オバマ大統領の一般教書演説 

2015年1月23日
NEDOワシントン事務所
松山貴代子

バラック・オバマ大統領は2015年1月20日に米議会の上下両院合同会議で行った一般教書演説で、新雇用の創出と失業率の低下、国内エネルギー生産の拡大と海外石油依存度の低下、健康保険被保険者の増加や連邦赤字の縮減といった先頃の進展を列挙し、過去6年間の政策が功を奏して米国経済は1999年以来の最も早いペースで成長しており、国家は健全であると報告。過去5回の一般教書演説に比べ、外交問題(注:1)よりも国内問題に焦点をあてた、トーンの明るい演説であった。

昨年の一般教書演説で中産階級の生活安定が自政権の最優先事項であることを強調し、全国民に機会を提供する為の行政施策、『全国民への機会提供:大統領が2014年に講じる主要行政施策(Opportunity for All: Key Executive Actions the President Will Take in 2014)』(注:2)を前面に押し出したオバマ大統領は、第6回目となった今年の一般教書演説では、これまでの進歩に立脚し、中産階級を更に支援する必要があると説き、保育控除(child care credit)の引上げ、有給病気休暇の確立、最低賃金の引上げ、コミュニティーカレッジの無料化、実習制度・実地訓練の機会拡大、中小企業の納税簡素化等を含む「ミドルクラス・エコノミクス」という新原則を提示した。

一般教書演説の終了後にホワイトハウスは、「ミドルクラス・エコノミクス」についての詳細を発表している。『21世紀のミドルクラス・エコノミクス − 勤労世帯の成功支援(Middle Class Economics for the 21st Century - Helping Working Families Get Ahead)』では、現政権が議会との協力、または必要に応じては単独で進めていくという支援策を、@勤労世帯の所得の助長(Making the Paychecks of Working Families Go Further); A米国民が高賃金職に就く為の準備(Preparing Hardworking Americans to Earn Higher Wages); B高賃金職の国内維持(Keeping Good, High-Paying Jobs in America)に分類整理して説明している。ここでは、A米国民が高賃金職に就く為の準備と、B高賃金職の国内維持に関して、概要を報告する。

 

米国民が高賃金職に就く為の準備(Preparing Hardworking Americans to Earn Higher Wages)

  • コミュニティカレッジの2年間無料化

      テネシー州及びイリノイ州シカゴ市が実施する類似の試みに立脚し、2年のコミュニティカレッジを高等学校と同様に無料の一般教育とすることを提案。更に、コミュニティカレッジ他の機関が、雇用主との提携や雇用へと繋がる仕事ベースの学習機会を組み込むプログラムを策定することを支援する、アメリカ技術研修基金(American Technical Training Fund)の新設を提案。

  • 全生徒の成功を目指す進学・就職準備

      大統領は近日中に、STEM(科学・技術・工学・数学)教育・学習の最先端の実験室となる「次世代高等学校(Next-Generation High Schools)」を全米各地の数百のコミュニティで立ち上げることを支援する計画を発表する予定。また、次世代高等学校サミットを年内に開催予定。

  • 産業界との提携で、実習制度・実地訓練の機会を拡大

      大統領の要請により、バイデン副大統領は昨年、連邦政府の職業訓練制度の全面的見直しを実施し、職業主導型のチェックリストを作成。オバマ政権は2014年に、同チェックリストを利用する産学パートナーシップに10億ドル余のグラントを付与。大統領は今年、この努力を倍増する意向。また、現場の労働者が高賃金職への昇進に必要な訓練・資格の獲得を支援する施策を導入または拡大するよう雇用主に要請。

  • 産業界・コミュニティと提携し、米国民が情報技術その他成長分野における高賃金職へ転職する機会を拡大

      大統領は実業界・技術界のリーダーに対して、現在50万ある情報技術職の国内欠員を中産階級のチャンスに変える為、国内のコミュニティと協力するよう要請。今後数ヶ月の内にホワイトハウスは、これらの新対応策を取り入れるコミュニティと、コミュニティの努力を新たなツールや資源で支援することを確約する技術・ビジネス・労働者・教育・慈善事業のリーダーを結びつける予定。

 

 

高賃金職の国内維持(Keeping Good, High-Paying Jobs in America)

  • 企業が国内で良い職を創出するよう、破綻した税法を改正、崩れかけた道路・橋を修理、インフラを近代化

      大統領は昨年、国家経済にとって不可欠な重要エンジンである交通インフラを更新する為、道路・橋・輸送システムへの投資を30%強増大するGROW AMERICA Act(注:3)を提案。GROW AMERICA Act は、州政府や地方政府にインフラ建設の企画・開始に必要な確実性(certainty)を提供するだけでなく、中産階級に対して好機への道を提供することになる。

    大統領は、税制の抜け穴を排除し、継続的な成長を促進する企業税制改正を提唱。具体的には、法人税率の引下げと税基盤の拡大; リサーチ刺激策・クリーンエネルギー刺激策の強化; 中小企業の税制簡素化; 国際課税の改正等を提案。

  • 新たな貿易協定の締結によって、米国内の雇用と米国人労働者を促進

      環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)や環大西洋貿易投資協定(T-TIP)その他の交渉は、国内の雇用創出や経済成長といったアジェンダの促進に新たな機会を提供することから、大統領は、貿易推進の超党派法案可決に向けて協力するよう議会に要請。

  • プレシジョン・メディスンからBRAINイニシアティブに及ぶ重要分野研究開発への投資

    米国の長期的な経済競争力と経済成長は、堅調な研究開発(R&D)投資にかかっている為、大統領は、プレシジョン・メディスン(注:4)、抗生物質耐性問題、BRAINイニシアティブ等へのR&D投資を大幅に増額することを要請。更に、アルツハイマー病研究への投資継続を提案。

  • 中小企業の納税簡素化

    中小企業が規制順守にかける時間の75%以上が税法順守への対応であり、税法順守対応コストの約60%が利益測定に絡む複雑な規則に起因する。大統領は、殆どの中小企業が銀行取引明細書に基いて税金を支払うことが出来るよう、納税申告を大幅に簡素化することを提案。

  • 米国を製造業のリーダー格へと位置づけ

      大統領は、自身の大統領任期終了までに製造イノベーション研究所15ヶ所の設置を完了する為に先頃の超党派法案(注:5)と今日までに立ち上げられた製造イノベーション研究所8ヶ所(注:6)に立脚した対策を講じ; 中小製造事業者に対して自己のイノベーションや生産性を向上させる為に必要な能力や技術へのアクセスを提供し; 米国の発明を確実に米国で製造する為に製造業スタートアップの支援を目的とする総額100億ドルの新たな官民イニシアティブ「American Made Scale-up Fund」を立上げ。

  • 人為的な危機に終止符を打ち、米国へ投資

    大統領は、政府の一時閉鎖といった人為的危機に終止符を打ち、経済強化や教育・労働者技能の向上、科学的発見の促進や 製造業の強化、及び国家安全の保証へと繋がる事項に投資することを要求。大統領は2016年度予算案(注:7)で、効果のない支出を削減し、税の抜け穴を塞ぐことによって、自動歳出削減措置の終結とこれら投資の支払い方法について概説する意向。

  • 包括的法案を介した、移民制度の改正

    大統領は引続き、国境警備の強化; 不法滞在者を雇う雇用主の取締り; 不法滞在者に対する市民権への道の提供; 合法移民制度の近代化によって、破綻した移民制度を改正するよう議会に要請。

  • 世界のリーダーとして気候変動の脅威に挑み、クリーンエネルギー経済を獲得

    米国の過去10年間は観測市場最も暑い10年間であり、気候変動に関連した過去10年間の悪天候は、米国の家庭・ビジネス・納税者に数十億ドルもの被害をもたした。オバマ政権は気候変動対応を最優先事項と見なし、国内の炭素汚染削減に取り組んでいるほか、同問題への効果的な世界的対応を構築する為に他諸国への働きかけ(注:8)を実施。

    オバマ政権は、米国のコミュニティが既に発生している気候変動の影響への準備・対応を進める為には政府支援が必要であることを認識。この為、州知事・地方政府職員・部族リーダー等と気候変動準備対応で協力。

  • サイバースペースの安全確保

    大統領は2015年1月13日に、新たなサイバーセキュリティ法案に関する提案(注:9)を発表。この緊急優先事項を超党派で進めるため、ホワイトハウスは今年2月13日にスタンフォード大学でサイバーセキュリティ・消費者保護に関する第一回サミットを開催する予定。

 

 

 

 


注釈:

1: 今回の一般教書演説で大統領は米国議会に対し、イスラム過激派組織に対する軍事力行使を認可する決議案の可決や、対キューバ経済制裁の解除を要請。

2: 同行政施策の概要については、2014年1月30日の調査レポート『オバマ大統領の一般教書演説』を参照されたし。

3: 正式名は、Generating Renewal, Opportunity, and Work with Accelerated Mobility, Efficiency, and Rebuilding of Infrastructure and Communities throughout America Act。2014年6月に、Thomas Petri下院議員(共和党、ウィスコンシン州)によって下院に提出され、同年7月に下院科学・宇宙・技術委員会へ付託されたが、審議に至らずに会期終了している。

4: 各患者の特徴(遺伝子構造、等)に合わせたケアを可能にするツール・ナレッジ・治療法を医療関係者に提供するという革新的な医療分野。

5: Sherrod Brown上院議員(民主党、オハイオ州)とRoy Blunt上院議員(共和党、ミズーリ州)、Tom Reed下院議員(共和党、ニューヨーク州)とJoe Kennedy下院議員(民主党、マサチューセッツ州)が提出した超党派の『米国製造業・イノベーション活性化法案(Revitalize American Manufacturing and Innovation)』を指す。同法案は、『2015年度包括歳出予算法(FY2015 Omnibus Appropriations Act)』に取り込まれ、2014年12月に法令として成立。

6: (i)オハイオ州ヤングスタウンに設置されたNational Additive Manufacturing Innovation Institute;(ii)ノースカロライナ州ローリーのNext Generation Power Electronics National Manufacturing Innovation Institute;(iii)イリノイ州シカゴのDigital Manufacturing and Design Innovation Institute;(iv)ミシガン州デトロイトのLightweight and Modern Metals Manufacturing Innovation Institute;(v)テネシー州ノックスビルを本拠とするInstitute for Advanced Composites Manufacturing Innovation(IACMI);(vi)国防省が2014年11月5日に公募を発表したIntegrated Photonics Institute for Manufacturing Innovation(IP-IMI);(vii)大統領が12月11日に新設を発表したFlexible Hybrid Electronics Manufacturing Innovation Institute;(viii)農務省が2015年度予算にて新設予定のBiomanufacturing Innovation Instituteを指す。

7: 2016年度予算案の公表は2015年2月2日の予定。

8: オバマ大統領と中国の習近平国家主席は2014年11月12日に、気候変動の原因である温室効果ガス(GHG)排出を削減する自国目標 …米国は2025年までに経済全体で2005年水準比26〜28%削減、中国は2030年をピークとして排出削減… を明示した共同声明を発表。米中の同共同声明の概要に関しては、2014年11月26日の調査レポート『米中の気候変動対策共同声明に対する米国内の反響』を参照されたし。

9: 民間部門・政府間でのサイバーセキュリティ情報共有を改善し、サイバー犯罪と闘う法執行機関の権限を近代化し、セキュリティ侵害に関する報告義務をアップデートすることを提案。

 

 

 

 

Top Page