環境保護庁、「クリーン発電計画」に代わる新規制 「Affordable Clean Energy」を提案
2018年8月23日
NEDOワシントン事務所
環境保護庁 (EPA) は8月21日、既存石炭火力発電装置 (electric utility generating unit =EGU) から放出されるCO2削減を目的とする新規制 「既存発電装置から放出される温室効果ガス排出に対するガイドライン;排出ガイドライン実施規制改正;NSR計画改正 (Emission Guidelines for Greenhouse Gas Emissions from Existing Electric Utility Generating Units; Revisions to Emission Guideline Implementing Regulations; Revisions to New Source Review Program)」(別称、「Affordable Clean Energy (ACE)」 )を発表した。
既存石炭火力EGUの温室効果ガス (GHG) 排出削減に関しては、オバマ前政権が2015年8月3日に「クリーン発電計画 (Clean Power Plan =CPP)」の最終規制[1]を発表していたが、(規制緩和を重要政策の一つに掲げる)トランプ大統領が2017年3月28日、EPA長官に対し、CPP見直し指示を含む大統領令第13873号を発令。
左記を踏まえ、EPAは、「CPPがクリーンエア法 (Clean Air Act =CAA)の定めるEPA権限を越えているほか、州別の排出達成目標設定の根拠た構成要素 (Building Block) のうちの2要素[2]には法律上不備があった」として、2017年10月16日にCPPの撤回を提案。CPPに代わる新規制として、今回、ACEを発表するに至った。
EPAはACEの中で、①既存発電装置 (electric utility generating unit =EGU) 向けの排出削減ベストシステム (Best Systems of Emission Reduction =BSER) を発熱率改善 (Heat Rate Improvement =HRI) に基づいて再定義する排出ガイドライン、②州政府プランの策定・提出・実施に関するガイドライン、③EPAと州政府に対する排出ガイドライン実施の新規制、④新規発生源審査 (New Source Review =NSR) 計画の改正、の3つを提案している。
a) 対象EGUの定義
- ACEの連邦広報日時において稼働または建設が開始していた、(IGCC以外の)化石燃料火力EGUのうち、下記条件に合致する化石燃料蒸気発生EGU (fossil fuel-fired electric utility steam generating EGU):
- ベース負荷の化石燃料入熱量 (heat input of fossil fuel) が260 GJ/h (250 MMBtus/h) 以上
- 電力会社の配電系統に25 MW以上を売電できる発電機に蒸気を供給
b) 対象外のEGUの定義
- 定置型燃焼タービン
- IGCCユニット
- 改良または改築の結果、連邦規則集 (CFR) のTitle 40 (「環境保護」) Part 60 (「新規定置型発生源のパフォーマンス基準」) のSubpart TTTT (「EGU向けのGHG排出パフォーマンス基準」) の対象となるユニット
- 正味売電量を年間電気出力の3分の1または219,000 MWh以下に制限する、連邦許可の対象となる蒸気発生ユニット
- 化石燃料の使用量が10%以下である非化石燃料ユニット
- CFRのTitle 40 Part 60 のSubpart Eb (「1994年9月20日以降に建設が始まる、又は、1996年6月19日以降に改良または改築が始まる、大規模都市ゴミ焼却炉向けのパフォーマンス基準」) の対象となる都市ゴミ焼却施設
- CFRのTitle 40 Part 60 のSubpart CCCC (「新規定置型発生源向けのパフォーマンス基準」) の対象となる商業ゴミまたは産業廃棄物の焼却施設
c) BSERの決定
- 既存化石燃料蒸気発生EGUに利用可能な排出削減システム (HRI、CCS、天然ガスやバイオマスとの混焼、等) を特定。各システムを評価し、コスト、大気質以外の健康・環境への影響、及び、エネルギー要件を考慮した上で「最善システム」を決定
- 排出削減システムのうち、発熱率改善 (HRI) が、ACEの対象となる既存化石燃料蒸気発生EGUのBSERになることを確認。州政府が利用可能な「候補技術」として、表1の技術、設備アップグレード、及び、運転維持 (O&M) プラクティスnを提案
表1. インパクトの強い発熱率改善 (HRI) 施策及びEGUの規模別にみたHRIの影響
HRI施策 | 200 MW以下 | 200-500 MW | 500 MW以上 | |||
最低 | 最高 | 最低 | 最高 | 最低 | 最高 | |
ニューラルネットワーク/インテリジャントなスートブロワ (Neural Network/Intelligent Sootblowers) | 0.5 | 104 | 0.5 | 1.0 | 0.3 | 0.9 |
ボイラー給水ポンプ | 0.2 | 0.5 | 0.2 | 0.5 | 0.2 | 0.5 |
エアーヒーター及びエアダクトの空気漏れ抑制 | 0.1 | 0.4 | 0.1 | 0.4 | 0.1 | 0.4 |
可変周波数駆動 (Variable Frequency Drives) | 0.2 | 0.9 | 0.2 | 1.0 | 0.2 | 1.0 |
ブレードパスの更新 (蒸気タービン) | 0.9 | 2.7 | 1.0 | 2.9 | 1.0 | 2.9 |
節炭器の再設計/交換 | 0.5 | 0.9 | 0.5 | 1.0 | 0.5 | 1.0 |
O&Mプラクティスの改善 | ユニットの過去のO&Mプラクティスに応じて0~2% |
(主典:「Affordable Clean Energy」規定PP42-43の表1を基に、NEDOワシントン事務所作成)
- EPAは、2009年のSargent & Lundy報告 『石炭火力発電所の発熱率低減 (Coal-Fired Power Plant Heat Rate Reductions)』 に基づき、BSER候補技術の推定コストを2016年時点にアップデート。各HRI施策の推定コストは表2の通り。
表2. HRI施策のコスト ($/kW)
HRI施策 | 200 MW以下 | 200-500 MW | 500 MW以上 | |||
最低 | 最高 | 最低 | 最高 | 最低 | 最高 | |
ニューラルネットワーク/インテリジャントなスートブロワ | 4.7 | 4.7 | 2.5 | 2.5 | 1.4 | 1.4 |
ボイラー給水ポンプ | 1.4 | 2.0 | 1.1 | 1.3 | 0.9 | 1.0 |
エアーヒーター及びエアダクトの空気漏れ抑制 | 3.6 | 4.7 | 2.5 | 2.7 | 2.1 | 2.4 |
可変周波数駆動 (Variable Frequency Drives) | 9.1 | 11.9 | 7.2 | 9.4 | 6.6 | 7.9 |
ブレードパスの更新 (蒸気タービン) | 11.2 | 66.9 | 8.9 | 44.6 | 6.2 | 31.0 |
節炭器の再設計/交換 | 13.1 | 18.7 | 10.5 | 12.7 | 10.0 | 11.2 |
O&Mプラクティスの改善 | 最小限の資本コスト |
(主典:「Affordable Clean Energy」規定P.51の表2を基に、NEDOワシントン事務所作成)
d) 州政府プランの策定
- 州政府は、ACEが提案するBSERを導入することによって達成可能な排出削減を考慮した上で、自州内の各当該EGUに対するパフォーマンス基準を設定
- BSERの各候補技術を評価し、自州内の各当該EGUに適用可能な技術、及び、利用する候補技術がもたらす排出削減を個々に検討
- 当該EGU毎に最適なパフォーマンス基準を設定
- 州政府プランに盛り込むEGUのパフォーマンス基準は、許容排出率基準 (allowable emission rate:(例) lb CO2/MWh-gross) で表記
- 州政府は、当該EGU毎に定めるパフォーマンス基準に基づいて、各EGUに合わせた遵守期限を個々に設定
- 当該EGUの遵守期限が24ヵ月以上に及ぶケースが州政府プランに含まれている場合、かかるEGUに対して法的強制力のある段階的進捗目標を同プランへ盛り込む
- EPAは、EGU毎のパフォーマンス基準設定、及び、当該EGUが順守義務を果たすために導入する施策及びプロセスの選定にあたり、州政府に柔軟性を付与
- 州政府が、既存EGUのパフォーマンス基準策定時に、当該EGUに特有な要素 (残存耐用年数;発電施設の築年数、設置場所または行程設計に起因する法外な規制経費;必要な公害防止機器の設置が物理的に不可能、等) を考慮に入れることを認可
- EGUが自己の順守義務を果たすにあたり、BSER技術だけでなく、CCSや混焼 (天然ガス又は特定バイオマス) といったBSER以外の技術や戦略を利用する柔軟性を、州政府がEGUに付与することを認可
- 州政府が自州内の当該EGUを評価する際、複数のEGUの間に共通する要素や状況が明らかになった場合、これらEGUを分類、グループ化、又は細分類 (subcategorize) するか否か、及び、一つのグループにまとめて一貫したパフォーマンス基準を設定するか否かを決定することを認可
2. 排出ガイドラインの新たな実施規制案
EPAは、州政府に自州プランを策定する十分な時間と柔軟性を付与するために、CAA第111条(d)項 (既存発生源向けの排出ガイドライン) を実施する新規制を提案。既存の実施規制と新規実施規制の比較は以下のとおり。
表3. 実施規制変更事項の比較
新規実施規制 | 既存実施規制 |
「パフォーマンス基準」という用語を使用 | 「排出基準」という用語を使用 |
州政府による州政府プランの提出: ACE最終ガイドラインの公布後3年以内 | 州政府による州政府プランの提出: CPP最終ガイドラインの公布後9ヶ月以内 |
州政府プランに対するEPA対応:州政府プランの提出が完了したと判断されてから12ヶ月以内 | 州政府プランに対するEPA対応:州政府プラン提出期日後4ヵ月以内 |
ACE最終ガイドラインに対応する州政府プランを提出できない州政府に対して、EPAが連邦政府プランを公布: 提出された州政府プランが不完全と判定されてから、または、州政府プランが否認されてから2年以内 | ACE最終ガイドラインに対応する州政府プランを提出できない州政府に対して、EPAが連邦政府プランを公布:州政府プラン提出期日後6ヶ月以内 |
州政府プランの一環として、州政府が当該EGUに特有な要件に合わせて設定する遵守期限が24ヶ月以上である場合、かかるEGUに対して法的強制力のある段階的進捗目標を同プランに含めることを義務付け | 州政府プランの一環として、州政府が当該EGUに特有な要件に合わせて設定する遵守期限が12ヶ月以上である場合、かかるEGUに対して法的強制力のある段階的進捗目標を同プランに含めることを義務付け |
(主典:「Affordable Clean Energy」規定PP.92-93の表4を基に、NEDOワシントン事務所作成)
3. 今後のプロセス
- EPAは、ACE規制案に関する一般からのコメントを60日間受付
- EPAは、ACE規制案に関する公聴会を最低1回開催予定。日時、場所及び登録方法については連邦広報で後日発表
[1] 正式名は、「既存固定発生源の炭素汚染排出ガイドライン (Carbon Pollution Emission Guidelines for Existing Stationary Sources: Electric Utility Generating Units)」。CPPの概要については、2015年8月7日付のNEDO調査レポート 『オバマ政権、「クリーン発電計画」の最終規制を発表』 を参照されたし。
[2] CPP最終規定にある二番目の構成要素「当該EGU間における発電の切り替え」、及び、三番目の「炭素を放出しない再生可能エネルギー発電への切り替え」