上院商業・科学・運輸委員会の技術・イノベーション・競争力小委員会における
米国競争力にとっての基礎研究の重要性に関する公聴会:第1パネルの概要

 

NEDOワシントン事務所
松山貴代子
2006年4月6日

上院商業・科学・運輸委員会の技術・イノベーション・競争力小委員会は3月29日、米国競争力にとっての基礎研究の重要性に関する公聴会を開催した。小委員会の委員長は、2005年12月15日に「国家イノベーション法案(National Innovation Act of 2005:上院第2109号議案)」を提出したJohn Ensign上院議員(共和党、ネバダ州)で、物理科学の基礎研究が米国の長期的な経済発展および米国産業の世界的競争力維持能力に与える影響を検討するため、政府、大学、産業界の代表者から意見を聴取した。Ensign小委員会委員長は、二つのパネル(政府関係者からなる第1パネルと大学および産業界の第2パネル)から意見を聴聞したが、ここでは、Ensign小委員会委員長の開会の辞、および、第1パネルの証言者3名の発言と質疑応答について概説する。

 

<開会の辞>

Ensign委員長(共和党、ネバダ州)

競争が激化する中、米国はイノベーションのリーダーでなくてはならない。高給職やより高い生活水準をもたらす新しいアイディアや技術やプロセスを推進するイノベーションは、我が国の将来の国際競争力の鍵であり、基礎研究が将来イノベーションの鍵となる。過去25年間の全米科学財団(NSF)による化学・物理学・ナノテクノロジー・半導体・製造技術他の分野における基礎研究支援は、フラットパネル・ディスプレーを可能にしたアモルファスシリコンのレーザー結晶化(laser crystallization)技術、デジタルカメラやiPodを可能にした被覆薄膜(thin insulated film)といった革命的な技術的進歩をもたらしたが、いづれの場合も、民間部門が新技術の潜在的市場性を認識し、更なる開発に投資を始めるのに先立って、連邦政府の基礎研究支援が必要であったわけである。基礎研究は我が国の長期的な活力に重要であるが、民間企業が基礎研究を行う環境は十分ではない。従って、NSFや国立標準規格技術研究所(NIST)他の連邦機関の基礎研究費の増額が国家優先事項であるべきだと信じている。インドや中国の競争力が増している中、基礎研究への支援を怠ることは深刻なリスクを招くことになる。今この段階で、米国の経済成長に重要な貢献をする基礎研究への投資にコミットすることが必要である。

 

<証言>

ホワイトハウス科学技術政策局(OSTP)のJohn Marburger局長の発言

ブッシュ大統領が今年の年頭教書演説で発表した「米国競争力イニシアティブ(American Competitiveness Initiative = ACI)」の目的は、我が国のイノーベーションと競争力を確保することである。2007年度大統領予算案では、全体的な非国防予算の減少にも拘わらず、非国防関係の研究開発(R&D)投資が約2%(11億ドル)増額される。ACIの最重要項目は、我が国の将来の経済競争力に多大な影響を与えるものと期待される物理科学や工学分野での基礎研究を支援する主要な連邦政府機関の予算を10年間で倍増することで、2007年度にはNSFに60億ドル、エネルギー省(DOE)科学部に41億ドル、NISTコアプログラムに5.35億ドルの配分を提案している。全ての良いアイディアに資金を提供することは出来ないため、ACIでは将来の経済競争力に最高の限界価値(marginal value)をもたらす科学的活動を優先・推進することになり、優先順位付けが重要となる。最重要の優先事項に集中し、不要な新プログラムおよび官僚的な負担を拒絶し、手持ち資源のばらまきを回避しなければならない。また、イノベーション法案や競争力法案には、指定資金交付(earmark)を含むべきではない。

全米科学財団(NSF)のArden Bement総裁の発言

NSFは、規模は小さいが、理工系のナリッジ(知識)やキャパシティに与えた影響は大きい。NSF予算は連邦政府R&D総予算の僅か4%にすぎないものの、学術機関における生命科学以外の基礎研究の約50%を支援している。NSFは理工系研究の全分野、そして、それを維持する教育プログラムをも支援する唯一の連邦機関である。NSFが1952年にグラント交付を開始して以来のノーベル賞受賞者500名の内、166名がキャリアのどこかの時点でNSFグラントを受けていることからも、NSFの貢献度は明白である。また、先頃の物理科学とヘルスサイエンスの融合によって、超高速で正確なレーザー・メス、外科助手ロボット「ペネロピ」、皮下埋込み可能な特殊コード化ナノチューブ、廃水の浄化と同時に水素ガスを生成するバイオろ過装置(bio filtration system)といった成果も生まれている。NSFは、新しいアイディアが生まれ育って実を結ぶような、知識のフロンティア(未開拓分野)を重視する。この推進のために、リサーチと教育を融合することによって我が国の人材プールを増進することも重要なタスクとなっている。また、工学研究センター(ERCs)や科学技術センター(STCs)といった研究センタープログラムや、中小企業革新研究(SBIR)や中小企業技術移転計画(STTR)から明らかなように、民間部門や産業界との協力も行っている。NSFは国益に係る科学技術の推進にコミットしている。

国立標準規格技術研究所(NIST)のWilliam Jeffrey所長の発言

NISTのミッションは、計量学・基準・技術を助長することによって米国のイノベーションと産業競争力を推進することである。今日の世界経済では、米国の競争力は革新的技術を開発して商品化する能力に大きく左右されることになる。正確に計量できないということは、モノをコントロール出来ないということであり、コントロール出来ないということは確実に製造できないということになる。ところで、米国の経済競争力という観点から見て、計量や基準が重要な役割を果たしているとどうして判るのか?NISTはこの測定のため、過去7年間に19本の経済影響調査を実施したところ、NISTの投資1ドルに対する経済的利益は44ドルであることが判明している。我が国の競争力を維持し強化することは、将来の経済安全保障にとり必要不可欠である。この問題への対応策としてブッシュ大統領がACIを提案したのであり、ACIの一環としてNISTでは、(1)戦略的かつ急速に進展する技術に焦点をあて;(2)重要な国有財産のキャパシティと能力を拡大し;(3)国家の最も差し迫ったニーズを満たし;(4)NIST施設を改善することになる。

 

<質疑応答>

Ensign委員長(共和党、ネバダ州)

価値ある(meritorious)グラント提案は何かということだが、連邦機関が多様なグラント提案の評価でピアレビュー他の方法を利用していることは承知している。ただ、自分は先頃、上院衛生・教育委員会のMike Enzi委員長(共和党、ワイオミング州)から、アイルランドのグラント提案審査が学界によるピアレビューとビジネスによるピアレビューという2段構成であることを聞いた。このようなシステムを米国に設置することをどう思うか?

OSTPのMarburger局長

アイルランドのシステムは米国のシステムを模範にしているが、この2段階システムは新しい特色である。我が国でも、ある種のグラントは科学界以外からのインプットを必要としており、応用研究ミッションを有する政府機関の多くが、自己の判断力を調整するために産業界と密接に協力している。特に、NISTは産業界との関係が強い。ある状況下では、産業界のインプットを得ることは適切であると思う。

NSFのBement総裁

我が国にも2段階レビューを行うプログラムは存在する。先端技術プログラム(ATP)がその例で、(1)科学的・工学的・技術的メリット;(2)ビジネスのフィージビリティが検討される。NSFの場合は、高リスクの研究であるフロンティア研究を支援する一方で、民間部門とのSBIR/STTRにも従事しており、SBIR/STTRでは技術的フィージビリティとビジネス・フィージビリティを考慮する。NSFでは、既存技術の改良ではなく、最新技術の推進に努めている。

NISTのJeffrey所長

産業界との協力が緊密なNISTは、業界や大学から年間約1,800名の客員研究員を受け入れている。NISTはまた、技術ロードマップ策定でコンソーシアムと協力しているほか、様々な業界の最優先ニーズを確認し、純粋な基礎研究と産業界の将来ニーズとの間にあるニッチを埋める努力をしてい。

 

Ensign委員長

新しいアイディアの価値をどうやって決定しているのか?自分は、米国民全員が基礎研究とインフラ整備から利益を得ると信じている。大統領提案もそうだが、議会はNSF予算を大幅に増額する意向である。しかし、自分は財政面では保守派であるため、優先順位付けの必要がある。NSF予算の倍増、NIST予算の増額という我々の提案は十分だと思うか?

OSTPのMarburger局長

予算制約下にあるため、ACIは優先順位をつけており、長期におよんで我が国に利益をもたらす新規科学を優先すべきと考えている。現・前政権が基礎科学を寛大に支援したことで、科学・技術・工学の多くの分野が目標を達成できる十分な予算を有しているが、物理科学の一部やNISTのような機関は財源不足であると感じている。とはいえ、自分は、現政権提案の予算が適切だと思う。

NSFのBement総裁

正確な数字はつけられないので、哲学的かつ実利的な回答をすると、(1)新技術を開発する新たな職を担うSTEM(科学・技術・工学・数学)労働者に関して国家が必要とするキャパシティを構築し;(2)女性やマイノリティの参加を拡大し;(3)プレ幼稚園から大学院に至る全課程で最良の数学・科学教育を推進し;(4)競争力を保持するために米国が主要分野でリーダー格を守ることが出来るならば、予算は十分であると思う。

NISTのJeffrey所長

ACIは十分に熟考されたイニシアティブであり、その提案額はNISTが現時点で必要とする予算に他ならない。

 

Ensign委員長

国立衛生研究所(NIH)での経験を著した本を読んでいるが、これによると、NIHはグラント提案作成は時間がかかりすぎ、非常に厄介であるほか、クライテリアが厳格すぎることに気づき、グラント申請書類を5ページに制限し、リサーチャーには柔軟性を与えることにしたという。連邦政府がこうした柔軟性を与えること、グラント申請を簡素化することは可能であろうか?

NSFのBement総裁

NSFの全米科学委員会(National Science Council)のメンバーの多くが、研究が複雑になり、複数の研究責任者が関与し、時として研究が非常に学際的になっていると感じている。経験上、複雑で学際的なプロジェクトを十分に説明するには20ページの提案が最適だと考えている。一方で、NSFは新概念の探査研究も支援しているが、これに関しては3〜4ページの申請書を受け付けている。プログラム・オフィサーにはかなりの自由裁量権があり、このタイプ(3〜4ページ)の提案を認めることができる。

OSTPのMarburger局長

Bement総裁指摘の全米科学委員会には、OSTPも含めた諸機関のスタッフが参加している。グラントの評価・認可手順は省毎にかなりの相違があり、ある省では他省よりも煩雑な手順を行っている。NSFは多様な評価メカニズムを持ち、優れたグラント慣行を有しているので、全米科学委員会では他の連邦機関にNSFのモデルを見習い、もっと柔軟に対応するよう奨励している。

 

Mark Pryor上院議員(民主党、アーカンソー州)

ATPは有効なプログラムか?現政権が廃止を提案するATP予算を議会が復活させることには反対か?

NISTのJeffrey所長

行政管理予算局(OMB)はATPを「まあまあ有効」と評価している。財政赤字削減を考慮した2007年度予算案では優先順位づけが必要となるが、そうなると、NISTは、特定の分野と産業界を支援するATPよりも、米国の経済や産業界全体に幅広く影響をあたえるプログラムを優先視することになる。

 

Pryor上院議員

NSF予算が増額されるが、これをどのように利用するつもりか?

NSFのBement総裁

NSFの優先事項である、(1)フロンティアの前進;(2)マイノリティや障害者の高等教育(博士課程も含め)参加拡大;(3)大規模施設基盤整備への投資;(4)数学・科学教育プログラムへの投資拡大に充てられる。

 

Pryor上院議員

数学・科学教育プログラムは大統領のACIの一環か?現状はどうか?

NSFのBement総裁

ACIの一環であり、非常に順調に進んでいる。NSFの数学・科学パートナーシップ計画が調査したところによると、一年間で小学生の習熟度は4%、高校生の習熟度は14%向上した。また、学校別にみると、目覚ましい成果をあげている学校もある。例えば、ペンシルバニア州の、とある学校は数学・科学の国際テストで1位になっている。4年生は韓国と引き分けで1位、10年生(日本の高校1年生)はスエーデンに続き2位であった。このペンシルバニアの学校は、NSFの数学・科学パートナーシップ計画の参加校である。 

 

Pyror上院議員

NSFは数学・科学教育計画を撤廃、もしくは、教育省へ移管すると聞いているが?

NSFのBement総裁

それは誤解だ。NSFは48のパートナーシップに100%出資しており、5ヵ年パートナーシップ計画の終了までグラントを継続するのに十分な予算を持っている。

 

Pryor上院議員の質問

パートナーシップでは、新たなグラントがあるのか?

NSFのBement総裁

グラントの増数はない。同パートナーシップは500の学区が参加する大規模なR&Dプログラムである。教育省や州政府の教育機関と協力して、このプログラムを拡大していくことが、今後の課題である。


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