米国NSR(新規発生源審査)を巡る最近の動向について
2003年09月17日
NEDOワシントン 中西
1.環境問題を巡っては、発電所から発生するCO2規制の否定、京都議定書への不参加等、産業界寄りの政策を展開してきたブッシュ政権であるが、これに加えて、かねてより議論が行われて来たClean Air Act に基づくNSR(New Source Review;新規発生源審査)問題についても、その緩和に向けた規則改定が進められている。
そして、これまでNSR適用対象が不明確で問題であるとの指摘が多くなされてきたことを受け、NSR適用除外対象のうち、さし当たり“装置の取替え”の明確化を狙った規則が公表されたところである(8月27日)。
これに対し、産業界は、特にニューヨーク等でのBlack out直後の発表であったこともあり“電力の安定供給、清浄な大気の確保のために必要な措置である”、“単なる規定の明確化であり審査手続きの円滑化に繋がり、ひいては供給能力の拡大につながる”と、これを歓迎している。
一方、これに対して、民主党、環境積極派さらには、カリフォルニアをはじめ州政府からは強い批判が出されている。民主党議員からは“新たなルールでは係争中の全発電所が適法化されてしまう”“今回の改定はエネルギー業界に対する政権からのお礼である”といった声も上がっている。
また、実際の運用を委任されている各州においては、例えば、当該改定規定はカリフォルニア州においては適用しないとの法案が州議会で早速9月11日に議決されたのを始め、また、ニューヨーク、マサチューセッツ州も反対を表明し、例えば、メリーランド州アーリック知事は共和党の知事であるが“はじめは戸惑いを感じた”といった状況にある。
2.新規発電所・石油精製施設の建設あるいは大気汚染物質の増加を伴う改造・補修を行う際には、Clean Air Act(1977年改正)に基づき大気汚染防止設備を設置し、許可を受けることが義務付けられている。ところが、未だに数多存在する旧式の発電所においては、仮に性能維持、出力向上のための設備改修を行うとすると、いかなる改修も当該規定に引っかかり、当初の目的である改修に加え、大気汚染防止施設を新たに追加せざるを得ない状況となってしまう。これに対して、産業界からの強い反発があり、EPAは、NSR適用除外の規則を設けた(1978年)経緯があるが、その適用除外の条件が不明確であったことが事の発端となっている。
実はこのNSR自身、90年代初まで、一部州政府からの申し立てがない限りEPAは問題としない等、厳格に運用されていた訳ではなかった。ところがクリントン政権になりこの状況は一転した。1998年7月には改正規則案がEPAから公表され(最終的に規則変更に至らず)、また、連邦政府は電力会社、石油精製会社等12社(51ヶ所の施設)を相手取り、NSR違反で起訴する事態に至っていた。
電力や石油精製業等からは、このような問題が生じるのは規定の運用が不明確であるからだと批判が出されていた。そして、従来NSRの適用除外がEnjoyできていた古いプラントについては、仮に環境負荷が低減するような改修であっても、NSRの条件に引っかかると、当該改修に加えて追加的に大気汚染防止装置の設置が義務付けられてしまい、過大な投資が必要となるとして強い反発の声が上がっていた。
3.これが、ブッシュ政権において大きく転換されることとなった。電力、石油精製といったエネルギー産業はブッシュ政権に対し、NSRの見直しについてロビー活動を展開。そして、2001年5月に公表された国家エネルギー計画の中に見直しを行うことが明記された。これを受けて、EPAが中心とする各省庁連携チームが設けられ、NSR規制運用についての規則及び定期メンテナンスの定義等を明確にすることとなった。
そして、2002年12月にEPAからNSR運用規則及び改修関連の規定の見直し案が提出された。しかし、NSR運用規則案については、各州政府からの無効確認提訴もあり、当初2003年3月から適用予定であったものの実施は遅れており、この7月25日には、EPAから正式にNSR運用規定の一部について再考を行うことが発表される状況にいたっている。一方、改修関連の規定案については、2003年末までに最終化する方針であるとされていたところであったが、改修の具体的内容として検討されている、1)定期メンテナンス、2)修理、3)取替えのうち、“取替え”についてのみ8月27日に最終規定として発表された。
これによると、①取り替えるものが同等の装置である場合、②取替えに伴うコストが、ユニット全体の取替えコストの20%を超えない場合、③ユニットの基本設計に変更がない場合、④取替え後の排出量が規制値を越えない場合には、NSRの対象から除外される。従って、これら取替えに係る改修を行っても大気汚染防止装置の追加設置が求められないことが明確になったのである。
4.今後、その他の適用対象除外規定の明確化、より本質的な問題を含むNSRの規定改正案の検討が進められることなる。しかし、このClean Air Actについては、ブッシュ政権としては、従来より、大幅な改正を行うべきであるとしており、対抗策として昨春Clear Sky Initiativeを打ち上げ、議会の共和党議員に対してClear Sky法案の策定を要請しているところ。
次期大統領選を前に、環境問題へのブッシュ政権の取組み姿勢を巡り、世論の関心も高まりを増すものと見られており、議会、ホワイトハウスの動きは、今後、活発化していく可能性がある。