「国家ナノテクノロジー・イニシアティブ」年次報告書(概要)

2008年度大統領予算案に対する補足資料

NEDOワシントン事務所
松山貴代子
2007年10月11日


大統領署名をもって2003年12月2日に成立した「21世紀ナノテクノロジー研究開発法(21st Century Nanotechnology Research and Development Act:以下「ナノテクノロジー法」という)」(注:1) の定める条項に従い、国家科学技術会議(National Science and Technology Council = NSTC)が2007年7月31日に、ブッシュ大統領の2008年度予算要求を補足説明する『国家ナノテクノロジー・イニシアティブ:テクノロジーおよび産業界の革命に繋がる研究開発(The National Nanotechnology Initiative: Research and Development Leading to a Revolution in Technology and Industry:以下、「年次報告書」という)』を発表した。

「ナノテクノロジー法」制定後、第三回目となる同年次報告書では、(i)国家ナノテクノロジー・イニシアティブ(National Nanotechnology Initiative = NNI)の概観;(ii)2006年度および2007年度のNNIプログラム活動、および2008年度の活動予定;(iii)省庁別およびプログラム構成分野(program component area = PCA)別の予算;(iv)『国家ナノテクノロジー・イニシアティブ 戦略プラン(National Nanotechnology Initiative Strategic Plan)』(注:2)に設定された目標の達成へ向けた進捗状況;(v)NNI外部レビュー報告の分析;(vi)ナノテクノロジー研究・商用化活動を支援するSBIR(中小企業革新研究)やSTTR(中小企業技術移転研究)プログラムの利用状況、を説明している。

ここでは、NNIの概観、省庁別およびPCA別の予算データ、PCA別投資の変化、SBIR計画およびSTTR計画の活用状況を概説する。

NNIの概観

NNIは、2001年に全米科学財団(NSF);国防省(DOD);エネルギー省(DOE);米航空宇宙局(NASA);商務省(DOC)の国立標準規格技術研究所(NIST);厚生省(HHS)の国立衛生研究所(NIH)という6機関で始まった連邦政府省庁間プログラムであるが、2006年には教育省(DOEd)と労働省(DOL)に続いて、内務省の米国地質調査局(US Geological Survey = USGS)が加わったことにより、NSTC技術委員会のナノスケール科学工学技術小委員会(Subcommittee on Nanoscale Science Engineering and Technology = NSET)のメンバーは合計で26機関(注:3) となった。

NNIのビジョンである、物質をナノレベルで理解・制御する能力がテクノロジーおよび産業界の革命に繋がる将来を実現させるため、現行のNNI戦略プランは下記の目標を特定している:

  1. ナノテクノロジーの潜在性を十分に引き出すため、世界第一級の研究開発プログラムを維持する。
  2. 経済成長、雇用創出、その他公共の利のため、新技術の製品化を支援する。
  3. ナノテクノロジーを推進するため、教材の開発、熟練労働者の育成、および、支援インフラやツールの開発を行う。
  4. ナノテクノロジーのリスポンシブルな開発を支援する。

 

予算の推移

A. 省庁別予算

ブッシュ大統領の2008年度NNI予算要求額は14億4,500万ドルで、2001年度からのNNI投資総額は83億ドルとなった。2008年度の要求額は、2001年度の3倍以上、2007年度要求額(12億7,800万ドル)の13%(1億6,700万ドル)増となるものの、2007年度推定額(13億5,400万ドル)と比べるとその増加率は6.7%留まりとなっている。

省庁別では、NNI投資の上位5省庁であるNSF、DOD、DOE、NIH、および、商務省のNISTの予算が2001年度の約3.2倍まで伸びている。また、NSFとDOE科学部の2008年度NNI予算は2006年度実績の22%増であり、米国競争力イニシアティブ(American Competitiveness Initiative = ACI)(注:4) の一環として2006年から2016年までの10年間で予算を倍増するという大統領のコミットメントに一致した伸びとなっている。

表1  NNI予算の推移(2001年度−2008年度)

(単位:百万ドル)

出典:年次報告書の表2をもとにNEDOワシントン事務所作成
(四捨五入のため、合計値は必ずしも一致しない)

 

B. PCA別2008年度投資

2008年度のPCA別予算要求では、ブッシュ政権がナノ材料の環境・衛生・安全面(environmental, health, and safety = EHS)影響の研究を重視していることを反映し、「社会的局面」の予算が2007年度に続いて13.5%(2007年度推定予算比)増額されるほか、「ナノテクノロジーのための研究機器、計測基準と標準規格」も29.6%の増額となる。また、2007年度には削減対象となった「ナノスケールで生じる現象とプロセスの根本的理解」および「ナノ材料」の予算も各々、12.7%と20.9%の増額を受けることになる。

「ナノスケールのデバイスとシステム」の予算は昨年に続いて削減(2007年度推定比13.1%減)となるが、これは、議会がDODへ計上した指定交付金が2007年度推定予算に加算されているためであって、2007年度要求額(2億6,320万ドル)と比較れば5.4%の増額となる。一方、2007年度に増額された「ナノマニュファクチャリング」と「主要研究施設の建設と大型研究機器の調達」は各々、2.4%と1.6%の削減に転じている。

表2  各省庁のPCA別2006-2008年度投資計画

(単位:百万ドル)

出典:年次報告書8-10ページの表3、4、5をもとにNEDOワシントン事務所作成
(黒字が2008年度要求、
青字が2007年度推定赤字が2006年度実績

 

C. PCA別投資の変化

PCA 1:ナノスケールで生じる現象とプロセスの根本的理解

  • 緊縮財政の中で短期ミッションの優先項目を重視するNASAは、同分野予算を2006年以来90%削減。
  • DOEの同分野への予算は2007年度推定比64.9%という大幅増額。これはACIに応じたもの。
  • NSFは、量子現象の理解や、量子現象のデバイスや装置への応用等を特に重視。情報技術や近代生物学、及び、社会科学にナノテクノロジーを融合することで、発見やイノベーションの活性化を期待。
  • USDA林野部では、セルロースのナノスケール特性や構造に関する根本的理解を深める努力を開始。

PCA 2:ナノ材料

  • DOE予算の大幅増額の要因は、ACI関連の研究イニシアティブとエネルギー効率化・再生エネルギー部からの追加資金。
  • USDA林野部の重点は、特殊樹皮の細胞壁の特性化、および、木質バイオマスのガス化処理で回収されたナノスケール炭素材料の応用。

PCA 3:ナノスケールのデバイスとシステム

  • NIH全体としての予算は2007年度水準ながら、国立心臓・肺臓・血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute)が既存センターでのナノテクノロジー優良プログラム予算を倍増した結果、同分野への投資が300万ドル増大。
  • NSFは、ナノデバイス間の相互作用(ナノ構造とデバイスのコンポーネントとの物理・化学・生物学的な相互作用等)を理解するための新概念を始めとする、活性ナノ構造(active nanostructure)とナノシステムを重視した研究を継続。

PCA 4:ナノテクノロジーのための研究機器、計測基準と標準規格

  • 同分野の予算は着実に増えているが、その増額分の一部は、ナノテクノロジーEHSリスク研究のための研究機器、計測基準、および、標準規格のニーズに充当。
  • NISTとNASAおよび厚生省のNIOSHは、ミクロエレクトロニクスや材料加工に顕著な進歩をもたらすと期待される炭素ナノチューブを含有する材料の残留触媒含有量(residual catalyst content)についての基準物質(Reference Material)を策定する努力の調整を開始。
  • NSFは新たに、低温や高磁場といった過酷な条件下でのナノ材料の反応に焦点をあてる。

PCA 5:ナノマニュファクチャリング

  • DOEのエネルギー効率化・再生可能エネルギー部は2008年度に、ナノマニュファクチャリング関連活動の予算を増額の予定。
  • NISTは、見込みのあるナノテクノロジーを製造可能な製品に転換するために必要となる、技術面・測量面の基盤整備に努力。
  • NSFの重点は、活性ナノ構造と複雑なナノシステムの創造。具体的には、トップダウン型プロセスやボトムアップ型プロセスまたは自己組織形勢の研究開発と統合、ナノバイオマニュファクチャリング、ナノ構造やナノシステムの高速合成・高速処理に関する斬新な概念の策定等。

PCA 6:主要研究施設の建設と大型研究機器の調達

  • NSFとDOEの主要研究基盤整備努力が終了に近づき、同分野への投資は横ばいとなる見通し。
  • DOEの2008年度予算額は前年度とほぼ同レベルながら、ナノスケール科学研究センター(Nanoscale Science Research Center = NSRC)の建設と装置設置の完了に伴い、プログラムの重点は施設運営活動へと大きくシフトする。DOEの5つのNSRCは全て、2008年中盤までにフル運転の予定。
  • NISTは2008年予算で、2006年に開設したスケール科学技術センター(Center for Nanoscale Science and Technology)のスタッフを増員。また、プロトタイプのナノデバイスやナノ材料の加工・実験・特性化を行う装置の調達を継続。
  • NSFは大型研究機器調達への資金提供、及び、ナノテクノロジー研究教育ネットワーク(注:5) の運営を支援。

PCA 7:社会的局面

  • ナノテクノロジーEHS研究は、NNIに参加する連邦政府全機関にとっての優先事項。NSETは、ナノテクノロジーの環境・衛生影響に関する作業部会(NEHI作業部会)が作成した報告書『人造ナノ材料の為の環境・衛生・安全面での研究ニーズ(Environmental, Health, and Safety Research Needs for Engineered Nanoscale Materials)』 (注:6) を2006年9月に発表した後、2007年1月にはEHS研究ニーズと優先順位に関する公聴会を開催。2008年にはNEHI作業部会は、研究ポートフォリオのギャップを確認し、各機関と協力して優先研究分野に取り組む予定。
  • ナノテクノロジーの環境・衛生面での影響を取り上げる共同公募に参加する政府機関が増加。EPA(主導)とNSFの環境影響プロジェクト公募プログラムに、DOEが2008年から参加。また、NIHの国立環境衛生科学研究所(NIEHS)主導で2007年に開始されるヒトの健康影響に重点を置いた公募プログラムには、他にNIHの5研究所が参加するほか、EPAと厚生省のNIOSHも参加。
  • DOEは2008年度予算で新たに、エネルギー技術への利用が可能なナノ材料の環境・生態面での影響に関する研究費を要求。
  • EPAの2008年度NNI関連予算の増額分は全て、この分野への充当となる。2008年度には160万ドルを、人造ナノ材料の運命(fate)、移動、および、変化(transformation)を理解・特定化する研究に計上。
  • NISTは、人造ナノ材料の健全なリスク評価・リスク管理に必要となる標準についてのガイダンスを提供する目的で、今年9月に連邦政府研究機関や規制機関、産業界や医学界、および、環境保護団体の代表を召集してワークショップを開催。
  • NSFの4センター …ライス大学のNSEC、ノースイースタン大学のNSEC、ペンシルバニア大学のNSEC、ミネソタ大学とアリゾナ州立大学のNNIN… が、ナノ粒子加工の安全性について調査。2008年には、ナノ粒子と様々な大きさの物質や生物界との相互作用に関する根本的研究を実施する学際的な新センターの支援を開始。
表3  社会的局面PCA予算の推移(2005年度−2007年度)

(単位:百万ドル)

出典:年次報告書11ページの表6と表7をもとにワシントン事務所作成

 


SBIR計画およびSTTR計画の活用状況

「ナノテクノロジー法」の規定に従い、年次報告書には、ナノテクノロジー開発の支援を目的とした、中小企業革新研究(SBIR)計画と中小企業技術移転研究(STTR)計画の活用状況に関する情報が含まれている。国防省(DOD)、全米科学財団(NSF)、厚生省(HHS)の国立衛生研究所(NIH)、エネルギー省(DOE)、および、米航空宇宙局(NASA)の5省庁がSTTR計画を実施しており、これに、環境保護庁(EPA)、商務省の国立標準規格技術研究所(NIST)、米農務省(USDA)、および、HHSの国立労働安全衛生研究所(NIOSH)を加えた9省庁がSBIR計画を実施している。2006年度には、NIOSHが初めてナノテクノロジー関連のSBIR予算を報告している。

表4  SBIR計画とSTTR計画で授与したナノテクノロジーR&D助成金(2005年度−2006年度)

(単位:百万ドル)

出典:年次報告書の表8をもとにワシントン事務所作成


2005年度のSBIR計画とSTTR計画の予算は、DODがナノテクノロジー関連アワード(award)額をリバイズしたことによって、2007年度大統領予算案を補足説明する年次報告書(注:7) に記載した数字よりもかなり下方修正されている。2006年度のSBIR計画によるナノテクノロジーR&D支援は前年度よりも2,260万ドル(49.7%)増えた一方で、STTR計画による支援は前年度よりも170万ドル(12.8%減)の減少となっている。2006年度のSBIR計画とSTTR計画によるナノテクノロジーR&D支援総額は、2005年度よりも2,090万ドル多い7,970万ドルであった。

NSFとEPAが2006年度から、ナノテクノロジー関連分野をSBIR計画とSTTR計画の公募分野に正式に指定することを決定していたため、この措置によって、NSFとEPAにおけるSBIR計画/STTR計画の活用が2006年度に活発化するのではないかという期待があったが、実際には、NSFのSBIR計画/STTR計画の総額は140万ドル、EPAのSBIR計画は僅か20万ドル増えたに留まった。SBIR計画/STTR計画の活用状況が顕著に拡大した省は唯一、DOEだけであった。

 


注釈:

1:同法令の概要については、NEDO海外レポート923号と924号で紹介。
2:同報告書の概要は、NEDO海外レポート948号で紹介。
3:2002年参加: 環境保護庁、運輸省、財務省、司法省、USDAのCSREES、インテリジェンス技術革新センター、国務省
2003〜2004年参加: DOCの技術局、国土安全保障省、原子力規制委員会、HHSの食品医薬品局
2005年参加: HHSのNIOSH、消費者製品安全委員会、国際貿易委員会、特許商標局、DOCの産業安全保障局、USDAの林野部
  2006年参加: 教育省、労働省、内務省のUSGS
4:物理科学・工学の基礎研究を支援する、NSF、DOE科学部、および、商務省NISTのコアプログラムの予算を10年間で倍増するイニシアティブ。
5:国家ナノテクノロジー基盤ネットワーク(NNIN)、計算ナノテクノロジー・ネットワーク(NCN)、ナノテクノロジー習得教授センター(NCLT)、インフォーマルなナノスケール科学教育(NISE)ネットワーク、国立ナノマニュファクチャリング・ネットワーク(NNN)、ナノスケール科学工学センター(NSEC)、および、物質研究科学工学センター(MRSEC)。
6:同報告書の概要は、NEDO海外レポート987号で紹介。
7:同年次報告書の概要は、NEDO海外レポート986号と987号で紹介。


Top Page