上院商業・科学・運輸委員会におけるイノベーションおよび競争力法案に関する公聴会:概要

 

NEDOワシントン事務所
松山貴代子
2006年4月24日

上院商業・科学・運輸委員会は、米国の直面するイノベーションおよび競争力に関する課題を論じ、こうした問題への対応で同委員会が取り得る法的措置を検討するため、3月15日に公聴会を開催した。2005年12月15日に「国家イノベーション法案(National Innovation Act of 2005:上院第2109号議案)」を提出したJohn Ensign上院議員(共和党、ネバダ州)が、上院商業・科学・運輸委員会のTed Stevens委員長(共和党、アーカンソー州)に代わり、本公聴会の議長を務めた。公聴会では、Joseph Lieberman上院議員(民主党、コネチカット州)とMax Baucus上院議員(民主党、モンタナ州)から成る第1パネルと競争力協議会(Council on Competitiveness = CoC)および産業界代表から成る第2パネルから意見を聴聞したが、ここでは、Ensign議長の開会の辞、George Allen上院議員(共和党、バージニア州)の発言、および、第2パネルの証言者4名の発言と質疑応答について概説する。

 

<開会の辞>

Ensign議長(共和党、ネバダ州)

米国は国際的競争力を維持するため、新規のアイディアやテクノロジーを推進するイノベーションで引き続き世界をリードしていくべきであるにも拘わらず、イノベーションでの優位を徐々に失いつつある。米国では理数工系を専攻する高校生の数が10年前の36%から6%まで減少したのに対し、中国とインドは信じられないほどの理数工系学生を卒業させており、この動向が続けば2010年には科学者とエンジニアの90%がアジアとインドに在住することになる。Lieberman上院議員と自分が共同提出した「国家イノベーション法案」は、競争力協議会(CoC)の報告書『イノベート・アメリカ(Innovate America)』に盛リ込まれた提言を基にしたもので、@研究開発(R&D)費の増額;A理工系人材の育成;Bイノベーション基盤の構築、という3つの優先分野に焦点を当てている。自分は財政面では保守派であり、プログラムの予算増額は可能な限り、他の何かで相殺する必要があると考えている。従って、プログラムの優先順位付けが重要となるが、基礎研究への支援増大は国家の優先事項であると確信している。米国学術機関における生命科学以外のR&Dの約40%を支援する全米科学財団(National Science Foundation = NSF)の役割が重要なことは明らかであり、国家イノベーション法案はNSF予算を2011年度までに倍増するものである。

George Allen上院議員(共和党、バージニア州)

中国とインドは、自国の行くべき先を見極めており、イノベーションのリーダーになることを決意している。中国ではナノテクノロジー、特に材料工学分野への関心が高く、材料工学に重要なナノチューブの一流科学者やエンジニアを高給優遇している。また、インドは米国の3〜4倍のエンジニアを輩出し、中国にいたっては米国の7倍以上のエンジニアを輩出している。米国はというと、エンジニアの3分の1が外国人であるほか、女性のエンジニアは15%、ヒスパニック系または黒人のエンジニアは6%にすぎない。また、インド技術研究所(Indian Institute of Technology)のスタッフと会談した時、インドでは、科学や数学で好成績を修めてインド技術研究所へ進学することが貧困から抜け出す切符なのだと聞かされた。米国では差し詰め、アメフトや野球だろう。若者の人種や性別に関係なく、科学技術分野に関心をもたせるインセンティブが必要である。

 

<第ニパネルの証言>

競争力協議会(CoC)のDeborah Wince-Smith会長の発言

本公聴会は、米国民の生産性および生活水準の向上というCoCミッションの核心を取りあげるものである。米国が低賃金や商品生産物(commodity product)や規格化されたサービスで競争することは不可能であり、我々の繁栄は高価値の経済活動(high-value economic activity)にかかっている。米国は今、岐路に立っている。片方は自己満足や怠慢の道で、これは我々の経済的リーダーシップや生活水準、および、国家安全保障を蝕むもので、断崖絶壁に続いている。もう一方は起業家精神、リスクテーキング、イノベーションの道で、これは絶え間ない経済成長と繁栄を約束する。CoCでは今年後半に2006年の『競争力インデックス(Competitiveness Index)』の発表を予定している。同インデックスは、米国経済の実績や活力を数量的に査定評価し、これを国際的競争相手や台頭する競争相手と比較するもので、[上述の]分岐が米国経済の将来に及ぼし得る影響を浮き彫りにすることになる。

Ensign上院議員とLieberman上院議員が共同提案した国家イノベーション法案、ブッシュ大統領の米国競争力イニシアティブ(American Competitiveness Initiative)、および、全米科学アカデミー(NAS)の報告書『Rising Above The Gathering Storm』に基づく「米国競争力優位保護法案(PACE法案)」が奨励する優先事項の多くは、CoCと同じものであり、CoCは諸手を挙げてこれ等を支援するものである。

我々は今、競争力の面で大きな転換期にさしかかっている。米国の人口は世界人口の5%でありながら、世界の富の40%を占有しており、一人当たりの国内総生産(GDP)は世界最高で、1970年以来倍増している。また、労働者一人当たりの生産性では、米国は中国の5倍である。こうした明るい統計データにも拘わらず、課題があることも事実である。米国は、貿易赤字・財政赤字・貯蓄不足という3つの赤字に直面している。2007年の貿易赤字はGDPの7%と推定されており、連邦政府の基礎研究予算は1960年代中盤のピーク時の約半分(GDPの2%)まで減少している。15歳児は数学・科学の国際テストで21位という成績であり、米国のエンジニアの3分の1は外国生まれである。しかしながら、最も重要なのは、他諸国が米国の「innovation let growth」戦略を採用して人材投資・インフラストラクチャー整備を行い、高い可能性を持ったエコシステムを確実に構築していることである。こうした国は職に飢えており、仕事は世界各国の低コスト労働者へと流れているが、他諸国も競争面での今日の優位がテーブルステークに過ぎないことを承知している。これが、CoCが国家イノベーション・イニシアティブ(National Innovation Initiative = NII)に着手した理由である。30万回もダウンロードされた『イノベート・アメリカ』のモメンタムにのって、民間部門のリーダーはCoCの提言実施に努力しており、報告書に盛り込まれた連邦政策提言は新たな法案に繋がっている。NIIリーダーシップ委員会は既に、『イノベート・アメリカ』の調査結果や提言を基にした次世代プログラム …@21世紀先進製造技術;A全国高性能コンピューターインフラ;B地域別イノベーション・ホットスポット;Cエネルギー安全保障と持続可能性… にとりかかっている。こうした全ての努力を支えるため、Norm Augustine、Chuck Vest、および、カリフォルニア工科大学David Baltimore学長の率いるCoCのGreenfield Innovation Metrics Researchでは、現行のインプット・ベース・システムでは測定できないイノベーションの成果を査定評価するため、成果ベース(performance-based)の新しいメトリクスを開発中である。

CoCのアジェンダは、人材;投資;インフラストラクチャーという3つの基本プラットフォームから成っている。連邦政府は、ナレッジ最前線R&Dへの投資を拡大し、我が国の最も貴重な財産である米国民の活力に投資を行い、民間部門や州政府と提携してイノベーションに基づく地域経済の成長を促進しなければならない。

ロッキードマーティン社のNorman Augustine元最高経営責任者発言

全米科学アカデミー(NAS)の競争力調査に関する委員会の議長を務めたことから、アカデミーを代表して委員会の作業を説明する。『Rising Above The Gathering Storm』は、上院からの緊急要請により、20名のメンバー(注:1)が90日間で作成した報告書である。数名のメンバーはこの問題に20年余取り組んできたものの、真珠湾攻撃やスプートニクや9-11多発テロ事件のような切迫感がなかったために注目度が低かった。

委員会の見解は、米国が非常に深刻な問題に直面しており、その一因は他諸国が米国のかつての傑出分野をコピーすることによって向上していることにあるという点で一致した。こうした現状を招いた原因として、@飛行機やテレコムによる距離の消滅;A途上国の有能な30億の労働者;B米国のR&D投資の変化 …かつては政府がR&Dの3分の2、民間部門が3分の1を負担したが、現在では企業はR&DのR(リサーチ)部分を放棄してD(開発)にシフト;C公立K-12教育システムの劣化、が挙げられる。こうした問題に対応するため、NASは、K-12システムの改善、基礎研究予算の増額、高等教育機関における科学技術専攻者支援、知的財産権等の20提言を行った。上院に提出されている法案は、NAS提言にかなりの部分で一致している。

インテル社のCraig Barrett会長の発言

半導体を始めとする産業組合は全て、米国が今後も世界的優位を保つためには、@賢い人々;A優れたアイディア;B賢い人々が優れたアイディアに従事して成功できる環境、という3分野で競争することを選択する必要があると口を揃えて主張している。また、米国は税制、移民政策、および、知的財産権という主要3分野で自らを傷つけているため、「害を起こさない(Do No Harm)」というヒポクラテスの倫理綱領を適用すべきである。例えば、テレコム政策であるが、米国は過去10年間で1位の座を失い、ブロードバンド普及率では世界で15位、携帯電話普及率では25位となっている。移民政策に関して言えば、@米国の国境を守ること;A米国を高等教育を受けて就職する最も魅力的な場所にすることが真の問題であるべきだ。私は5年程前から、(外国籍の)有能な大学院卒業生の卒業証書にグリーンカード(永住権)またはH1Bビサを添付してはどうかと提案している。

IBM社のJohn E. Kelly, III副社長の発言

今日の成長の牽引役が数年前とは著しく異なり、成長のリワードは均等にシェアされるのではなく、革新を実施して、こうした世界的シフトを自らの強みに変えることの出来る事業や国家へ流れると考えている。このためIBMは、米国のAMD社、日本のソニーと東芝、韓国のサムスン、シンガポールのChartered Semiconductor社、ドイツのInfineon社と共に、ニューヨーク州のハドソン渓谷で先進半導体やナノエレクトロニクス分野での協力を開始した。米国がオープンな協力モデルを持っていなかったら、ニューヨークがこの協力事業の場所として選ばれることはなかったであろう。イノベーションで成功する為には、教育や技術開発や技術移転政策といった伝統的施策の他に、資本のアベイラビリティ;知的資本を最大限活用する能力;インフラストラクチャー;業界の従業員保険コスト・法的コスト・規制コストといった要素が重要となる。つまり、米国が戦略的かつ包括的に、国家イノベーション・エコシステム(national innovation ecosystem)…研究・教育・税・移民・知的財産等の政策と物理的なインフラの双方を含む… の強化に焦点をあてることが肝心なのである。国家イノベーション法案はこうした問題を認識し、NSF予算を5年間でほぼ倍増し、「イノベーション推進グラント(Innovation Acceleration Grant)」に年間R&D予算の最低3%をコミットするものである。私は本委員会にこれ等の施策を承認するよう要請する。

最も豊かな成長の機会が、テクノロジー、洞察力、および、伝統的研究分野が交わる部分に宿っているにも拘わらず、研究費や大学課程は学際的協力を困難にしている。国家イノベーション法案はこうした現状に応え、国防関連研究費の一部を分野横断的な研究プロジェクトに充当するほか、学際的教育も支援する。更に、急成長するサービス経済を支えるために、科学的知識とビジネスナレッジの融合を助長するという次の戦略的段階にも踏み込んでいる。サービス経済は米国の[軍人を除く]一般市民労働者の75%を雇用し、GDPの3分2を生み出し、560億ドルの貿易黒字をあげている。従って、サービス部門のイノベーションを無視するわけにはいかない。IBMでは、ジョージア工科大学やカリフォルニア工科大学、ノースカロライナ州立大学やレンセラー・ポリテクニック大学といった一流大学と協力して、サービスの科学・管理・工学(Service Science, Management and Engineering = SSME)カリキュラムを策定中である。

 

<質疑応答>

Ensign議長(共和党、ネバダ州)

メトリクスというアイディア、CoCの『競争力インデックス』についてもう少し詳細に説明してもらいたい。どのプログラムが機能し、どれが機能していないのかをどのように測定するのか?

CoCのWince-Smith会長

CoCでは1986年から競争力インデックスに取り組んでいる。これは、米国経済 …特許数、科学者やエンジニアの数、貯蓄、教育レベル等… の数量的測定値を出し、それを国際競争相手と比較するものであるが、現時点では、連邦政府によるプログラムの成果と実績を調べる試みが欠如している。測定方法を策定する際に、量が必ずしも答えになるとは限らない。例えば、ソ連は世界最大の科学者とエンジニアを有するものの、活力に満ちたイノベーション経済であるとはとても言えない。何が起こっていて、何を解明できるのかを自らに問う必要がある。

連邦政府はプロジェクトが一度進行すると、これを中止したがらない傾向があるため、議会が優先事項を確認して介入する必要がある。ブッシュ大統領は年頭教書演説でスーパーコンピューテイングとナノテクノロジーという優先事項を明示した。政府省庁はこれらに投資するため、幾つかのプロジェクトを廃止する必要があろうが、各省庁がプロジェクト廃止で躊躇するのは明らかである。従って、議会は予算過程を通じて各省庁に優先順位を明確に指示しなければならない。

 

Ensign議長

子供達に教育を施すことは出来る。しかしながら、科学や数学を目指すように子供達を発奮させるにはどうしたらよいのか?

ロッキードマーティンのAugustine元CEO

低年児は科学や数学を退屈だと考えている。科学・数学・工学は胸弾むほどに面白いというメッセージを子供達、特に女児に伝えなければならない。低年児を鼓舞する最善の方法は、理数工系専門の適格者をK-12の教師として雇うことである。現在、米国8年生(日本の中学2年生)の68%が、数学の学位を持たない教師から数学を教わり、93%が物理科学の学位を持たない教師から物理科学を教わっている。殆どの場合、文系教師が数学や科学を教えているわけであるが、教師がこうした分野に興味がなければ、授業が面白いはずもなく、生徒を感化できるわけがない。

インテルのBarrett会長

インテルはこの8年間、高校生対象の科学タレント・サーチ(Science Talent Search)を行っているが、昨夜ワシントンDCで、上位40名の生徒を集めて今年の授賞式典を行った。生徒達にどうして科学・工学に興味を持つようになったのかを尋ねたところ、教師に感化されたという回答であった。優れた教師を確保することが最優先事項である。

 

Allen上院議員(共和党、バージニア州)

科学や数学に関心を持つ女生徒やマイノリティの生徒を増やすためのアドバイスは?

CoCのWince-Smith会長

手本となる人物(role model)が重要だと思う。但し、女生徒の場合は、高校では数学や科学が出来た女生徒が大学に進んでから、こうした分野への興味を失うという統計が出ている。中国やインドではこうしたギャップが存在しないのに、様々な分野で女性が活躍している米国がこういう状況であるのは全くもって皮肉である。未だ、Role modelingやmentoring(先輩からの助言)で課題が残っているようである。CoCでは、NSFの奨学金を受けている大学院生に女学生やマイノリティ学生、および、大学1〜2年生の個人教授をさせるというRita Colwell元NSF総裁のアイディアを一選択肢として検討中である。

IBMのKelly副社長

有能な教師、および、手本となる人物が重要である。一つの課題は、これを是正するには時間がかかるということである。我が社のエンジニア・科学者・数学者の中には、こうした問題を認識し、役に立ちたいと考えている者が多数いる。そこで、IBMでは先頃、「Transition to Teaching」という新プログラムを開始した。同プログラムは、IBMのエンジニアや科学者や数学者の教員免状取得を経済的に支援するもので、短期間で有用な教師を輩出できると期待している。

 

Ensign議長

産業界からは、技能をもった優秀な人材が足りないという話しを度々聞くが、移民制度をどのように体系化するべきだと思うか?H-1Bビザまたはグリーンカードを大学院卒業生の卒業証書に添付するという意見が出たが、最も優秀な学生の上位10%、または、20%に限定するのか?それとも全員にオファーするのか?

IBMのKelly副社長

分野によって莫大な人材不足が存在する。一例としては電気工学のエンジニアが上げられるが、特にIT部門での不足が著しい。また、プログラマーの不足も深刻である。人材不足が著しい分野における優秀な外国人卒業生の卒業証書にビザを添付することに賛成である。

インテルのBarrett会長

インテルのビジネスの75〜80%は国外であり、IBMでもビジネスの3分の2が国外である。国際的な競争という必要性から、出身国に関係なく最も有能で明晰な労働者を雇う必要がある。これは市場指導型のシステムであって、米国政府もこれを取り入れるべきである。米国は世界中の最も有能で明晰な労働者が第1チョイスとして選ぶ職場となるべきであって、移民政策の強化ではこれを達成することは出来ない。


注釈:

1:Norman Augustine氏、インテル社のCraig Barrett会長、Eli Lilly社のGail Cassell副社長、ローレンス・バークレー国立研究所の所長でノーベル賞受賞者のStevem Chu博士、テキサスA&M大学のRobert Gates学長、Nancy Grasmickメリーランド州教育長、デュポン社のCharles Holiday, Jr.最高経営責任者、レンセラー・ポリテクニック大学のShirley Ann Jackson学長、バージニア大学のAnita Jones教授、ロックフェラー大学の学者でノーベル賞受賞者のJoshua Lederberg博士、エール大学のRichard Levin学長、メリーランド大学のC. D. Mote, Jr.学長、ローレンス・リバモア国立研究所のCherry Murray博士、オドネル財団のPeter O'Donnell, Jr.会長、エクソン・モービル社のLee R. Raymond会長、コーネル大学のRobert C. Richardson教授、P. Roy Vagelos元 Merck & Co.社長、マサチューセッツ工科大学のCharles M. Vest名誉会長、ハーバード大学のGeorge M. Whitesides教授、スタンフォード大学のRichard N. Zare教授、の20名。


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