オバマ大統領の一般教書演説

2013年2月13日
NEDOワシントン事務所
松山貴代子

バラック・オバマ大統領は2013年2月12日、二期目就任後初めての一般教書演説を行った。大統領は議会に対して、自動歳出削減措置(sequestration)の回避、銃規制や移民改革法案等への対応を促すとともに、米国経済成長の真の原動力は中産階級であり、中産階級の再建が米国の繁栄を復活させることになるとして、製造業雇用の増大や気候変動・エネルギーへの対応、教育問題やインフラストラクチャー整備といった幅広いアジェンダで20余の野心的な計画や目標を打ち出した。

大統領は、「我々が必要とするのはより大きな政府ではなく、優先目標を設定して広域的な成長に投資を行う賢明な政府である」と主張し、今回の提案が米国財政赤字を増大するものではないことを強調した。

オバマ大統領は先月21日に行われた二期目の大統領就任演説で長らく放置状態にあった気候変動問題に言及したことから、関係者の間では一般教書演説で気候変動がどの程度取り上げられるかに関心が集まっていた。一般教書演説で大統領は、堅固な経済成長を促進しつつも気候変動問題で意味ある進展を果たすことは可能であると主張し、ジョン・マケイン上院議員(共和党、アリゾナ州)とJoe Lieberman元上院議員(無所属、コネチカット州)が数年前に協力して策定した法案(注:1)のような、超党派の市場ベースの気候変動対応法案を検討するよう議会に要請。一方で、議会が迅速に動かないのならば、行政府が現在及び将来に講じることの出来る行政施策を考案するよう閣僚に指示する意向も表明した。大統領は、第113議会で主要議題になると予想される、既存発電に対する環境保護庁(EPA)の規制やKeystone XLパイプランには触れなかったが、これはオバマ政権に取り組む意思がないということではなく、政権としての取り組み方にコンセンサスが得られていないことを示すものと見られている。

一般教書演説の終了後にホワイトハウスは、オバマ大統領が言及したアジェンダに関する政策イニシアティブを発表している。ここでは、『強い中産階級と強いアメリカを実現する大統領計画(President's Plan for a Strong Middle Class & A Strong America)』に記載されたイニシアティブの内の、@製造業雇用の復活; Aクリーンエネルギーを介した原油輸入依存度の削減と米国エネルギー安全保障の強化について概要を報告する。

 

A.  米国内の製造業雇用復活

米国を新雇用と製造業を引き付ける魅力ある場所にすることが最優先事項である。米国では雇用喪失が10年以上も続いたが、米国の製造業はこの3年間で約50万の雇用を創出した。この進展に立脚して、製造部門を再活性化する大統領の総合計画は以下の通り:

1) 企業やコミュニティと提携し、製造イノベーション研究所(Manufacturing Innovation Institute)ネットワークを通じて米国製の技術と米国労働者へ投資。 

  • 大統領は、15ヶ所の製造イノベーション研究所からなる全米製造イノベーション・ネットワークの創設に10億ドルの投資を提案。議会に同提案への採決を要請。
  • オハイオ州ヤングスタウンに昨年設置されたパイロット研究所(注:2)の成功を踏まえ、大統領は行政権限を用いて、今年新たに3ヶ所の製造イノベーション研究所を設立。(注:3)

2) アウトソースする企業が受ける優遇税制措置を撤廃し、米国税法改正によって米国の競争力を強化。

  • 国内製造業を支援し、企業の国内投資を奨励する為に、大統領は企業税法の改正を提案:
    • 企業税の税率引き下げ(特に、製造業の企業税を低率に設定)
    • 研究開発(R&D)税控除の拡大と恒久化
    • 海外での利益に対して最低税額を設ける「オフショア課税(offshoring tax)」の導入

3) 雇用の米国回帰と対米投資の奨励

  • 大統領は企業に、対米投資の拡大を要請。
  • 米国の州や都市が企業誘致で諸外国と競合することを支援するため、大統領は商務省の対米企業投資推進努力を大幅に拡大。この努力の一環として行政府は今年、世界各国の企業と[米国の]地方指導者を引き合わせることを目的とするSelectUSA投資サミット(SelectUSA Investment Summit)を開催。

 

B. クリーンエネルギーを介した原油輸入依存度の削減と米国エネルギー安全保障の強化

クリーンエネルギーの市場と雇用は4年前に他諸国に支配されていたが、2012年には米国で新設された発電能力の約半分が風力エネルギーとなり、太陽エネルギーの価格も年々低下して、クリーンエネルギーの市場と雇用に変化が生じている。天然ガスから再生可能資源に至る国産のエネルギー資源に投資する大統領の「エネルギー全活用(all-of-the-above)」計画により、米国は輸入原油への依存度を軽減し、国内で雇用を創出し、米国家庭やビジネスのエネルギー費を削減し、炭素排出を削減。大統領は以下を提案:

1) これまでの成功に立脚し、気候変動に対応する常識ある措置を継続

  • 米国は、風力・ソーラー発電の倍増や自動車燃費の引き上げ(2025年までに1ガロン当たり54.5マイル)といったオバマ政権一期目の進展を踏まえ、炭素排出削減措置を継続しなければならない。オバマ大統領は、議会が[気候変動対応の]行動を取らなかった場合に行政府が検討するべき行政上の追加措置(汚染削減、悪化する気候変動の影響に対する都市や国家の対応準備、及び、より持続可能なエネルギー源への移行促進に役立つ措置)を特定するように閣僚に指示。

2) 2020年までに再生可能発電を倍増

  • 2020年までに風力・ソーラー・地熱の発電量を再度倍増するため、大統領は、クリーンエネルギー投資にインセンティブと確実性を提供する生産税額控除(Production Tax Credit =PTC)を企業税法改正の一環として恒久化をするよう議会に要請。

3) 米国家庭をガソリン価格の急騰から守る、エネルギー・セキュリティ・トラスト(Energy Security Trust)の創設

  • オバマ大統領は米国のエネルギー安全保障を引続き強化する為に、よりクリーンな代替燃料への移行を可能にする長期政策にコミットしている。国有地や連邦政府管轄海域における石油と天然ガス開発から上がる歳入を活用して、自動車やトラックを代替燃料車へ転換する為の研究開発を推進する、エネルギー・セキュリティ・トラスト(注:4)を創設する。

4) 米国のエネルギー生産性を2030年までに倍増

  • 米国の家庭とビジネスによって浪費されるエネルギーを2030年までに半減するという大胆ながら達成可能な新目標を提示。オバマ政権の教育改革アプローチであるRace to the Top 計画の成功を踏まえ、大統領は、州政府によるエネルギー効率化・エネルギー浪費削減の政策実施を支援する「Race to the Top」アワードの立ち上げを発表。


 

 


注釈:

1: 両上院議員は2007年に、『2007年気候管理・イノベーション法案(Climate Stewardship and Innovation Act of 2007)』を共同提案している。同法案は6種類の温室効果ガス(GHG)をcap-and-trade型制度によって段階的に削減し、2050年までに1990年レベル比60%減にするという内容で、年間1万メトリックトン(CO2換算)以上のGHGを排出する施設を所有または管理する、電力部門、運輸部門、産業部門、及び、業務部門の事業体が対象となっていた。エネルギー省のエネルギー情報局(EIA)が両上院議員の要請を受けて同法案の経済影響分析を行い、同法案が法制化された際のコストは2009年から2030年までで、国内総生産の約0.22%、5,330億ドルと推定する報告書を2007年に発表している。EIAの同報告書に関しては、NEDOワシントン事務所が2007年8月17日に報告した調査レポート『エネルギー情報局によるLieberman-McCain気候変動法案の経済影響分析報告』」を参照されたし。

2: National Additive Manufacturing Innovation Instituteと呼ばれる研究所。

3: 新設される製造イノベーション研究所は、国防省とエネルギー省を中心とする連邦省庁の既存資源の共同投資と、民間部門の新たなコミットメントによって設置されることになる。

4: エネルギー・セキュリティ・トラストは、Securing America's Future Energy(著名な実業家と引退した軍事指導者等によって2005年に設立された超党派グループ)の発案で、著名な実業家及び引退した海軍提督や将校を含む幅広い超党派の支持をうけている。

 

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