第4回国家気候アセスメントを発表
NEDOワシントン事務所
2018年12月4日
トランプ政権が2018年11月23日、米国地球気候変動研究プログラム (U.S. Global Change Research Program:USGCRP)[1] の作成した 『第4回国家気候アセスメント:第二巻 (Fourth National Climate Assessment Volume II)』[2] と題する報告書を発表した。
同報告書は、「1990年地球気候変動研究法 (Global Change Research Act of 1990)」により4年に一回、大統領及び議会への提出が義務付けられているもの。4回目[3]となる同報告書では、気候変動が米国及び米国領土にもたらす影響、リスク、及び、適応対策を定量的に調査している。主要な調査結果は以下のとおり。
<注目点>
USGCRPは、DOE、EPA、DOD等関係省庁及びスミソニアン・インスティテュートで構成。外部研究者も多数参画しており、気候変動が及ぼす甚大な影響を定量的に示し、対策の必要性を提言している。報告書の方向性はトランプ政権の基本的方針と異なっているため、具体的な政策に結びつく可能性は低いものの、連邦議会における議論に一定の影響を及ぼすことが想定される。
- コミュニティ
- 気候変動が人間の健康・安全、生活の質、及び、米国各地のコミュニティの経済成長に及ぼす悪影響が増大している。
- 異常気象及び気候関連のイベントの増加・激化が、米国のインフラストラクチャー、エコシステム及び社会システムを引き続き脅かすことになる。
- 気候変動に対応する社会活動は過去5年間に拡大したものの、経済、環境及び健康に対する大きな被害を今後数十年に亘って回避するために必要な水準に達していない。
- 温室効果ガス (GHG) 排出を削減する多大で持続的な国際活動、及び、予測される変化に備える地域イニシアティブがなければ、気候変動が米国のインフラストラクチャー及び資産にもたらす損失は拡大し、21世紀の経済成長を阻害することになる。
- 農業及び食糧生産
- 温度上昇、猛暑、干ばつ、放牧地の野火、及び、豪雨で、米国穀物生産の質や量、家畜の健康、価格の安定、及び、農村部の生活を脅かす問題が深刻化する。
- エコシステム
- 絶え間ない気候変動が、エコシステムに大きな障害をもたらす。サンゴ礁エコシステム及び海氷エコシステムの幾つかは既に、トランスフォーメーショナルな変化に見舞われており、これらエコシステムに依存するコミュニティ及び経済に影響を及ぼしている。
- 水資源及び沿岸地方
- 人間及び環境が利用可能な淡水の量及び質の変化が、農業、エネルギー生産、産業、及びレクリエーションのコスト及びリスクを増大させている。
- 気候変動は21世紀後半までに沿岸地域を劇的に変え、その他の地域及び部門にも連鎖反応をもたらすことになる。多くのコミュニティは海面上昇が原因のコスト上昇、及び、資産価値低下のリスクを認識すべき。
- 健康
- 気候変動は、異常気象の増加、大気室の変化、昆虫・害虫による新病のまん延、及び、食料・水のアベイラビリティの変化を引き起こすことによって、米国人の健康や幸福を脅かす。
《気候変動の影響:具体例》
I. 米国全体
- 米国本土[4]の年間平均気温は、今紀末迄に、Representative Concentration Pathways(RCP) 4.5シナリオ[5]で2.3~6.7℉、RCP8.5 シナリオ[6]では5.4~11.0℉上昇[7]の見通し
- GHG排出が大幅に削減されない限り、地球温暖化は米国経済に大きな打撃をもたらし、一部の部門においては、21世紀末には損害が年間数千億ドルに拡大
- インフラストラクチャー、資産、及び、経済に対する気候関連リスクには地域差:
- 南東部の沿岸都市は21世紀末、日常的に高潮氾濫に見舞われるリスク
- アラスカでは、永久凍土層の融解により、道路・建築物・パイプラインに深刻な被害
- 西部では、乾燥で野火の発生リスクが増大。これが、牧場、放牧地、及び自然に囲まれた町等に被害をもたらすリスク
- 気温上昇、水源の変化、及び害虫の勃発等により、主要作物 (トウモロコシ、大豆、麦、米、ソルガム、綿、等) の産出量が低下
- 猛暑が、農業部門・建設部門・その他の屋外労働部門に従事する労働者の健康、及び労働生産性に深刻なリスクをもたらし、RCP8.5 シナリオでは2090年までに、極端な温度によって年間約20億時間の労働時間数の損失、1,600億ドルの逸失賃金が発生
II. 地域別
- 北東部
- RCP8.5シナリオでは、海面上昇が海抜の低い都市及び町の資産にもたらす年間損失は2100年までに60~90億ドル増加
- 気温上昇、異常気象、大気質・水質の劣化、及び海面上昇といった気候変動により、同地域の住民、特に高齢者・妊婦・児童の健康リスクが増大:
- 2050年のオゾン汚染に起因する死亡者数は2000年比で200~300の増加
- RCP6.0シナリオでは、猛暑が原因の死亡者数は2050年には年間50~100人/百万人、2100年には120~180人/百万人増加
- 北東部は、強靭性のあるエネルギー、交通及び水関連インフラ投資に積極的。
- 南東部
- 海面上昇と高潮で生じる被害として、RCP4.5シナリオでは2050年に年間560億ドル、2090年に年間790億ドル、RCP8.5シナリオでは2050年に年間600億ドル、2090年に年間990億ドルと推定
- 3.3フィートの海面上昇で、13,000余の史跡及び先史時代の遺跡が消滅する可能性
- 猛暑は同地域の労働集約的な農産業に悪影響を及ぼし、2090年には労働時間数の損失は推定で年間5.7億時間、逸失賃金は470億ドル
- アメリカ領カリブ海諸島 (アメリカ領バージン諸島及びプエルトリコ)
- 重要インフラが、海面上昇、高潮、及び洪水の影響に対して脆弱
- 6.5フィートの海面上昇で、プエルトリコの沿岸陸地総面積の3.6%が消滅。海岸沿いの上下水道、排水処理場、6箇所の発電所及び変電所等に大きな被害。また、アメリカ領バージン諸島の沿岸陸地総面積の4.6%が消滅。発電所、学校、上下水道の他、シャーロットアマリエやクリスチャンステッドといった町の歴史的建設物に大きな被害
- 海洋の酸性化及びブリーチング (白化) でサンゴ礁が減少し、漁獲量、沿岸生息地、及び、ツーリズムが減少
- 中西部
- 今紀半ばまでに予想される降水量の変化及び気温上昇により、農業生産力が1980年代の水準まで低下
- RCP8.5シナリオでは、気温上昇による広葉樹林地帯 (ミズーリ州南部、イリノイ州、インディアナ州及びオハイオ州) に生息する樹木の変化で、森林の経済価値が21世紀末までに7,880億ドル低下。100℉以上の猛暑日が21世紀末には年間63日まで増加
- 猛暑が原因の労働時間喪失に起因する逸失賃金は、2050年には年間98億ドル、2090年には330億ドル
- 北グレートプレインズ
- 2017年の大干ばつで、麦を始めとする農作物が大打撃を受けたほか、牧場主は飼料不足のために家畜を売却。この干ばつが同地域の農業にもたらした被害は25億ドル
- 日中最高気温及び夜間最低気温の上昇、及び、酷暑の発生回数増加で、夏の電力需要が拡大し、送電網を圧迫。RCP8.5シナリオでは、電力系統のコストが2050年までに年間約1,300~1,800万ドル、2090年までに年間約4,200~8,000万ドル増加
- 南グレートプレインズ (テキサス州、オクラホマ州、カンザス州)
- 年間平均気温は、1976~2005年に比べ、21世紀半ばまでに3.6~5.1℉、21世紀末までに4.4~8.4℉上昇し、100℉以上の猛暑日は現在よりも30~60日/年増加
- テキサス州では今後50年間に予想される人口増加で上水道・製造・発電用の水需要が15%拡大 → 同州に大量にある黒色水を利用する公共脱塩造水施設が現在44施設
- RCP8.5シナリオでは、気温変化に起因する死亡者数が今紀末迄に年間1,300人増加
- 北西部
- RCP8.5シナリオでは、中標高地及び低標高地にある氷原の縮小、及び夏の雪解け水の減少で、雪中心のレクリエーション収益が年間70%減少
- 雪解け時期が早まり、夏の河川流量が減少するため、コロンビア川流域の農業従事者による灌漑用水需要が2030年までに5%増加
- 温度が1.8℉上昇する毎に、カスケード山脈のピーク時積雪水が22~30%減少
- 南西部[8]
- RCP8.5シナリオでは、2006年から2099年までの野火消火活動の累積コストを130億ドルと推定
- 2012年から2015年までの干ばつで、カリフォルニア州の水力発電量が減少。2015年の水力発電量は2011年比約68%減で、これを補うため、天然ガス火力発電を拡大
- 2012年から太陽光及び風力発電が順調に増大し、2017年の発電量は2011年比で324%増。RCP8.5シナリオでは、火力発電所の3分の2を再生可能発電に転換することで、水需要が半減すると推定
- RCP8.5シナリオでは、氷原の縮小、及び、コロラド川とリオグランデ流域の春の雪解け水の減少で、同地域の水力発電量が2050年までに15%減少。
- 猛暑が原因の労働時間損失に起因する逸失賃金は、2090年までに年間230億ドルに達すると推定
- アラスカ
- RCP8.5シナリオでは、2046~2065年までに夏の日中最高気温が1981~2000年比で推定4~8℉、冬の日中最高気温が推定10℉上昇
- 海面上昇、永久凍土の融解、及び海氷の減少等により、海岸浸食・河岸侵食が進行
- ハワイ州及びアメリカ自治領太平洋諸島
- 3.2フィートの海面上昇が早ければ2060年に発生。これによる浸水が土地及び構造物にもたらす被害は推定190億ドル
- 海洋の酸性化及びブリーチングでサンゴ礁が損失。RCP8.5シナリオでは、海洋漁業の生産性が21世紀半ばまでに現行水準より15%、2100年までには50%削減と推定
[1] 同プログラムのメンバーは、商務省、エネルギー省、国防省、農務省、国務省、内務省、運輸省、保健福祉省 (HHS)、環境保護庁 (EPA)、航空宇宙局 (NASA)、全米科学財団 (NSF)、米国国際開発庁、及び、スミソニアン・インスティテュート。
[2] 同報告書は、https://nca2018.globalchange.gov/ からダウンロード可能。
[3] 2000年、2009年、2014年、2017/2018年の4回
[4] アラスカ州とハワイ州を除く48州、及び、コロンビア特別区
[5] 技術革新が進み、世界のエネルギーミックスに占める炭素燃料の割合が低いシナリオ
[6] 技術革新が停滞し、世界のエネルギーミックスに占める炭素燃料の割合が高いシナリオ
[7] 1986~2015年の平均気温との比較
[8] 国内の果物・ナッツ・野菜の50%余を生産。
[9] 米国監査院 (Government Accountability Office) は、侵食の影響により移転が必要となる31のコミュニティを確認
[10] 米国監査院の2009年調査研究で特定した7つのコミュニティの移転費用