オバマ大統領の一般教書演説

2014年1月30日
NEDOワシントン事務所
松山貴代子

バラック・オバマ大統領は、2014年1月28日に米議会の上下両院合同会議で行った一般教書演説で、格差の是正、経済、イノベーション、エネルギー、教育、ヘルスケア、軍隊、テロリズム、外交、復員軍人のケア等について国の現状を報告すると共に、今年の新たな目標と指針を発表した。

米議会の2013年会期(第113議会第1会期)はこれまでにも増して民主党と共和党の対立が著しい会期となり、オバマ大統領が昨年の一般教書演説(注:1)で掲げた『強い中産階級と強いアメリカを実現する大統領計画(President's Plan for a Strong Middle Class & A Strong America)』に示された政策イニシアティブのいずれも立法化されないままに会期を終了している。

中産階級の生活安定が自政権の最優先事項であるとするオバマ大統領は、2014年が「行動の年(year of action)」になると表明。全国民に一層の機会を提供するため、議会と協力していくほか、独自に行政施策も講じていくことを宣言した。

一般教書演説の終了後にホワイトハウスは、オバマ大統領が言及したアジェンダを『全国民への機会提供:大統領が2014年に講じる主要行政施策(Opportunity for All: Key Executive Actions the President Will Take in 2014)』というファクトシートにまとめて発表している。ファクトシートはアジェンダを、@中産階級の安定と職場での機会(Middle Class Security & Opportunity at Work); A雇用と経済的機会(Jobs & Economic Opportunity); B学校と教育の機会(Schools & Education Opportunity)に整理し、各々に関して、行政施策及び議会との協力によって進めていく項目を説明している。ここでは、A雇用と経済的機会について概要を報告する。

 

雇用と経済的機会(Jobs & Economic Opportunity)

1. 行政施策によって以下を実施:  

  • 製造イノベーション研究所4ヶ所を新設

    研究所は地域に特有な強みを生かして、企業・大学・コミュニティカレッジ・政府を団結させ、米国製造会社が生産に利用できる世界トップレベルの製造技術・能力の開発に共同投資していく。 既に発表されている製造イノベーション研究所4ヶ所(注:2)の成功を踏まえ、大統領は行政権限を用いて2014年に新たに4ヶ所の製造イノベーション研究所を設立する。

  • 需要のある技術を米国民が習得することを支援する連邦政府研修プログラムの全体的見直し

    バイデン副大統領に米国の職業訓練制度の全面的見直しの指揮を依頼済み。大統領は今後数日以内に、需要の高い分野に必要な技能に焦点を当てた連邦政府研究プログラムを、各プログラム毎に見直す計画の詳細を発表する予定。

  • トラックの燃費改善

    大統領は、天然ガス他の代替燃料で走行する中・大型車両とそれに必要なインフラストラクチャーを推進する新たなインセンティブを提案する予定。

  • 省エネルギー及びクリーン電力への移行で、州・市・部族政府と提携

    「国家気候変動行動計画(National Climate Change Action Plan:以下、「気候行動計画」と呼ぶ)」(注:3)の一環として、大統領は行政府に、クリーンエネルギー・省エネルギー政策の策定で州政府と協力するよう指示。既に、10州が炭素汚染を削減する市場ベース制度を持ち、35以上の州が再生可能エネルギー使用目標を持ち、25以上の州がエネルギー浪費を減らす州全体プログラムを持っている。こうした進展に立脚し、環境保護庁(EPA)は発電所を対象とする新たな炭素排出規準の策定で州政府や公益事業等と協力。

  • 安全でレスポンシブルな天然ガス生産の推進

    行政府は、炭素汚染削減に役立つ天然ガスの生産をより安全にする為、公有地での天然ガス掘削に対する新環境基準を策定中であり、安全でレスポンシブルな天然ガス生産研究への投資も継続。行政府はまた、大統領の「気候行動計画」の下で、メタン排出を削減する多部門(マルチセクター)戦略も策定中。

  • 新たなエネルギー効率基準の設定

    「気候行動計画」の一環として、エネルギー省(DOE)は昨年8月以来、電化製品・装置に関する5つの省エネ基準を提案。その内の一つが最終化。

  • バランスの取れた保全と開発 … 貴重で開発できない土地を保存しつつ、一部国有地での再生可能エネルギー事業を認可

    大統領は内務省に対し、2020年までに国有地において20,000メガワット相当の再生可能エネルギープロジェクトを認可するという大統領目標の達成に向けての努力を継続するよう指示。

  • 気候変動の影響に対するコミュニティの抵抗力を高める対策

    2013年11月に大統領は、コミュニティの異常気象への抵抗力強化を援助することを政府省庁に指示する大統領命令に署名。この大統領命令の下、政府省庁は気候変動の影響に対するプリペアドネス(preparedness:被害軽減の為の備え)を支援する連邦プログラムを更新中。

  • 米国クリーンエネルギー製造会社のための新市場開拓

    「気候行動計画」の下で大統領は行政府に対し、クリーンエネルギーや再生可能エネルギー技術を含む環境製品に対する関税を廃止する協定を交渉するよう指示。 

     

2. 議会との協力によって以下を実施:

  • 法人税の改定及び海外移転に係わる税法の抜け穴を排除することで、インフラストラクチャーへの投資を賄うというグランドバーゲンへの支援要請

    大統領は、2013年7月にテネシー州チャタヌガ市で発表した、法人税を簡素化する包括的な改革と建設部門の雇用を創出する国内インフラ再構築への投資を組み合わせた中産階級の為のグランドバーゲン(注:4)で議会と協力する用意あり。

  • 移民制度の改正

    国境警備の強化; 不法滞在者を雇う雇用主の取締り; 不法滞在者に対する市民権への道の提供によって、破綻した移民制度を改正する必要がある。大統領は、移民制度改革の実現の為に民主・共和両党と協力する意思あり。

  • 全米製造イノベーションネットワーク(National Network of Manufacturing Institute)を介し、全米各地のコミュニティーを世界の先端製造業センターへと変貌

    大統領は議会に対して引続き、今後10年間で最高45ヶ所の製造イノベーション研究所を設立するよう要請。

  • コミュニティカレッジと公益団体や非営利団体の提携による職業主導型研修講座の支援及び拡張

    大統領は、あらゆる年齢の労働者が良い仕事やキャリアへと繋がる技能を学ぶ研修プログラムへとアクセス出来るよう、予算増額に関して議会と協力することを希望。

  • 小企業やアントレプレナールシップに関するアジェンダを介し、米国の雇用創出者を支援

    景気後退で過大な影響を受けた小企業を支援するため、大統領は議会の民主・共和両党と協力して、3つの画期的法令(注:5)を成立させた。大統領は、資本へのアクセス拡大;小企業の税制簡略化;アントレプレナールシップ集中教育への投資を盛りこんだ小企業法案で議会と協力することを希望。

  • シェールガス開発による雇用創出

    大統領は議会に対し、行政府・州政府・地方政府と協力して、持続可能なシェールガス産出地区(Sustainable Shale Gas Growth Zone)を確立するよう要請。

  • 米国民の自動車用燃料選択肢の拡大
    • 先進自動車技術R&Dに資金を提供する、エネルギー・セキュリティ・トラスト(Energy Security Trust)基金の創設(注:6)
    • 新たな税額控除、及びセルロース系バイオ燃料税額控除の延長によって、先進自動車及びインフラストラクチャーへの投資を支援 … 大統領は、先進自動車の大量普及に必要なインフラへの投資を推進する為、新たな税額控除を提案する予定。 


 

 


注釈:

1: 2013年の一般教書演説については、2013年2月13日の調査レポート『オバマ大統領の一般教書演説』を参照されたし。

2: 2012年にオハイオ州ヤングスタウンに設置されたパイロット研究所(名称:National Additive Manufacturing Innovation Institute); 2013年1月15日にノースカロライナ州ローリーに設立されることが発表された次世代パワーエレクトロニクス製造イノベーション研究所; 国防省によってここ数週間以内にアワードが発表される見通しの2ヶ所の製造イノベーション研究所を指す。(次世代パワーエレクトロニクス製造イノベーション研究所の設立については、2014年1月21日号デイリーレポートを参照されたし。)。

3: 同計画の概要については、2013年6月25日付けの調査レポート『オバマ大統領が発表した、新たな国家気候変動行動計画の概要』を参照されたし。

4: オバマ大統領がチャタヌガ市で発表した経済再建・雇用創出構想である「A Better Bargain for the Middle Class Jobs」については、2013年7月30日付けデイリーレポートを参照されたし。

5: JOBS Act(Jumpstart Our Business Startups Act)、Small Business Jobs Act、及びARRA(アメリカの経済か行く不・再投資法:一般に経済刺激策と呼ばれる)の3法令。

6: オバマ大統領は昨年の一般教書演説で、同基金の創設を提案。2014年度予算ではエネルギー省予算の一部として同基金に10年間で20億ドルの予算を要求。実業家や引退した軍事指導者を始めとする超党派からの幅広い支持があるものの、議会共和党の反対で創設に至っていない。

 

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