大統領年頭教書演説に対する各界の反応

 

NEDOワシントン事務所
松山貴代子
2007年1月26日

ジョージ・W・ブッシュ大統領が2007年1月23日に恒例の年頭教書演説を行った。昨年・一昨年の演説では、対テロ戦争やイラク戦争の現状報告、イラク復興へのコミットメントを熱弁した後で数々の国内政策を列挙した大統領であったが、今年は演説の前半で@経済改革(1);A教育;Bヘルスケア;C移民;Dエネルギー;E判事指名という国内アジェンダについての方針を述べ、後半で(i)対テロ戦争;(ii)軍備強化;(iii)AIDS救済計画とマラリア対策イニシアティブといった国際アジェンダについて語った。

国内アジェンダの内のエネルギーについて、ブッシュ大統領は今後10年間でガソリン消費を20%削減するという「Twenty in Ten」というイニシアティブを新たに提案したほか、米国エネルギー保障強化策として国内石油の増産をあげた。今年の年頭教書演説で大統領は温暖化問題を取り上げるのではという前評判が高かったが、実際には、手が届くばかりとなった技術ブレークスルーが環境管理の向上や世界気候変動問題への対応に役立つことになるという表現に留まっている。ここでは、大統領のエネルギー計画の概要と、大統領提案に関する各界の反応を紹介する。

エネルギー政策

1. 「Twenty in Ten」の目標達成に向けた手段

  • 2017年までに年間350億ガロン(2) の再生可能燃料・代替燃料使用を義務付ける燃料基準を設定することによって、再生可能燃料と代替燃料の供給を拡大。…これにより、2017年の推定ガソリン消費量が15%減少する。
  • 乗用車向けの企業平均燃費(Corporate Average Fuel Economy = CAFE)基準の改革と引き上げ、および、軽トラック・スポーツ多目的車(SUV)向け基準の引き上げ。…これにより、2017年の推定ガソリン消費が85億ガロン(5%)の減少となる。
    • 議会は乗用車向けCAFE基準を改革すべきである。…ブッシュ政権は二度にわたり、属性(サイズ等)別の燃費基準設定によって軽トラック向けCAFE基準を引き上げてきた。議会は乗用車向けCAFE基準に関しても、同様の属性別アプローチを適用する権限を運輸長官に認可すべきである。

2. 米国エネルギー安全保障を強化する計画

  • 環境を配慮した方法で国内の石油生産を拡大。
  • 戦略石油備蓄(SPR)を2027年までに倍増し、備蓄量を15億バレルまで拡大。

各界の反応

A. 業界団体

a. 米国エタノール推進連合(American Coalition for Ethanol = ACE)

ブッシュ大統領が明らかにした、再生可能燃料・代替燃料を2017年までに年間350億ガロンにするという目標は、ACEが2006年中盤に発表した再生可能燃料使用基準(Renewable Fuels Standard = RFS)目標(3)に相応する政策であり、ACEはこれを歓迎する。大統領の提案は、野心的でありながらも達成可能なRFS目標こそが米国のエネルギー安全保障とエネルギー自立を強化する理想的な戦略であるという、非常に説得力のあるシグナルを送っている。ACEはまた、この他にも我々の立法議題がTom Harkin上院議員(民主党、アイオワ州)とRichard Lugar上院議員(共和党、インディアナ州)によって第110議会に提出された「バイオ燃料安定供給保障法案(上院第23号議案)」(4)に盛り込まれたことを歓迎している。


b. 再生可能燃料協会(Renewable Fuels Association = RFA)

ブッシュ大統領の2017年までに代替燃料を350億ガロンまで拡大するという目標は、一貫性のある重点的な政策が取られるのであれば、大いに達成可能な目標である。地方経済の再生;温室効果ガス(GHG)排出の削減;不安定な世界石油市場への依存度軽減を助長するエタノールの国内生産・消費拡大は、国全体にとって魅力ある提案といえる。米国のノウハウを活用することで、我が国は世界石油市場の価格変動性に対抗し、大統領の求めるガソリン消費削減を達成することが可能である。RFAは、この業界を大胆な新展望へと導くアジェンダで大統領に協力することを楽しみにしている。


c. 全米鉱業協会(National Mining Association = NMA)

ブッシュ大統領が、輸送用の石炭液化(coal-to-liquid = CTL)燃料を含めた代替燃料が国家のエネルギー安全保障強化に果たすべき重要な役割を強調したこと、および、この重要メッセージを米国民および議会に伝える場として年頭教書演説を選んだことを称賛する。南部諸州エネルギー審議会(Southern States Energy Board)が昨年夏に発表した研究報告は、国産炭の一部液化によって、輸入エネルギーの相当量の相殺、沖合エネルギー資源保護コストの削減が可能であることを指摘したが、この研究結果にかんがみ、議会や州知事の間には強いCTL支持(5)が存在している。大統領のCTL支持は、地球気候問題への技術ベース解決策やクリーンコール技術に関する長年の行政府努力を補完するものであり、NMAは行政府や議会と協力して、米国消費者や環境、経済や国家エネルギー安全保障にとって重要なこうした各種イニシアティブを進めていく覚悟である。


d. アメリカ石油協会(American Petroleum Institute = API)

エタノール・その他バイオ燃料は我が国の現在および将来のエネルギーミックスで重要な役割を担う燃料であり、2006年には石油業界のエタノール消費量は義務づけを25%も上回るものとなった。石油業界はエタノールの主要使用者として、国内のエタノール利用拡大へ貢献していく意向であるが、ブッシュ政権提案の数値目標達成には、更なる技術ブレークスルーを必要とする。国家エネルギー安全保障のためには、商業的に実現可能な全てのエネルギー資源の活用、および、国内の石油・天然ガス資源へのアクセス拡大が必要である。また、商業・産業部門や消費者レベルでのエネルギー使用合理化に加え、新興エネルギー技術の開発・実用化促進も必要である。


e. 米国石油化学精製業者協会(National Petrochemical and Refiners Association = NPRA)

地政学的対立や不安定な価格及び逼迫した需給バランスを考慮すれば、米国民や政府がエネルギーの安定供給を懸念するのは当然のことであり、NPRAも同感である。米国のエネルギー政策は環境面で前進を続けながらも、石油製品や天然ガス供給の国内生産を奨励し、れ等燃料の効率的利用を促進していくべきであって、義務命令・価格規制・その他罰則措置をエネルギー政策として採用すべきではない。バイオ燃料は残念ながら、米国供給問題への特効薬でもなければ、エネルギー自立の約束を果たすものでもない。NPRAは、エタノールやバイオディーゼル、E-85、その他代替燃料の使用が市場での価格決定に基づくのならば、その使用に反対ではないが、義務命令や補助に基づくのならば、支持することは出来ない。NPRAは、代替燃料が採算性の向上や技術の進歩に伴なって国家エネルギー供給の一環として成長すると信じるものの、これは長期的な話しである。短期的現実としては、現行の54億ガロンを大幅に超えたエタノール使用義務はトウモロコシ価格に影響を及ぼし、受け入れ難い食品価格の上昇に繋がることになる。また、世界気候変動への対策討議にあたっては、細心の注意を払って進めるべきであり、その政策は、米国精製業者や石油化学業者が市場での競争力を維持できるようなコスト効率的な規制アプローチに基づくものであるべきだ。



B. 非営利団体およびシンクタンク

a. エネルギー安全保障リーダーシップ審議会(Energy Security Leadership Council)

我々は、ブッシュ大統領が審議会提言(6)の主要部分を受け入れたことを歓迎する一方で、国家エネルギー安全保障に不朽の変化をもたらす困難な作業が開始したばかりであることを認識している。大統領が採用したプランは、石油依存…輸送部門ニーズの97%が石油依存…のもたらす深刻な経済・国家安全保障面でのリスクに対応するもので、特に、燃費基準の改正・強化は、石油供給の乱れによる壊滅的な影響を緩和する最も意義ある可能な施策と言える。審議会はブッシュ政権との会談に加えて、上・下両院の超党派議員グループとも密接に協力を行ってきた。包括的で意義ある法案の成立には、共和党と民主党、下院と上院、議会と行政府の誠実な協力姿勢が必要である。審議会は、我が国の石油依存を大幅に削減する国家エネルギー政策の法制化のために、全面的かつ積極的な支援を誓約する。


b. 世界気候変動に関するピューセンター(Pew Center on Global Climate Change)

ブッシュ大統領が年頭教書演説で気候変動に言及したことは歓迎するが、大統領提案はほんの微々たる第一歩でしかなく、実質的なGHG排出削減からは程遠いものである。10年間でガソリン消費20%削減という計画は、現行水準からではなく2017年の推定ガソリン消費量からの20%減である。再生可能燃料利用拡大案は、気候に優しい代替燃料を推進する可能性がある一方、気候にあまり優しくない代替燃料の使用を促進する可能性もある。CAFE基準の年率4%引上げ案は、乗用車向けの新たなCAFE基準を約束するものではなく、自動車燃費基準の再考権限を行政府に付与するよう議会に要請しているにすぎない。この2つの措置を一緒にしても、輸送部門…米国GHG排出の約3分の1にあたる…からの排出量の増加を止めるのがせいぜいである。また、電力・製造・ビルディングといった他の重要部門からの排出に対応する提案が何ら提示されていないが、気候変動に合理的な方法で対応しようとするのであれば、経済全体を対象とする強制的なアプローチが必要である。


c. Environmental Defense

ブッシュ大統領は今回の年頭教書演説で始めて「気候変動」を口にしたが、言葉以上のものが必要であることは明らかだ。2017年のバイオ燃料生産350億ガロン、および、CAFE基準引上げという提案は意義深いものであり、正しい方向へ導かれれば、バイオ燃料生産の5倍増に繋がり、低炭素含有燃料への資本投資を刺激し、我が国のガソリン消費量を削減することになる。一方でブッシュ大統領は、経済全体を対象としたGHG排出上限の設定を支援する大きな機会を逃している。排出上限なしでは、大統領提案は包括的で有効な地球温暖化対応に程遠い内容である。地球温暖化に関しては、多くの実業家や政治指導者がブッシュ大統領よりも遙かに先行している。我々はこうした意見の進展やモメンタムを十分に活用し、経済全体のGHG排出上限設定を絶えず支援し続けねばならない。


d. 天然資源防衛委員会(Natural Resources Defense Council = NRDC)

ブッシュ大統領のガソリン消費削減と代替燃料増産案は、我が国の危険な石油中毒に終止符を打ち、地球温暖化を止めるために必要な第一歩である。しかしながら、口先よりも実践が大事であって、我々は正しい選択を行わねばならない。石炭から輸送用液化燃料を作る工程は、今日の石油ベース燃料の約2倍のGHGを排出する。絶滅危惧森林の木片からエタノールのような代替燃料を生産することは、環境面に広範な被害をもたらす可能性がある。NRDC他の環境保護団体と米国大手企業10社で形成した米国気候アクション・パートナーシップ(U.S. Climate Action Partnership = USCAP)(7)が、発電所や工場といった排出源から放出されるGHG排出量に強制的上限を設定する必要性を訴えたにも拘わらず、不気味にもブッシュ大統領はこれについて沈黙している。健全なエネルギー政策と地球温暖化傾向の減速・安定化・低下(slow, stop and reverse)計画はワンセットで進められねばならない。


e. 憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists = UCS)

ブッシュ大統領のCAFE基準引上げ提案は、年率4%に匹敵するもので、CAFE基準で我々が待ち望んでいた突破口となるやもしれない。但し、大統領と議会が協力して法律を成立させて始めて打開策になるのであり、両者は2017年以降の燃費改善についても引き続き協力していく必要がある。UCSの算定によると、この燃費改善は2017年にGHG排出量を年間9,500万メトリックトン(二酸化炭素換算)削減することになる。一方、2017年の再生可能・代替燃料生産350億ガロンという提案は推定ガソリン需要を一日150万バレル減らすことになる。この目標が主としてエタノールで達成されるのであれば、GHG排出量は2017年に1億6,000万メトリックトン減少するものの、代替燃料が石炭から生成されるのであれば、GHG排出量は逆に倍増することになる。地球温暖化に対応するためには、大統領は更に一歩進めて、電力その他汚染源も含めた経済全体のGHG排出上限を設定しなければならない。発電所に2020年の再生可能エネルギー使用基準(Renewable Portfolio Standard)を20%と義務付ける法令が必要である。


f. 米国環境トラスト(National Environmental Trust = NET)

ブッシュ大統領提案のどこにも、地球温暖化政策の大変革は見られない。目標の数値は大きくて見栄えがするように計算されているが、大統領は地球温暖化に関してもイラク同様に、議会や財界首脳や市民の声を無視し、全く非妥協的である。大統領提案は、炭素排出が今後10年間で14%増大することを許すもので、地球温暖化を止めるには何らの効果もない。大統領のエタノール業界創設という大博打は夢想にすぎない。Carter元大統領も1970年代に、大規模な代替燃料業界の創設を提案したが、3年後には石油価格が急落して全てが崩壊している。年間350億ガロンのエタノール生産には、12.9万平方マイルの農地…カンザス州とアイオワ州の合計面積に相当…をトウモロコシ生産に充てる必要があるが、これは殆ど考えられない。CAFE基準引き上げに関しても、大統領は必要な権限を全て有している。大統領が要求しているモデル毎の燃費設定は、デトロイトが現行の微弱な基準に更なる抜け穴を開けようと、何年も前から主張してきたことである。


g. ケイトー研究所(CATO Institute)

ブッシュ大統領によると、エタノールは米国が直面している経済・環境・外交問題を全て解決する魔法の薬となるが、実のところは法外に高額で無駄の多い燃料である。昨年の国内トウモロコシ生産量を全てエタノール生産に使用しても、米国のガソリン消費は僅か12%減少するにすぎず、国内のガソリン消費量を全てコーン・エタノールで賄う為には、我が国の全耕作地をトウモロコシ生産に回し、更に20%の土地を開拓する必要がある。エタノールに商業メリットがあるのなら、政府補助など必要ない。商業メリットがないのならば、どれほど補助をしてもこれを助けることは出来ない。


h. ヘリテージ財団(Heritage Foundation)

ブッシュ大統領が年頭教書演説で提案したエネルギー計画には幾つかの明るい材料があったものの、全体としてはエネルギー価格上昇へと繋がるプランであった。明るい材料としては、大統領が国内の石油・天然ガス生産拡大という、ワシントンが着手可能な最善のアイディアを放棄していなかったことだ。国内探査・掘削に関する連邦政府障害の除去は、国内供給を拡大し、ひいては価格低下にも繋がる。議会の主導権が[民主党に]代わったため、こうした方策可決の見込みは殆どないが、大統領は国内掘削論議が消滅しないよう、これを生かし続けるべきである。一方、大統領が発表した最大のアイディアである「Twenty in Ten」は、最悪のアイディアでもある。現時点では再生可能燃料の殆どがコーン・エタノールで賄われているが、現行RFSは既に高額であることが判明している。エタノール生産コストを大幅に引き下げるブレークスルーがなければ、「Twenty in Ten」は、給油ポンプでの価格を更に高騰させる可能性がある。更に、コストを越えた問題もある。エタノールの燃費はガソリンの3分の2である上、エタノール生産はエネルギーを多量に消費するため、エタノール支持者が主張するようなエネルギー・ベネフィットは発生しない。また、大統領の乗用車向けCAFE基準強化提案は国民に選択できる車種を強いるものであって、これも米国民にとって悪いニュースである。一般的に言えば、ブッシュ大統領のエネルギー政策は、カーター政権時に見られたアプローチ…エネルギー政策は連邦政府管理がベスト…へと向かっている。ブッシュ大統領は、政府管理というカーター型の思考ではなく、エネルギー市場を自由化したレーガン型の施策を取るべきである。国内の石油・天然ガス掘削規制を撤廃することによって市場を開放するも良し、精製所拡張から石炭火力発電所・原子力発電所の新設を妨げている規制を合理化することも良し、サトウキビから作られた[トウモロコシよりも]効率の良いエタノール輸入に関する規制を廃止するのも良し。民主党主導の現行議会でこれ等を法制化することは容易でないため、悪いエネルギー法案に拒否権を発動するのがブッシュ大統領に出来る最も重要な仕事となるかもしれない。



注釈:  

  1. 財政支出改革、資金指定交付(earmark)半減、社会福祉(entitlement)プログラム改正、の3政策。
  2. 現行法は燃料混合業者に対して、2012年までに年間75億ガロンの再生可能燃料使用を義務付けている。ブッシュ大統領が今回提案した年間350億ガロンという目標は、非常に野心的な数値ではあるものの、この目標達成のため、ホワイトハウスは対象燃料をコーン・エタノール、セルロース系エタノール、バイオディーゼル、メタノール、ブタノール、水素、および、その他代替燃料(alternate fuels)に広げ、「再生可能」ではなく、「代替」燃料使用基準(Alternative Fuel Standard)の義務付けへと変更している。その他代替燃料が何を対象とするか現時点では明白でないが、石炭液化(coal-to-liquid)燃料が含まれるものと見られている。
  3. ACEは2030年までに600億ガロンという目標を提示している。
  4. 同法案の概要は2007年1月8日づけのデイリーレポートで紹介。
  5. 議会では、Jim Bunnings 上院議員(共和党、ケンタッキー州)とBarack Obama上院議員(民主党、イリノイ州)が提出した「2007年石炭液化燃料促進法案(Coal-to-Liquid Fuel Promotion Act of 2007:上院第154号議案)」、Geoff Davis下院議員(共和党、ケンタッキー州)が提出した「2007年石炭液化燃料促進法案(下院第370号議案)」。州知事では、Brian Schweitzerモンタナ州知事(民主党)が熱心なCTL支持者。
  6. 実業家と軍事指導者で構成された同審議会は、『米国の石油依存度低減に関する我が国への提言(Recommendations to the Nation on Reducing U.S. Oil Dependence)』という報告書を2006年12月に発表した。同報告書の概要は2006年12月14日付けのデイリーレポートで紹介。
  7. USCAPが2007年1月22日に公表した『アクション要求(A Call for Action)』というレポートの概要は、1月23日付けのデイリー特別号で紹介。


Top Page