大統領大統領一般教書演説の政策イニシアティブと各界の反応 

NEDOワシントン事務所
松山貴代子
2008年1月30日
(Update: 2月1日)

ジョージ・W・ブッシュ大統領は2008年1月28日、2001年の大統領就任以来、7回目で最後の一般教書演説を行った。大統領は演説の前半で、経済政策;連邦政府予算;ヘルスケア;教育;貿易;エネルギー;競争力強化;幹細胞研究;判事指名;移民、等についての方針を述べた後、良くも悪しきもブッシュ政権にとってのレガシー(遺産)となるイラク戦争、特に、2007年の増兵の成果を語ることにかなりの時間を割いた。

今年の一般教書演説はマスコミの予想通り、経済政策を重視する内容であったが、米国経済は長い目でみれば依然として堅調であるという見解を貫くブッシュ大統領は、米国経済が不安的期(period of uncertainty)にあって、短期的には経済成長の減速が予想されると言及するにとどまり、景気後退や経済停滞といった言葉は最後まで使わなかった。経済政策としては、ホワイトハウスと下院上層部が合意した景気刺激策の早期可決を議会に要請し、減税の恒久化を再度主張し、米国政府支援の住宅投資機関であるフレディ・マック(Freddie Mac)とファニー・メイ(Fannie Mae)の改革や連邦住宅管理公団(Federal Housing Administration)の近代化、等をあげた。

2009年度予算教書の発表を来週にひかえるブッシュ大統領は、指定資金交付(earmark)(注1) の問題を取り上げ、この件数と金額が半減されない限り、歳出予算法案に拒否権を発動すると断言した。また、2006年の一般教書演説で大統領が提案した米国競争力イニシアティブ(American Competitiveness Initiative)を支援する「America COMPETES法」が昨年議会を通過して法制化されはしたものの、計上された予算が認可額に程遠い(注2) ことを批判し、物理科学の重要な基礎研究に対する政府支援を倍増するよう議会に要請した。

一般教書演説の終了後にホワイトハウスは、ブッシュ大統領の言及したアジェンダに関する政策イニシアティブ(2008 State of the Union Policy Initiatives)を発表している。ここでは、その内の、@経済;A連邦予算;Bエネルギーについて概要を報告し、各界の反応を紹介する。


景気対策

1. ホワイトハウスと下院指導層が合意した景気刺激策

  • 個人消費を推進する、納税者向け減税(約1,000億ドル)
    • 2008年に限り、個人の場合は課税所得の最初の6,000ドル、夫婦の場合は課税所得の最初の12,000ドルを非課税とする(現行課税率は10%): " 納税者に、一人当たり600ドル(最低300ドル(注3) )、夫婦で1,200ドル(最低600ドル)の戻し税を還付。
    • 子供がいる家庭には、子供一人当たりに300ドルを還付。
    • 調整後総所得が75,000ドル以上の個人、150,000ドル以上の夫婦への戻し税は、閾値以上の所得に応じて減額。(注4)
  • 企業投資を促進する、ビジネス向け減税(約500億ドル)
    • 2008年に新設備を購入する米国企業が、投資コストの更に50%を税額から控除することを認可。
    • 中小企業の設備投資に対する税額控除額の引上げ。

2. 減税の恒久化

3. 住宅所有者への支援

  • 議会に下記を要請:
    • 連邦住宅管理公団(FHA)の近代化法案
    • 既存住宅ローン借換えを支援するため、州政府・地方政府による免税債(注5) の発行を認可する法案
    • フレディ・マック(Freddie Mac)やファニー・メイ(Fannie Mae)等の政府支援機関の規制改正法案


連邦予算

1. 指定資金交付(earmark)の制限

  • 指定資金交付の件数と金額が半減されていない場合、歳出予算法案に大統領拒否権を発動
  • 連邦省庁に対して、議会で審議・可決されていない指定交付金を無視するよう指示する大統領命令を1月29日に発令

2. 社会保障制度や老齢者医療保険(Medicare)といったエンタイトルメント・プログラムの改革と救済

3. 2012年までに予算均衡化

  • 2月4日に発表される2009年度予算教書では、安全保障以外の裁量的経費の増加をインフレ率を遥かに下回る、1%以下に抑制。
  • 個別条項拒否権


エネルギー安全保障および気候変動対策

1. 新たなクリーンエネルギー技術の活用

  • クリーンで安全かつ手頃な代替エネルギー資源である原子力発電の利用を拡大
  • 石炭を利用しながらも炭素排出量を大幅に低減できる新技術に資金提供
  • 風力、ソーラー、地熱といった再生可能エネルギーを利用する発電の拡大
  • 経済成長を助長しながら温室効果ガス(GHG)排出を削減するために不可欠な、クリーンで高効率な技術の開発支援
  • 新設する国際クリーンエネルギー技術基金(international clean energy technology fund)に向こう3年間で20億ドルを拠出
  • 欧州連合と合同で、クリーンエネルギーや環境関連の技術・サービスに対する関税やその他の非関税障壁を撤廃するよう世界貿易機関(WTO)に提案

2. ポスト京都の次期国際協定達成へ向けた努力

  • GHG排出の増加を減速させ、横ばいにし、最終的には減少させる国際協定を完成するため、国連を介した努力、および、主要経済国との協力に対する米国のコミットメントを再確認: 条約は主要経済国全てのコミットメントがあってこそ有効となる。ただ乗りは許されない。
  • エネルギー安全保障と気候変動に関する第2回主要経済国会議の開催
  • 昨年12月のバリ会合で、包括的な世界気候変動交渉「ロードマップ」を立ち上げる国際合意に賛同

 

《各界の反応》

A. 米国上院

a. Hillary Clinton上院議員(民主党、ニューヨーク州)

大統領が米国経済活性化のために直ちに行動する必要性を認めたことには勇気づけられたが、我が国の経済危機(economic crisis)を癒して、今後の経済を立て直すためには、税金払い戻し以上の行動が必要である。失職や暖房費高騰に直面している国民のために即座の解決策が必要であり、住宅危機に対する包括的解決策が必要である。大統領が今夜発表した住宅関連提案は全て、私がこの数ヶ月間提案してきた施策である。しかしながら、これ以上の施策が必要であるため、私は貸付産業に、サブプライム住宅ローンの90日間差押え禁止、および、サブプライム融資金利の5ヵ年凍結も求めている。米国中産階級の成長と繁栄を回復させる長期的経済ビジョンが必要である。

b. Jeff Bingaman上院エネルギー・天然資源委員長(民主党、ニューメキシコ州)

最も重要なのは、米国が景気後退に陥らないよう、景気刺激法案を可決させることである。超党派で協力することにより、数週間で成し遂げられると思う。エネルギーの課題に引き続き取り組む法案、国際市場における米国競争力の維持を狙った科学研究への十分な投資法案、等の可決も望む。


c. Barbara Boxer上院環境・公共事業委員長(民主党、カリフォルニア州)

病んでいる経済を回復させるためには、短期の修正だけではなく、長期的な意義ある変化が必要である。真のリーダーシップと大胆な行動が必要な時に、大統領は空っぽのレトリックとほんの僅かなアイディアを提供したにすぎない。超党派のLieberman-Warner気候変動政策や地球温暖化の回避に必要な解決策を受け入れる代わりに、大統領はこれら解決策に背を向け、なんらの有効な施策も提言していない。また、米国民が直面している住宅ローン危機やガソリン価格高騰といった懸念への対処で議会との協力を約束すべきところを、大統領は拒否権発動をちらつかせ、大金持ちや特別利益団体への減税恒久化を主張する。これは米国が必要とする変化ではない。次期大統領が国内外で危険な状況を相続することがないように、私は他議員等と協力して、米国の必要とする変化に着手していく意向である。


d. Joe Lieberman上院議員(無所属、コネチカット州)

今年こそ、ホワイトハウスと議会が党派的対立態度を改め、米国民のために真の成果をもたらすことを望む。2008年には、景気悪化を逆転し、教育制度を改善し、気候変動の脅威から地球を守る施策を通過させるべきである。我々には、次期大統領や次期議会を待ってこうした課題に立ち向かうという余裕はない。民主党だ共和党だというのではなく、米国民の代表として、今こそ行動すべきである。


e. James Inhofe上院環境・公共事業委員会ランキングメンバー(共和党、オクラホマ州)

ブッシュ大統領は、景気刺激策の早期可決を求めると共に、減税の恒久化を改めて要求した。ブッシュ政権と下院が合意した景気刺激策は正しい方向に向けての第一歩であり、減税は米国経済復活計画になくてはならないものである。これらの法制化にむけた協力を期待する。大統領の本日の演説は、経済成長が豊富で安定したエネルギーに依存することへの理解を明白に示すものであった。オクラホマ州は石油・天然ガス生産のリーダーであり、代替エネルギー資源開発でもリーダーとなりつつある。環境に優しい国産エネルギーに対する大統領の支援は、米国のエネルギーニーズを満たす道程にとって非常に重要である。原子力エネルギーやクリーンコール技術の拡大に対する大統領の支援継続を聞いて、うれしく思う。大統領は、ガソリン価格や家庭の冷暖房費を引き上げ、雇用を米国から奪い去ることになるcap-and-trade法案に対して断固反対の立場を維持し、全ての主要経済国が参加しない限りは国際条約に反対すると公約しているが、これは正しい判断である。


f. Larry Craig上院環境・公共事業委員会メンバー(共和党、アイダホ州)

国民に消費するようにと現金を配ることが、米国経済を刺激する最善策であるのか疑問である。我が国の経済は未だ後退期には入っていないながら、現状を逆行させる最善の方法を検討する必要がある。税金払戻しは明らかに国民への信頼に根ざすものであるが、他の刺激策の方が米国経済の助長に適していると信じている。これが、住宅市場を刺激する法令を本日提出した理由である。住宅在庫が増大する中、税額控除によって初めての住宅購入者に在庫住宅の購入を奨励するという施策は、1970年代に効果をあげた。これを復活させるべきである。



B. 非営利団体およびシンクタンク

a. 世界気候変動に関するピューセンター(Pew Center on Global Climate Change)

途上国でのクリーンエネルギー技術普及に20億ドルを投資するという大統領提案は正しい方向への第一歩であるが、必要な投資額、更には、1月26日に日本が公約した100億ドルと比較すると、これは実にささやかな額である。気候変動でリーダーとなることを望むのであれば、ホワイトハウスはこれ以上の努力をする必要がある。国内では、議会と協力して米国の排出を大幅に削減するCap-and-trade法案を成立させ、国際的には、他諸国と拘束力のある国際協定を交渉しなければならない。ブッシュ政権の唱導する国家別コミットメントは約束でしかなく、中国・インド他の諸国が各自の約束を守るという保証は何もない。今週末の主要経済国会議(MEM)で、大統領は気候変動という課題に対応する用意があることを実証すべきである。


b. ヘリテージ財団(Heritage Foundation)

米国内における原子力エネルギー拡大の必要性を大統領が認めていることを称賛する。CO2を排出せず、安全かつ価格の手頃なエネルギー資源である原子力は、米国のエネルギー需要を満たす一方で、排出削減にも有用である。大統領が、cap-and-trade法案といった見当違いの地球温暖化対策にコミットしなかったことは正しい。こうした法案が経済に及ぼす被害は、環境面での利益よりも遥かに大きい。景気刺激策はある意味で自己満足の政策である。連邦政府が出来ることはたかが知れている。長期的に見てもっと効果がある政策は、税制の簡素化であろう。


c. 天然資源防衛委員会(Natural Resources Defense Council = NRDC)

ブッシュ大統領は在任中に、地球温暖化の課題に取り組み、拘束力ある気候変動法案の法制化を約束する最後の機会を逃した。地球温暖化の危機に自主的施策で対応できるという仮定は空想である。科学に基づいた拘束力ある削減策以外に、この課題を達成する手段はない。米国の研究者や起業家は、市場ベースのcap-and-tradeプログラムが送るシグナルに反応する。しかしながら、強制的コントロールがなければ、投資や導入のインセンティブを欠くことになる。大統領が即座に実行可能な一策として、景気刺激策に再生可能エネルギーと省エネルギー投資を盛り込むことを求める。


C. 業界団体

a. 全米鉱業協会(National Mining Association)

米国のGHG排出削減努力とエネルギー安全保障におけるクリーンコール技術の重要性を認めた大統領を称賛する。クリーンコール技術の有効性は、米国の発電所における大幅な排出削減で確認されている。研究開発・導入予算が十分にあれば、こうした技術は米国だけでなく、中国やインドでも大幅なGHG削減を達成可能である。クリーンコール技術の開発を奨励し、世界の発電を変貌させる国際クリーンエネルギー技術基金に向こう3年間で20億ドルを拠出するという大統領のコミットメントを称賛する。米国のビジネスや家庭にクリーンな電気と更なるエネルギー安全保障を提供することは、党派別の政治目標ではなく、民主・共和両党が環境面・エネルギー供給面での課題に対応するために追求しなければならない目標である。


b. 全米製造業者協会(National Association of Manufacturers)

超党派合意の1,500億ドルという景気刺激策は良いスタートである。製造業界はエネルギー自立へ向けたブッシュ政権の革新的アプローチ、特に、クリーンコール技術を支援する。米国は石炭資源が豊富であり、この石炭を環境への影響を軽減して利用する方法を開発することが可能である。また、国内の石油・天然ガス資源開発や、安全でクリーンな原子力エネルギー利用の拡大も、非常に的を得た政策である。代替燃料が我が国のエネルギーミックスに大きく貢献するのは数年先のことであり、短期的には、エネルギー価格を抑えるために石炭や原子力は不可欠である。製造業界はまた、大統領の税制提案、特に、R&D税額控除の恒久化やキャピタルゲインズ税と法人所得税の税率引き下げに強い関心を持っている。

 


注釈:

注1:2007年12月に可決した2008年度包括歳出予算法に盛り込まれた指定資金交付は約11,700件で、総額は170億ドル以上。

注2:全米科学財団(NSF)、商務省の国立標準規格技術研究所(NIST)、エネルギー省科学局への2008年度予算配分の実態については、NEDO Washington Daily Reportの2008年1月7日号で概説。

注3:所得が3,000ドル以上ながら、所得税を殆ど、または全く支払わなかった低所得者への還付額。

注4:閾値(個人で75,000ドル、夫婦で150,000ドル)を1,000ドル越える毎に5%づつ減少。ホワイトハウスが算出例としてあげている一番目のケースは、子供が二人いるひとり親所帯で、所得が$38,000と記載されているが、これは$78,000の書き間違いと思われる。この場合、戻し税の額は、600−(78,000−75,000)x0.05+300x2で1,050ドルとなる。

注5:現行法が認めるのは、初めての住宅購入者の新規ローンに融資するための免税債発行のみ。

 


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