上院商業・科学・運輸委員会の通商・観光・経済開発小委員会における
「ナノテク商業化による経済開発促進」に関する公聴会:概要

 

NEDOワシントン事務所
松山貴代子
2006年5月17日

上院商業・科学・運輸委員会の通商・観光・経済開発小委員会は5月4日、「ナノテク商業化による経済開発促進」に関する公聴会を開催した。同公聴会の目的は、(1)ナノテクを主軸とする経済開発努力を考察し;(2)ナノテクノロジーの商業化がどのように高給職の創出や製品の品質改善をもたらしているのかを吟味し;(3)ナノサイエンスの商業化がコミュニティーのビジネス推進にもたらし得る経済的影響を検討することで、Gordon Smith委員長(共和党、オレゴン州)は、ナノテク中心の経済開発で成功している州政府や市の代表、および、非営利団体の代表から意見を聴聞した。ここでは、Smith小委員会委員長の開会の辞、民主党ランキングメンバーであるByron Dorgan上院議員(ノースダコタ州)の発言、および、ナノビジネス同盟、ノースダコタ州とオレゴン州、および、ウッドロー・ウィルソン国際センターを代表する各証言者の発言と質疑応答について概説する。

 

<開会の辞>

Smith議長(共和党、オレゴン州)

ナノテク商業化による経済開発は、市民生活の質の改善や高給職の創出、および、米国の国際競争力強化を可能にするポテンシャルを持った有望分野であるが、残念ながら、米国連邦政府は今のところ、経済開発面におけるナノテクの潜在能力にはあまり注意を払っていない。これに対し、州政府や地方政府、および、コミュニティーレベルでは、ナノテク商業化や経済開発に焦点をあてたイニシアティブが40以上も存在する。ナノテクの進歩はまた、世界レベルでも明白であって、アジアや欧州の諸国はナノテク産業推進によって経済開発にてこ入れする為に著しい努力をしている。先頃発表された研究報告では、ナノテクは2014年までに、製造部門雇用の大半に影響を及ぼし、2兆ドル以上の製造業生産高に相当することになると指摘している。同時に、ナノテクの環境・健康・安全面(EH&S)での問題に対して懸念を表明する者がいることも事実である。ナノテクEH&S問題は調査されるべきではあるものの、ナノテクという新興科学分野を不当に妨害するようなことがあってはならない。ナノテクがもたらし得るベネフィットを鑑みると、米国はこの技術でリーダーでなければならない。

Dorgan上院議員(民主党、ノースダコタ州)の発言

パートナーシップと商業化に関する本日の公聴会は非常に意義あるもので、これを開催したSmith委員長に感謝する。本日の証言者の一人であるPhilip Boudjouk博士とは、5〜6年前に行われたEPSCoR(Experimental Program to Stimulate Competitive Research)計画に関する公聴会の後で、ノースダコタ州立大学(NDSU)をミクロテクノロジーやナノテクノロジーの主力にする方法を論じあったが、それ以来、ノースダコタ州は大きく前進し、今では国防省との研究コントラクトを持つほか、NDSU構内にはナノスケール科学工学センター(Center for Nanoscale Science and Engineering)を収容している。ファーゴ市には、今秋オープン予定のAlien Technology社の無線ICタグ(RFID Tag)生産工場の他、数多くのハイテク企業が拠点を置いており、世界トップクラスであるためにはニューヨーク州やマサチューセッツ州、テキサス州やカリフォルニア州に施設を置かなければならないという理由は全くない。ナノテクは赤ん坊のヨチヨチ歩きを始めたばかりであるが、自分は、ナノテクを含めハイテク商業化を目的とする、連邦政府研究機関と民間企業のパートナーシップ結成に多大な関心を持っている。

 

<パネルの証言>

ナノビジネス同盟(NanoBusiness Alliance)のSean Murdock専務理事の発言

ナノテク開発が他業界の推進に果たす役割は大きい。Lux Research社では、ナノテクが2014年までに世界製造業生産高の約15%にあたる2.6兆ドルを占めることになると予告している。ナノテクが生み出す職は高給職であり、Small Times誌はナノテク部門の平均給与を年間10万ドルと算定している。こうした新雇用を獲得するため、州政府はハイテク企業誘致を期待して様々な投資を行っている。Lux Research社によると、州政府と地方政府が昨年、ナノテク研究・施設・ビジネスインキュベーションに投じた額は4億ドルを超えるという。しかしながら、この4億ドルの内の大半は、新研究施設を建設する数件の大型プロジェクトに投資されており、新雇用創出に繋がるような官民パートナーシップへの投資は極一部にすぎない。ナノテク商業化が直面する最も深刻な課題は、(i)死の谷(Valley of Death)(注:1) ;(ii)官民パートナーシップ形成機会の不足(注:2);(iii)地域経済開発イニシアティブへの支援欠如であるが、こうした課題への対応策としてナノビジネス同盟は下記を提言する:

  • 官民パートナーシップを奨励する商業化センターを創設する。
  • 地域経済開発イニシアティブに十分な予算を提供する。
  • 死の谷問題に対応するため、ナノテク研究開発(R&D)税額控除を提供する。

  [質疑応答]

Smith委員長
他国の競争相手と比べた場合、米国はナノテク商業化でどのような状況にあるか?ナノテクの用途は、ライフサイエンスからエネルギー、エレクトロニクスや材料等、多岐に渡るが、こうした多様な分野で米国はリーダー格にあるか?

Murdock氏
ナノテク・スタートアップ会社の約半分が米国にあり、残りの半分は欧州、日本、中国、アジア、その他全世界に散らばっている。米国は全般にわたり基礎研究で堅固な基盤を持っているが、この製品化となると、必ずしもリーダーであるとは言えない。バイオ医療やヘルスケアの分野では米国が傑出しているが、エレクトロニクスとなると、商業化の為のパートナーをアジアに求める企業が多い。

 

ノースダコタ州立大学(NDSU)のPhilip Boudjouk研究・創造的活動・技術移転担当副学長の発言

理解を深める科学研究からテクノロジーへ、テクノロジーから経済開発へという効率良いパイプラインにインセンティブを提供することによって、[テクノロジーと]経済との結び付きを今こそ構築する時である。本公聴会は、「ナノサイエンスからナノテクノロジー」に焦点をあてているが、これはマクロ経済開発にも繋がる。ノースダコタ州は、Dorgan上院議員のビジョンと支援により、ナノワットのエネルギーで作動するミクロ装置の開発で、民間部門や連邦政府とのパートナーシップを形成するなど、ナノテクの経済開発転用で大きく前進している。このミクロ装置は殆ど検出不能といえるレベルのシグナルを発するだけである為、国防および国家安全保障面で有用であり、当初の研究では国防省のニーズを満たすことだけを重視していたが、連邦ニーズに対応する為にNDSUに整備された知的資本や技術インフラは、民間部門をも惹き付けるものである。大学は一般的に市場に精通しておらず、民間部門とのパートナーシップが大学の重要資源の効率的利用を可能にするものであるが、NDSUの場合も、民間部門とのパートナーシップが商業ニーズと市場問題に対応する実用的な共同努力へと繋がっている。ファーゴ市は昔からのハイテク産業有名地域ではないものの、現在はMicrosoft Great PlainsやJohn Deere、Ingersoll Rand社やAlien Technology社が連立している。民間部門とのこうしたパートナーシップの結果として、ナノテクは3年以内に商品化されると自分は確信している。

  [質疑応答]

Dorgan上院議員
RFIDタグについてであるが、Alien Technology社が生産するチップはミクロテクノロジーと定義され、このチップの電源として利用されるエネルギーがナノテクになるというが、このナノテク・エネルギー源の商業化まであとどの位か?

Boudjouk博士
Alien Technology社は2006年9月にファーゴ工場の操業を開始し、1年間で市場用に100〜200億個のRFIDタグを生産する予定である。我々はもう商業化の段階にある。

George Allen上院議員(共和党、バージニア州)
大学の研究と民間部門での応用という融合は皆が希望していることである。ノースダコタ州は米国にとっての模範を築いたといえる。自分は、更に多くの若者が高給な技術職に進むよう奨励することに関心を持っている。テクノロジー部門には多大な雇用需要があるため、Kent Conrad上院議員(民主党、ノースダコタ州)と自分は2日前にH-1Bビサの発給数を増大する法案を提出したところである。

 

オレゴン州ナノサイエンス・ミクロテクノロジー研究所(ONAMI)のRobert Rung所長の発言

オレゴン州ナノサイエンス・ミクロテクノロジー研究所(Oregon Nanoscience and Microtechnologies Institute = ONAMI)は、産業界と投資家、パシフィックノースウェスト国立研究所等の研究所や政府機関のコラボレーションであり、オレゴン州は自州の既存産業や高給職創出のポテンシャル、および、リサーチの卓越分野を考慮したうえで、ナノサイエンスとミクロテクノロジーを同研究センターのテーマとして選定したものである。事実、オレゴン州には、ナノテクとミクロテクノロジーという分野では世界トップクラスの産業R&Dと先端製造資源(注:3)があり、こうした資源が州やコミュニティーに莫大な繁栄と利益をもたらしている。私は長年の思索および過去10年間の経験から、(i)競争の鍵はイノベーションであり;(ii)ナノテクノロジーは世界イノベーション競争における未開分野であり最前線であって、米国の繁栄維持には同分野で必勝する必要があり;(iii)米国に存在する素晴らしい国家資産 …大学、アントレプルヌールシップやベンチャー融資システム、産業界の研究・製造施設、国立研究所、連邦政府科学機関… の間の協力が成功への鍵である、という結論に達している。米国競争力イニシアティブと「2005年ナノサイエンス商業化研究所法案(Nanoscience to Commercialization Institutes Act of 2005:上院第1908号議案)」(注:4)は極めて重要な展開であり、議会はこれを性急に進めるべきである。

  [質疑応答]

Smith委員長
優秀な大学が連邦グラント獲得を目指して猛烈に競い合うのを目にすることが多々あるが、ONAMIでは、地域の大学が競合する代わりに、こうした大学の協力を確立している。これを説明して欲しい。また、他州でONAMIのやり方を取り入れている州を知っているか?

Rung所長
オレゴン州は小さな州である。オレゴン大学システムの下には、ポートランド州立大学、オレゴン州立大学、オレゴン大学という3つのリサーチ大学があり、各大学とも生徒数は2万人ほどとなっている。経済開発に対するリサーチの貢献が重要になるにつれ、考え方に変化が生じた。7〜8年前から、オレゴン州が提供できる比較的小額の投資を互いに競い合うよりも、世界的競争力を強化するためにプロジェクト提案で協力し、資源や施設を共有する方が賢明であると考えるようになったわけである。ONAMIには、3大学の教職員およびパシフィックノースウェスト国立研究所の代表から成るリーダーシップチームがあるが、同チームは期待以上の成果をあげている。自分は他州についてはオレゴン州ほどに通じていないが、バージニア州やメリーランド州でこうした動きが起きていると聞いている。

 

ウッドロー・ウィルソン国際センターの新興ナノテクノロジー・プロジェクトのDavid Rejeski局長の発言

我がプロジェクトが今年初旬に発表したナノテク製品目録で、日焼け止め剤や化粧品から自動車のバンパーに至る230種類のナノテク消費財が現在市場に出回っていることを確認したが、これはかなりの過小評価であろう。これ等の製品は主として中小企業によって商品化されたもので、化粧品や栄養補助食品といった規制や取締りの緩い分野に進出している。ナノテク商業化は既にグローバル化している。2006年3月には、「マジック・ナノ」と呼ばれるドイツ製のトイレ・バス用クレンザーが呼吸器系障害を引き起こし、6名の入院患者を出す事件が発生した。製品の成分に関する情報公開の欠如がタイムリーな解決を妨げたほか、第三者による[製品の]試験を証明するラベルが同製品に乱用されていたことも判明した。商業化の最大の敵は、リスクや規制や国民の理解という面での不確実性であり、不確実性の蔓延は重要な投資資本の流れを妨げ、「死の谷」を引き起こす。ナノテク商業化への環境を改善するためには、(i)ナノテクEH&S研究への投資拡大;(ii)予測可能で効率的かつ透明な監視制度の創設;(iii)市民の参画奨励が必要である。こうした広範な問題への対応を怠れば、上院第1908号議案の提案する商業化研究所は大きなハンディキャップを背負うことになる。自分は上院第1908号議案を支持するが、これを補足するために下記の活動を提言する:

  • 商務省は、ナノテク企業や製品、企業の問題点やニーズに関するデータを収集し、継続的にデータを更新する。商務省は必要に応じて、労働統計局や国勢調査局等のデータ収集機関と協力する。
  • 全米ナノテクノロジー調整局(NNCO)は科学調整を目的として設置されたもので、イノベーションの市場化を目標としていない。ビジネス、特に中小企業によるナノテク商業化を助長するため、省庁間ナノビジネス事務局(Interagency Nano-Business Office)を創設する。
  • ナノ製品の早期市場構築を助長するため、政府や準政府機関の購買力を活用する。
  • 厳しい国際競争市場で米国のナノテク企業を支援する輸出促進戦略の策定に着手する。

  [質疑応答]

Smith委員長
「マジック・ナノ」だが、これは遺伝子組み換え作物のような反発を引き起こしたのか?

Rejeski局長
そのような反発を起こしたとは思わない。ドイツ政府と欧州諸国が迅速に対応したのが良かった。ドイツや欧州諸国には多様な警告システムが整っており、医師は全ケースを直ちに報告している。しかしながら、「マジック・ナノ」がナノテクに係る問題の一面を明らかにしたことも事実である。最終的には、国民が記憶しているのは科学的事実ではなく、ナノは健康障害を起こすということだけとなる。我々はこうした事態を避けなければならない。「マジック・ナノ」に関しては、問題の原因が未だ判明していないほか、ラベルの誤用という問題もあり、問題が長引いている。ナノテクに関して一般市民の信頼を獲得する方法は、更なる情報公開と透明性、および、第三者による試験であろう。

Smith委員長
遺伝子組み換え作物の恐怖は、科学に基づくものではなく、人々の認識によるものであったわけだ。

Rejeski局長
その通り。規制がはっきりしない状態にあることが企業にとっての最大の懸念であることは興味深い。マサチューセッツ州ケンブリッジ市では1956年に、市民レビューボード(Citizen's Review Board)や厳格な監視制度を含む条例を設定したが、これが同市をバイオテクノロジー企業のオアシス …現在50社ほど… にすることになった。1990年に同市へ移ったスイスの大企業BioGen社がその良い例であるが、BioGenは同市が厳格な規制を持っていること、そして何よりも、市民が自らの制度を信頼していることが、同市への移転を決めた要素であったと説明している。

 

【付録】

「2005年ナノサイエンス商業化推進研究所法案(Nanoscience to Commercialization Institutes Act of 2005:上院第1908号議案)」の概要

1. ナノサイエンス商業化研究所(Nanoscience to Commercialization Institute)

  • ナノテクノロジーの商業化を支援するナノサイエンス商業化研究所を全国各地に最高8ヶ所創設するため、適格機関にグラントを授与する権限を商務省技術担当次官に与える。
  • グラント給付期間は最高3年とし、各研究所へのグラント額は年間最高150万ドルとする。
  • ナノサイエンス商業化研究所は、公立大学もしくは連邦政府研究所に設置されるものとする。
  • ナノテクノロジーまたはミクロテクノロジーの下記の分野で各々、最低1ヶ所の研究所を設立するものとする:

    (A) エネルギー(石炭の液化・ガス化・ろ過、原子力、バイオ燃料、または、燃料加工等)
    (B) プリンタブル・エレクトロニクス(エレクトロニック・ディスプレー等)
    (C) 医療(診断装置、イメージング装置、医療機器等)
    (D) 運輸(材料や塗装等)
    (E) 農業

  • ミクロテクノロジーやナノテクノロジーの研究開発に従事する営利製造会社は、各研究所の資金の最低20%をマッチング資金として拠出し、研究所運営費の最低15%相当を現物出資するものとする。
  • グラント申請書の一環として、マッチング資金や専門知識を提供する民間機関とグラント受給機関との協力方法、および、グラント受給1年目の目標を記載した事業計画を提出する。
  • 連邦政府が財政援助するナノテクノロジー・センターを有する高等教育機関や、ナノテクノロジー・センターの総括責任者である高等教育機関は、同グラントへの応募資格をもたない。
  • 商務省技術担当次官は、グラントを獲得した各研究所の目標や進捗状況を査定評価するために、ミクロテクノロジー業界やナノテクノロジー業界、および、早期ベンチャー投資会社の代表者から成るピアレビュー委員会を設置する。
  • 初年度グラントを受領した各機関は、グラント継続給付の条件として、グラント期間開始後1年以内にピアレビュー委員会に報告書を提出し、その後の2年間も年次報告書を提出するものとする。
  • 報告書では、その前年の業績と次年度の目標を説明する。

2. 予算認可

  • 同法案の条項を遂行する予算として、法律制定日から3年間で2,400万ドルを認可する。

 


注釈:

1:Small Times誌によると、Small Times誌によると、スタートアップやシード企業への投資が総投資に占める率は半減し、2005年にスタートアップが受けた投資は全体の僅か3%であったという。

2:官民パートナーシップは双方の資源を活用し、経済成長や開発のロードマップ作成に役立ち、商業化への戦略調整を可能にするが、現段階ではこうしたパートナーシップを推進する機関が存在しない。

3:インテルやヒューレットパッカードの最先端研究施設、ナノテク・ツールのリーダーであるFEI Company等。

4:Gordon Smith上院議員(共和党、オレゴン州)とMaria Cantwell上院議員(民主党、ワシントン州)が2005年10月21日に提案した法案。2006年3月16日にはGreg Walden下院議員(共和党、オレゴン州)が、同上院法案と全く同内容の下院案「2006年ナノサイエンス商業化研究所法案(下院第5008号議案)」を提出している。


Top Page