米中の気候変動対策共同声明に対する米国内の反響 

2014年11月26日
NEDOワシントン事務所
松山貴代子

ジョン・ケリー国務長官訪中後の数ヶ月にわたる調整(注:1)を経て、バラック・オバマ米大統領と中国の習近平国家主席が2014年11月12日、気候変動の原因である温室効果ガス(GHG)排出を削減する自国目標を明示した共同声明を発表した。

この米中合意に対する米国内の意見は、世界最大のGHG排出国である中国(注:2)と米国が気候変動問題に協力して真剣に取組むことを明示する歴史的かつ画期的な合意であり、来年末のパリ会議に向けた交渉に弾みをつけることになると賞賛する支持派と、中国の排出削減目標は裏を返すと今後15年間はGHG排出増加が認められるということであり、経済面で優位な条件を中国に与えることになる不均等な合意であると批判する反対派に二分している。

ここでは、今回発表された気候変動に関する米中共同声明の主要点と、米国内での反響を報告する。


A. 気候変動に関する米中共同声明の主要点

  1. 1. 米国の排出削減目標は、2025年までに経済全体で2005年水準比26〜28%削減。28%削減達成の為に最大限の努力をする。

  2. 中国の排出削減目標は、2030年をピークとして二酸化炭素(CO2)排出を削減。ピーク年を前倒しする最大限の努力をする。また、一次エネルギー消費に占める非化石エネルギー源の割合を2030年までに20%まで拡大する。

  3. 現在の気候変動緩和技術のコスト引き下げには技術イノベーションが不可欠である。米国と中国は世界最大のクリーンエネルギー投資国であり、下記の様なエネルギー技術協力計画を行っている:
    • 米中気候変動作業グループ(U.S.-China Climate Change Working Group =CCWG)の下で、自動車、スマートグリッド、炭素回収・利用・貯蔵、エネルギー効率化、温室効果ガス(GHG)管理、森林及び産業用ボイラーに関するアクションイニシアティブを展開
    • ハイドロフルオロカーボン(HFCs)の段階的削減に向けて協力
    • 炭素回収貯蔵技術、省エネビルディング、及びクリーンカーにおける共同研究を促進する為、米中クリーンエネルギー研究センター(U.S.-China Clean Energy Research Center)(注:3)を創設
    • G-20の下、非効率な化石燃料補助金の合同ピアレビューに合意

  4. 米国と中国が発表した野心的な気候変動対策目標の達成を支援する為、両国の協力を強化・拡大する施策として下記を追加発表:
    • クリーンエネルギーの合同研究開発を拡大 … 米中クリーンエネルギー研究センターへのコミットメントを再確認。既存3分野(省エネビル、クリーンカー、先進石炭技術)への資金支援を継続する他、エネルギーと水のネクサスを新たに立上げ 
    • 炭素回収・利用・貯蔵の大規模実証の促進 … 米中主導の官民コンソーシアムを介して、中国に新たに炭素貯蔵プロジェクトを構築
    • 気候変動対応型/ 低炭素都市(Climate-Smart/Low-Carbon Cities)イニシアティブの立上げ … 進む都市化と都市のGHG排出激増に対応する為、CCWGの下に「気候変動対応型/ 低炭素都市」という新たなイニシアティブを設置。新イニシアティブの第一段階として、気候変動対応型/ 低炭素都市サミットを開催
    • エコグッズ取引の推進 … 持続可能な環境調和型製品やクリーンエネルギー技術の二国間貿易を奨励
    • クリーンエネルギーの現場実証 … 省エネビルやボイラー効率、ソーラーエネルギーやスマートグリッドの分野でパイロット計画やフィージビリティ・スタディ、その他共同プロジェクトを実施

 

B. 米国内の反響

気候変動に関する米中共同声明の発表を受け、Harry Reid上院多数党院内総務(民主党、ネバダ州)やNancy Pelosi下院議員(民主党、カリフォルニア州)を始めとする多くの民主党議員、グリーンピース等の環境団体、天然資源防衛委員会(Natural Resources Defense Council =NRDC)といった非営利団体、及び太陽エネルギー工業会(Solar Energy Industries Association =SEIA)他の産業団体は、世界のCO2排出量の約45%を放出している米国と中国が排出抑制で合意したこと、また、中国が初めてGHG排出量のピーク年を確約したことは注目に値する出来事であり、この米中発表は世界各国に強力なシグナルを送ることになるとして、今回の共同声明を評価・賞賛している。

共同声明の支持派はまた、米国の地球気候変動協定への不参加を正当化する理由として保守派が使ってきた、排出量が激増する中国の参加なしでは、米国のGHG排出削減努力が気候変動の緩和に及ぼす影響は微々たるものに過ぎず意味がないという口実はもはや通用しないと主張し、国際的な気候変動政策が大きく躍進することに期待を表明している。

一方、Mitch McConnell上院少数党院内総務(共和党、ケンタッキー州)やJohn Boehner下院議長(共和党、オハイオ州)を始めとする多くの共和党議員や、全米鉱業協会(National Mining Association =NMA)等の企業団体は、今後10年間に炭素排出削減率を倍増(現在の年率1.2%削減が2020年以降は2.3〜2.8%へと倍増)するという米国の約束に比べて中国への要求が少なすぎること、この米国に厳しく中国に甘い合意は不公平な競争条件を生み出し米国産業を不利な立場に追い込むことになるとして、今回発表された米中気候協定に反発している。また、中国は信用の出来ないパートナーであって、オバマ大統領は裏をかかれていると酷評する共和党議員もいる。

  1. 連邦議会の主要議員の発言


    《上院》
    • Harry Reid上院多数党院内総務(民主党、ネバダ州) … オバマ大統領と習近平国家主席の共同声明は歴史上重要な発表である。気候変動への対応や、異常気象の影響に対する国家の回復力強化は一刻を争う緊急事である。この合意が刺激となって、他諸国が我々と一緒に気候変動に取り組むようになることを期待する。
    • Barbara Boxer上院議員(民主党、カリフォルニア州) … 世界最大の排出国である中国が危険な炭素排出の削減に合意した。これで、議会には気候変動対策を妨害する口実がなくなった。気候変動は世界全諸国の人々にとっての脅威である。今こそ、世界の全諸国が確実に自らの責任を果たすべきである。
    • Mitch McConnell上院少数党院内総務(注:4)(共和党、ケンタッキー州) … 米中合意を見る限り、炭素排出規制が自分の出身州や全米の他州に大損害をもたらすことになる一方で、中国には今後16年間何も要求していない。中国側の公約がどれほど厳密なものであるのか疑問である。米国経済は大統領の石炭反対イデオロギー戦争に耐えることは出来ない。オバマ大統領が一方的に次期大統領へ押し付ける非現実的計画が電力料金を引き上げ、雇用の喪失を招くことは確実である。
    • James Inhofe上院議員(注:5)(共和党、オクラホマ州) … この協定は拘束力のないシャレードである。石炭火力発電所を10日に1基建設し、世界最大の石炭輸入国である中国が、2030年までにエネルギーの20%を非化石燃料に移行させるという主張は信憑性に欠ける。また、炭素排出を2030年をピークとして削減するという約束も、時間稼ぎにすぎない。米国民は手頃な価格のエネルギーと一層の経済的機会を希望しているが、これらは威圧的なEPA規制によって減少してしまう。第114議会では、EPA規制を抑制する為に出来る限りのことをする。
    • John Barrasso上院議員(共和党、ワイオミング州) … 共和党は、電気料金の高騰や雇用喪失を引き起こすことなく、米国のエネルギーを出来る限り早く、可能な限りクリーンにすべきであるという意見には賛成である。しかしながら、米国には即座な大幅排出削減を強要する傍ら、中国には今後16年間排出量の増加を許すという、米国に厳しく中国に甘い協定は米国の労働者と経済を不利な立場に置くことになる。
    • John Thune上院議員(共和党、サウスダコタ州) … この合意には拘束力が無いため、中国が自らの経済的な野心を犠牲にして、炭素排出削減目標を遵守するということを信じる理由が何もない。

    《下院》

    • Nancy Pelosi下院議員(民主党、カリフォルニア州) … オバマ大統領と習近平国家主席が発表した炭素排出削減目標は、気候変動に真摯に取り組むというコミットメントを表している。米中両国がこの目標を果たし、他諸国が同じような強いコミットメントを掲げて参加するならば、気候変動の最悪の影響を回避することが可能である。無対策・無活動でいる口実はもう存在しない。気候変動の影響を逃れられる国は一国もなく、この共通課題に取り組む責任を逃れられる国も一国もない。気候の危機を回避する為に全諸国が協力して、大胆かつ壮大な対策を講じる必要がある。
    • Chris Van Hollen下院議員(民主党、メリーランド州) … 世界最大の排出国である米国と中国が、GHG排出削減で科学に基いた野心的なコミットメントを提案したことは極めて重要である。自分はこの公約を全面的に支持し、これが来年のパリ国際協定の土台作りに役立つと信じる。このプロセスを補強・拡大するために、米国議会は「Healthy Climate and Family Security Act of 2014(下院第5271号議案)」(注:6)のような包括的な気候法案を可決するべきである。
    • John Boehner下院議長(共和党、オハイオ州) … 今回の協定は、米国の核心地域及び米国全体への影響がどれほど壊滅的であろうとも、雇用を崩壊する政策に大統領が固執していることを示すもう一つの証拠であり、価格が手頃かつ安定したエネルギーへの反対運動の最新例となっている。
    • Tom Cole下院議員(共和党、オクラホマ州) … 大統領命令を幾ら出したところで、それを執行する予算がなければ、大統領命令はほとんど進捗しない。連邦議会の金力を積極的に使って大統領命令に対抗していく。


  2. 環境団体や非営利団体の主な発言
    • グリーンピースのLi Chu氏 … 中国が20%という再生可能資源導入目標を達成する為には、中国は今後15年間で再生可能資源利用の発電容量を800から1,000ギガワット(GW)追加する必要がある。今日の中国の総発電容量が1,250GWであることを考慮すると、これは並外れて野心的な目標である。
    • 天然資源防衛委員会(NRDC)のJake Schmidt国際プログラムディレクター … 中国のクリーンエネルギー目標は意義深く、この米中合意はこれまで傍観姿勢を取ってきたオーストラリアやカナダ他の諸国に強力なシグナルを送ることになる。米国目標は既存法の下で達成可能であり、 議会における新法案は不要である。
    • 環境防衛基金(Environmental Defense Fund)のFred Krupp会長 … 中国が行動しないから米国も何も出来ないという議論が終に消滅へ向かっていく。米国の最大の競争国が汚い在来型エネルギーを果てしなく使い続ける一方で、米国が炭素排出を削減するということに懸念を持つことは無理もないことであるが、この懸念がようやく解消される。
    • 憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists)のKen Kimmell会長 … 米中共同声明はCO2排出削減において真に歴史的な合意である。これは、世界気候条約に対する最大の障害、すなわち、米国が中国のコミットメント無しでは活動を渋る姿勢、中国が米国のコミットメント無しでは活動を渋る姿勢、更には、他諸国が米中両国の強いコミットメント無しでは活動を渋る姿勢、を除去することになる。

  3. 企業団体の主な発言
    • 太陽エネルギー工業会(SEIA)のRhone Resch会長 … 同協定は歴史的かつ画期的な合意である。この二国間協定は、米国内外の政治指導者や民間投資家に対して、気候変動の解決は地球をあげての最優先事項であるという明白なシグナルを送ることになる。
    • アメリカ風力エネルギー協会(American Wind Energy Association)のTom Kiernan会長 … 気候変動対策の一環としてGHG排出を大幅に削減するという米中の歴史的な合意を称賛する。風力発電は炭素汚染削減の最も経済的な方法の一つである。今回の米中合意はビジネスや投資家に対して、クリーンエネルギーの拡大は米国経済に恩恵をもたらすだけでなく、世界が必要とする資源として[クリーンエネルギーが]引続き最高レベルの支援を享受するという正しいメッセージを送ることになる。
    • 全米鉱業協会(National Mining Association)のHal Quinn会長 … 炭素排出削減に関する米国と中国の合意は、中国経済を押し上げる一方で、米国の経済成長に歯止めをかけることになる。この合意は、環境保護庁(EPA)提案の発電所規制と同じく、象徴的で金のかかるジェスチャーであって、米国内の雇用と競争力を犠牲にすることになる。
    • 全米エネルギー同盟(American Energy Alliance)のThomas Pyle会長 … 中国が今後15年間で排出量増加を止める努力をする意向であるという中身も拘束力も無い約束をしたのに対し、オバマ大統領は米国内の排出削減を加速すると約束している。これは、米国のエネルギーコストを引き上げ、経済に害をもたらす。

 

 

 

 


注釈:

1: ケリー国務長官は2014年2月に北京を訪問した際に気候変動問題を持ち出し、それ以降、米中間での交渉が始まった。2014年春にはオバマ大統領が習近平国家主席宛の手紙で同件のフォローを続け、今年9月の国連総会会期中に中国国務院副総理の張高麗氏との会談を行った。

2: 戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies =CSIS)の中国専門家等、中国の内部事情に詳しい関係者によると、今回の発表に至った過程には中国指導層が国内で悪化するスモッグ問題に対する国民の怒りに晒されていると事情があるという。また、中国が対応策として既に、炭素排出権の国内取引市場を開始している他、2020年までに首都北京を石炭火力発電所を持たない都市にすることを約束していることを指摘している。

3: 2009年11月17日に、オバマ米大統領と中国の胡錦濤国家主席が米中クリーンエネルギー研究センターの立上げを発表。米エネルギー省(DOE)は2010年に、ウェストバージニア大学が率いる研究コンソーシアムを先進石炭技術パートナーに、ミシガン大学の率いる研究コンソーシアムをクリーンカーのパートナーに、ローレンスバークレー国立研究所の率いる研究コンソーシアムを省エネビルディングのパートナーに選定。2011年1月に米国と中国の各パートナー間で5年間の合同作業計画(Joint Work Plans)に調印。5ヵ年で1.5億ドルという同センターの費用は、米国と中国が折半。

4: 11月中間選挙における共和党の勝利により、2015年1月に開会となる第114議会では、同氏が上院の多数党院内総務となる。。

5: 第114議会では、上院環境・公共事業委員会の委員長となる。

6: Van Hollen下院議員が2014年7月30日に下院に提出した法案で、炭素排出権を競売し、その収益を米国民に還付するという市場ベースの計画。

 

 

 

参照文献(各議員や環境団体、非営利団体や企業団体が発表した声明を除く):

i. The White House Press Release, "U.S.-China Joint Announcement on Climate Change," November 11, 2014, available at http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2014/11/11/us-china-joint-announcement-climate-change

ii. Rebecca Leber, "The World Has Waited for the U.S. and China to Take Action on Climate Change. They Just Did." New Republic, November 12, 2014, available at http://www.newrepublic.com/article/120242/us-and-china-reach-agreement-climate-change

iii. Emily Holden and Evan Lehmann, "U.S.-China climate deal will create some stormy political weather," Climatewire, November 13, 2014

iv. Edward Wong, "China's Climate Change Plan Raises Questions," The New York Times, November 12, 2014, available at http://www.nytimes.com/2014/11/13/world/asia/climate-change-china-xi-jinping-obama-apec.html?_r=1

v. Jean Chemnick, "Industry says agreement would help China, ruin U.S. economy," E&E News PM, November 12, 2014

vi. Byron Tau, "Top GOP Lawmakers Denounce U.S.-China Climate Deal," The Wall Street Journal, November 12, 2014, available at http://blogs.wsj.com/washwire/2014/11/12/top-gop-lawmakers-denounce-u-s-china-climate-deal/

vii. David Nakamura and Joby Warrick, "GOP congressional leaders denounce U.S.-China deal on climate change," The Washington Post, November 12, 2014, available at http://www.washingtonpost.com/politics/gop-congressional-leaders-denounce-us-china-deal-on-climate-change/2014/11/12/ff2b84e0-6a8d-11e4-a31c-77759fc1eacc_story.html

viii. Darren Goode, "GOP denounces climate deal but can do little to stop it," Politico, November 12, 2014, available at http://www.politico.com/story/2014/11/gop-obama-china-climate-112821.html

ix. Christi Parsons, Julie Makinen, and Michael A. Memoli, "U.S.-China climate change deal already facing challenges," LA Times, November 12, 2014, available at http://www.latimes.com/world/asia/la-fg-us-china-environment-20141113-story.html#page=1 

 

 

Top Page