PCAST先端製造パートナーシップ運営委員会が発表した

『先端製造業における米国競争優位性の確保』という報告書の概要

 

2012年7月27日
NEDOワシントン事務所
松山貴代子

 

大統領科学技術諮問委員会(PCAST)の枠組み内に設置された、先端製造パートナーシップ(Advanced Manufacturing Partnership =AMP)運営委員会(注:1)が2012年7月17日に、『先端製造業における米国競争優位性の確保(Capturing Domestic Competitive Advantage in Advanced Manufacturing)』という報告書を発表した。

同報告書では、先端製造は新興技術を指すだけのものではなく、むしろ、世界的に競争力のある多くの米国製造業者・供給業者に存在する効率的で生産的、かつ、高度に統合されて厳しく管理されたプロセスを意味すると述べ、米国で先端製造が促進・成長していくためには、コミュニティや教育者、労働者や企業、連邦・州・地方政府の積極的参加が必要であると指摘している。

AMP運営委員会は同報告書で、持続可能な米国先端製造の再来をもたらす国家的枠組の役割を果たす、先端製造戦略を確立すべきであると提案しているほか、米国の競争力を確保し;イノベーション経済を生み出し;国内の製造基盤を活発にする方法で製造業を活性化することを目的とする16項目の提言を提示している。また、過去に失った製造業の雇用が戻ってくるかどうかを議論するのではなく、むしろ、製造方式を一変させる新技術において世界をリードすることに重点を置くべきであると指摘し、先端製造のためには米国のイノベーションシステムの強化が極めて重要であることを強調している。AMP運営委員会が策定した提言は以下の通り:

 

イノベーションの実現(Enabling Innovation)

提言1.  国家先端製造戦略(National Manufacturing Strategy)の確立: 

重要な分野横断的技術を特定して優先順位をつける体系的なプロセス(注:2)を介して、国家先端製造戦略を確立し、これを維持するべきである。

提言2.  分野横断的なトップ技術への研究開発(R&D)予算の増額: 

AMP運営委員会は、先端製造に不可欠な11の分野横断的技術(注:3)の初期リストを提案。また、R&D予算の対象となる技術を評価するプロセスを提案。

提言3. 製造イノベーション研究所(Manufacturing Innovation Institute =MII)の全米ネットワーク(注:4)の構築: 

先端製造技術で地域エコシステムを育成するために、MIIは官民パートナーシップとして設立されるべきである。各MMIは、@米国経済の強力分野や有望な新興技術に重点をあてるべきであり;A産業コンソーシアムと大学、又は国立研究所が受入れ先となるべきであり;B業界・大学・政府機関の代表者から成る理事会によって統治されるべきであり;C全米ネットワークに加盟し、全米理事会の定めるガバナンスモデルに従うという規定付きで、独自に機能すべきであり;D応用研究の常勤研究者やエンジニア、及び、技術商品化行程・企業所属の科学者やエンジニア・非常勤教授・ポスドク研究者・学生インターンを支援するイノベーション実現者(innovation enabler)を配備すべきであり;E大学やコミュニティカレッジの製造プログラムの実地「訓練センター」の役割を果たすべきであり;F商用化に至っていない研究や専有技術等のプロジェクトを、製造業者に有利な知的財産(IP)手続きで行うべきであり;G産業界と学界と政府(注:5)の共同出資モデルを介して予算を獲得すべきであり;H政府支援に対して業界から1対1のマッチングを得るべきであり;I新技術の導入を望む中小企業を支援する為に地域の各所に製造支援センターを設置すべきであり;J先端製造プログラムの作成・強化を望むコミュニティカレッジを支援すべきであり;K補足的な有効技術を開発する他大学や企業にグラントを提供すべきであり;L技術開発に対して共有インフラを提供すべきであり;M設計・デジタルマニュファクチャリング・試作品や実験サービス・職員研修といったビジネスサービスを提供すべきである。

提言4.  先端製造研究における産学協力の強化

産学の協力を深め、米国一流大学への投資を拡大することが必須である。より堅固なパートナーシップ開発への政策上の障壁を除去するため、迅速な産学研究協力や産学パートナーシップの開発を妨げている制限的な租税政策に終止符を打つべきである。具体的には、免税公債で建設された施設での民間利用活動にかされた上限を取り除くべきである。

提言 5. 先端製造技術の商業化に向け、より健全な環境の育成

過去数十年にわたって大学で発展してきた堅固なイノベーションエコシステムに製造業者を十分に統合する必要がある。この為には、中小企業の大学研究従事を妨げている根本的な障壁や新技術資本金へのアクセス制限といった課題に取り組む必要があり、第一歩として、スタートアップ企業支援計画と新興製造技術のスケールアップ支援計画との間に強力なシナジー(相乗効果)と真の連続性を構築すべきである。次のステップとして、@スタートアップ企業とライセンス活動で生まれた国内生産・国内雇用を示す製造業影響値(manufacturing impact measures)の、大学技術マネージャー協会(Association of University Technology Managers =AUTM)が発表する年間業績報告への統合;A製造技術普及計画(Manufacturing Extension Partnership =MEP)活動の拡大によって、大学のスタートアップ支援活動と製造業支援資源の間の繋がりを強化;B中小企業局(SBA)の中小企業革新研究(SBIR)計画に、新技術の商業的潜在力を実験する超初期段階資金供与活動を支援する「フェーズ0」を新設;C初期段階成長で利用可能な資源の拡大、及びスタートアップ企業と大手メーカーの交流促進;D連邦政府省庁間における調達計画の調整拡大によって、スタートアップからスケールアップまでの道を開拓、することが考えられる。

提言6. 国家先端製造ポータル(National Advanced Manufacturing Portal)の設置

製造部門中小企業(注:6)は米国経済の重要な一要素であり、その成長には情報(具体的には、技術支援と資源)が鍵となる。しかしながら、情報は多数のデータベースや個人のウェブサイトに散在しており、先端製造に共通する基本的質問に対する実用的回答を探すことは、時間やスタッフが限られている中小企業にとり大きな重荷となっている。これに対処するため、国家先端製造ポータル …企業や機関や個人が各自のニーズに最も適した連邦支援共同研究センターを検索できる単一のホームページ…を作成して立ち上げることを提案する。国立標準規格技術研究所(NIST)が、DOEや国防省、及び製品製造前の側面に重点をおく連邦政府機関とポータル・イニシアティブを調整していく管理ホスト役を務めるものとする。

 

人材パイプラインの確保(Securing Talent Pipeline)

提言7. 一般市民の製造業に関する誤解の訂正

製造分野において安定かつ持続可能な人材パイプラインの基盤を築くため、米国内の製造業に関する誤解を訂正し、更に、製造業に対する認識を向上させる、積極的な「製造業のイメージ(Image of Manufacturing)」広報キャンペーンに取り組むべきである。

提言8. 帰還した退役軍人の人材プールの活用: 

帰還した退役軍人は、製造部門の人材パイプラインに存在する技能ギャップを埋める為に必要な鍵となる技能の多くを持っているにも拘わらず、失業率が民間カウンターパートよりも高いという問題に直面している。退役軍人を製造部門のキャリアに導くためには、@製造部門の雇用機会についての認識の低さ;A軍事技能を民間部門の職務資格に一致させることの困難さ、という2つの障害を克服する必要がある。国防省は、移行期にある退役軍人に退役後の針路に関する支援・情報を提供するTAP(Transition Assistance Program)の内に先端製造業のキャリア機会に関する訓練モジュールを設置すべきである。加えて、国防省と労働省は、軍の職業コードを整理して民間の技能に置き換える努力を加速するべきであり、現役軍人に専門家認定(professional accreditation)を取得する機会を提供すべきである。

提言9.  コミュニティカレッジ教育への投資

コミュニティカレッジには既に、先端製造業キャリアに向けた訓練を受けるべき人々が多数入学しており、地域ニーズ重視のパートナーシップやインフラストラクチャーや教育方法が設置されている。これらプログラムを促進するため、@教育省の国家ニーズ分野における大学院生支援(Graduate Assistance in Areas of National Need =GAANN)プログラムを変更して、製造業に焦点を絞ったコニュニティカレッジ・大学レベルのフェローシップ/スカラシップを実施し;A全米科学財団(NSF)・教育省・労働省の間の教育プログラムを統合することによって、製造業教育者の全米ネットワークを構築し;Bコミュニティカレッジとの提携奨励を目的とする現行の連邦政府プログラム公募に足並みを揃えるための変更を提案・実施すべきである。

提言10. 技能の認証・認定を提供するパートナーシップの構築

高技能な製造部門人材パイプランの構築の支援では、製造業者が候補者の知識や技能を判断する国家規格や国家資格及び国家認証が重要となる。先端製造コンピテンシー・モデルの各段階における規格・認定・認証の国家枠組みを設置するため、企業団体や専門者の協会及び教育機関の同盟を支援すべきである。また、地域毎にコミュニティカレッジの製造プログラム向けに認定(accreditation)のような審査制度を設定すべきである。

提言11と12. 大学の先端製造プログラムの強化、及び、全米製造フェローシップ/インターンシップの立ち上げ

米国の主要な研究大学は、先端製造における次世代の教育者や業界リーダーの育成で重要な役割を持つものの、製造業は大学の通常の学部や学位といった枠にうまく適合しないため、過小評価されがちである。大学は、既存の工学カリキュラムを製造業講座で増補すべきであり、製造業の包括的概観を学生に提供する大学院レベルのプログラムを新設すべきである。これを実施するため、@大学レベルでは、研究大学に製造業リーダーシップの修士課程を設置し;A政府レベルでは、全米製造フェローシップや製造フェローシップにおける退役軍人リーダーシップ(Veterans Leadership in Manufacturing Fellowhips)、トレイニーシップやカリキュラム策定に資金を提供し;B産業界レベルでは、先端製造プログラムの大学院生のために専門職の道を提供すべきである。

 

ビジネス環境の整備(Improving the Business Climate)

提言13.  税制改革法を制定

国内製造業者が世界で競争する上での条件を平等にするため、税制改革を行うべきである。具体的には、@製造業への投資を奨励するため、国内製造活動に対する税率を引き下げ;AR&D代替簡易税額控除(Alternative Simplified Credit)を20%に引き上げて、これを恒久化し;B企業の米国内投資を奨励するため、企業税を全般的に引き下げ、米国に本部を置く企業の海外収益に関する現行税法を改正すべきである。

提言14.  規制政策の簡素化

規制は正しく行われると、社会の大きな利益をもたらし、産業界の力量や自信を高めることになるが、過剰かつ不適切に行われると、イノベーションや国際競争力を阻害することになる。このため、@規制案に対するコメント受付よりもずっと前の時点で政府規制当局と規制対象業界との間で活発な対話を行うべきであり;A利用可能な最善の科学に基づいて、費用対効果分析(cost-benefit analysis)やリスク評価を行うべきである。

提言15.  貿易政策の整備

貿易政策は、製造業者が新工場の立地場所を選定する際に重要な検討材料となるため、米国は通商協定交渉でライバル諸国に遅れをとってはならない。また、米国は外国市場へのアクセスを確保し、世界競争を推進する政策を優先視すべきである。短期目標としては、@将来は関税よりも規制や標準が大きな障壁となるため、規制問題に関する一貫したアジェンダを構築する省庁間プロセス、及び主要貿易相手国とのキャパシティビルディング共同イニシアティブを強化すべきであり;A新たな貿易交渉 …特に大西洋パートナーシップ(TransAtlantic Partnership)の交渉を優先…に着手すべきであり;B時代遅れの輸出管理体制の改革を促進すべきである。

提言16.  エネルギー政策の更新

米国内での製造業活性化努力はエネルギー政策の検証をなくしては完全とは言えないため、@発電業者や配電業者にコスト高効率で革新的な省エネ対策を取るようなインセンティブを提供し、あらゆる規模の製造業者による省エネ対策の導入を支援するツールやインセンティブを提供すべきであり;A国産エネルギー供給の多様化と増加をはかるべきであり;Bエネルギー貯蔵装置・太陽光・風力発電といった先進技術の製造に存在する好機を活かすために、有望技術や貯蔵装置の官民研究に対する財政支援を延長すべきであり;C低炭素経済へ移行するために、クリーンエネルギーと次世代省エネ技術の実証・導入を加速することを目的として、積極的に基礎R&Dを促進すべきである。

 

 

 

 


注釈:

1: ダウケミカル社のAndrew Liveris社長とマサチューセッツ工科大学のSusan Hockfield学長が共同議長。

2: AMP運営委員会が提言する体系的なプロセスは、@国家先端製造戦略のプランと目標の設定;A技術ロードマップの作成;Bプログラムの策定と管理;C進捗状況の見直しと針路修正、の4段階プロセス。

3: @高度なセンシング・測定・プロセス制御;A先端材料の設計・合成・加工;B可視化・インフォマティックス・デジタル製造技術;C持続可能な製造;Dナノマニュファクチャリング;Eフレキシブルエレクトロニクス製造;Fバイオマニュファクチャリング・ バイオインフォマティックス;G積層造形;H 高度な製造装置・実験装置;I産業ロボット;J 先端成形・接合技術。

4: オバマ大統領が2012年3月9日に提案した全米製造イノベーションネットワーク(National Network for Manufacturing Innovation =NNMI)に関しては、2012年4月5日付け、及び5月10日付けのデイリーレポートを参照されたし。

5: 連邦政府や州政府からは最低5年間の支援を保証し、最高10年間までの更新が可能な財政支援。

6: 2009年には製造企業の84%を占め、2010年には製造部門労働者の51%を雇用。

 

 

 

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