エネルギー情報局によるLieberman-McCain気候変動法案の

経済影響分析報告

NEDOワシントン事務所
松山貴代子
2007年8月17日

エネルギー情報局(Energy Information Administration = EIA)が2007年8月6日に、『上院第280号議案がエネルギー市場および経済に与える影響(Energy Market and Economic Impacts of S. 280, the Climate Stewardship and Innovation Act of 2007)』という報告書を発表した。Joseph Lieberman上院議員(無所属、コネチカット州)とJohn McCain上院議員(共和党、アリゾナ州)の要請を受けてEIAが作成した分析報告書は、上院第280号議案が法制化された際のコストを、2009年から2030年までで、国内総生産(GDP)の約0.22%、5,330億ドルと推定している。

2007年にEIAが行った地球温暖化法案の経済分析は、これが2件目となる。今年1月11日にEIAが発表した報告書(注:1) は、Jeff Bingaman上院議員(民主党、ニューメキシコ州)(注:2) 等の要請に応えて作成されたもので、Bingaman上院議員の草稿案が法制化された際の推定コストを2009年から2030年まででGDPの0.1%、2,320億ドルと報告していた。

EIAでは、Bingaman上院議員の草稿案検討に際しては『2006年エネルギー年次見通し(Annual Energy Outlook 2006)』のレファレンスケースを、Lieberman-McCain上院議員の上院第280号検討には『2007年エネルギー年次見通し(Annual Energy Outlook 2007)』のレファレンスケースを用いている。このため、単なる数値の照らし合わせでは正確な比較とはならないものの、Lieberman-McCain議員の上院第280号議案がBingaman議員の草稿案よりも厳格な排出制限を課すもので、経済への影響も遙かに大きい(ほぼ倍増)と結論づけることができる。

上院第280号議案は排出削減義務達成のために、国内外オフセットの利用を認めているが、オフセットのアベイラビリティやコストは不確実性(uncertainty)の原因であるため、EIAでは今回の分析で、オフセットのアベイラビリティに関して様々な仮定を使った代替シナリオも検討している。ここでは、EIAが主として検討した3つの政策ケースの分析結果を紹介する。

2007年気候管理およびイノベーション法案(上院第280号議案)

提案者

Joseph Lieberman上院議員(無所属、コネチカット州)およびJohn MaCain上院議員(共和党、アリゾナ州)、他共同提案者10名」(注:3) 。2007年1月12日に上院へ提出(注:4)

排出削減目標および施行日

-温室効果ガス(GHG)6種類(注:5) をcap-and-trade型制度によって段階的に削減する。各段階毎の具体的削減目標は下記の通り:

  • 2012年から2019年  2004年レベル
  • 2020年から2029年  1990年レベル
  • 2030年から2049年  1990年レベル比22%減
  • 2050年以降       1990年レベル比60%減

-プログラム開始は2012年。

対象となる排出源

-年間、1万メトリックトン(CO2換算)以上のGHGを排出する施設を所有または管理する、電力部門、運輸部門、産業部門、および、業務部門の事業体(entity)。但し、環境保護庁(EPA)によって排出量の測定や推定が実行不能と判断された排出源は対象外。

-家庭部門と農業部門は対象外。

排出クレジットの算出と設定

-上記の各段階における排出上限(調整前(注:6) )は下記の通り:

  • 2012年から2019年までの年間排出上限  61.3億メトリックトン(CO2換算)
  • 2020年から2029年までの年間排出上限  52.39億メトリックトン
  • 2030年から2049年までの年間排出上限  41.0億メトリックトン
  • 2050年以降の年間排出上限         20.96億メトリックトン

オフセット

-対象となる事業体は、様々な代替遵守オプションや国内外オフセット(注:7) を遵守義務の最高30%まで利用可能。

-削減義務の15%以上をオフセットで賄う事業体は、遵守義務の1.5%を農業部門の炭素隔離プロジェクトで賄わねばならない。

排出クレジットの配分方法

-EPA長官と商務長官が、対象部門へ無償で配分する排出クレジット、および、オークション用排出クレジットの割合を決定する。

-排出クレジット市場を管理する目的で新設される、気候変動クレジット公社(Climate Change Credit Corporation)は、オークションの収益を下記のプログラムに配分する:

  • 失業者やコミュニティに対する移行期支援として、当初20%。その後、配分率を毎年2%づつ減少。
  • 低所得者を助成する気候変動適応・緩和計画に最低10%
  • 魚類や野生生物の生息環境を修復するプログラムに最低10%
  • 技術の普及やイノベーションを支援するプログラムに最低50%
  • 消費者負担の増額分を、現金レベートや割引および補助金といった方法で相殺するプログラムに残存分。

EIAの検討シナリオ

主要なS.280政策ケース

-S.280コアケース(以下「ケースA」)…(i)排出クレジットのバンキング割引率(discount rate)を8%;(ii)オークション用クレジットへの配分率は2012年が30%で、その後徐々に増大して2030年には90%;(iii)認可するオフセットは総計で最高30%、と想定。また、個々の商業ビルからの年間排出量が1万メトリックトンを超えることは殆どないため、業務部門も対象外とする。

-国際オフセット使用不能ケース(以下「ケースB」) … オフセットは国内だけに制限。

-オフセット30%固定型ケース(以下「ケースC」)…排出削減義務の30%が毎年オフセットで賄われるケース。(i)オフセット価格は現行の排出クレジット価格に一致し;(ii)国内オフセット源で賄いきれない分は国際オフセット源で賄うことを想定。

EIAの分析結果

排出量および排出権価格

-ケースAでは、レファレンスケースに比べ、GHG排出量が2020年にCO2換算で10.24億メトリックトン(12.2%)、2030年に26.85億メトリックトン(27.8%)減少する。プログラムの初期は、オフセット利用と非CO2削減が主流となるため、2020年にはエネルギー部門以外での排出削減が全体の3分の2となる。但し、2030年までには、排出上限枠の縮小;オフセット利用の制限;排出クレジット価格の高騰;新エネ投資の効果によって、エネルギー関連CO2排出削減がGHG排出総削減量の約半分を占めることになる。

-ケースCでは、対象となる事業体はプログラムの初期段階に多くの排出クレジットをバンキングし、貯めたクレジットを利用して2030年までの排出削減ニーズを軽減することが可能であるのに対し、ケースBでは、排出クレジットのバンキングが少なく、排出削減義務の遵守を国内排出削減に大きく依存することになる。

-排出クレジット価格*

  • ケースAの場合、2020年が22.20ドル、2030年は47.70ドル
  • ケースBの場合、2020年が31ドル、2030年が58ドル
  • ケースCの場合、2020年が14ドルで、2030年が31ドル。   


エネルギー市場

<エネルギー価格>

-ケースAの場合

  • 石炭価格はレファレンスケース比で、2020年に129%、2030年には245%高となる。
  • 天然ガス価格は2020年に15%、2030年に31%高。
  • 電気料金は2020年に10%、2030年には21%高。
  • 2020年のガソリン価格は、レファレンスケースよりも1ガロンあたり17セント高く、2030年には35セント高となる。ジェット燃料の1ガロンあたりの価格は、2020年に20セント、2030年には40セント高となる。

<エネルギー利用>

-ケースAの場合

  • エネルギー価格の高騰や上院第280号議案の技術支援プログラムが省エネやエネルギー効率改善努力を刺激し、一次エネルギー消費はレファレンスケースに比べ、2020年に3%減、2030年には6%減となる。
  • CO2排出削減のため、電力業界は石炭離れが進み、2020年の石炭火力発電はレファレンスケースより26%減、2030年には69%減となる。
  • 原子力発電の新設・増設、および、再生可能資源利用の発電が拡大する。
    • 原子力発電設備容量が2030年までに145ギガワット増設され、発電量が1,909億キロワット時(kWh)まで増大(レファレンスケース比120%増)
    • 米国総発電量に占める再生可能発電の割合は、ケースA・B・Cで、2030年に22〜28%となる。(レファレンスケースでは9%)
      • バイオマス利用発電(注:8) は2020年に、レファレンスケース(1,110億kWh)の3倍以上、2030年はレファレンスケース(1,310億kWh)の約8倍まで増大。
      • 風力発電は2020年に、レファレンスケース(510億kWh)の約2倍、2030年にはレファレンスケース(注:9) の2.5倍まで拡大。
  • 運輸部門のエネルギー消費は、ケースA・B・Cの場合、レファレンスケースに比べて、2020年に1〜2%、2030年には3〜5%減少する。  


経済**

-2009年から2030年までの実質 GDP累計損失は下記の通り:

  • ケースA  5,330億ドル(0.22%)
  • ケースB  5,720億ドル(0.23%)
  • ケースC  4,710億ドル(0.19%)

-2009年から2030年までの消費者購買力の累計損失は下記の通り:

  • ケースA  4,870億ドル(0.28%)
  • ケースB  5,380億ドル(0.31%)
  • ケースC  4,330億ドル(0.25%)

-排出クレジットのオークションで得る収益は2029年にピークに達し、(i)ケースAでは2,870億ドル;(ii)ケースBでは3,840億ドル;(iii)ケースCでは1,900億ドル。

-ケースAの場合、エネルギーの消費者物価指数(CPI for Energy)は2030年までに、レファレンスケースよりも約16%の上昇となる。

-産業部門の生産高

  • ケースAの場合、サービス部門を除く全産業部門の生産高は2030年までに、レファレンスケースよりも2.5%減少し、食品・製紙・化学品・石油精製・ガラス・セメント・鉄鋼といったエネルギー集約産業の生産高は2030年までに3.5%減少する。
  • 業界別では、アルミニウム業界の生産高減少が最も著しく、2030年の生産高はケースA・B・Cで、レファレンスケースよりも13〜22%の減少となり、鉄鋼業界の生産高は6〜13%減、ガラス・セメント・化学品業界も4〜10%の減少となる。
*  2005年のドル価値で表記。
** 経済影響を示すドル価値は全て、2000年のドル価値。


注釈:

1:Bingaman上院議員が当時草稿中であった地球温暖化法案がエネルギー市場や経済に及ぼす影響を分析した『Cap-and-Trade型制度による温室効果ガス原単位削減提案がエネルギー市場および経済に与える影響(Energy Market and Economic Impacts of a Proposal to Reduce Greenhouse Gas Intensity with a Cap and Trade System)』という報告書。この概要は、2007年1月17日の 『エネルギー情報局による地球温暖化法案の経済影響分析報告』というNEDO調査レポートで紹介。
2:Bingaman上院議員は、EIAによるこの経済分析の結果を考慮して草稿案に修正を加えた「低炭素経済法案(Low Carbon Economy Act:上院第1766号議案)」を、Arlen Specter上院議員(共和党、ペンシルバニア州)とともに、2007年7月11日に上院へ共同提出した。
3:Thomas Carper上院議員(民主党、デラウェア州)、Hillary Clinton(上院議員民主党、ニューヨーク州)、Norm Coleman上院議員(共和党、ミネソタ州)、Susan Collins上院議員(共和党、メイン州)、Richard Durbin上院議員(民主党、イリノイ州)、Amy Klobuchar上院議員(民主党、ミネソタ州)、Blanche Lincoln上院議員(民主党、アーカンソー州)、Bill Nelson(民主党、フロリダ州)、Barack Obama上院議員(民主党、イリノイ州)、および、Olympia Snowe上院議員(共和党、メイン州)の10名。
4:担当委員会は上院環境公共事業委員会。Leiberman上院議員が議長を務める地球温暖化および野生生物保護に対する民間部門・消費者の解決策小委員会は2007年7月24日に、上院第280号議案に関する公聴会を開催している。
5:二酸化炭素(CO2)、メタン、亜酸化窒素、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六フッ化硫黄(SF6)の6種類。
6:対象外の排出源が1990年から2011年の間に実施して獲得するオフセットクレジットは加算されていない。
7:オフセット源には、@対象外(家庭部門と農業部門)の事業体が1990年から2011年の間に行って登録した早期排出削減;Aデータベースに記録された炭素隔離の増加;B[米国と]同等のcap-and-trade型プログラムを実施する諸国のGHG排出クレジット;C対象となる事業体が途上国で行う特定プロジェクから得た排出クレジット、等がある。
8:米国における2005年のバイオマス発電量は380億kWh。
9:米国の風力発電は、2005年の150億kWhから2020年には510億kWhに増大するものの、その後は横ばいとなる。


Top Page