国立標準規格技術研究所(NIST)先端技術視察委員会の

『2011年年次報告書』

〜先端製造におけるNISTの役割〜

 

2012年4月20日
NEDOワシントン事務所
松山貴代子

 

国立標準規格技術研究所(National Institute of Standards and Technology =NIST)の先端技術視察委員会(Visiting Committee on Advanced Technology =VCAT)は2012年4月17日、『2011年年次報告書(2011 Annual Report)』(注:1)を米国議会に提出した。

VCATは、米国の技術イノベーションと産業競争力の推進・助長というNISTミッション支援を目的として、NISTの政策・組織・予算・プログラムの評価・提言を行うために設置された民間諮問グループ(注:2)で、ここ1年間をかけて、@先端製造(Advanced manufacturing)におけるNISTの役割; Aワイヤレスイノベーション・イニシアティブ(Wireless Innovation nitiative)におけるNISTの役割; B進行中プログラムと運営問題のアップデート; CNISTの戦略計画と実績; DNIST予算、という5分野においてNISTの貢献と進捗状況を調査していた。

この調査結果をまとめた『2011年年次報告書』でVCATは、標準政策や計測業務、NIST再編といった主要なプログラム・運営活動で大きな進展があったことを評価し、NISTの戦略計画過程やオバマ大統領の2013年度NIST予算増額(注:3)に支持を表明するとともに、米国先端製造アジェンダの支援ではNISTが最善の体制を整えた機関であると結論づけている。

VCATが2011年に特に着目したのは、オバマ政権の2つの優先分野である、先端製造とワイヤレスイノベーション・イニシアティブにおけるNISTの役割で、VCATは製造小委員会(Subcommittee on Manufacturing)と公安通達ネットワーク小委員会(Subcommittee on Public Safety Networks)を新設し、各分野における具体的な提言を作成した。ここでは、『2011年年次報告書』の第二章にあたる「先端製造におけるNISTの役割」の概要を報告する。

 

2. 先端製造におけるNISTの役割

VCATはPatrick Gallagher NIST所長との協議の結果、VCAT製造小委員会(注:4)を新たに設置。VCAT製造小委員会には、(1)NISTを産業界ニーズへ最善の対応ができる位置につけ、NIST製造関連プログラムの有用性に対する利害関係者や政策策定者の理解を高めるための提言; (2)先端製造における官民パートナーシップの役割を調査し、現行のNIST法的権限枠組の範囲内でのAMTech(先端製造技術コンソーシアム)プログラムの構成や役割に関する提言;(3)NIST先端製造支援戦略の開発に関する意見や提言が求められた。


2a 先端製造技術コンソーシアム(AMTech)の構成と役割

先端製造技術コンソーシアム(Advanced Manufacturing Technology Consortia =AMTech)プログラムは、オバマ大統領の2012年度予算(注:5)で提案された新規プログラム。競争段階前にある有効技術(enabling technology)の長期開発で基礎・応用研究を支援する産業界指導型コンソーシアムの形成にインセンティブやリソースを提供することにより、初期段階技術開発の危機的資金ギャップを埋めることを目的とする。AMTechプログラムのビジョンは、大統領科学技術諮問委員会(President's Council of Advisors on Science and Technology =PCAST)と大統領イノベーション・技術諮問委員会(President's Innovation and Technology Advisory Committee =PITAC)が2011年6月24日に発表した報告書 『先端製造のリーダーシップ確保(Ensuring Leadership in Advanced Manufacturing)』(注:6)の調査結果 …米国内のナレッジ構築やイノベーションの推進において先端製造が重要であること、製造部門において低下傾向にある米国のリーダーシップが国家全体の健全性に害を及ぼしていること… 及び提言と一致している。

AMTechで支援するコンソーシアムは、技術開発を可能とし、より効率的な技術移転に欠かせないインフラストラクチャーを整備すべきである。AMTechでは、イノベーションライフサイクル全体のキープレーヤーを招集して、(i)イノベーションにとっての深刻な障壁の排除;(ii)国家的イノベーション努力の効率向上;(iii)科学的・技術的進歩に基づく新製品・新サービス誕生までの時間の短縮、に取り組むことになる。AMTechは経済成長を促進し、競争力を強化し、米国経済の高付加価値部門における雇用を創出する可能性がある。

提言:

  • VCATはAMTechプログラムを、技術革新を助長し、技術イノベーションの先端製造への投入を促進する模範的な官民パートナー計画として支持する。(同トピックに関する一連の具体的提言は、VCATが2012年2月7日にNISTへ提出した「AMTechに推奨するデザイン原則(Recommended Design Principles for AMTech)」で提示。)


2b 現政権の製造戦略におけるNISTの役割

PCAST/PITACの報告書にある通り、米国内のナレッジ構築やイノベーションの推進には先端製造が極めて重要である。米国製造会社は、産業界全体の3分の2にあたる研究開発を行い、国内の科学者やエンジニアの大多数を雇用している。また、製造R&Dはサービス部門の主要技術源でもあるため、その便益は純粋な製造業の域を超えている。

PCAST提言の核心にあるのは、産業界との連携で行うR&D活動をより良く調整する必要性である。官民連携活動には調整が必要であり、製造業支援という幅広いマンデートを持つ唯一の政府機関であるNISTは、この官民活動調整役の適任候補となる。

NISTは各種ポートフォリオを介して、米国製造業の様々なニーズに対応する構造となっている。広範囲にわたるプログラムを持つNISTは、多様な製品やサービスを提供して、米国製造業者の研究開発促進を助長し、アイディアをヒット商品に変えるための必須の推進力となっている。これらプログラムは、PCAST/PITAC報告書が提示した課題に対応する上で、NISTを連邦省庁の中でもユニークな存在にしている。

具体的には、NIST研究所のプログラムは、国家技術基盤の推進、及び、米国産業界の絶えることのない製品・サービス改善に欠かせない研究を実施している。製造工程や製品技術の進歩は、@質や信頼性の向上に必要な精密で正確な測定方法と測定基準;A改良された方法の実際の利用を可能にする新たな技術プロセス、を開発するNISTの基礎的な科学工学研究に依存している。

2011年10月のVCAT会合で製造小委員会は、先端製造を支援するNIST研究所の研究プログラムに関し、スマートで持続可能な製造; ナノマニュファクチャリング; 次世代材料の測定・モデリング・シミュレーション; 半導体製造の支援; バイオマニュファクチャリングという分野で説明を受けた。VCATは、説明のあった進行中及び計画中の研究を支持・支援する。

所見:

  • VCAT製造小委員会は、様々な業種にわたって先端製造能力を有効にするNIST研究所の研究プログラムを支持する。
  • NIST研究所が先端製造向けのリソースを増大することが重要である。NISTの設立趣意書を考慮すると、NISTは米国先端製造アジェンダの支援で最適な立場にある政府機関である。
    • 世界一流の測定や標準規格は米国製造競争力の強化に必要不可欠。
    • NIST研究所は、全ての産業に影響を与える核心能力(core capability)を提供。
    • o 様々な業種にわたるインターフェースに重点的に取り組むことは、国家の革新能力と競争力を強化する。NISTは、これらインターフェイスを認知し、インターフェースを最大限活用する出来るユニークな存在である。

提言:

  • これら分野における継続的投資やNISTプログラムの拡大、及び、先端製造ニーズに対応するより詳細な戦略計画の策定を通した先頃の進展に立脚するべきである。
  • Bryson商務長官が現政権内で製造政策策定の新たなリーダー的役割を担うことから、先端製造の省庁間努力を調整するリード機関としてNISTを指定すべきである。
  • 産業界重視で、かつ非規制のミッションを持つNISTが、先端製造パートナーシップ(Advanced Manufacturing Partnership)を構成する連邦政府機関、大学、及び産業界パートナーとの間の主要な接合点(インターフェース・ポイント)となるべきである。
  • 要求されているAMTechプログラムの予算レベルは、AMTechのミッションと目標を十分に達成するには不十分である。AMTechプログラムが十分な影響力を発揮できるレベルの資金を計上すべきである。

 


注釈:

1: 「America COMPETES法」が年次報告書の米国議会提出をVCATに義務付けている。

2: 現在のメンバーは、Google社のVinton G. Cerf博士(委員長)、GMのAlan L. Taub博士(副委員長)、スタンフォード大学のThomas M. Baer博士、Rockwell AutomationのSujeet Chand博士、DePont社のUma Chowdhry博士、エール大学のPaul A. Fleury博士、スクリップス海洋学研究所のTony Haymet博士、南カリフォルニア大学のKaren Kerr博士、バークレー銀行のShaygan Kheradpir博士、カーネギーメロン大学のPradeep Khosla博士、インディアナ大学のMichael A. McRobbie博士、Qualcomm社のRoberto Padovani博士、ロッキードマーチン社のAlton D. Romig, Jr.博士、及びAgilent Technologies社のDarlene J.S. Solomon博士の計14名。

3: オバマ大統領は2013年度NIST予算(自由裁量予算)として、2012年度を1億620万ドル上回る8億5,700万ドルを要求している。

4: 同小委員会の委員長は、GMのAlan Taub博士。

5: VCATの『2011年年次報告書』では、AMTechはオバマ大統領の2013年度予算で提案された新規プログラムとなっているが、オバマ大統領が2011年2月14日に発表した2012年度予算案やVCATが2012年2月7日に発表した「AMTechに推奨するデザイン原則(Recommended Design Principles for AMTech)」から明白なように、これは2012年度予算のタイプミス。

6: PCAST/PITAC報告書の概要については、NEDO ワシントン事務所の2011年調査レポート「オバマ大統領、先端製造パートナーシップ(AMP)を立ち上げ」の添付資料を参照されたし。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

【添付資料】

 

「AMTechに推奨するデザイン原則Recommended Design Principles for AMTech)」:概要 


1. AMTechの管理モデル

 提言:

AMTechは、産業界指導のコンソーシアムによって運営されるべきである。コンソーシアムは、大学や政府省庁機関からの幅広い参加を取り込むべきである。小企業の参加を以下のような一連のメカニズムを通して奨励すべきである:
  • コンソーシアム内の段階的メンバーシップ(例:スライド制の会費)
  • コンソーシアム内での重み付き投票権(weighted voting rights)
  • 研究業務を小企業に委任
  • 共用の専門施設へのアクセス提供
  • 選定過程において、小企業指導コンソーシアムに特別配慮



2. AMTechプログラムの業績目標と評価基準

  提言:

 AMTechプログラム全体の評価基準
  • 1業界や1部門に共通する、重大な製造ギャップの確認
  • 産業界の問題に対応する新たな研究開発を導くロードマップの作成
  • 複数の政府機関(州政府や地方政府も含む)や産業界メンバー及び大学の参加を集め、てこ入れする能力
  • プログラムの受益者は、技術普及・商用化への道・遂行計画等を含む、十分な根拠に基づいたR&Dライフサイクル計画を作成
  • 米国の競争力を大幅に強化する重要製造分野での進歩を加速するプラットフォーム技術の創造
  • 商業化へと繋がり、国内での雇用創出及び雇用保持の可能性をもつ解決策
  • 米国製造部門で雇用を保持する可能性がある、高価値テクノロジー、オートメーション技術、及びES細胞技術
  • 環境の持続性への肯定的な影響


NISTが受賞者を選定する際に使用する評価基準には、以下の側面への考慮を含めるべきである:

  • チームの提案が、AMTechプログラムに適した技術課題を確認するロードマップその他方法を策定するための明確なビジョンを示していること
  • 応募チームの参加者が、類似業務の遂行で成功した実績を持っていること
  • コンソーシアムの構成団体の種類が多岐にわたること


受益チームの業績を測定する評価基準

  • 公言した目標の達成と科学的成果の質:公表されたロードマップ、研究出版物、テストベッドの形成
  • 研究成果がどのように技術ギャップに合っているかの実証
  • 目標達成を確実にするための管理又は監督の有効性
  • 取り組んだ技術におけるリスクテーキングの証拠
  • 「グランドチャレンジ」を含むビジョン
  • 中小企業参加の成功
  • 着実な技術普及と商業化
  • 経済的/技術的インパクトの綿密な追跡と評価
  • 他の政府機関(州・地方政府を含む)、産業界メンバー、及び大学からてこ入れされた投資やリソースの量



3. テクノロジー重点分野

  提言:

AMTechは、新製品技術の開発よりはむしろ、先端材料の製造といった製造工程技術の研究を支援すべきである。AMTechプログラムは、製造工程を改善するプラットフォーム技術、又は、新製品の製造を可能にするプラットフォーム技術を重視すべきである。



4. 知的所有権

  提言:

AMTechプログラムの成功には、知的所有権(IPR)管理の明白な原則が不可欠であるため、NISTはコンソーシアム内での効率的なIPR管理のためのガイドラインを策定すべきである。



5. NIST研究所プログラムとの関係

  提言:

NIST研究所の指導層は、AMTechのアウトプットを研究所のプログラム開発に対するインプットとして利用すべきである。 



6. AMTechプログラムのその他の課題

  AMTechプログラムの設計者や実施者は以下を認識しておくべきである:

  • 州政府、地方政府、その他の経済開発機関との関係・対話
  • ミッション特化型連邦省庁の影響
  • 「メッセージング」…同プログラムが勝者と敗者を選ぶものではないことを伝達
  • 米国製造業者が競争上の優位を得ることの保証
  • AMTechプログラムが米国にもたらすベネフィットの測定方法
  • グローバル経済において、以下の競争力にどのように取り組むか?
    • 米国に本拠を置く企業
    • 米国「所有」企業
    • 米国内にかなりの研究・製造施設を持つ企業
    • 製品のドメスティック・コンテント(domestic content)

 

 

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