ホワイトハウス、無人航空機(ドローン)に関する
初めてのワークショップを開催
2016年08月16日
NEDOワシントン事務所
松山貴代子
ホワイトハウスの科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy =OSTP)が8月2日、「無人航空機(ドローン)と航空の未来に関するワークショップ」を開催した。急成長するドローン業界は2025年までに米国内で、820億ドル以上の経済効果をもたらし、10万以上の新雇用を生み出すと推定されている。
今回のワークショップの目的は、新興技術のドローンから生まれる機会(チャンス)を促進すると同時に、ドローンがもたらす課題に取り組むこと。Megan Smith最高技術責任者(Chief Technology Officer)やMichael Huerta連邦航空局(Federal Aviation Administration =FAA)局長等政府高官、テキサスA&M大学ロボット支援探索救助センター(Center for Robot-Assisted Search-and-Rescue)のRobin Murphy所長、およびインテル社のBryan Krzanich最高経営責任者(CEO)やロッキード・マーチン社のRobert Ruszkowski無人航空機所長を始めとする業界リーダーがスピーカーとしてワークショップに参加した。
このワークショップでは、政府主導で行なっているドローン技術のユースケース、および、米国経済においてドローンのプロフィルを高めることを目的とする野心的なアジェンダが概説された。ワークショップで出た、主要な発言や興味深い事実は以下の通り:
- FAAのHuerta局長 … FAAは2016年1月からの8ヶ月間で52万人以上のドローン操縦者を登録した。ドローン業界の変貌ぶりはシリコンバレーのスピードであって、政府も通常以上のスピードで対応する必要がある。
- 消費者向けドローン市場は約160億ドルと推定されており、商業向けドローン市場は2020年までに40億ドルに達すると予想されている。
- インテル社CEO Krzanich氏 … 複数のドローンを同時に安全に操作注1できることが、ドローンの商用化に不可欠な要素となる。現在、一台の操作コンソールで100機のドローンを操ることに成功しており、これを1,000機以上にスケールアップする努力が進められている。
- ロッキード・マーチン社のRuszkowski無人航空機所長 … ロッキード・マーチン社はF-16戦闘機用に地上衝突回避ソフトウェア(ground collision avoidance software)を開発しているが、この種の技術は立入禁止区域へのドローン侵入回避に適用可能である。既に立証された、直ちに使用可能な技術が多数存在する。
- 5億エーカーの国有地と17億エーカーの大陸棚を管理する内務省にとって、ドローンは必要不可欠なツールであり、火災の鎮静や鉱山の検査、油流出対策や重要インフラの監視といった多様なミッションに貢献している。
- 内務省は2019会計年度までに、ドローン収集データをクラウド利用によって迅速に処理する方法を確立する。
- FAAは2016年5月、重要なドローン統合問題でFAAにアドバイスをする「ドローン諮問委員会(Drone Advisory Committee)」の設置を発表。委員会は、ドローン技術に関連する課題を特定し、ドローンを統合していく活動(将来の規制や政策の策定を含む)に優先順位をつける。Huerta FAA局長はインテル社CEO Krzanich氏を委員長に指名。
OSTPはこのワークショップの一環として、全米航空システム(National Airspace System)ネットワークへの安全なドローン統合を促進するため、新たな官民努力を発表した。主要な取り組みは以下の通り:
【政府の取り組み】
- 全米科学財団(National Science Foundation =NSF)は、インフラストラクチャーの検査や災害対応、農業や暴風雨研究といった用途にドローンを導入していく方法の研究に5ヵ年で3,500万ドルの資金を提供。
- FAAは、ドローンの増大に伴う安全性問題に取り組むため、ドローン業界関係者と協力して「無人航空機安全チーム(Unmanned Aircraft Safety Team =UAST)」注2を設立。UASTは既存の商業航空安全チーム(Commercial Aviation Safety Team)に倣い、政府と産業界の代表で構成され、安全性データを分析し、ドローン関連事故の原因となりうる要因を緩和する為の非規制の介入策を策定。
- FAAは小型ドローンの頭上飛行に関する規制案を今年の冬までに発表。この規制案が、ニュース取材の写真撮影やビデオ撮影、インフラストラクチャーの検査等、ドローンの有益利用に対する枠組みとなる見込み。
- FAAは、模型飛行機の規則に従うという条件で、学生が教育・研究目的でドローンを操作することを認可。
- 米航空宇宙局(NASA)は2017会計年度に、検知回避(detect and avoid)技術と指揮管制(command and control)技術の新基準へと繋がっていく新たな研究に着手。
- NASAとFAAは、ドローン操縦者とドローン交通管制(UAS Traffic Management =UTM)利用者との間の情報シェア用に共通データフォーマットを作成するため、UTM研究チームの下に「データ交換作業部会(data exchange working group)」を設置。
- 国立海洋大気局(National Oceanic and Atmospheric Administration =NOAA)は、ドローンを活用した正確な重力測定を開始。これにより、米国全体の地表隆起(surface elevation)算出が改善され、沿岸地域における津波・ハリケーン・高潮のリスク緩和に役立つ新たな標高基準体系(vertical elevation reference system)の策定が可能。
- NOAAは観測能力を補充するため、NOAA所有船舶にドローン観測能力を追加する方法を調査。
- 内務省は、進行中の山火事現場にドローンが無断侵入することを回避する努力の一環として、2017年7月までに山火事・野火情報をほぼリアルタイムで市民と共有。
- 内務省は有人航空機ミッションを補充するため、2017年12月までに、ドローン用の観測機器を開発。
- 内務省は、捜索救助活動にドローンを活用して有人航空機での活動を補充するほか、2018年10月までに、ドローンを探索救助に使用するための訓練計画を策定。
- 米国郵政公社(S. Postal Service)の監察総監室は、ドローン配達に関する世論の分析と調査結果を公開する意向を表明。
【州政府の取り組み】
- ニューヨーク州経済開発庁は、州内、特にアップステート・ニューヨークにおけるドローン業界の成長支援に500万ドルの初期投資。
- ノースダコタ州のノーザンプレインズ・ドローン実験場(Northern Plains UAS Test Site)は、Grand Sky business and aviation parkから飛び立つドローンの有視界外飛行(beyond visual line of sight =BVLOS)を実施予定。
【民間の取り組み】
- Zipline International社はメリーランド州、ネバダ州、ワシントン州で、Ellumen、ASD Healthcare、および非営利団体のBloodworks Northwestの支援を受けて、ドローンを使った遠隔地への医療用品配達を実証。
- Flirtey社は、ドローンの世界的な人道的救援活動利用に焦点をあて、非営利団体のInternational Medical Corpsと提携して、医薬品や予防接種を遠隔地にドローンで配達する為に必要となる軽量な保温コンテナを開発。
- 商業用ドローン同盟(Commercial Drone Alliance)は、全米航空システムへのドローン統合に関するアメリカ国民の啓蒙活動を先導。
- 「飛行前に知っておくべき事項(Know Before You Fly)」という安全キャンペーンの一環として、Sinclair Broadcast GroupはAssociation for Unmanned Vehicle Systems International(AUVSI)およびAcademy of Model Aeronautics(AMA)と協力し、ドローン安全性に関する公共広告を策定、放送。
- Alphabet社のProject Wingは、FAAのドローン実験場で配達用ドローンの飛行実験を開始。ドローン配達に関する安全性と人間要素の問題に答えるため、収集データを政府パートナーと共有。同社はまた、既存の低コストでスケーラブル(拡張可能)な通信情報技術を使って、最大高度400フィートの空域で小型ドローンを安全に操作するためのオープンインターフェースの空域管理方法を開発、配備。
- Drone Racing League(DRL)は、ドローンレース業界向けのベストプラクティス(イベントのガイドラインや運営組織、安全対策等)を発表。
- PrecisionHawk社は、農村地域でドローンのEVLOS(extended visual line of sight)操作の安全性を実証したPathfinder第一フェーズの結果を発表。
- DJI社は、2016年10月に開催される「4-H国家青年科学記念日(4-H National Youth Science Day)」を支援。今年のテーマは「ドローンの発見」。
- DroneBase社とDrones & Good社は退役軍人に対して、商用ドローン業界で新しいキャリアを始めるために必要な研修プログラムと実習プログラムを提供。
【参考資料】
- White House FACT SHEET: New Commitments to Accelerate the Safe Integration of Unmanned Aircraft Systems, August 2, 2016
- “FAA Administrator Makes Two Major Drone Announcements,” Federal Aviation Administration News, July 1, 2016
- “NAMIC Joins FAA Drone Safety Team as First Member,” by Anthony R. O’Donnell. Insurance Innovation Reporter, August 8, 2016
- “13 Things We Learned About Drones At The White House,” by Dan Verton, MeriTalk, August 4, 2016
- “UAV157 Government and Private Sector Initiatives for UAS Integration,” The UAV Digest, August 5, 2016
注1 複数ドローンを使う用途としては、操作救助活動や配達、橋等の巨大構造物の検査等がある。
注2 UASTメンバーへの指名第一番は、全米損害保険相互会社協会(National Association of Mutual Insurance companies =NAMIC)のCEOであるCharles M. Chamness氏。