連邦控訴裁判所、環境保護庁の州間大気汚染規定(CSAPR)を却下

2012年9月10日
NEDOワシントン事務所
松山貴代子

コロンビア特別区連邦控訴裁判所(以下、DC連邦)訴訟裁判所)が2012年8月21日に、州境を越えて移動する大気汚染ガスの排出削減を目的とする環境保護庁(EPA)の州間大気汚染規定(Cross State Air Pollution Rule =CSAPR)はEPAの権限を超越した内容であるとして、これを2対1で却下した。

CSAPRは、風下州のオゾン・微粒子汚染の一因となっている米国東部の風上州28州(注:1)にある発電所から放出される二酸化硫黄(SO2)と窒素酸化物(NOx)の排出削減を目的として策定された規制で、ブッシュ政権時2005年3月に発表されたクリーンエア州間規定(Clean Air Interstate Rule =CAIR)の代替案として2012年1月1日から実施される予定となっていた。しかしながら、CSAPRに反対するEME Homer City Generationを始めとする多くの企業がEPAを相手取って訴訟を起こしたことをうけ、DC連邦控訴裁判所は2011年12月30日、判決がでるまでの間はCSAPRの実施を延期するようEPAに命じていた。

2012年8月21日にDC連邦控訴裁判所は、EPAが風上州の排出削減規定でEPA権限を超えており、連邦政府大気汚染計画に「善隣(good neighbor)」排出削減義務を設定したのはEPAの誤判定であったという理由で、CSAPRを却下する裁定を下した。DC連邦訴訟裁判所はEPAにCSAPRを差し戻し、既存のCAIRに代わる法的に有効な代替規制を策定するまでは、ブッシュ政権時のCAIRを引続き実施していくよう指示した。

ここでは、ブッシュ政権のクリーンエア州間規定(CAIR)とその訴訟結果、オバマ政権の州間大気汚染規定(CSAPR)とその訴訟結果、及び予想されるEPAの今後の対応方針を概説する。

 

I.  ブッシュ政権が策定したクリーンエア州間規定(CAIR)

(1) 2005年3月10日、ブッシュ政権が酸性雨計画のcap-and-trade制度に立脚して、東部28州の火力発電所から放出されるSO2とNOx排出を向こう10年間で大幅に削減するクリーンエア州間規定(CAIR)を発表。
  • CAIRの目標は、風下州の全米環境大気質基準(National Ambient Air Quality Standards =NAAQS)達成を困難にしている風上州から放出される大気汚染物質の州間輸送の抑制。連邦政府所有地におけるエネルギー開発の管理権限を州政府に付与
  • 削減目標は、NOx排出が2003年水準比60%減、SO2排出が2003年水準比70%減。
  • 排出削減義務を達成するため、州政府担当官は下記の2つの遵守方法のいづれかを選択:
    • 2段階式の排出上限が設定された、EPA運営の州間cap-and-trade型制度への参加を電力会社に義務付け
    • 州政府が選択した施策によって、州別の排出上限を遵守

(2) 2005年7月、産業界と環境保護主義者が各々、EPAのCAIRをDC連邦控訴裁判所に提訴。原告側の各々の主張は以下の通り:

  • 石炭、天然ガス、原子力等の電力業界12社
    • EPAは大気汚染の低減という当初目的を超越し、CAIRの下に排出クレジットを割り当て、特定の地理的領域における特定工場の排出に上限を課すおそれがある
  • ノースカロライナ州と環境保護者
    • CAIRの排出権取引制度は、CAIRが期待する結果をもたらすには不十分である。
    • CAIRの(i)電力会社をクリーンエア法(CAA)の規制対象から外して、国立公園・野生生物保護区向けの特別規制の対象にすることを示唆した文章と、(ii)多くの地域が現在規準を達成するまではEPAは大気汚染物質の地域間輸送を制限する新規制を導入しないとした文章は、EPAの将来の規定策定能力を制限することになる。
  • (3) 2008年7月11日、DC連邦控訴裁判所は「ノースカロライナ州vs EPA訴訟」で、CAIRがCAAの義務要件を満たしておらず、EPAアプローチには根本的な欠陥があるとして、CAIRを却下し、無効とした。判定の具体的論拠は以下の通り:
    • 風上地域全体の排出上限と排出権取引計画を設定するというEPAアプローチは、州毎の設定を義務付けるCAAに矛盾する。地域全体の排出削減の場合、ある州がCAIR排出取引計画を利用して現在以上に汚染することも理論的には可能である。
    • CAIRの排出量枠はCAAに適合していない。地域全体のNOx上限を策定することによって排出量枠を確立し、その地域の州に排出権を公平に分配するというEPAのアプローチは、風下州の大気汚染の一因となる風上州の州毎の排出量に対応するというCAA命令を満たしていない。

    (4) 2008年9月24日、EPAはDC連邦控訴裁判所の大法廷に、CAIR却下の再審理を申し立て。

    (5) 2008年12月23日、DC連邦控訴裁判所は当初(同年7月)の判定措置を改正。CAIR無効措置はCAIRの目指す環境価値保護強化を一時的に挫折させることになるという理由で、CAIRを無効とはせずにEPAへ差し戻し、EPAがCAIRに代わる新規制を策定するまで、又はCAIRを適切に修正するまでは既存CAIRの実施を継続するよう指示。

     

II. オバマ政権が策定した州間大気汚染規定(CSAPR)

(1) オバマ大統領就任後の2009年2月27日、リサ・ジャクソンEPA長官はブッシュ政権策定のCAIRに代わる新規制制度の開発を進めることを示唆。

(2) 2011年7月6日、EPAは、風下州のNAAQS未達成やNAAQS維持困難の原因となっている米国東部風上州27州(後、28州)にある発電所からのSO2排出を2014年までに2005年比73%減、NOx排出54%減することを義務付ける州間大気汚染規定(CSAPR)を発表。CSAPRの概要は以下の通り:

  • 年間SO2排出量、年間NOx排出量、及びオゾンシーズン(地上レベルのオゾン濃度が高い5月から9月)のNOx排出量に対して個別の削減プログラムを設定。
  • 年間SO2排出量削減プログラムと年間NOx排出量削減プログラムは2012年1月1日より開始、オゾンシーズンNOx排出量削減プログラムは2012年5月1日から開始。
  • 酸性雨計画、NOx州実行プラン(State Implementation Plan =SIP)やNOx割当取引計画(Budget Trading Program)、又はCAIRからCSAPRへの排出権繰越は行わない。
  • 対象施設は1081箇所で、施設毎に排出量枠を設定
  • 発電所による同規制遵守方法には以下が含まれる:
    • 既存施設のエネルギー効率改善
    • 既存のSO2及びNOx汚染防止装置の性能改善
    • 計画済み、又は建設済みのクリーン発電源の活用
    • 低硫黄石炭の利用、燃料の転換
    • 低NOxバーナーやスクラバーといった汚染防止装置の設置やアップグレード
    • 排出権の購入

(3) CSAPR規制に対してEME Homer City Generation他の企業が訴訟を起こしたことをうけ、DC連邦訴訟裁判所は2011年12月30日、EPAに対してCSAPRの実施「延期」を命令。

(4) 2012年4月20日、DC連邦訴訟裁判所で原告側と被告側が口頭弁論。

(5) 2012年8月21日、DC連邦控訴裁判所はEPAのCSAPR規制を2対1で却下。EPAにCSAPRを差し戻し、既存のCAIRに代わる代替規制をEPAが策定するまで、CAIRの実施継続を指示した。判定論拠は以下の通り:

  • EPAは、風下州のNAAQS遵守に必要である以上の排出削減を幾つかの風上州に義務付けている。
  • 州独自の計画によって排出削減を実施する機会を州政府に与えることなく、EPAは連邦政府大気汚染計画に州政府の「善隣」排出削減義務を設定している。 

 

III. EPAの今後の対応: 

EPA代表は、EPAではDC連邦控訴裁判所の8月21日裁定を見直しているところであり、これが完了した時点で次の適切な方針を決定する意向であると語っている。EPAが上訴を決めた場合、EPAではDC連邦訴訟裁判所の大法廷での審理、もしくは、連邦最高裁判所での審理を要求することが可能である。

DC連邦控訴裁判所の8月21日裁定で唯一反対意見を唱えたJudith Rogers裁判官は、クリーンエア法(CAA)がパブリックコメント期間中に規制や手続きに対して出された具体的な異議に限って司法審査を認めていることを指摘し、裁判所には、抗議者側である州政府や産業団体がCSAPR提案のパブリックコメント期間中に問題を提起し損なったという理由で起こした訴訟を取り上げる権限はないと論じている。こうした理由から、一部の法律第一人者等はEPAによる上訴の可能性が高いと見ている。

 

 


注釈:

1: 2011年12月15日に補足規定が最終決定されてオクラホマ州が追加となるまでは、対象は風上27州であった。

 

 

《参考資料》

  • ITTA Update: EPA's Regulations Impacting Power Plants (Federal Court Rejects CSAPR)
  • NEDO Washington Daily Report, 2005年3月11日号「環境保護庁、クリーンエア州間規定を発表」(http://www.nedodcweb.org/dailyreport/2005-3-1.html
  • NEDO Washington Daily Report, 2005年7月13日号「環境主義者と産業界、それぞれ環境保護庁(EPA)のクリーンエア州間規定(CAIR)を提訴」(http://www.nedodcweb.org/dailyreport/2005-7-1.html
  • EPA FACT SHEET "The Cross-State Air Pollution Rule: Reducing the Interstate Transport of Fine Particulate Matter and Ozone"
  • EPA Office of Air and Radiation 's "Cross-State Air Pollution Rule: Reducing Air Pollution Protecting Public Health"
  • Michael Best & Friedrich LLP, Newsroom, "DC Circuit to EPA: Multi-Pollutant Strategy For Interstate Clean Air Fails to Meet Clean Air Act Requirements" August 19, 2008
  • Michael Best & Friedrich LLP, Newsroom, "CAIR Update: DC Circuit Revises Remedy and Remands EPA's Clean Air Interstate Rule without Vacatur" February 2009

 

 

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