オバマ大統領、先端製造パートナーシップ(AMP)を立ち上げ

 

NEDOワシントン事務所
2011年7月8日

オバマ大統領が6月24日、訪問先のカーネギーメロン大学で、「先端製造パートナーシップ(Advanced Manufacturing Partnership =AMP)」 の立ち上げを発表した。AMPは、製造部門の雇用創出および米国の国際競争力強化を可能にする新興技術への投資を、産業界・大学・連邦政府をあげて行っていくという国家的な取組みであり、大統領科学技術諮問委員会(President's Council of Advisors on Science and Technology)が6月に大統領へ提出した『先端製造のリーダーシップ確保(Ensuring Leadership in Advanced Manufacturing)』という報告書の提言に基づいて策定されたものである。

大統領の計画は、既存のプログラムやプロポーザルにてこ入れをするというもので、下記の5つの重要分野に5億ドル以上を投資することになる:

  1. 重要な国家安全保障産業の国内製造能力を構築
  2. 工業製品に使用される先端材料の生産所要時間を短縮
  3. 次世代ロボティクスにおける米国リーダーシップの確立
  4. 製造工程のエネルギー効率を改善
  5. 製品の設計・作成・実験に要する時間を大幅に短縮する新技術を開発。

同パートナーシップを率いる、ダウ・ケミカル社のAndrew Liveris会長兼CEOとマサチューセッツ工科大学のSusan Hockfield学長は、ホワイトハウス国家経済会議(NEC)、科学技術政策局(OSTP)、及びPCASTとの緊密な協力で、幅広い分野を代表する米国の大手メーカーや一流の工科大学を結集していくことになる。AMPに当初より参加する大学と企業は下記の通り:

カーネギーメロン大学

ジョージア工科大学

スタンフォード大学

カリフォルニア大学バークレー校

ミシガン大学

マサチューセッツ工科大学

アリゲニィ・テクノロジーズ

キャタピラー

コーニング

ダウ・ケミカル

アルコア

フォード自動車

ハネウェル

インテル

ジョンソン・アンド・ジョンソン

ノースロップ・グラマン

プロクター・アンド・ギャンブル

ストライカー

米国政府には、新技術の開発・商品化で大学や企業と提携してきた長い歴史があり、これら技術(電話から電子レンジ、ジェットエンジンからインターネットまで)が米国の経済的成功の基盤となってきた。AMPでは、先端製造技術ロードマップの作成;構想段階から製造段階までの時間短縮;前例のない斬新な(first-of-a-kind)技術のスケールアップ;中小製造業者の革新・競争を可能にするインフラストラクチャーと共用設備の整備によって、今後10年間に同様のブレークスルーをもたらす為の土台(プラットフォーム)を形成することになる。

オバマ大統領はAMPの立ち上げに伴い、先端製造に対するコミットメントを表明し、連邦政府が取り組むべき重要対策として下記を挙げた:

  • 重要な国家安全保障産業の国内製造能力を構築:

    国防省、国土安全保障省、エネルギー省(DOE)、農務省、商務省その他省庁は、米国の国家安全保障に不可欠な国内製造能力を活性化する革新的技術、および米国重要産業の長期的な経済活力を促進する革新的技術に産業界と共同で投資を行うため、各省の既存予算や将来予算にてこ入れをする。当初目標は3億ドルで、小型の高性能バッテリー、先端複合材料、金属加工、バイオマニュファクチャリング、代替エネルギーといった技術分野に投資する。

  • 先端材料の開発・導入に要する時間を短縮するMaterials Genome Initiative:

    米国企業が現在の2倍のスピードで先端材料を発見・開発・製造・導入することを可能にする研究、訓練、インフラストラクチャーに1億ドル強を投資するイニシアティブ。シリコン技術の進歩が現在の情報技術産業の確立を助長したのとほぼ同じように、先端材料は、製造・クリーンエネルギー・国家安全保障といった問題への対応を目指す新興業界を刺激することになる。

  • 次世代ロボティクスへの投資:

    人間オペレーターと密接に働く次世代ロボットの研究を支援するため、全米科学財団(NSF)、米航空宇宙局(NASA)、国立衛生研究所(NIH)および農務省が協力して7,000万ドルを投資する。これにより、工場労働者・医療関連機関・外科医・宇宙飛行士が実行困難な任務を遂行することが可能となる。

  • エネルギー高効率な製造工程の開発:

    DOEは、企業の省エネと製造コスト削減を可能にする革新的な製造工程や材料を開発するため、既存予算や将来予算にてこ入れをする。当初予算は1億2,000万ドル。

上記の重要対策を補足する施策は下記の通り: 

  • 国防省の国防高等研究計画局(DARPA)は、製品の設計・作成・実験に要する時間を5分の1に短縮する見込みのある新規アプローチを研究。
  • AMPに当初より参加する大学は、先端製造に関連する教材やベストプラクティスを共有できる協調体制を確立。
  • 商務省は、新製品開発に共通の技術的障害に取り組むため、先端製造技術コンソーシアムを創設。2012年予算は1,200万ドル。
  • プロクター・ギャンブルは先端製造モデリング・シミュレーション・ソフトウェアを、最近発足した中西部モデリング・シミュレーション・コンソーシアムを介して米国の中小製造業者に提供。
  • DOEはフォード自動車および全米製造業者協会(National Association of Manufacturers)と協力し、DOE国家研修教育資源(National Training and Education Resource)を活用して次世代製造業者を訓練するイニシアティブを立ち上げ。
  • 国防省は、透明防弾ガラス(transparent armor)やステルス技術、目標指示装置(targeting system)等の分野における国産製造技術に2011年度予算で2,400万ドルを投資。




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【添付資料】

『先端製造のリーダーシップ確保(Ensuring Leadership in Advanced Manufacturing)』:概要

大統領科学技術諮問委員会(President's Council of Advisors on Science and Technology =PCASTと大統領イノベーション・技術諮問委員会(President's Innovation and Technology Advisory Committee =PITAC)(注:1)は、オバマ大統領が先端製造パートナーシップ(AMP)の立ち上げを発表した2011年6月24日に、先端製造における米国リーダーシップを再活性化するための戦略と具体的提言をまとめた報告書を公表した。

報告書によると、製造部門が実質国内総生産(GDP)や雇用総数に占める割合はここ数十年間低下しており、過去10年間ではこの減少がローテク製品に限定されるだではなく、米国で発明された先進技術にまで広がり、原因も低賃金競争によるだけではないことが明らかになったという。報告書では更に、技術イノベーションと製造ナレッジが密接に関係することは明白であり、製造活動をもたずしてイノベーションの原動力という地位に留まることは不可能であると指摘している。

PCAST/PITACは、政府が特定企業や特定部門に投資を行う産業政策が解決策であるとは考えないものの、米国には、新技術やアプローチを支援し、製造部門で質の高い雇用を提供する一貫性のあるイノベーション政策が必要であると主張している。PCAST/PITACのまとめた結論と提言を下記に報告する。

<結論>

  • 米国は製造業でリーダーシップを失いつつある。これは、単にローテク業界やローテク製品においてだけではなく、海外の低賃金のためだけでもない。米国はハイテク製品(米国で発明された、ノート型コンピュータ、太陽電池、半導体メモリー装置、半導体製造装置(SPE)、フラットパネルディスプレー、ロボティクス、インタラクティブ・コンピュータゲーム、リチウムイオン電池も含め)の生産に加え、製造関係R&Dでも形勢が不利になっている。
  • 製造業における米国リーダーシップが衰える一方で、他諸国は自国の製造業リーダーシップ、イノベーションシステム、及びR&Dの向上に巨額の投資を行っている(注:2)
  • 先端製造業は米国内で質の高い雇用を創出し、これを国内に保持する可能性を持つ。
  • 製造と製造関係R&D活動の双方を米国内に近接配置することは、国際経済で革新・競争をしていく国家の長期的能力に多大な利益をもたらす。こうした活動の喪失(海外流出)は、世界市場における米国の発明力・革新力・競争力を弱体化させることになる。
  • 強力な先端製造部門は、国家安全保障に必要不可欠である。
  • 米国は、先端製造業に必要なビジネス環境の構築や熟練労働者の養成で競争相手国に遅れをとっている(注:3)
  • 新技術や共用インフラストラクチャー、及び設計ツールへの連邦投資は、重要な新産業の誕生と成長に欠かせないものである。
  • 個々の企業は独自には、多数の重要な新技術を十分に開発したり、先端製造を支えるインフラストラクチャー全体を構築するために必要な投資を正当化することが出来ないため、民間投資を公共投資で補完する必要がある。米国の製造業リーダーシップや先端製造部門の成長を制約することになる市場の失敗を、連邦政府は下記の3つの方法で克服することが可能である:
    • トランスフォーマティブな可能性を持つ、有望な早期段階技術(ナノスケール炭素材料、次世代オプトエレクトロニクス、フレキシブルエレクトトニクス、ナノテク利用医療診断装置や治療法)の進歩に投資
    • インフラストラクチャーへのアクセス、特に中小企業による共用インフラストラクチャーへのアクセスを向上
    • 製造プロセスを短期化するために、斬新な手法やアプローチを重点的に支援

 

<提言>

提言1. 先進製造イニシアティブ(Advanced Manufacturing Initiative)の立ち上げ 

連邦政府は先端製造イニシアティブ(AMI)を立ち上げるべきである。AMIは、陣頭指揮を商務省・国防省・エネルギー省(DOE)が、調整役を大統領府(科学技術政策局、国家エネルギー会議、又は大統領製造政策顧問室)が担当する政府全体の組織的取組みであり、商務省・国防省・DOEの各長官は自省の適切な部署(注:4) に主要義務を割り当てるべきである。

AMIの調整局は、連邦投資の必要な最も有望な先端製造関連技術分野を確認・分析し、その報告書を2年に1度の頻度で大統領に提出すべきである。報告書で検討すべき投資は下記を含むものとする:

  • トランスフォーメーショナルな可能性を持つ新規技術と設計方法(design methodologies)に関する応用研究で学界と産業界に提供すべき組織的な連邦支援
  • 前競争的な(pre-competitive)コンソーシアムを介して、重要な分野横断的課題に取り組む技術を前進させる官民パートナーシップ
  • 製品化までの所要時間の大幅短縮と障壁の大幅低減を可能にする設計方法の策定と普及
  • 中小企業が自社製品を改良して世界的に競争可能となることを助長する共用設備と共用インフラストラクチャー

報告書はまた、これら活動で特に着目される最も差し迫った技術的課題を確認し、これら技術分野の範囲内にあるパイロットプラントや早期活動への融資の可能性についても報告するものとする。

政府全体のこの取組みを、産業界や学界における同様イニシアティブで補完することが極めて重要となる。AMIは、産学の参加を促し、技術チャンスの確認に産学の専門知識を活用できるメカニズムを構築すべきである。先端製造の専門知識にアクセスできる外部諮問機関が、これら作業を指導する。

AMIが提言するプログラムを実施する予算は、最も有望なチャンスを支援するべく、商務省、国防省、DOEに計上されるべきである。当初予算は年間5億ドルで、4年で年間予算を10億ドルまで引き上げるべきである。これら予算の一部は必要に応じて、既存プログラムから徴用するものとする。


提言2 .税務政策の改善 

  • 連邦政府は法人所得税を改正し、オバマ大統領が2011年一般教書演説で提唱したように、限界税率(marginal tax rate)をOECD諸国並とすべきである。これは、米国内に製造工場を設置する強力なインセンティブを確立し、企業利益の本国送還という反インセンティブを撤廃して、企業利益を米国労働者の雇用へと回すことになる。
  • 連邦政府は、R&D税額控除を恒久化し、オバマ大統領が米国イノベーション戦略と2012年度予算要求で提唱したように、R&D控除率を17%まで引き上げるべきである。また、税額控除に適用される規則を検証して、製造プロセスR&Dが税額控除の対象となることを明確にすべきである。


提言3. 研究、教育、労働者訓練の支援

イノベーションと国家安全保障を支える研究事業の健全性を保証し、先端製造を米国内に誘致・保持するために必要な高度熟練労働者を確保するために、連邦政府は下記を行うべきである:

  • 向こう10年間で、重要な科学機関である全米科学財団、DOEの科学局、NISTの3機関における研究予算を倍増するという大統領計画を実行し、その他の研究機関にも適切な研究予算を計上する。
  • 連邦政府の政策とリーダーシップを活用して、官民のR&D投資をGDPの3%にするという大統領目標を実現させる。
  • 科学技術工学数学(STEM)教育を強化する。
  • 米国企業が雇用できる外国人高度熟練労働者の数を、下記によって拡大する:
    • 米国の大学院からSTEMで学位を取得した外国人学生が永住権を取得することを認可
    • 雇用ベースのビザが労働者とその配偶者と子女を自動的にカバーすることを認可
    • H1Bビザ発行数を増加

 

 


注釈:

1: PCASTとPITACは同報告書を作成するにあたり、一流メーカーの幹部やイノベーション専門家とのワークショップを開催したほか、オバマ政権・業界団体・学界の専門家からも意見を聴聞した。

2: R&D投資をGDPに占める割合で見ると、米国は、韓国、日本、スイス、イスラエルよりも低く、世界第7位。投資額では、米国は未だに世界全体R&Dの30%を占めて第1位であるものの、そのシェアは収縮している。また、デンマーク、フィンランド、フランス、アイスランド、アイルランド、日本、オランダ、ニュージーランド、ノルウェイ、韓国、スペイン、スウェーデン、スイス、英国といった先進国は、米国とは違い、国内産業の技術イノベーション推進に専心する政府機関を持っている。これら国家イノベーション機関の予算は大きくばらつくものの、フィンランドのTEKESは年間5.6億ドル(米ドル換算)、日本の新エネルギー・産業技術総合開発機構は年間20億ドルとなっている。

3: 米国の法人所得平均税率(連邦・州・地方税の合計)は39.21%で、日本(39.54%)を除いたOECDのどの諸国(ドイツは30%、フランスが34%、カナダは29.5%、英国が28%、等)よりも高率であるほか、米国のR&D税額控除は1992年のOECD内第1位から、現在は第17位に落ちている。更に、インド・韓国・中国他の諸国は企業R&Dの進展に必要な高度熟練労働力を提供する一方、米国では先端製造に必要な科学技術工学数学(STEM)の知識と技能をもつ労働者が不足している。

4: 商務省の国立標準規格技術研究所(NIST)、国防省の国防高等研究計画局(DARPA)、DOEのARPA-EまたはEERE。

 


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