民主党全国大会、「2016年民主党綱領」を採択
2016年07月26日
NEDOワシントン事務所
松山貴代子
民主党全国大会が7月25日、「2016年民主党綱領(2016 Democratic Party Platform)」を正式に採択した。全国大会の初日に演説を行ったバーニー・サンダース上院議員(バーモント州)を含め同大会に出席の民主党議員が、大会史上で最も進歩的であると評価する「2016年民主党綱領」は、党の課題を (1)中産階級の増収および経済的安定の回復; (2)高給与雇用の創出; (3)経済面での公平を求め、不公平に立ち向かう戦い; (4)国民の団結およびチャンスを妨げる障壁の除去; (5)投票権の保護、選挙資金制度の改正、および民主主義の回復; (6)気候変動との闘い、クリーンエネルギー経済の構築、および環境正義の保証; (7)手頃で高質な教育の提供; (8)米国民の衛生と安全の保証; (9)信念に基くリーダーシップ; (10)軍隊支援および復員軍人との約束の保守; (11)世界的脅威との対決; (12)我が価値観の保護; (13)世界のリーダー、に分類して説明している。ここでは、上述の(2)高給与雇用の創出と(6)気候変動との闘い、クリーンエネルギー経済の構築、及び環境正義の保証について、主要点を概説する。
高給与雇用の創出
21世紀インフラストラクチャーの構築
- 21世紀エネルギー・水資源システムを構築し、学校を近代化し、高速ブロードバンド網の拡張を引続き支援する。
- コミュニティを気候変動の影響から守り、その影響を緩和するために、グリーンで弾力性のあるインフラストラクチャーへ投資する。
- 公衆の衛生と安全を守るため、飲料水・廃水システムを近代化する。
- 重要インフラストラクチャーの改善を支援することを目的とする、独立したインフラ銀行を設置する。このインフラ銀行は、エネルギーや水資源、ブロードバンドや運輸、多面的インフラ事業の投資に ローン他の財政支援を提供する。
製造業ルネサンスの助長
- 大打撃を受けた製造業中心のコミュニティを活性化する。このために、全米各地に製造業とイノベーションが繁栄する拠点を構築し、雇用を海外へ流出した企業が受けた(米国)減税を回収することで得た収益を使って国内のコミュニティや労働者へ再投資する。
- 全米各地において高給与雇用を支援し、アメリカ人労働者や製造業者が公平な条件で競争することを可能にする輸出入銀行を擁護する。
高給与なクリーンエネルギー雇用の創出
- アメリカ人労働者やビジネスが、世界のクリーンエネルギー、ハイテク製品、IT製品および先進製造業や自動車部門で雇用や投資を獲得することを支援する。工業エネルギー効率改善への投資等により米国製造業を世界で最もグリーンで効率的な製造業にすることによって、米国製造業の国際競争力を強化する。
イノベーション・アジェンダの追求: 科学、研究、教育、および技術
- 科学・技術・研究への野心的な公共・民間投資を支援する。
- 起業家精神を支援し、デジタル経済への参入を促進し、世界各国の優秀な人材を獲得・保持し、研究開発やイノベーション拠点に対する投資を行なう。
- 高校卒業までにコンピューターサイエンスを学ぶ機会を全学生に提供する。
- 全米各地で全てのイノベーション部門において技術移転、起業家精神、小企業創出を奨励する。
- 米国の全世帯を高速ブロードバンドに接続する作業を完了させ、インターネット導入を増やし、アンカー機関(anchor institutions)の連結を助長することにより、無料WiFiを市民に提供する。
- 5Gテクノロジーの広範な普及を助長する対応策を講じる。
- 米国航空宇宙局(NASA)への支援を強化し、新たな宇宙ミッションの打ち上げに国際的科学コミュニティと連携して取り組む。
アメリカの小企業の支援
- 小企業や起業家を敬遠させる原因となっている官僚主義を改める。
- 小企業や起業家に税金控除を提供し、税制を簡素化する。
- 十分なサービスを受けていないコミュニティにおいて起業家精神と小企業の成長に的を絞った財政支援を提供する。
気候変動との闘い、クリーンエネルギー経済の構築、及び環境正義の保証
気候変動は差し迫った脅威であり、我々の時代を決定づける課題である。米国は21世紀中盤までにはクリーンエネルギーに完全移行していなければならない。民主党は、国内の炭素汚染削減とクリーンエア保護で大胆な手段を講じ、世界各地で気候変動に立ち向かう戦いを指導し、クリーンエネルギー経済への移行を促進する際に一人の米国人も取り残されることがないことを保証し、天然資源や国有地および水資源をレスポンシブルに管理する。民主党は、地球の保護か高給与職の創出のどちらか一つを選択しなければならないという考えを否定する。
クリーンエネルギー経済の構築
- 10年以内に国内消費電力の50%をクリーンエネルギー資源で賄う: 4年以内にソーラーパネル5億を設置し、国内の全世帯に電気を提供するに十分な再生可能エネルギーを導入する。
- エネルギー効率改善によって国内の住宅、学校、病院、事務所におけるエネルギー浪費を削減し、配電網を近代化し、米国の製造業を世界で最もクリーンで効率的なものとする。
- 運輸システムの変容: クリーンな燃料、車両の電気化、自動車・トラック・ボイラー・船舶の燃費改善により石油消費を削減し、公共輸送に新たな投資を行なう。
- 化石燃料会社への特別減税や補助金を廃止し、省エネやクリーンエネルギーに対する優遇税制を擁護・拡張する。
- 二酸化炭素・メタンガス・その他温室効果ガス(GHG)がもたらす外部への悪影響(negative externalities)を考慮し、クリーンエネルギー経済への移行を加速し、米国の気候変動目標達成を助長するよう、これらのガスに対して価格を設定注1する。
- クリーン発電計画(Clean Power Plan)や自動車・大型車両の燃費基準、建築基準や家電機器の効率基準といった、賢明な汚染排出基準・効率基準を擁護・実施・拡大する。
- クリーンエネルギー研究開発を拡大する。
- 環境庁(EPA)から水圧破砕(hydraulic fracking)の規制権限を剥奪した「ハリバートンの抜け穴(Halliburton loophole)」注2を封鎖する。
- 既存及び新規発生源に対する常識的な基準の適用、および数千マイルに及ぶパイプ漏れの修理によって、石油・天然ガスの生産・輸送で発生するメタンガス排出を2025年までに2005年水準の40~45%減まで削減する。
- 再生可能エネルギーへの低所得世帯によるアクセスを拡大し、エネルギー不足に苦闘するコミュニティに高給与の職を創出注3する。
- 低価格再生可能エネルギーを市場へ運ぶ送電線の新設を加速化するために連邦許認可手続きを簡素化し、天然ガス発電所の新開発よりも風力・ソーラー・その他再生可能エネルギーの開発を奨励する。
- クリーンエネルギー・インフラが再生可能発電であれ、先進自動車製造であれ、高い労働基準、および労働組合を結成し・組合に加入する権利を支援する。
環境正義および気候正義の保証
- 気候変動との闘いでは、いかなるコミュニティ(石炭のコミュニティを含め)をも取り残してはならない。民主党は、雇用創出および明るく弾力性のある経済の構築を助長するために、エネルギー生産コミュニティに新たな投資を行なう。
アメリカの国有地と水資源の保護
- 州・地方・国立公園でのレクリエーション機会を拡大し、既存公園を再生し、アメリカの大自然を深めるため、「アメリカ公園信託基金(American Parks Trust Fund)」を設置する。
- 北極圏および大西洋沖での掘削には反対であり、化石燃料開発への国有地リースを改正する必要があると信じる。国有地における化石燃料抽出を段階的に廃止する一方で、国有地や沿岸での再生可能エネルギー発電(ワイオミング州の風力発電からネバダ州の太陽光発電まで)を拡大する。
注1 バーニー・サンダース上院議員は民主党の大統領選挙戦で炭素税の導入を主張していた。民主党全国大会を前に行なわれた民主党綱領のすり合わせには、ヒラリー・クリントンとバーニー・サンダースの双方から代表者が出席。サンダース側が主張する炭素税を含めるにはいたらなかったものの、こういう形で二酸化炭素他のGHGにも一種の税をかけるという文言が盛り込まれることとなった。
注2 2005年成立のエネルギー法に盛り込まれた、水圧破砕で企業が使用する化学物質の開示を免除するとした条項で、これによりEPAは水圧破砕を規制することが不可能となったもの。
注3 オバマ政権が2016年7月19日に発表した新イニシアティブ「Clean Energy Savings for All Initiatives」を指す。同イニシアティブの概要については、2016年7月22日付けのNEDO Washington Daily Reportを参照されたし。