「国家ナノテクノロジー・イニシアティブ」年次報告書(概要)

2007年度大統領予算案に対する補足資料 −その1− 

NEDOワシントン事務所
松山貴代子
2006年9月28日

国家科学技術会議(National Science and Technology Council = NSTC)が2006年7月17日に、「21世紀ナノテクノロジー研究開発法(21st Century Nanotechnology Research and Development Act:以下「ナノテクノロジー法」という)」(注:1)で提出を義務付けられている大統領予算への補足資料 『国家ナノテクノロジー・イニシアティブ:テクノロジーおよび産業界の革命に繋がる研究開発(The National Nanotechnology Initiative: Research and Development Leading to a Revolution in Technology and Industry:以下「年次報告書」という)』 を発表した。現行予算、次年度予算、次年度の活動計画等を説明する年次報告書は、議会が歳出予算を検討・審議する際の参考資料であるため、大統領予算教書提出時(注:2)に上院商業科学運輸委員会、下院科学委員会、及び、その他該当委員会に提出されることが義務付けられているにも拘らず、国家ナノテクノロジー・イニシアティブ(National Nanotechnology Initiative = NNI)に対する2007年度大統領予算要求を補足説明する年次報告書の発表は大幅に遅れ、議会へ提出されたのは、2007会計年度(2006年10月1日〜2007年9月30日)開始の僅か10週間前のことであった。

NSTCが議会に、NNIに対する大統領予算要求を補足説明する年次報告書を提出したのは、これが2回目となる。NSTCが2005年3月21日に発表した第一回目の年次報告書(注:3)…2006年度予算要求を補足説明…は三部構成で、『国家ナノテクノロジー・イニシアティブ 戦略プラン(National Nanotechnology Initiative Strategic Plan)』(注:4)に提示されたNNIプログラムを概説する章が設けられていたが、2回目となる今回の年次報告書には該当章がなく、下記の二部構成となっている:

第一章 プログラム構成分野(program component area = PCA)別のNNI研究開発プログラムの概説。具体的には、PCA別の参加機関、特定の戦略的優先事項や2007年度要求のハイライト、省庁間の企画・調整・協力活動、2006年度と2007年度の参加機関の活動等。

第二章   省庁別およびPCA別の2006年度と2007年度予算データの説明、および、NNI目標達成に向けた各省庁のSBRI計画やSTTR計画利用状況の概説。

ここでは、「ナノテクノロジー法」の定めるNNI予算、大統領予算要求額、議会認可額の比較、および、第一章のPCA別のNNI参加省庁、各PCS特定の戦略的優先事項、2007年度要求のハイライトを概説し、第2レポートでは、第二章の省庁別およびPCA別予算データ、更に各省庁のSBRI計画とSTTR計画利用状況を概説する。


NNI予算計上の実態

2006年には、運輸省(DOT)と農務省(USDA)の林野部(USDA-FS)がナノテクノロジー研究開発(R&D)予算を要求したことによって、ナノテクノロジーR&D投資を行う連邦政府機関は合計13機関となった。ブッシュ大統領の2007年度NNI予算要求額は、2006年度大統領要求額(10億5,400万ドル)を約21%上回る12億7,800万ドルであるが、2006年度推定額(13億300万ドル)と比較すると、これは約1.9%(2,500万ドル)の減少となっている。

表1 NNI予算の2005年度−2007年度の推移、および、ナノテクノロジー法のNNI認可額との比較

(単位:百万ドル)

NNI予算
ナノテクノロジー

FY2005実績

FY2006大統領要求

FY2006実績

Fy2007大統領要求

FY2006

FY2007

全米科学財団(NSF)*

335
344
344
373
424
449

国防省(DOD)

352
230
436
345
-
-

エネルギー省(DOE)

208
207
207
258
347
380

厚生省(HHS)の国立衛生研究所(NIH)

165
144
172
170
-

商務省(DOC)の国立標準規格技術研究所(NIST)

79
75
78
86
75
80

米航空宇宙局(NASA)

45
32
50
25
38
40

環境保護庁(EPA)

7
5
5
9
6
6

米農務省(USDA)の共同研究教育普及局(CSREES)

3
11
3
3
-
-

USDAの林野部(FS)

-
-
2
2
-
-

HHSの国立労働安全衛生研究所(NIOSH)

3
3
3
3
-
-

司法省(DOJ)

2
2
1
1
-
-

国土安全保障省(DHS)

1
1
2
2
-
-

運輸省(DOT)

-
-
0.1
0.1
-
-

合計

1,200

(674)**

1,054

(663)

1,303

(684)

1,278

(751)

890
955
出典:年次報告書35ページの表2をもとにワシントン事務所作成

* 太字は、「ナノテクノロジー法」が2005年度から2008年度までの予算計上を認可している5省庁。
** 括弧内は、対象5省庁のNNI予算合計。

「ナノテクノロジー法」がNSF、DOE、NIST、NASA、および、EPAの5省庁に認可する2007年度のNNI予算総額は9億5,500万ドル、2008年度(同法で予算認可した最終会計年度)予算は10億2,400万ドル。NNI予算のこれまでの推移を見ると、議会は大統領要求額を超える予算を認可してきてはいるものの、「ナノテクノロジー法」で定めた予算総額には程遠いことが明白である。


プログラム構成分野(PCA)別のNNIリサーチ

NSTC技術委員会のナノスケール科学工学技術小委員会(Subcommittee on Nanoscale Science Engineering and Technology = NSET)はナノテクノロジーに関連する教育・労働力問題に対応する連邦政府の努力を向上させるため、教育省(DOEd)と労働省(DOL)にNNI参加を働きかけた。この結果、2006年にはNNIに参加する連邦政府機関が25機関となった。

表1 PCA別のNNI参加連邦政府機関

出典:NEDOワシントン事務所作成

注:◎と○は双方とも参加を示す。◎は、該当PCAのR&D予算を2007年度に要求していることを示し、○は、R&D予算要求のないことを示す。

 

PCA 1:ナノスケールで生じる現象とプロセスの根本的理解

 A. 戦略的優先事項

  • ナノスケールで発生する表面効果や界面効果(interface effect)
  • 自己組織化やプログラム化された(programmed)自己組織化、生物学的に誘導された(biologically driven)自己組織プロセスや、物質をナノスケールで操作・コントロールするために必要なその他プロセスの基礎科学
  • ナノ構造を組み立てる際に発生する電子の集合現象や光学・磁気現象といったナノスケールの現象およびプロセスに関する基礎研究
  • 新たな数理力とシミュレーション能力、および、空間分解能と時間分解能を持つツール:(例)仮想研究室や没入型(immersive)ビジュアライゼーション
  • 生物学的プロセスの理解を深めるために、ナノテクノロジーから生まれた斬新なツールと概念を応用
  • 疾病の診断・治療を向上させるバイオ医療メカニズム

 B. 2007年度要求ハイライト

  • 自己組織化、テンプレート化された(templated)自己組織化、および、生物学的に誘導された自己組織化を用いたデバイスやシステムの開発に繋がる可能性のある、ナノスケール物体(ナノチューブ、ナノワイヤ、量子ドット等)の組み立てや位置制御(positional control)の原理究明
  • ナノスケールの現象やプロセスを水素生産、水素貯蔵、水素燃料電池、および、ナノテクノロジー利用のバッテリーやコンデンサへ応用するための基礎研究
  • 個々のナノ構造の合成、特性、組み立て等に関する研究
  • 病気メカニズムの斬新な洞察や治療オプションを生み出すため、ナノテクノロジーを利用した測定方法を基本的バイオ医療研究に融合


PCA 2:ナノ材料

A. 戦略的優先事項

  • 研究に使用するナノ材料の均一かつ複写可能な(reproducible)合成および加工
  • 設計されたナノ構造(designed nanostructure)の廉価な合成やテンプレート化の為に、生物学的プロセスやバイオナノ材料を活用
  • ナノ材料を利用した、検知や検出、放出制御による投薬、ナノ加工された治療用細胞組織のデザイン等を研究
  • 輸送用車両や公共施設向けの軽量で高強度の材料を始めとするナノ複合材料応用方法の研究、および、[細菌やバクテリアに対して]優れたバリア(障壁)と力学的性質を持ったパッケージ材料に関する研究
  • ナノ材料を利用したデバイスの量子輸送特性をコントロールする為に必要な精密なナノ構造合成技術の開発
  • 環境やヒトの健康回復にナノ材料を利用することを評価し、ナノ材料が及ぼし得る悪影響を回避するために、ナノ材料の化学的・物理学的特性に関して一層優れた情報知識ベースを構築

B. 2007年度要求ハイライト

  • 新種の人造ナノ材料および階層型構造(hierarchical structure)の自己組織化に関する研究
  • 水素経済を目指したナノ材料の基礎研究
  • 硬さや強度、弾力性、摩擦や粘着性といったナノメカニカル特性の測定;ナノチューブとナノ粒子の計測基準;臨界寸法(critical dimension);粒度分布;電子物性;構造;表面組成;生物学的特性等の分野における研究の推進
  • 材料の創発特性(emergent property)の確認と利用に関する研究、および、分子レベルからの機能的ナノ構造の階層形成(ナノ構造触媒や生体起源の材料等)に関する研究
  • ナノテクノロジーやナノ科学アプローチを利用した歯科用新複合材料の設計と開発
  • 化学的または生物学的に操作されたセルロースや結晶セルロースを用いて、軽量かつ高性能な新型複合材料を造成するUSDA林野部プログラムの開始


PCA 3:ナノスケールのデバイスとシステム

A. 戦略的優先事項

  • 科学的発見を民生・軍事の双方に利用できる実用的な技術へと移行
  • 様々なナノ材料やナノ構造実験の足台(scaffolding)として利用可能な、材料系(materials systems)や材料モデルの構築
  • 生物学的構造の理解と非生物学的応用に重要なプロセスの理解を同時に深めるため、生体模倣デバイスやシステムを開発
  • 材料加工の失敗を検知、予防、または、修復可能なナノ構造およびナノデバイスの研究

B. 2007年度要求ハイライト

  • 参加各政府機関の多様なミッションに沿ったナノデバイスの開発
  • 量子コンピューティングや量子コミュニケーションといった情報技術分野でのナノ構造の有効利用を目指し、革新的なアーキテクチャーを研究
  • 国土安全保障とバイオ医療への応用を目的とした、電気的にアドレス可能な(electrically addressable)ナノワイヤーレーザーの開発を始めとする、半導体ナノワイヤーの応用研究
  • 「Silicon Nanoelectronics and Beyond」というテーマを重視したR&D
  • 国防、国土安全保障、農業、および、産業用の新型ナノセンサーR&Dの推進


PCA 4:ナノテクノロジーのための研究機器、計測基準と標準規格

A. 戦略的優先事項

  • 空間分解能、時間分解能、および、エネルギー分解能の限界で大進歩を可能にする、革新的な手法、ツール、および、研究機器
  • ナノ材料やナノデバイスの原子(または分子)構造の化学的特異性と3次元マッピングに、サブナノメートルの空間分解能を結合させる研究機器ナノマニュファクチャリングの開発や先進製品の製造を支援する、米国ナノ計測(nanometrology)インフラの強化
  • 激増するナノ構造を定義する専門用語および命名法の確立ナノ製品の品質・安全性・効能を保証するため、測定手法や命名法、および、実験方法を標準化
  • ナノテクノロジーの製造・商業化に必要不可欠なインフラを整えるため、ナノ材料の計測基準および標準規格を確立
  • 先進シミュレーション、ビジュアライゼーション、データ分析手法等の整備および認証

B. 2007年度要求ハイライト

  • ナノテクノロジーの実用化を推進するために必要な共通の専門用語やその他標準規格の確立を図る、米国規格協会(ANSI)や国際標準化機構(ISO)の努力を支援。ANSIの技術諮問委員会(TAG)およびISOのナノテクノロジーに関する技術委員会(TC 229)では特に、(1)ナノテクノロジー用の一般的な専門用語と命名法;(2)ナノテクノロジー用の計測基準と研究機器;(3)ナノテクノロジーの環境・衛生・安全面(EHS)への影響という3つの重要トピックを検討
  • 走査型プローブ顕微鏡や走査型透過電子顕微鏡、電子分光や中性子分光や光子分光等、ナノテクノロジーR&Dのための最先端の顕微鏡や分析機器を研究


PCA 5:ナノマニュファクチャリング

A. 戦略的優先事項

  • 様々な自己組織化テクニック…プログラム化された自己組織化、生物学的に誘導された自己組織化等…を利用した物質のナノレベルコントロールの研究、および、製造したナノスケール製品をより大型の構造に統合する方法の研究
  • ナノマニュファクチャリングのプロセス制御と品質管理の確立
  • ナノマニュファクチャリング工程のスケールアップや再現性(reproducibility)といった問題に関するR&D
  • 米国の製造インフラ強化のため、NSETはその他政府機関が行っている努力を調整
  • NNIプログラムに磨きをかけるため、エレクトロニクス・化学工業他の業界に助言を求め、それを活用
  • エネルギーや水やその他資源の消費が少なく、無毒の成分を使用する製造工程の開発および実証

B. 2007年度要求ハイライト

  • NISTのナノスケール科学技術センター(Center for Nanoscale Science and Technology)、ナノマニュファクチャリング計画、および、ナノ加工プログラムの整備を継続
  • NSFの階層ナノマニュファクチャリングセンター(Center for Hierarchical Nanomanufacturing)を基盤とするナノマニュファクチャリング・ネットワークの構築
  • DODのマンテック(Manufacturing Technology = MANTECH)プログラムにナノマニュファクチャリングを導入する適切なタイミングを検討
  • 製造環境に適した新たな計測基準と特性化ツールを開発するため、複数のプログラムを設置
  • NSTCの製造技術研究開発に関する省庁間作業部会(Interagency Working Group on Nanomanufacturing Research and Development)へのNSET参加


PCA 6:主要研究施設の建設と大型研究機器の調達

A. 戦略的優先事項

  • 世界トップクラス、または、最新鋭の大型ユーザー施設を計画、建設、および、運営
  • 大学や連邦政府研究所で行う、ナノスケールでのイメージングや計測、特性化や操作のため、世界最高級または最新鋭の研究機器を調達
  • NNIが支援する研究所におけるナノ加工能力の維持と強化
  • 産官学の研究者に、これ等の世界トップレベル施設への容易なアクセスを提供
  • 連邦政府のNNI以外の予算で支援されているナノテクノロジーR&Dユーザー施設の活用 (例)DOEやNSF等が支援する施設のX線・中性子・電子散乱能力、および、特性化ツール等
  • 遠隔地からの研究機器や設備利用を助長するインフラの構築

B. 2007年度要求ハイライト

  • DOEのナノスケール科学研究センター(Nanoscale Science Research Center = NSRC)4センターにおいて特殊装置の建設と設置を完了し、ユーザー施設としてフル運転を開始
  • DOEの5番目のNSRCで初期運転を開始
  • 国立癌研究所(NCI)のナノテクノロジー特性化研究所(Nanotechnology Characterization Laboratory = NCL)建設を完了
  • ナノマニュファクチャリングR&Dを実施する施設の拡大とフル運転


PCA 7:社会的局面

A. 戦略的優先事項

  • ナノテクノロジーが研究者や労働者、消費者や一般市民にもたらす衛生・安全面での影響を詳細に理解するためのR&D
  • ナノテクノロジーの多様な用途が環境に及ぼす影響を詳細に理解するためのR&D
  • 戦闘員や災害第一対応者(first responder)といった、ナノテクノロジー利用製品をいち早く使用する人々の健康と安全を守る努力
  • あらゆる年齢の観衆に適した、ナノスケール科学工学の学際的(multidisciplinary)教育
  • ナノテクノロジー分野を更に発展させるため、堅実な数学・科学・テクノロジー技能を育成する教育を支援
  • ナノテクノロジーがもたらす社会・倫理・法律・経済面への長期的影響を調査

B. 2007年度要求ハイライト

  • NSFのNetwork for Nanotechnology in Societyの構築を引き続き支援
  • 人造ナノ材料の環境学的研究と毒物学的研究の基準を策定し、それら基準を支援する計測インフラを構築
  • 会合やフォーラムの開催や参加を通じて、ナノテクノロジーのリスポンシブルな開発を狙った国内外の努力を調整
  • ノースウェスタン大学のNSFナノスケール科学工学習得教授センター(Center for Learning & Teaching in Nanoscale Science and Engineering)を立ち上げ
  • NIHが管理する国立毒性プログラム(National Toxicology Program)の活用
  • ヒューストン大学とロチェスター大学における毒性研究プログラムを支援
  • 粒子研究、環境学的研究、および、毒物学的研究に適切な基準をNISTが設定し、それらを支援する測定学を整備


注釈:

1:ブッシュ大統領の署名をもって、2003年12月2日に成立。
2:2007年大統領予算教書が提出されたのは、2006年2月6日。
3:この「年次報告書」の概要は、調査レポートとして2005年5月18日に紹介。
4:同報告書の概要は、調査レポートとして2005年1月27日に紹介。


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