米国における再生可能エネルギー使用基準(RPS)を巡る動向
2013年01月31日
NEDOワシントン事務所
連邦議会が「財政の崖(Fiscal Cliff)」回避策の一環として風力の生産税額控除(PTC)を含む幾つかの重要な再生可能エネルギー刺激策を一年間延長したことで、ひとまず胸をなでおろした再生可能エネルギー関連産業ではあるが、国内のエネルギー景観が変化する中で、再生可能エネルギー使用基準(Renewable portfolio standard =RPS)が撤廃又は規模縮小されるという危機に直面している。
RPSは、州政府が電力事業者に再生可能エネルギー等で発電される電気を一定量以上使用することを義務付ける制度であり、米国29州とワシントンDC(及びアメリカ領の北マリアナ諸島連邦とプエルトリコ)で導入され、再生可能エネルギー発電の促進に貢献しているとして高く評価されている。
(出典:Database of State Incentives for Renewables & Efficiency)
しかしながら、かつては開発不可能であったシェールガスを水圧破砕(hydraulic fracturing)技術を使って採取出来るようになり、シェールガスの増産で安価な天然ガスを豊富に利用できるという現状や、州政府の短期財政に関する懸念、及びRPSは電気料金引上げに繋がるという論理等が背景となり、幾つかの州ではRPSに反対する保守派議員が再生可能エネルギー使用義務の弱体化を狙った法案を提出している。ここ1年間の主要な動きは以下の通り。
A. 州政府のRPS撤廃又は規模縮小に関する動向
- フロリダ州
2008年5月28日に成立した『フロリダ州エネルギー法令(HB 7135)』が公益事業委員会に対して、供給側の再生可能エネルギー発電を奨励するRPS及び再生可能エネルギークレジット(Renewable Energy Credit =REC)取引制度を設定するための規定を策定するよう義務付け。
2012年3月、フロリダ州議会は上記のRPS策定条項を撤回し、代わりに、再生可能エネルギーや省エネを推進する一連の優遇税制を設定する『フロリダ州エネルギー法案(HB 7117)』を可決。2012年4月14日に法制化。
- デラウェア州: RPSは2026年までに25%
デラウェア州議会のGreg Lavelle下院議員(共和党)が、デラウェア州のRPSを現行レベルの8.5%で凍結するという法案(HB 247)を提出。同州の小売電気料金はキロワット時あたり13.8セントで全米で13番目に高額であるが、価格の高い再生可能エネルギー使用を義務付けるRPSを変更しなければ、電気料金は2025年までに18%上昇すると主張。2012年3月29日に下院エネルギー委員会が公聴会を開催。HB 247は同委員会で否決された。
- バージニア州:自主的RPS(voluntary RPS)は2025年までに15%
Ken Cuccinelliバージニア州司法長官(共和党)とDominion Virginia Power社が2013年1月、バージニア州政府の自主的RPSプログラムを順守する電気事業者に与えられるインセンティブを廃止する法案を支持することで合意した旨を発表。
- オハイオ州:RPSは2024年までに5%
オハイオ州議会のKris Jordan上院議員(共和党)が、2008年に成立したSB 221法令の一環である先進エネルギー・再生可能エネルギー使用義務を完全に廃止する法案(SB 216)を提出。2012年2月に、オハイオ州上院議会のエネルギー・公共事業委員会が公聴会を開催。 同法案の見通しは不明。
- ミズーリ州:RPSは2021年までに15%
RPSの達成年と目標値を変更する法案(SB 759)を検討中。SB 759で提案されている新たなRPSは、2014~2017年が7%、2018~2020年が12%。 2012年2月に公聴会を開催。見通しは不明。
- ノースカロライナ州:民間電力会社(IOU)は2021年までに5%、協同組合や地方公営電力事業者は2018年までに10%
2013年1月、ノースカロライナ州下院議会のMike Hager公共事業委員会委員長(共和党)が、同州のRPSを現行レベルの3%で凍結する法案を提出する予定であると発表。
同州は2012年11月の選挙の結果、共和党が上院・下院両議会で多数党となり、州知事も共和党員であることから、Hager下院議員が提出予定の法案を支持する者達は、可決する見込みは十分にあると発言。
- その他
2012年には、ミシガン州(RPSを撤廃するHR 5447)、ウェストバージニア州(RPSを撤廃するHB 2915)、コロラド州、モンタナ州、及びワシントン州がRPSの撤廃、または弱体化を狙った法案を提出。
B. アメリカ立法者交流協会(American Legislative Exchange Council =ALEC)
米国の企業にとってのボトムラインに影響をもたらす政策や規定を策定するのは、連邦政府ではなく州政府であるため、企業と州政府の保守派立法者との交流を深める目的で、ロナルド・レーガン元大統領時代に非営利団体のALECが創設された。
ALECには現在、約2,000名の州政府立法者がメンバー登録をしている。RPSの凍結法案を提出予定であると発表したノースカロライナ州のMike Hager下院議員がALECメンバーであるほか、バージニア州のKen Cuccinelli司法長官もALECメンバーであると噂されている。
米国風力協会(American Wind Energy Association =AWEA)と太陽エネルギー工業会(Solar Energy Industries Association =SEIA)は、エネルギー優先課題を議論する話し合いの席に参加する為にALECに1年程加盟したものの、2012年10月にALECがRPS終了を目的とする「電力自由法案(Electricity Freedom Act)」というモデル法案を採択したことを理由に、SEIAは昨秋、AWEAは今年に入ってからALECから脱退している。
ALECのエネルギー・環境・農業タスクフォースを指導するTodd Wynn氏によると、2013年2~3月には一握りの州政府でRPSプログラム撤廃法案が提案される見込みであるという。ALECを脱会したAWEAは、州政府の立法者に対してALECのメッセージにだまされないようにと警告を発している。
【参考資料】
- ‘Issue to Watch: Renewable Energy’ Pew Center on the States, January 24, 2013
- ‘Renewable standards in some states moving in opposite directions’ Agri-pulse, January 30, 2013
- ‘Amid Rising Challenges to State Clean-Energy Mandates, Delaware Lawmakers Reject Effort to Freeze RPS’ Green Matters, April 5, 2012
- ‘Renewable Portfolio Standard Repeal Bill Receives hearing” Green Strategies Bulletin, Bricker & Eckler LLP, February 9, 2012
- ‘Ken Cuccinelli and Dominion Power Move to Repeal Virginia RPS’ Grist, January 16, 2013
- ‘wind, solar groups quit ALEC as conservative powerhouse targets clean-power programs’ Greenwire, January 30, 2013
- ‘Be Alerted: ALEC Prioritizes Renewable Energy for Next Year’ Sustainable Business News, November 6, 2012