エネルギー安全保障と気候変動に関する主要排出国会議
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米国議員、および、非営利団体とシンクタンクの反応-

NEDOワシントン事務所
松山貴代子
2007年10月4日


2007年9月27日と28日の2日間、温室効果ガス(GHG)を大量に排出する先進諸国や、インド・中国といった急成長する途上国を召集した「エネルギー安全保障と気候変動に関する主要排出国会議」が、米国務省の主催によって首都ワシントンで開催された。ここでは、9月28日のブッシュ大統領演説の概要と、米国議員、および、非営利団体とシンクタンクの反応を紹介する。

 

ブッシュ大統領演説の概要

今年のG8サミットの前に、エネルギー安全保障と気候変動に対応する新たな国際的アプローチの設定で、米国が他諸国と協力していくことを発表したが、本日の会合はこの新アプローチ設定過程の重要な第一歩となる。本日始まる努力により、GHG排出を削減し;エネルギー安全保障を強化し;経済成長と持続可能な開発を推進し;国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下での交渉を進める新アプローチに合意することが可能となる。

21世紀には、世界(特に、途上国)のエネルギー需要は拡大の一途となり、世界全体では、2030年までに最低50%増大すると予想されている。こうした需要拡大は、活力に満ちた世界経済の兆候である一方、@エネルギー安全保障;A気候変動という深刻な課題を提出する。長年に亘って相対立してきた気候変動問題とエネルギー安全保障問題は、今日では相関するものとなり、テクノロジーという共通の解決策を共有している。低排出技術を開発することにより、高まるエネルギー需要を満たすと同時に、GHG排出を削減することが可能となる。我々(会議に参加している主要排出国)は今、気候変動かエネルギー安全保障かという過去の論争に区切りをつけ、今後の方針についてコンセンサスに至る機会を得ているが、それが本日の狙いである。

今後の方針

  • 世界的なGHG排出削減長期目標を設定:各国は長期目標達成に向けて、国によって異なるエネルギー資源や開発段階、経済ニーズを反映させた独自の戦略、ツールや技術ミックスを策定する。
  • 2008年夏までに各国首脳会議を開催:GHG排出削減の長期目標をまとめ、進捗状況を測定するトランスペアレントなシステムを構築する。

米国のクリーンエネルギー技術開発

  • 先進クリーンコール技術:世界中で豊富な石炭資源を、環境へのコミットメントを維持しつつ、活用することが課題であり、有望な解決策が先進クリーンコール技術である。米国は2001年以来、クリーンコール研究開発に25億ドル以上の投資を行っているほか、他諸国や民間部門との提携で、世界初の無公害石炭火力発電所建設という歴史的偉業へと近づいている。
  • 原子力発電:現行の439基の原子力発電所は毎年、約20億トンの二酸化炭素の大気放出を妨げている。クリーンで安全な原子力発電の利用を拡大することで、GHG排出の一層の削減が可能となる。米国は、国内での原子力発電所新設を妨げる障壁の排除に努力しているほか、途上国の原子力発電導入を支援するため、世界原子力エネルギーパートナーシップ(Global Nuclear Energy Partnership)という新イニシアティブを昨年創設した。
  • 風力発電と太陽光発電:風力発電は米国各地で費用効率的オプションとなっており、その発電設備容量は2001年以来3倍となっている。米国はまた、太陽光発電のコスト低下を目標とするソーラーアメリカ・イニシアティブも立ち上げた。風力やソーラーという低炭素技術には、米国の総電力の最高20%までを賄う潜在能力がある。
  • 自動車やトラックの燃料:輸送部門の排出は世界の年間GHG排出の約20%に相当。同部門の排出削減には石油依存度の軽減が必要であるため、米国はセルロース系エタノールのような次世代の持続可能バイオ燃料開発に数百万ドルを投資している。また、燃料効率の優れたハイブリッド自動車を奨励するために税控除を提供しているほか、次世代のプラグイン・ハイブリッド車を開発する努力もしている。
  • 水素燃料自動車:過去5年間で先進水素技術や水素自動車の開発に12億ドル以上を投資。

大統領のTwenty-in-Tenイニシアティブ

  • 強制的な燃料使用基準:米国議会に対し、2017年までに350億ガロンの再生可能・代替燃料使用を義務付ける燃料使用基準の設定を要請。
  • 乗用車燃費:軽トラックの燃費と同様に、乗用車の燃費を改定することを議会に要請。

クリーンエネルギー技術の推進努力

  • 主要経済国によるクリーンエネルギー技術投資拡大:今日のクリーンエネルギー技術研究開発費の殆どは、米国と日本の予算であるが、我々がこれから設定する目標を達成するためには、全ての主要経済国がクリーンエネルギー研究開発への投資を拡大しなければならない。
  • 国際クリーン技術基金(international clean technology fund)の新設:途上国でのクリーンエネルギー技術利用を支援するための基金で、世界各国政府からの寄付で運営する。この努力の調整はHank Paulson財務長官が担当する。
  • クリーンエネルギー技術の普及推進:クリーンエネルギーの製品やサービスに対する関税やその他の障壁を撤廃する。

気候変動のもう一つの重要要素である森林破壊問題

  • 森林破壊によるGHG排出:科学者の推定では、世界GHG排出の約20%に相当。
  • 米国と他諸国の提携:世界各地で森林保護と森林管理を推進するため、米国政府はこれまでに5,000万エーカーの森林地帯をカバーする、12件の協定を締結。米国の努力には、途上国での違法伐採阻止を支援する、8,700万ドルのイニシアティブも含まれている。
  • 国内の森林保護措置:2001年以来、健全な森林イニシアティブの一環として、国の森林を復元し、壊滅的な火災から森林を守るために30億ドル以上を提供。公有地・私有地の持続可能な土地管理政策を推進。

米国は戦略を持ち、包括的アプローチを持っている。20年前に合意したモントリオール議定書がオゾン層の修復で大進歩を遂げたように、我々の今回の努力も成功すると確信している。米国は自らの責任を果たす覚悟であり、この問題を真剣に考えている。一致協力することで、エネルギー安全保障と気候変動という問題に取り組む賢明で有効な政策を設定できる。我々は問題を確認した。協力してこれを解決しようではないか!!。

経済成長と環境保護を可能にする方法は、テクノロジーである。エネルギーのニーズを満たし、環境を管理するという目標の達成には、数十年間に及ぶ絶え間ない努力が必要である。この問題は一晩にして解決されるものではない。しかしながら、今から数年後に、我々の子供達は、我々が今日ここで行う選択を振り返ることになる。経済の停滞を許す代わりに、経済の繁栄拡大を選ぶ時であり;GHG排出問題の悪化を許す代わりに、GHG排出に対する形勢を一変させる時であり;絶望的予言を拒絶して、希望に満ちた将来への進路を定める時、今がその時である。

 

米国議員の反応

  a. Barack Obama上院議員(民、イリノイ州;次期大統領候補)

世界最大の排出国を集めた会議は、絶好のチャンスを逸した終焉となった。米国はこうした機会を7年間も逸してきたことで、この問題に関してはクレディビリティを失っているほか、地球はこれまでになく脆弱(vulnerable)になっている。気候変動問題に効果的に対応するためには、米国の画期的なリーダーシップが必要であるが、ブッシュ大統領の自主的施策は画期的でもなければ、リーダーシップを反映するものでもない。

  b. Jeff Bingaman上院議員(民、ニューメキシコ州;上院エネルギー・天然資源委員会委員長)

国内のGHG排出を削減する確かなプランを策定しない限り、米国は重要な国際気候条約の交渉でクレディビリティを欠くことになる。ブッシュ大統領の気候変動への関心が、大統領をcap-and-trade型制度を設置する法案支持へと導いてくれることを願望している。強制的な排出削減アプローチへの支持は共和党内でも増大しており、大統領は在任中にこの法制化に協力すべきである。

  c. Pete Domenici上院議員(共、ニューメキシコ州)

世界気候変動の解決には、真の世界的アプローチが必要である。米国が主要排出国会議を主催し、今年12月のバリ会合に向けて重要な作業を開始したことをうれしく思う。大統領は、経済成長と繁栄を持続しながら、GHG排出の減少を呼びかける指導方針を提出した。大統領は特に、世界気候変動とエネルギー安全保障の問題は相関しており、テクノロジーという共通の解決策を共有すると指摘したが、これに同感である。私は、クリーンエネルギー技術の台頭、特に原子力発電の復活に勇気づけられているほか、途上国のクリーンエネルギー資源確立を支援する国際クリーン技術基金(international clean technology fund)を新設するという大統領提案に興味をそそられている。

  d. Barbara Boxer上院議員(民、カリフォルニア州;上院環境・公共事業委員会委員長)

ブッシュ大統領の発言は進歩ではあるものの、これに続いて、強制的なGHG排出削減が提案されない限りは、無意味な単なる言葉でしかない。大統領は地球温暖化対策にコミットしていると主張しているが、最も有効な2つのツール…強制的炭素排出削減とcap-and-trade型制度…の導入を怠っている。私は上院環境・公共事業委員会の委員長として、強制的炭素排出削減とcap-and-trade型制度を盛り込んだ地球温暖化法案を超党派で協力して可決することにコミットしている。

  e. Nancy Pelosi下院議長(民、カリフォルニア州)

世界最大のGHG排出国である米国は、自ら実例を示して世界をリードすべきであり、GHG排出削減に不可欠な施策をとる必要がある。地球を守る効果的なイニシアティブは、ブッシュ政権が支持する自主的目標や付加的(incremental)アプローチではなく、強制的な規定に基づくものでなければならない。大統領の今回の会議が、今年12月にバリで開催される国連気候変動会議を出し抜くために利用されることがないよう望んでいる。

  f. Ed Markey下院議員(民、マサチューセッツ州:下院地球温暖化特別委員会委員長)

ブッシュ政権は地球温暖化に関してはレトリックばかりで、行動が伴っていない。主要排出国会議でのスピーチも、これまでのレトリックのリサイクルに過ぎず、失望している。大統領は、GHG排出の上限設定に反対しているほか、自動車とトラックの燃費をガロンあたり10マイル引き上げることにも反対、再生可能エネルギー使用基準(RPS)も反対、州政府独自の自動車排出削減努力にも反対する反面で、石炭液化という危険な新汚染源を推奨している。ブッシュ大統領と会談した国々は、無心論者の主導する祈とうに出席しているような気分であったにちがいない。

 

非営利団体およびシンクタンク

  g. 世界気候変動に関するピューセンター(Pew Center on Global Climate Change)

今回の会議は、ブッシュ政権の支持するアプローチと他諸国のアプローチの間に決定的な相違が存在することをあらわにすることになった。ブッシュ政権では第一回主要排出国会議を主催することによって、自主的国際枠組という構想へ他諸国政府を勧誘することを期待していたが、幸いなことに他諸国は、自主的施策だけで気候変動目標の達成が可能とするブッシュ政権の見解を拒絶して、新たな国際コミットメントの必要性を強調している。他の先進諸国がブッシュ政権より確固たる行動をとる用意があることを示しているにも拘わらず、ブッシュ政権は排出原単位に固執し、議会に提出されている経済全体対象のcap-and-trade型制度を設定する法案に引き続き反対している。効果的な合意の達成は、正式な交渉が開始されて始めて可能となるため、今年末にバリで開催される国連気候交渉は非常に重要な機会となる。ブッシュ大統領が効果的な国連合意の達成を心から望んでいるのならば、米国はバリでの正式交渉開始を支持しなければならない。

  h. 天然資源防衛委員会(Natural Resources Defense Council = NRDC)

ブッシュ大統領は、地球温暖化を緩和する時は今であると主張しているにも拘わらず、米国GHG排出のキャップ(上限設定)・削減に対する拒絶態度を変えず、時の過ぎゆくままとなっている。排出削減に関する国内外の進歩を妨げている最大の障壁は、我が国のGHG排出量制限に対するブッシュ大統領の反対である。

  i. 憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists = UCS)

他の先進諸国が拘束力ある枠組設定を求めたにも拘わらず、ブッシュ大統領の主要排出国会議は強制的排出削減目標設定に関する合意がないまま、9月28日に終了した。ブッシュ大統領は、21世紀中盤までに達成すべき世界排出削減量、および、その目標達成に向けた米国の行動という二大問題に関して何ら新しい施策を示さなかった。同会議に参加した欧州連合(EU)や日本その他諸国は、米国がこうした重大問題に関する具体的提案を示すまで、ブッシュ提案プロセスへの参加を拒絶すべきである。長期的な排出削減目標の合意を目指して、来年夏に国家首脳会議を開催するなどとは、ふてぶてしいにもほどがある。大統領が強制的排出キャップの設定を拒絶していることを考えれば、ブッシュにはこうした会議を主催するクレディビリティなどない。現政権は新技術に期待をかけている。技術研究開発には更なる長期的な投資が必要であるが、それ以上に、今すぐに排出削減を行うため、現在利用可能な再生可能エネルギー技術や省エネ技術を使うことが重要である。これを実現するのが、大気汚染物質に対する価格設定であり、ブッシュ大統領がこの現実を認識するまでは、この大統領には地球温暖化の脅威対応で貢献できることは何もない。

  j. 米国環境トラスト(National Environmental Trust = NET)

ブッシュ大統領にとっては新たな国際合意に影響を与える好機であったが、ブッシュ政権が一歩も譲らず、この会議が他諸国にとって深刻さを持たぬ余興で終わってしまったことは残念である。この主要排出国会議は作業部会・席順・協議スケジュールの調整が全てであったが、世界はこの手の対談をとうに通りこしている。

 

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