「エネルギー自立及びエネルギー安全保障法」成立
NEDOワシントン事務所
松山貴代子
2007年12月24日
( 2008年01月17日更新)
米国下院がエネルギー法案注1を314対100で可決した翌朝、ブッシュ大統領はエネルギー省(DOE)で早々に同法案の署名式典を行い、「エネルギー自立及びエネルギー安全保障法(Energy Independence and Security Act)」が2007年12月19日に成立した。新法令の主要条項は下記の通り。
第1章 自動車燃費向上によるエネルギー安全保障
- 乗用車および軽トラックの企業平均燃費(CAFE)基準を2020年までに35マイルまで引上げ、その後2030年までは達成可能な最大限の引上げを行う。運輸長官は車両の属性に基づき、乗用車と非乗用車(non-passenger vehicle)に個別の平均燃費基準を規定。
- 2011年に始まる暫定基準(interim standard)を設定。メーカーには該当年の基準の92%達成を義務付け、未達成のメーカーには罰金を課す。この罰金で、将来の規定策定努力を支援し、メーカーに研究開発および設備一新の為のグラントを提供。
- 運輸長官は、CAFE基準に勝る成果をあげたメーカーが燃費クレジットを取得し、基準未達成のメーカーにそのクレジットを売却することを認める燃費クレジット取引プログラムを設置。
- 先進自動車の開発・生産を奨励するため、プラグイン・ハイブリッド自動車推進計画、次世代バッテリー製造施設の建設借入保証計画、先進技術自動車製造インセンティブを提供。
- 低公害車に分類されない軽自動車や中型乗用車を連邦省庁が調達することを禁止。連邦省庁に対して、2015年までに石油年間消費量を2005年比20%減、代替燃料年間消費量を10%増とすることを義務づけ。
第2章 バイオ燃料増産によるエネルギー安全保障
- 再生可能燃料使用基準(Renewable Fuel Standard = RFS)を下記の通り定める。
(単位:億ガロン)
RFS | RFSに占める先進バイオ燃料(内、セロールス系 | |
2006年 | 40.0 | - |
2007年 | 47.0 | - |
2008年 | 90.0 | - |
2009年 | 111.0 | 6.0(0.0) |
2010年 | 129.5 | 9.5(1.0) |
2011年 | 139.5 | 13.5(2.5) |
2012年 | 152.0 | 20.0(5.0) |
2013年 | 165.6 | 27.5(10.0) |
2014年 | 181.5 | 37.5(17.5) |
2015年 | 205.0 | 55.0(30.0) |
2016年 | 222.5 | 72.5(42.5) |
2017年 | 240.0 | 90.0(55.0) |
2018年 | 260.0 | 110.0(70.0) |
2019年 | 280.0 | 130.0(85.0) |
2020年 | 300.0 | 150.0(105) |
2021年 | 330.0 | 180.0(135) |
2022年 | 360.0 | 210.0(160) |
- バイオ燃料使用義務が深刻な再生可能原料不足他の市場問題を起こし得る場合、バイオ燃料使用義務の一部を一時的に撤回する権限を環境保護庁(EPA)長官に付与。
- 新規バイオ精製所で製造する再生可能燃料のライフサイクルの温室効果ガス(GHG)は、ガソリンやディーゼルよりも最低20%減とする。
- バイオ燃料生産の研究開発グラント、セルロース系エタノールとバイオ燃料研究グラント等に予算を認可。
- E85といった再生可能燃料の使用の為にインフラの構築または転換を支援するグラント計画を設置するよう、DOEに指示。
第3章 電化製品および照明器具の効率改善による省エネルギー
- 家庭用ボイラー、洗濯機、皿洗い機、除湿器、電気モーターの効率基準を改定。
- 業務用の冷蔵・冷凍室向けの効率基準を設定。
- エネルギー長官が、加熱炉(furnace)、エアコン、及びヒートポンプ向けに地域別基準(regional standard)を設定することを許可。
- 2014年までに白熱電球を段階的に廃止。
- 一般調達局(General Services Administration = GSA)が新築、改装、または調達する公共ビルディングに、最大限可能な範囲でエネルギー効率の良い照明器具や電球を装備。
- 連邦取引委員会(Federal Trade Commission)は、パーソナルコンピュータやモニター、テレビやデジタル・ビデオ・レコーダー等のエネルギー消費に関するラベリング、又は、その他の開示用件を規定。
第4章 ビルディング及び産業界における省エネルギー
- 住宅の耐候化支援プログラム(Weatherization Assistance Program)を再認可し、2008年度に5億ドル、2009年度に9億ドル、2010年度に10.5億ドル、2011年度に12億ドル、2012年度に14億ドルの予算を認可。
- エネルギー長官は、①高性能グリーン商用ビルディング担当部の新設;②Zero-Net-Energy Commercial Building Initiativeと呼ばれる新イニシアティブの設置、等を行うディレクター職を新設し、ディレクターを指名。
- 「国家省エネルギー政策法(National Energy Conservation Policy Act)」の定めた連邦政府所有ビルディングにおける省エネ目標を、2010年までに2005年水準比15%減、2015年までに30%減と変更。
- 連邦政府所有の新築および新装ビルにおける化石燃料利用電力の消費量を2010年までに2003年水準比55%、2030年までに100%削減する連邦政府省エネ効率基準を設定。
- 連邦省庁による、EPAのEnergy Starラベルを取得していないビルディングの賃借を禁止。
- GSA局長は、①高性能グリーン連邦ビルディング担当部の新設;②連邦政府グリーンビルディング諮問委員会の創設;③連邦政府高性能グリーンビルディング基準の策定;④革新的なグリーンビルディング技術や概念を実証する機会の確認、等を行うディレクター職を新設し、ディレクターを指名。
- エネルギー集約型産業で使用される設備やプロセスのエネルギー効率を大幅に改善する新規プロセスや技術および運転慣行の研究・開発・実証をDOEに指示。
- 産業界における廃熱利用発電を奨励する先導グラント計画の新設をEPAに指示。同グラントに2008年度予算として1億ドル、2009年度から2012年度まで毎年2億ドルの配分を認可。
- グリーンな学校建設を州・地方政府に奨励する、健全な高性能学校(Healthy High-Performance School)グラント計画を新設。
第5章 政府及び公共機関における省エネルギー
- 議事堂建築事務局は、Rayburn下院議員会館およびHart上院議員会館に太陽光発電システムを設置する可能性を調査し、議会敷地内または近接する場所にE85燃料補給システムを建設することを検討。
- 連邦政府の省エネルギーパフォーマンス契約(Energy Savings Performance Contract)の利用推進、および、アカウンタビリティの強化。
- DOE本部(俗称Forrestal Building)に太陽光発電システムを設置。
- 連邦政府の新築及び新装ビルで使用する温水の30%をソーラー給油装置で賄うよう義務付け。
- 省エネ製品、代替燃料や合成燃料の調達を奨励。
- 州政府や地方政府による再生可能エネルギー技術やエネルギー効率改善技術導入を助成するエネルギー効率改善・省エネブロックグラントの設置をDOEに指示し、同プログラム支援のために2008年度から2012年度まで年間20億ドルを認可。また、ビルディングや住宅の省エネプログラムや燃料節約計画といった地方政府イニシアティブを支援する、エネルギー・環境ブロックグラント(Energy and Environment Block Grant)を設置。
第6章 研究開発の推進
- 太陽エネルギー装置の設置・保守に携わる熟練労働者を育成する研修プログラムを策定。また、太陽熱エネルギー貯蔵技術を改善する研究開発計画を設置。
- 国内の地熱資源ポテンシャルを最大限活用するため、地熱エネルギー資源の探査・研究・開発・実証・商用化プログラムを支援。
- 海洋再生可能エネルギー技術の研究・開発を支援。国立海洋再生可能エネルギー研究・開発・実証センター(marine renewable energy research, development and demonstration center)設立のため、高等教育機関にグラントを給付。
- 自動車や送配電用のエネルギー貯蔵技術および先進バッテリーを推進する費用分担型研究開発実証プログラムの実施をDOEに指示。DOEは、5ヵ年研究計画の策定を担当するエネルギー貯蔵諮問委員会(Energy Storage Advisory Council)を創設し、エネルギー貯蔵研究センターを4箇所設置。
- 水素エネルギー技術でのイノベーション、および、輸送用燃料としての水素利用を促進するため、賞金(H-Prize)を提供。
第7章 炭素回収・貯留
- DOE長官は、①二酸化炭素(CO2)を回収・貯留・再利用する新アプローチ開発のために実験室規模の実験や数値モデリング及びシミュレーションといった基礎エネルギー研究を実施;②7つ以上の大規模炭素地質隔離テストを実施;③地域的炭素隔離パートナーシップ(regional carbon sequestration Partnership)の地質隔離テスト実施を推進。2008年度から2012年度の予算として年間4億ドルを認可。
- 内務長官は、全国的なCO2貯留キャパシティ査定評価を実施。
第8章 エネルギー政策管理の改善
- 石油会社が市場操作に加担したり、原油卸売価格について虚偽情報を提供することを禁止し、こうした規定に違反した石油企業に新たな民事・刑事の罰則を課す。
- エネルギー長官は、エネルギー効率化および省エネルギーに関して消費者を啓蒙するためのメディア・キャンペーンを企画・実施。この予算として今後5年間、年間500万ドルを認可。
- 議会の見解(Sense of Congress)として、2025年までに米国エネルギー消費の最低25%を再生可能エネルギー資源で賄うという国家目標を表明。
第9章 国際的エネルギー計画
- 米国国際開発庁(US Agency of International Development)、商務省、及び、その他の輸出推進業務に携わる連邦省庁は、クリーンかつ高効率な米国エネルギー技術のインド、中国、その他途上国への輸出を推進。主要途上国でのクリーンエネルギー市場実現を助長するため、クリーンエネルギー・省エネルギー技術に関する国際協力タスクフォース(Task Force on International COOPERATION FOR Clean and Efficient Energy Technologies)という多省庁間調査特別委員会を創設。
- ①クリーンエネルギーやエネルギー効率化技術等によって温室効果ガス(GHG)排出を大幅削減するモデル事業を米国外で推進するグラントの提供;②クリーンエネルギーやエネルギー効率化技術の利用で学んだ最善慣行や教訓に関する情報レポジトリの構築;③米国製のクリーンエネルギーやエネルギー効率化技術利用の推進、等を目的とする、国際クリーンエネルギー基金(International Clean Energy Foundation)を創設。
- エネルギー長官を国家安全保障会議(National Security Council)のメンバーに追加。
第10章 グリーンな職業(Green Jobs)
- ソーラーパネル製造者やグリーンビルディング建設作業員といった「グリーンカラー(green collar)」職を訓練する、エネルギー効率化・再生可能エネルギー労働者研修プログラムを設置。
第11章 エネルギー輸送と基盤
- 運輸省は、①運輸部門関連のエネルギー消費を削減し、気候変動の影響を緩和する研究・戦略・行動;②気候変動が交通システムや輸送基盤におよぼす影響に対応する研究戦略や行動、を企画・調整・実施するため、気候変動・環境部(Office of Climate Change and Environment)を新設。
- 運輸省はEPAと協力して、鉄道業者によるハイブリッド機関車購入を支援するパイロット・グラント計画を設置・実施。
- 陸上貨物運送に代わる代替策として短距離海上輸送を促進。
第12章 中小企業のエネルギー計画
- 中小企業庁(Small Business Administration = SBA)が、中小企業による特定の省エネおよび再生可能技術の開発や調達に対して即時貸付(express loan)を提供することを認可。
- SBAは、中小企業が省エネ技術を半額で購入できるパイロット貸付プログラムを設置。
- 中小企業投資法の定める省エネおよび再生可能エネルギープロジェクトへの貸付上限を引上げ。
- 中小企業による再生可能エネルギー資源および新技術開発を助長するためにベンチャーキャピタルを活用する、再生可能燃料資本投資(Renewable Fuel Capital Investment)パイロット計画を新設。この予算として2年間で3,000万ドルを認可。
第13章 スマートグリッド(Smart Grid)
- 電力供給の信頼性とエネルギー効率を改善・近代化する、スマートな送電網を推進する連邦政策を策定。
第14章 プールとスパの安全性
- プールとスパに、安全な配水管のふたを利用するよう義務付け。
注1 上院本会議では12月13日に、下院エネルギー法案から論議の的であった再生可能エネルギー使用基準(Renewable Energy Portfolio Standard)とエネルギー税制の条項を削除した法案を86対8で可決。このエネルギー法案が、下院に上呈されていた。