米国の対米外国投資委員会(CFIUS)、万向集団による

A123 Systems社の買収を承認

2013年2月6日
NEDOワシントン事務所
松山貴代子

米国の対米外国投資委員会(Committee on Foreign Investment in the United States =CFIUS)は2013年1月29日、中国大手自動車部品メーカーの万向集団(Wanxiang Group)が米国の先進電池メーカーA123 Systems社(以下、A123社)の自動車、エネルギー貯蔵、及び商業部門の事業を2億5,660万ドルで買収し、米国のNavistas Systems社がA123 Systems社の政府契約と軍事関連事業を225万ドルで買収することを承認した。

万向集団へのA123社売却に関しては、国からの補助金で開発された技術を中国へ譲渡することになる取引に、民主党議員と共和党議員の双方から不満と懸念の声が上がっており、首都ワシントンでは政治討論が続いている。ここでは、万向集団によるA123社買収までの過程、米国議会の反応、及び、対米外国投資委員会(CFIUS)のプロセスについて概説する。

 

A. 万向集団のA123社買収

  • 電気自動車用リチウムイオン電池の開発・製造で2009年にエネルギー省(DOE)から2億4,900万ドルのグラントを獲得したA123社(本拠はマサチューセッツ州)が2012年10月16日に破産保護を申請。自動車部品メーカーのJohnson Controls社がA123社の自動車事業資産を1億2,500万ドルで買収し、会社更生手続き中のつなぎ融資として7,250万ドルを提供することを確約。(注:1)

  • 2012年11月、Johnson Controls社は、A123社資産入札に関心を示す万向集団につなぎ融資の提供役を譲渡。デラウェア裁判所の裁判官、万向集団がA123社に5,000万ドルの融資を行うことを認可。

  • 2012年11月、Chuck Grassley上院議員(共和党、アイオワ州)とJohn Thune上院議員(共和党、サウスダコタ州)が財務長官に、A123社を中国企業へ売却する可能性についての疑問を提起する書簡を送付したほか、超党派上院議員9名(民主党議員6名(注:2)、共和党議員3名(注:3))が、軍事関連事業に使われているA123社製の最先端技術が送電網や通信用途にも利用されていることを警告する書簡を財務長官・国防長官・エネルギー長官・国土安全保障長官に送付。

  • 2012年12月、ミシガン州選出の超党派議員13名(民主党議員9名(注:4)、共和党議員4名(注:5))が国産知的財産の保持及び国防に不可欠な製造業の保持が必須であることを考慮し、万向集団の入札を厳重に吟味するようCFIUSに要請。

  • 万向集団、2012年12月に行われた破産裁判所のオークションで、A123社の殆どの資産(グリッド、商業部門事業、ミシガン州・マサチューセッツ州・ミズーリ州にあるA123社の施設を含む)を2億5,660万ドルで取得。

  • 2013年1月29日、対米外国投資委員会(CFIUS)は万向集団によるA123社の自動車・エネルギー貯蔵・商業部門事業の買収(注:6)を承認。一方、A123社の政府契約と軍事関連事業はNavitas Systems社(本拠はイリノイ州)が225万ドルで買収。

 

B. 米国議会の反応

  • Chuck Grassley上院議員(共和党、アイオワ州)とJohn Thune上院議員(共和党、サウスダコタ州)、CFIUSはこの取引を阻止すべきであったと主張。CFIUSは、ブリーフィングの要請を受け、数日にわたって議員への説明を実施。

  • ミシガン州選出のLevin上院議員(民主党)とStabenow上院議員(民主党)、同取引の国家安全保障上の問題、及びミシガン州にあるA123社工場の将来についてCFIUSと討議中。

  • ミシガン州選出のBill Huizenga下院議員(共和党)は、A123社の開発した中核技術や知的財産を軍事部門と非軍事部門に分離することは不可能であると主張。公的資金を受けたセンシティブな技術が外国企業に売却されることを防止する為の法的解決策(注:7)を検討中であると発言。


C. 対米外国投資委員会(CFIUS)のプロセス

  CFIUSは、取引が国家安全保障上の理由から妨害されるべきかどうかを判断する、財務省主導の省庁間委員会。構成メンバーは、財務省、司法省、国土安全保障省、商務省、国防省、国務省、DOE、米通商代表部(USTR)及び大統領科学技術政策局(OSTP)の代表者。

  • CFIUSは、取引が阻止されるべきであると判断した場合、その旨を大統領に提言する。取引を阻止する最終決定は大統領権限となる。

  • 大統領は、CFIUSが承認を決定した取引については、見直しを行わない。

  • CFIUSは表向きには、結論に至るまで大統領との協議を行わないものの、注目を集めている取引に関するCFIUS提言は殆どの場合、ホワイハウスとの調整が行われる。

  • CFIUSの承認を覆す立法手段はない。

      但し、2006年のドバイ・ポーツ・ワールド(本拠はアラブ首長国連邦のドバイ)による米国主要港数港の買収時には、CFIUSが承認したこの買収取引に多数の連邦議員が猛反対したため、最終的には政治的圧力によってドバイ・ポーツ・ワールドが取引から撤退したという前例はある。


D. CFIUS決定に見られる米国政府の対米外国投資に対する姿勢 

 CFIUSは、万向集団のA123社買収には承認の決断を下したものの、2012年9月には中国系企業による風力発電施設の買収を阻止する決定を下し、マスコミの注目を集めた。CFIUSは、中国人所有企業のラルズ社(Ralls Corporation)がオレゴン州ボードマンにある風力発電施設を買収する計画は、米海軍兵器システムの訓練施設に近いという国家安全保障上の懸念に基づき、ラルズ社の買収阻止をオバマ大統領に勧告し、大統領は2012年9月にラルズ社に対して、風力発電開発地域からの撤退を命じる大統領命令を発令(注:8)した。

 ラルズ社による買収を阻止する決定は中国政府から、オバマ政権は米国クリーンエネルギー分野への海外直接投資を妨害しようとしているという批判を招くこととなった。これに対してオバマ政権は、決定理由はクリーンエネルギー部門に関連する問題に基づくのではなく、国家安全保障上の懸念に基づくものであるということを明言している。

 A123社に関するCFIUSの決定は、CFIUSプロセスが経済面や競争面の懸念に基づいて海外投資を阻止することを目的としているのではなく、特に国家安全保障上の関心事項を守ることを目的としているという、米国政府の公式見解を明示していると言える。

 

 

 


注釈:

1: 同社の破産申請の詳細については、2012年10月16日号デイリーレポートを参照されたし。

2: Sherrod Brown(オハイオ州)、Richard Durbin(イリノイ州)、Herb Kohl(ウィスコンシン州:第112議会)、Tom Carper(デラウェア州)Chris Coons(デラウェア州)、及びTammy Baoldwin(ウィスコンシン州:第113議会。Herb Kohl議員に代わる新議員)。

3: Rob Portman(オハイオ州)、Ron Johnson(ウィスコンシン州)、及びMike Johanns(ネブラスカ州)。

4: Carl Levin上院議員、Debbie Stabenow上院議員、John Dingell下院議員、Gary Peters下院議員、Sander Levin下院議員、John Conyers下院議員、Dale Kildee下院議員、David Curson下院議員、及びHansen Clarke下院議員。

5: Bill Huizenga下院議員、Dan Benishek下院議員、Mike Rogers下院議員、及びCandice Miller下院議員。

6: A123社はこれまでに、経済刺激策のDOEグラント2億4,900万ドルの内の1億3,200万ドルを受領。未給付のグラントに関しては、万向集団はこれを受理しない。

7: 下院エネルギー商業委員会のMarsha Blackburn副委員長(共和党、テネシー州)は2013年1月8日、DOEの研究資金を受けた国内企業が非友好的諸国の企業によって買収されることを制限するSMART SALE法案(Stop Mergers, Acquisitions and Risky Takeovers Supplied by American Labor and Entrepreneurship Act)を提出予定であると発表。この詳細については2013年1月9日号デイリーレポートを参照されたし。

8: 対米外国投資を阻止する大統領命令が発令されたのは、1990年にジョージ・H.W.ブッシュ元大統領が中国航空技術輸出入公司(China National Aero-Technology Import & Export Corp.)によるMAMCO Manufacturing社(ワシントン州を本拠とするモーター・発電機メーカー)の買収を阻止して以来、22年ぶりのこと。

 

 

 

《参考資料》

  • "US Government Allows Chinese Purchase of A123 Systems" International Technology and Trade Associates (ITTA) Update, January 31, 2013
  • "Chinese company to provide financing to A123" Associated Press, November 5, 2012
  • "Strategic Materials Advisory Council Lauds Congressional Opposition to Sale of A123 systems to Wanxiang Group Corporation" Business Wire, December 3, 2012
  • "CFIUS approval of A123 Systems deal draws critics" The Deal Pipeline, January 30, 2013

     

     

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