新し続けているガソリン価格を直ちに引き下げたり、米国のエネルギー問題を一夜にして解決することにはならないものの、米国の輸入原油依存度を軽減する糸口となり、更には、米国の経済成長;環境改善;国家安全保障に役立つものであると称賛した。

4年以上に及ぶ議会での審議と調整努力の賜物と言える「エネルギー政策法」ではあるが、その内容は、2001年にチェイニー副大統領を議長とするエネルギータスクフォースが作成した『国家エネルギー政策(National Energy Policy)』をかなり反映したものとなっている。エネルギータスクフォースは同政策の策定過程で利害関係者等と特定の政策や規定に関して非公式ミーティングを重ねたが、エネルギー業界(注1)の代表者との会合が118回行われたと伝えられる一方で、環境保護団体との会合は13回、消費者グループとの会合は僅か1回に過ぎなかったと報告されている。「エネルギー政策法」はエネルギー関連業界から歓迎されている反面、一部民主党議員や環境保護団体および消費者グループからは、記録的な原油価格の高騰で恩恵を享受しているエネルギー企業に過大な優遇税制(注2)を与えすぎているとして、厳しい批判を浴びているが、「エネルギー政策法」の原点がエネルギー業界の見解を大幅に取り込んだ『国家エネルギー政策』であったことを考えると、こうした反応は当然の成り行きであると言えよう。ここでは、「エネルギー政策法」に対する各界の反応を紹介する。

1. アメリカ原子力学会(American Nuclear Society)

「エネルギー政策法」は、米国エネルギー供給を多様化するイニシアティブを提供し、エネルギー効率の新基準を設定し、送配電慣行を改善し、エネルギー源としての水素開発を促進する。同法令には、新たな原子力発電所の融資・建設・運転を推進する目的で、優遇税制、規制リスク保険プログラム、および、貸付保証といった条項が盛り込まれている。原子力関係のこうした条項により、米国議会は原子力発電を我が国のエネルギーミックスの一部として確立させるために必要なモメンタムを始動させたと言える。

2. 全米鉱業協会(National Mining Association)

「エネルギー政策法」は、米国の最も豊富な燃料である石炭の利用を促進することによって、我が国のエネルギー海外依存度を軽減し;発電所に先進クリーンコール技術を提供することによって、よりクリーンな環境を約束し;米国で開発されたクリーンコール技術を発展途上国に提供することで、世界的な環境問題に対して先見の明のある解決策を提供している。

3. アメリカ石油協会(American Petroleum Institute = API)

米国議会は「エネルギー政策法」を、エネルギー供給の確保、および、効率的な燃料配送に必要な努力の第一歩と考えるべきである。石油と天然ガスはこの数十年、我が国のエネルギーニーズの約3分の2を賄っている。同法令には石油・天然ガスに関連する様々な条項が盛り込まれているものの、石油と天然ガスの十分な供給を保証するには更に多くの課題が残っている。天然ガスや石油の重要な新供給源となる米国西部や沿岸の有望地域を掘削に解禁するため、一層の努力が必要である。世界的なエネルギーの需要激増を考慮すると、米国エネルギー供給者が現在直面している課題、および、将来直面する課題に対応するエネルギー政策を策定することは必要不可欠である。APIは「エネルギー政策法」に続く新たなエネルギー法案作成で米国議会と協力していく意向である(注3)

4. 全米製造業協会(National Association of Manufacturers)

世界で最も高いエネルギーコストに直面している米国製造業者にとって、エネルギー政策法案の可決は最優先事項であった。世界市場で競争力を維持するためには、米国経済の重荷となっている構造的コストを正す必要がある。「エネルギー政策法」はこの目標に向かう第一歩である。

5. 太陽エネルギー産業協会(Solar Energy Industries Association = SEIA)

過去20年間で最強の太陽光発電国家政策を策定したブッシュ大統領と米国議会を称賛する。太陽エネルギー装置を設置する自家所有者にシステム費用の30%、最高2,000ドルの税控除(注4)が与えられるのは1985年以来のことである。更には、ソーラー設備を購入するビジネスにもシステム費用の30%という税控除(注5)が供与される。「エネルギー政策法」に盛り込まれたソーラー優遇税制条項は、米国民が我が国のエネルギー自立に向けて行う真の貢献を支援するものである。太陽エネルギー税控除は、在来型の化石燃料や原子力業界のそれと比較すると小さなものではあるが、太陽エネルギー業界にとっては大勝利である。同業界は伝統的に分断された業界で、これまでは特定の政策目標で合意することが不可能であったが、今回の勝利は業界全体が一致団結してロビー活動に注力した賜物である。この法令は、米国議会が太陽エネルギーをエネルギーミックスの重要な一部と見なしていることを明示するものである。

6. 米国風力エネルギー協会(American Wind Energy Association)

風力を含む再生可能資源を利用した発電税控除(Production Tax Credit = PTC)が2年間延長されたことは、業界にとって吉報である。PTCの税控除が満期終了(2005年12月31日)となる前に延長されたのは今回が初めてであり、風力業界はこれによって事業拡張を計画し、全国の顧客にクリーンな電力を供給することが可能となる。一方で、「エネルギー政策法」には、2020年までに全米電力の10%を風力や太陽エネルギーといった再生可能資源で発電するという上院提案の再生可能エネルギー使用基準(Renewable Portfolio Standards)条項が含まれていない。米国議会はエネルギーや経済、国家安全保障や環境に関する前向きな政策を同時成立させるユニークな機会を逸したわけで、非常に残念である。

7. 米国エネルギー合理化経済評議会(American Council for an Energy-Efficient Economy = ACEEE)

「エネルギー政策法」は上院のエネルギー法案よりも、エネルギー節減量で大幅に下回る(注6)ほか、石油消費の急増を食い止めるという重要課題でも劣っている。「エネルギー政策法」は、石油輸入の増大、エネルギー価格の高騰、温室効果ガス排出の削減という米国の最も重要なエネルギー課題への対応を回避している。同法令は米国消費者や経済に真の救済をもたらすことにはならないため、米国議会は近々、石油依存度や天然ガス価格といった主要なエネルギー問題を再度検討する必要に迫られるであろう。

8. 米国公益研究団体(U.S. Public Interest Research Group)

「エネルギー政策法」は米国の石油依存度を軽減するものでもなければ、クリーンなエネルギーを活用する将来を創造するものでもない。これは、大手石油会社に水資源の汚染、国庫の略奪、我が沿岸線への侵入を認めるものであり、更には、原子力発電所6基、および、12以上の石炭火力発電所の新設補助を納税者に強いるものである。同法令は地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出削減を義務付ける代わりに、主要な汚染源である石油、石炭、天然ガス業界に131億ドル以上の税控除を提供する。「エネルギー政策法」は、米国の消費者と環境を犠牲にして、石油・石炭・原子力業界を優遇するという惨憺たる法令である。

9. 天然資源防衛委員会(Natural Resources Defense Council)

「エネルギー政策法」はエネルギーの無駄であり、21世紀のエネルギーニーズを満たすことの出来ない法令である。同法令は、石油依存度の増大;ガソリン価格の高騰;破壊的なエネルギー開発;汚染業者への巨大な補助金;地球温暖化といういずれの問題をも真剣に取り上げていない。連邦議会が意義あるエネルギー法令作成の機会を台無しにしたため、我が国は石油に依存したままであり、高いガソリン代を払い続けることになる。議会が将来のエネルギー供給確保を真剣に考えているというのであれば、夏期休会明けに直ちに、石油消費を削減し、我が国の安全を保障する政策の策定作業を開始すべきである。

 


注釈:

1:ボストン・グローブ紙の分析によると、エネルギー業界は昨年米国議会でのロビー活動に約3.9億ドルを費やしたほか、2004年の選挙に約775万ドルを献金したという。

2:向こう10年間で145億ドル。

3:石油・天然ガス業界は、ガソリン添加物MTBEの免責条項を「エネルギー政策法」に盛り込むことで失敗したため、同法令を諸手をあげて歓迎しているわけではない。現に、米国第3位の精製会社であるValero Energy Corp.は8月2日に、MTBE免責条項が含まれなかったことを理由に、MTBEの製造と混合を中止すると発表している。APIのRed Cavaney会長によると、Tom DeLay下院共和党院内総務(テキサス州)他の下院共和党リーダーが同条項を押し通せると信じて、下院の指導層に頼りすぎたことが失敗の原因であったという。同会長は、MTBEのライアビリティを公正に検討する連盟を下院と上院の双方に構築するよう努力すべきであったと述懐している。また、石油・天然ガス業界の内で顕著な見解の違いが表面化し、下院共和党指導層のMTBE妥協案に対する業界コンセンサスの取りまとめに膨大な時間を費やしてしまい、ライアビリティの公正さで議会に十分なロビー活動を行うことが出来なかったと回顧している。

4:この住宅用ソーラーシステム税控除の期間は2006年1月1日から2007年12月31日までの2年間。

5:太陽エネルギーと地熱に関しては、10%のビジネス・エネルギー税控除(Business Energy Tax Credit = BETC)が『1992年包括エネルギー法』で既に恒久化されている。「エネルギー政策法」には、BETCの対象である太陽エネルギーの税控除率を2年間(2006年1月1日から2007年12月31日)だけ30%に引き上げるというビジネス・ソーラー投資税控除(Business Solar Investment Tax Credit)条項が盛り込まれている。この控除率は2008年1月1日以降は現行の10%に戻ることになる。

6:上院のエネルギー法案には、2015年における日間石油需要を100万バレル削減する方策を策定・実施するよう大統領に義務付けるという条項があったが、これは上下両院協議会で削除されている。AECCCの分析によると、「エネルギー政策法」で節減される日間石油需要は約10万バレルに過ぎないという。


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