エネルギー省が発表した 『重要原料戦略』:概要

 

2011年12月23日
NEDOワシントン事務所
松山貴代子

 

エネルギー省(DOE)が、レアメタルその他重要原料がクリーンエネルギー経済で果たす役割を調べた『重要原料戦略(Critical Materials Strategy)』という報告書を2011年12月22日に発表した。同報告書は、風力タービンや電気自動車、太陽電池薄膜や高効率照明にとってのレアアース他原料の重要性を浮き彫りにした2010年12月発表の『重要原料戦略(2010 Critical Materials Strategy)』のアップデート版となるもので、最新のクリティカル度解析(criticality assessment)、市場分析および技術分析が盛り込まれている。

この新報告書の主要ポイントは下記の通り:

  • 風力タービンや電気自動車(EV)、太陽電池(PV)薄膜や蛍光灯といった幾つかのクリーンエネルギー技術には、近い将来に供給停止のリスクがある原料が使われている。中期的・長期的には、こうしたリスクは減少する傾向にある。
  • レアメタル5種類(ジスプロシウム、ネオジム、テルビウム、ユウロピウム、イットリウム)の供給問題は今後数年間、クリーンエネルギー技術の普及に影響を及ぼす可能性がある。
  • DOEその他の利害関係者はこの1年間、優先リサーチへの新規資金調達; DOE初の重要原料リサーチ計画の策定; 一流の専門家を結集した国際ワークショップ; 重要原料に携わる連邦省庁機関の実質的調整等を行い、同課題への取組みを拡大してきた。
  • 教育・研修を通じた労働者能力の構築は、重要原料に関連する脆弱性への対応や好機の実現を助長することになる。
  • これから数年間は、更に一層の努力が必要である。

DOE報告書は、第1章「序論」;第2章「クリーンエルギー技術に使用される重要原料」;第3章「市場力学と市場解析」;第4章「需給予測」;第5章「クリティカル度解析」;第6章「プログラムの方針」という6部構成になっている。このレポートでは,@供給源の多角化; A代替物質の開発; Bリサイクルの推進、というDOE重要原料戦略の3本柱に基づいたR&Dプランの進捗状況(第6章)を概説する。

 

R&Dの進捗状況

1. 供給源の多角化

従来の分離技術は、きつい溶媒や試薬を使い、長い加工時間を要するために、非効率的で環境に悪く、持続不能であると見なされている。レアアース元素(rare earth element =REE)の抽出・加工・分離プロセスの改良、または、より効率的な新方法の開発は、サプライチェーン全体においてコストを削減し、環境パフォーマンスを向上させる可能性がある。

これまでのところ、分離・加工の改善に対するDOE投資は多くはないものの、DOEの科学局が同分野の研究を支援しており、幾つかの該当プロジェクトが進行中である。現在研究・検討されている、溶媒抽出法以外の代替分離技術や分離されたレアアース原料を高純度に転換する新処理方法の例は下記の通り:

  • 超臨界流体抽出法(Supercritical fluid extraction): 幾つかの国立研究所が、超臨界二酸化炭素(SC CO2)抽出を調査している。この方法では、酸で溶かされたレアアース原料が、抽出剤を含むSC CO2に接触。抽出剤に結合したレアメタルはSC CO2内にとどまる。レアメタルは、CO2を除去することによって隔離できる。
  • 生物学に基づくアプローチ(Biologically Inspired Approach): 数件の学術研究が、バクテリアを利用して希薄液からレアメタルを濃縮することを実証。幾つかの研究機関がこのプロセスを調査中である。
  • 電気化学(Electrochemistry): Materials and Electrochemical Research Corporation (MER)が、レアアース鉱石を高純度メタルに変換する 電気化学方法の開発で、2010年に中小企業革新研究(SBIR)第1フェーズのグラントを受領。研究の重点は酸化ネオジムで、このプロジェクトで開発された加工イノベーションで、高エネルギー密度の磁性物質が生成されている。このR&Dを更に進めるため、MERには先頃、SBIR第2フェーズのグラントが授与された。

 

2. 代替物質の開発

DOEは過去1年間に、レアメタル(モーターや風力発電機用のレアアース磁石を含む)の代替物質開発に相当額の新投資を行っている。また、地球に豊富な物質を使用する研究が太陽光およびバッテリー研究プログラムに組み込まれている。2011年には、ARPA-Eや自動車技術プログラム、および風力プログラムがレアメタルの代替物質研究に新たな投資を行っている。

磁石の研究例:

  • ナノスケール複合材料(Nanoscale Composite Materials): レアアース磁石に代わる新種永久磁石を開発するアプローチの一つが、保磁力の高い硬質磁性材料と保磁力が弱いながら磁化の容易な軟質磁性材料の複合材料を開発することであるが、これには、ナノスケールでの構造制御が必要となる。アラバマ大学を中心に行われているARPA-EのREACT(重要技術におけるレアアース代替)プロジェクトは、磁性複合材料R&Dによって高度な磁気特性を実証する。具体的には、アラバマ大学プロジェクトはマンガン-ビスマス(軟質磁性材料)・鉄(硬質磁性材料)を使った複合材料を調査する。
  • レアアースを使用しない磁石のための磁気保磁力強化(Enhanced Magnetic Coercivity for Non-Rare Earth Magnets): 結晶磁性材料構造の精密なコントロールは、磁気特性の大幅な向上を可能にする。ノースイースタン大学主導のARPA-E REACTプロジェクトは、鉄とニッケルが規則正しく配列された磁性結晶構造(隕石で見られる構造で、1000年に0.2ケルビンという緩速な冷却プロセスで形成される)の作成を試みる。これが成功すれば、レアアースを含まない新磁石は、レアアース磁石に匹敵する特性を有し得ることになる。
  • 分子設計(Molecular Design): 理論的研究と実証研究の融合は、レアアース永久磁石に代わる新材料の開発に向けた強力なツールとなり得る。Ames研究所は、DOE自動車技術プログラムからの資金援助を受け、モーターに使われるレアアース磁石に代わる物質の組成を調査中で、鉄-コバルト-タングステン(iron-cobalt-tungsten)材料を作り出す方法を開発している。タングステンは常磁性体であるが、理論的には、鉄とコバルトに添加すると、その結果生まれる物質の磁気特性が大幅に増強するという結論が出ている。

モーターの研究例:

  • オークリッジ国立研究所は、自動車技術プログラムからの資金援助を受け、ステータ電磁場(electromagnetic stator field)を電子的に切り替えることによって永久磁石を使わずにローターを回転させるスイッチドリラクタンスモーター(SRM)のデザインに伴う技術的課題に対応中。特に、SRMのトルクリップル(torque ripple)と雑音を低減する斬新なモーターアーキテクチャの特性と実行可能性をテストする。

 

3. リサイクルの推進

リサイクルされているREEは、耐用年数を経た製品に含まれたREEの1%にも満たないのが現状。リサイクルの増進により供給が改善されれば、採掘による環境面での影響を軽減できるほか、レアメタルが埋立地行きとなることを妨げることが出来る。現行のR&Dやその他の投資は、世界各地においてリサイクルの技術とキャパシティを増強することを目的としている。DOEでは重要原料のリサイクル研究を大規模には支援していないものの、堅固なサプライチェーンの構築に大きな影響を及ぼし得るR&Dの機会は存在している。

リサイクル推進の例:

  • 自動車技術プログラムが、Texco社のオハイオにある既存のバッテリーリサイクル施設の拡張で、950万ドルの資金提供を行っている。

 

DOEの現行研究イニシアティブと計画されている研究イニシアティブ

過去1年間、新たな研究投資の大半はレアアース永久磁石の代替物質、特にモーターと発電機用のレアアース永久磁石に対する代替物質の開発に充てられていたが、幾つかの新たなR&Dプログラムでは、『2010年重要材料戦略』の一つ目の柱である「供給源の多角化」を支援する分離・加工の改善に資金提供を行うことが可能となる。

  • 革新的製造イニシアティブ(Innovative Manufacturing Initiative): 先進製造技術局(Advanced Manufacturing Office =AMO)が先頃、クリーンエネルギー経済を促進するトランスフォーメショナルな製造過程や材料技術の開発を支援するため、3ヵ年1億2,000万ドルの革新的製造イニシアティブ(IMI)を立ち上げた。IMIが提示したトピック分野は、@革新的製造過程;A革新的材料の二つで、革新的製造過程の内の、反応と分離;高温加工;持続可能な製造というサブトピックが重要原料に関連する。IMIのアワードは2012年初めに発表の予定。 
  • 重要原料のエネルギー革新拠点(Critical Material Energy Innovation Hub): AMOは2012年度予算案で、重要原料のエネルギー拠点に対する予算を要求。クリーンエネルギー経済の材料ニーズを満たすため、重要原料の効率的で柔軟な処理を促進するR&Dに重点を置くことを提案している。同革新拠点ではまた、レアアースの新たな抽出を大幅に削減するため、代替物質の開発、有効利用やリサイクルもR&D目標として掲げている。
  • 中小企業革新研究(SBIR): DOEの2012年度SBIR資金提供公募(Funding Opportunity Annoucement)にはREE、具体的には分離・加工の改善に関連するトピックが幾つか含まれている。
    • REEの国内供給を拡大する技術やプロセス … 具体的な研究分野は、@グリーンケミストリー技術を活用しつつ、溶媒抽出の分離係数の増大;A選鉱作業に必要な物理的分離ステップの削減;B高純度メタルの生産において中間物(intermediate)を回避する新プロセス。
    • ランタニドを溶液内の他のメタルから隔離する、効率的な分離方法を可能にする技術

       

David Sandalow政策・国際問題担当次官補が2012年1月5日に戦略・国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies =CSIS)において、同報告書の調査結果を報告する予定となっている。

(Department of Energy News, December 22, 2011; U.S. Department of Energy Critical Materials Strategy)

 

 

 


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