エネルギー省、「2014-2018年戦略計画」を発表
2014年04月18日
NEDOワシントン事務所
松山貴代子
トランスフォーマティブな科学技術解決策を介してエネルギー・環境・核安全保障の課題に取り組むことにより米国の繁栄と国家安全保障を確保することを主要ミッションとするエネルギー省(DOE)が2014年4月7日、「2014-2018年戦略計画(Strategic Plan 2014-2018)」注1を発表した。DOEの新戦略計画は、自省の活動ロードマップとなるもので、2014年から2018年までの主要な優先事項を、(1)科学とエネルギー;(2)核安全保障;(3)管理と成果(management and performance)という3つの大目標に分け、それぞれの大目標毎に具体的な戦略目標を説明している。ここでは、科学とエネルギーに関する戦略目標の概要を報告する。
目標1: 科学とエネルギー
基礎科学の促進、エネルギー技術の刷新、米国の経済成長と雇用創出の促進、及びエネルギー安全保障と環境の質の向上の為に、データ駆動型(data driven)政策を提供することを目的とする。特に、気候変動リスクの緩和と気候変動への抵抗力強化を狙いとする大統領の気候変動行動計画の遂行に重点を置く。同分野に貢献するDOEプログラムは、ARPA-E、配電・エネルギー信頼性、エネルギー効率化・再生可能エネルギー、エネルギー情報局、エネルギー政策・システム分析、化石エネルギー、先住民エネルギー政策計画、国際問題、ローン計画、原子力、電力事業部(Power Marketing Administration)、及び、科学部。
戦略目標1: 大統領の気候変動行動計画に盛り込まれた目的・目標の達成
「All-of-the-above(エネルギー全活用)」戦略に含まれるエネルギー資源の良識的な開発・普及・有効利用を助長することにより、大統領の気候変動行動計画の目標を前進させ、更には新規雇用と産業をも創出する。DOEは同目標を達成する為に、以下の6つの並列戦略を実施する。
- 効率改善による、エネルギー生産性の向上2030年までに米国のエネルギー生産性を倍増し、炭素排出を30億メトリックトン削減する省エネルギー基準を確立するという大統領の野心的目標の達成に向け、DOEは米国製造業者の競争力強化に繋がる技術や慣行への投資に重点的に取り組む。
- 発電用に多様なエネルギー資源オプションと変換装置オプションを提示気候変動行動計画にある、2012年から2020年までに風力・ソーラー・地熱利用の再生可能エネルギー発電を倍増するという大統領目標の達成に向け、DOEは引続き、これら技術の開発・商品化を一層加速すること注2によって、全米各地の再生可能資源を利用したコスト競争力のある発電量の大幅拡大に尽力する。
2020年までに国有地に10,000メガワットの再生可能エネルギーを認可するという大統領目標に向けて、DOEは引続き、許認可の簡素化や米国で最も豊かな再生可能エネルギー資源にアクセスする送電への融資で関連省庁機関と協力する。
DOEは、米国の炭素排出量の約3分の1を放出する発電所やその他大型排出源で回収された二酸化炭素(CO2)の安全かつ恒久的な貯留と利用を可能にすることにも尽力しており、次世代の炭素回収貯蔵(carbon capture and storage =CCS)技術やCO2活用技術が2020年代半ばまでに商業化されると期待している。
「All-of-the-above」戦略と温室効果ガス(GHG)排出抑制の必要性を同時に助長する為、DOEは、現在の最大の無炭素電力源である原子力技術の進歩(小型のモジュール型原子炉等)を追及する。 - 「All-of-the-above」エネルギー技術配備に対する民間融資増加にてこ入れ
- 燃料資源の多様化、効率改善、及び排出削減の為に、新たな輸送システム技術の開発・普及を加速化
2020年までに米国の石油純輸入量を半減するという大統領目標の達成に向けて、DOEは持続可能な先進輸送技術の発見・推進注3で産業界と提携する。
車種と燃料オプションを更に多様化するため、DOEは先進バッテリーと燃料電池の開発を継続し、自動車の電化を奨励し、電気自動車の広い導入を妨げる障壁への対応でパートナーと協力する。
既存インフラを利用することが出来る、持続可能資源を使う代替燃料(先進バイオ燃料を含む)を開発する。
- 国内の原油及び天然ガスの環境に責任をもった開発・供給・利用の支援
国内の原油・天然ガス資源を安全かつ環境に責任を持った方法で開発・利用する活動を支援し、更に、非在来型の原油・天然ガス資源の環境配慮型開発を促進する為に、研究開発・データ収集・モデリングの分析・情報普及を実施する。
DOEはまた、注入された液体(回収CO2を含む)の流れを予測・制御・モニターする最新手法を促進する。 - 国際的な地球気候変動対応努力への貢献クリーンエネルギー大臣会合や国際再生可能エネルギー機関(IRENA)といった二国間及び多国間フォーラムを介して、中国・インド・その他の大量GHG排出国との技術・政策提携を行うことに重点をあてる。DOEは、国務省指導の包括的な国際気候交渉(国連気候変動枠組み条約を含む)を支援するほか、米国のクリーンエネルギー解決方法の為の国際市場を発展拡大することによって、大統領の気候変動行動計画と国家輸出イニシアティブを同時に推進する。
【2014-2015年度の優先目標】
- 2009年以降設定された基準によって累積炭素排出量を2030年までに30億メトリックトン削減するという目標、及び2016年末までに家電製品と産業機器の新基準を公布するという目標を支援。
- GHG排出を削減する先端化石エネルギー技術に対して2017年度終了(2017年9月30日)までに80億ドルのローン保証を提供。
【成果目標】
- 2015年度終了(2015年9月30日)までに、3件の完全統合されたCCS実証事業と、6件の大規模CO2注入・貯留事業を運転。
- 2015年度終了までに、発電事業用としては最高の太陽光発電システムのコストを1.85ドル; 事業用のシステムで2.37ドル、住宅用システムで3.10ドルを達成。
- 2017年までにグリッド接続の先端洋上風力発電構想を実証。
- 2020年までに、配電フィーダ(50%が可変の分散型エネルギー源)と電気自動車及びビル管理システム(BEMS)の統合を実証。
- 2015年度までに、最高3ヶ所の商業規模セルロース系エタノール燃料精製所を運転。
- キロワット当たり40ドル;耐久性5,000時間;効率60%という2020年目標を達成するため、輸送用燃料電池のコストを25%以上削減。
- プラグイン電気自動車のバッテリー技術コストを2015年までにキロワット時当たり300ドル、2022年までにキロワット時当たり125ドルまで削減。
戦略目標2: 米国エネルギーインフラの経済競争力、環境配慮、安全性、及び回復力の強化を支援
クリーンエネルギー経済では、可変エネルギー資源の開発・統合を支える通信・制御技術が重要となる為、DOEでは、水力・エネルギー貯蔵・デマンドレスポンス能力といった制御可能な再生可能エネルギー(dispatchable renewable energy)の利用を拡大する方法を追及する。先進のインテリジェント装置や通信網はエネルギーシステムの可視性(visibility)・反応及び制御を改善する一方で、サイバー攻撃に晒される危険を増大させる。DOEでは、気候変動;サイバー面及び物理面の脆弱性;インフラの相互依存性に起因する、国家エネルギーインフラの脆弱性管理を助長する為に、以下の6つの戦略を実施する。
- 4年毎のエネルギー見直し(Quadrennial Energy Review =QER)を支援連邦政府のエネルギー政策が変化する状況下で米国の経済・環境・安全保障の目的を確実に満たすよう、行政府はホワイトハウスの国内政策審議会(Domestic Policy Council)と科学技術政策局(OSTP)指導でQERを実施する。QER第一号では、インフラストラクチャーの課題に焦点を当て、米国のエネルギー安全保障と気候安全保障の脅威とリスク及び機会を特定する。
- 「All-of-the-above」発電源の回復力(resiliency)・柔軟性・統合性を向上する為に、配電網近代化技術を開発分散型発電・再生可能資源・デマンドレスポンス等を確実かつコスト効率的な方法で送電網に統合する為には、双方向に流れる電気や情報や自動制御が必須であるが、現行の送電網は技術及びシステム統合の上で複雑な課題に直面している。これを克服する為、DOEは次世代グリッド・オペレーティング・システムを開発し; 分散型資源の統合を拡大し; エネルギー資源の分散・協調型(decentralized and coordinated)制御技術を追求し; 気候変動行動計画目標達成を阻む導入面での障壁に対応するためにパートナーシップを構築する。
- DOEの事故管理能力の有効性を強化エネルギー回復力・運用センター(Energy Resilience and Operational Center)の機能性を高め; エネルギーインフラのリスクと脆弱性を予測するモデルの能力を向上させ; 分析・可視化能力によって状況認識力を高める。
- 戦略石油備蓄(Strategic Petroleum Reserve =SPR)の管理、及び石油市場供給途脱への対応準備
- 効果的な産官提携による、エネルギー部門のサイバーセキュリティ強化DOEはエネルギー部門におけるサイバーセキュリティの改善で政府・産業界パートナーと協力する。DOEでは、情報共有やベストプラクティス導入を推進し、最先端サイバーセキュリティ解決策を開発し、事故対応能力を強化するほか、配電網内の相互運用通信を更に安全にする次世代技術を開発・実証する。
- 州政府・地方政府・その他利害関係者との協力で、気候変動回避/適応準備戦略を策定
【2014-2015年度の優先目標】
- 2015年初旬までにQERの第一号を発行することを支援。
【成果目標】
- 月間95%という保全・アクセス目標を毎年達成することによって、SPRの運用即応性(operational readiness)を保証。一日440万バレルを放出する能力を維持。
- 自然災害や核関連事故へのDOE事故対応能力を確立するため、2015年度終了までに「エネルギー事故管理対応審議会(Energy Incident Management and Response Council)」を設置。
- グリッドスケール(1メガワット以上)のエネルギー貯蔵技術のコストを2015年度末までにキロワット時当たり325ドルまで削減。
- 2015年度末までに、エネルギー部門でCybersecurity Capability Maturity Modelの実施を支援し、コントロールセンター間の通信秘密保全(communications security)強化を含むツールを実証。
- DOEは国立研究所やエネルギー部門パートナーの専門知識を活用し、配電システム網内で相互運用可能な通信(interoperable communications)の安全性を高める次世代技術を開発・実証。
戦略目標3: 自然に対する我々の理解を一変させ、基礎科学の進展と技術革新との繋がりを強化する、科学的発見や主要な科学ツールの提供
DOE管理の基礎研究ポートフォリオは、宇宙の起源探査からエネルギー・環境・国家安全保障上の新課題対応にまで及ぶ。この広範で複雑なポートフォリオは、科学者の学際的チームが世界最先端の科学機器を活用して、国家の優先事項や科学の最先端で進展する好機に迅速に対応出来るという、相対的優位性を提供することになる。科学的発見と主要な科学ツールを実現させるという目標を達成する為に、DOEは以下の3つの戦略を実施する。
物質・材料・それらの特性に対する理解を深める為に、大学・国立研究所・産業界との提携によって、発見重視の研究を実施
将来のイノベーションや応用技術を増強する為には基礎科学が重要である。DOEは引続き、自然に対する理解を高め、DOEのエネルギー・環境・安全保障ミッションを助長する新技術を生む為の技術的基盤を築く科学的発見を追及する。重点分野は以下の通り:
- 複雑な現象の分析・モデリング・シミュレーション・予測を行う為の高度な科学計算
- 新エネルギー技術の基礎を築く物質とエネルギーを理解・予測・制御する為の材料科学とケミカルサイエンス
- ゲノム利用生物学(genome enabled biology)の調査; 気候変動の牽引要素と影響の発見; 環境管理(environmental stewardship)の決定要因の探求に焦点をあてた、生物科学と環境科学
- 核融合エネルギーの開発に必要な科学的基盤を構築する為の物質プラズマ科学
- 自然の力(自然、ダークエネルギーとダークマターの起源、宇宙の起源)の一体化に関する質問を明示し、それに答える為の高エネルギー物理学
- 形態や複雑性が異なる核物質を創造・検出・説明する為の原子物理学
ミッション重視型研究を可能にし、科学的発見を促進する、世界一の科学的ユーザー施設を米国の研究者に提供
ミッション重視型研究を実施するため、国立研究所システム、及び大学・産業界とのパートナーシップを活用
DOEの科学、及びエネルギー研究開発プログラムの価値と結束を保証するために、以下を実施する:
- DOE本部、DOEプログラム及びDOE国立研究所間のパートナーシップを強化
- DOEの部局及び国立研究所において運営面でのイノベーションを推進
- 科学的知見の共有によって発見を加速するため、DOEのリサーチ、特に雑誌文献や科学データへの無料一般アクセスを拡大
【2014-2015年度の優先目標】
ブレークスルーを実現させる基礎研究や自然界に対する知識を広める基礎研究を、国立研究所能力のフル活用及び産学との協力によって支援・実施する為、DOEでは2015年末までに、①科学ユーザー施設の優先順位化をプログラムの企画に取り込み;②自省のその他ミッション分野と連携しながら、プログラムの牽引要素や技術的要件を特定。
【成果目標】
重要な十年未満周期(sub decadal)プロセスに関する理解を向上させる能力を確立し、結果を地球構造モデルに統合。
主要な建設・アップグレード・設備調達プロジェクトの確定コストからの差額や、確定スケジュールからの遅れを10%以下に制限。
リサーチ及び技術革新の調整をDOEの科学・エネルギー活動全域に広げて展開。
(Department of Energy “Strategic Plan 2014-2018”; Department of Energy Press Release, April 7, 2014)