2016年09月26日 運輸省の国家道路交通安全局が発表した、「国家自動走行車政策」の概要

運輸省の国家道路交通安全局が発表した、「国家自動走行車政策」の概要

2016年09月26日
NEDOワシントン事務所

 

運輸省の国家道路交通安全局(National Highway Traffic Safety Administration =NHTSA)が、市民の安全を確保しつつ自動走行車技術の開発・導入を促進することを目的とした、「国家自動走行車政策:次なる交通安全改革の促進(Federal Automated Vehicles Policy: Accelerating the Next Revolution in Roadway Safety」という新政策を9月20日に発表した。利害関係者や一般市民からのインプットの産物といえる今回の新政策は、法的拘束力のある断固とした規制でなく、今後の技術進展に柔軟に対応していくことを考慮した指針となっている。

自動走行車のレスポンシブルな試験と導入を指導するこの新政策は、2013年5月に発表された『自動走行車に関する一次政策方針(Preliminary Statement of Policy Concerning Automated Vehicles)』に替わるもので、運転者支援技術から完全自動運転技術まで幅広い自動走行車を対象とし、データ収集や利害関係者間でのデータ共有におけるトランスペアレンシーの強化を想定しているほか、自動走行車利用に係るプライバシーとサイバーセキュリティも取り上げている。NHTSAでは同政策へのコメントを9月19日から60日間受け付け、新政策を最終化する予定であるという。

「国家自動走行車政策」は、自動走行車のパフォーマンス・ガイダンス; 州政策のモデル; NHTSAの現行規制ツール; 新ツールと権限、という4テーマに整理されている。各テーマの概要は以下の通り:

  1. 自動走行車のパフォーマンス・ガイダンス: ガイダンスの意図は、高度自動化車両(highly automated vehicle =HAV)システムの安全な試験と導入を指導していく第一ステップとなることで、HAVの販売や公道走行へ至る前の安全設計・開発・試験に係るベストプラクティスを概説。更に、HAVの設計、開発、試験、導入に関する15項目の安全性評価分野を提示し、HAV技術の開発メーカーへの期待を明示。
  1. 州政策のモデル: 完全自動走行車の安全性問題に関しては運輸省が一次規制者となるが、車両運用の運転者責任に関しては州政府が従来通りに規制制度(運転免許証発行、自動車保険の義務要件等)を保持。新政策は、全米各地で自動走行車の開発・導入を促進する一貫した法律の確立で協力するよう各州政府に働き掛け。つまり、自動走行車導入の妨げとなるような、州間で対立した規制の策定を回避するよう要請。
  2. NHTSAの現行規制ツール: 運輸省が自動走行車の開発・導入を促進する為に利用可能な既存の規制ツール(法律解釈、現行基準の適用除外、現行規制改正または新規制策定の為のルール作成、欠陥-施行権限等)を提示。例えば、NHTSAには現在、安全面での欠陥を確認してリコールを発動する権限があるが、これが自動走行車にも同様に適用可能。NHTSAはまた、レビュープロセスを合理化して、シンプルなHAV関連解釈の発布を60日以内、シンプルなHAV関連の基準適用除外要請の決定を6ヶ月以内に行なうことを確約。
  3. 新ツールと権限: 運輸省が革新技術のタイムリーで安全な導入を助長するために利用可能な新ツール(可変的な車両試験方法やデータ収集の強化等)、権限(安全性保証や市場導入前認可等)、新資源(専門家ネットワーク構築や特別雇用ツール)を確認。

自動走行車のパフォーマンス・ガイダンス

現行法の下で自動車メーカーは、自社製の全車両が、該当する連邦自動車安全基準(Federal Motor Vehicle Safety Standards =FMVSS)の全てを順守していることを自己証明する責任を負っていることから、自動走行車が従来の車両設計を維持する場合には、それら車両販売の妨げとなる特別な連邦法はない。他方、運輸省では、自動車メーカーやその他開発者が斬新なHAVシステムを設計する場合には、そうしたHAVが現実の状況下でも安全であることを保証するため、本パフォーマンス・ガイダンス、業界基準及びベストプラクティスを利用するよう求めている。

ガイダンスは、乗用車からトラックやバスまでの全種類の車両で、運転者による交通状況の常時モニターに依存せずにシステムが全ての運転作業を行なえる技術を対象とし、HAVを試験、運転、又は導入するあらゆる機関1に対して、試験方法、システム故障時のセーフガード、現行交通法に従うプログラミング等15項目の安全性評価分野を網羅する「安全性評価レター(Safety Assessment Letter)」をNHTSAに提出するよう要請している。15項目の安全性評価分野の概要は以下の通り:

15項目の安全性評価

  • データの保存と共有 … HAVは本質的に、山のような運転データを集結した巨大コンピュータである。自動車メーカーは、規制策定者が衝突の再現やシステム故障の原因調査等に活用できるよう、データを保存し、これを規制策定者と共有すべきである。
  • プラバシー … HAVのオーナーに、車両が収集するデータを明確に示す通知や合意書を提示するほか、ジオロケーションやバイオメトリクス、運転者の行動といった個人情報に関しては、その収集をオーナーが拒否できる選択肢を提供するべきである。
  • システムの安全性 … HAVは、ソフトウェアの誤動作、ニアミスやけん引力喪失、その他リスクに安全に対応できるよう設計されていなければならない。自動車メーカーは安全性システムについて外部機関の認証を取得し、技術的問題が発生した場合でも車両が安全に作動することを証明すべきである。
  • 車両のサイバーセキュリティ … HAVは、サイバー攻撃を回避する防止装置を備えるべきである。特に、国立標準規格研究所(NIST)・NHTSA・SAE International・アメリカ自動車製造者連盟(Alliance of Automobile Manufacturers =AAM)・世界自動車メーカー協会(Association of Global Automakers)・ISAC(Automotive Information Sharing and Analysis Center)・その他機関が発表したガイダンス、ベストプラクティス、設計原則を取り入れるべきである。自動車メーカーは、サイバーセキュリティ対応での決定過程を全て記録し、業界内でそのデータを共有すべきである。
  • 人間と機械のインターフェース … 自動車メーカーは、自動/手動運転モードの切替を安全に行なう方法を明確にしなければならない。インジケーターは運転者に対して最低限で(i)正常機能中;(ii)オートドライブ中;(iii)オートドライブ不能;(iv)高度自動化(HAV)システムの誤動作;(v)HAVシステムから運転者へのコントロール切替要請、という情報を伝達すべきである。自動車メーカーはまた、自動運転モードの際に歩行者や従来車、及び他のHAVと交信する方法についても検討すべきである。身体障害者向けには完全自立型の自動車を設計すべきである。
  • 耐衝撃性(crashworthiness … HAVはNHTSAの「耐衝撃性」基準を満たし、衝突事故の際に乗員を最大限に守るよう製造されていなければならない。HAVの衝突損傷と同型従来車の損傷に差異があってはならない。
  • 消費者の教育訓練 … 自動車メーカーはHAV技術について販売員他のスタッフを教育し、これ等スタッフが自動車ディーラーや自動車販売店のスタッフを教育できるようにする。自動車メーカーや販売店はまた、消費者にHAVの能力や制約、及び緊急時の代替シナリオに関して訓練を提供すべきである2。
  • 登録と証明 … 製造メーカーやその他機関はNHTSAに、ソフトウェアの更新や新しい自動運転特性に関する説明や識別情報や提出しなければならない。
  • 衝突後の対応  … 自動車メーカーは、衝突事故後にHAVシステムが整備されて安全に利用できる状態になったことを証明するプロセスを確立すべきである。事故で破損したセンサーや重要な安全制御システムが適切に修理されるまで、車両は自動運転モードとなるべきではない。
  • 連邦政府、州政府、及び地方政府の法令と慣行 … HAVは、各州で異なる道路交通法(制限速度、一方通行、自転車専用道路等のアクセス制限、Uターン、赤信号での右折、等)を認識し、遵守すべきである。更に、路上の故障車やその他の道路障害物を回避するため、追越し禁止等の交通規則を一時的に破る操作をする能力も必要である。
  • 道徳的配慮 … HAVシステム「運転者」による決断も人間同様に道徳的側面を持つ。例えば、二車線道路で車が二重駐車している場合、対向車との衝突の危険を覚悟で追越し禁止の交通規則を破るかどうか?衝突を避けられない時に自車の乗員の安全と他車の乗員の安全のどちらを優先するか?等。こうした対立状況を解決するアルゴリズムは、連邦政府や州政府の規制者、運転者、乗客、交通弱者(交通事故の被害に遭いやすい子供や高齢者等)からのインプットでトランスペアレントに開発されるべきである。
  • 運用設計領域(Operational Design Domain) … 自動走行システムが何時、どこで、どういう状況下で正常に機能するかを説明するマニュアルのようなもの。自動車メーカーは、速度範囲、天候や昼/夜といった環境状態に関してHAVシステムの能力を定義し、こうした能力の実験・実証方法を確立すべきである。
  • 物体・事象の検知と反応 … 自動車メーカーは、HAVが、車線を出たり入ったりする他車、歩行者やサイクリストや動物、及びHAVシステムの安全運転に影響を及ぼし得る物体を検知して、それに反応する能力を持っていることを明示するべきである。
  • 予備手段:危険状態の最小化(Fall Back: Minimal Risk Condition) … HAVは、技術的な誤動作の発生を検知して、自動から手動運転モードに切替えることを運転者に知らせる能力を持っているべきである。但しこの場合には、運転者の状態(酒や麻薬の影響下にないか、眠気を催していないか、身体的に運転不可能な状態にないか)等を考慮すべできある。
  • 認証方法 … 自動車メーカーは、HAVに利用される多様な技術の実験・実証方法を開発する必要がある。実験には、シミュレーション、試験コースでの実験、及び路上実験を含むものとする。

新政策に対する産業界の反応と今後の見通し

  • デトロイトやシリコンバレーの企業は、オバマ政権自動走行車新政策を歓迎。特に、新政策の「車両パーフォーマンス・ガイダンスと15項目安全性評価」は、自動走行車展開努力を妨げ得る州間で対立した規制の策定を回避するように州政府に対して働きかけると同時に、法的拘束力のある規制を避けていることから、これら業界にとっての早期勝利を意味。
  • Alphabet、フォード自動車、ウーバー、Lyft、及びボルボ自動車を代表するロビー団体「より安全な道路を目指す自動運転同盟(Self-Driving Coalition for Safer Streets)」は、新政策が米国全50州における自動走行車政策に標準規格を提供し、イノベーションを奨励し、実世界での迅速な実験や導入を支援するとして、これを歓迎。
  • アメリカ自動車製造者連盟(AAM)のスポークスウーマンは、「技術開発は速度が速く、自動車メーカーと規制者の提携が時代遅れの政策を回避するために不可欠であるため、ガイダンスは的確な対応である」と評価。
  • ハンドル、ブレーキペダル、及び人間とのインターアクションのために考案されたその他機能が装備されていない完全自動走行車に対応するため、数十年実施されてきた自動車安全基準をやり直す、又は取り消す必要があるかどうか?という問題が未解決。2016年3月のNHTSAレポートでは、従来設計(ハンドルやブレーキペダル等装備)で人間が同乗する自動走行車については規制上の障害は僅かながら、人間の運転者がいない無人自動車の認証には困難が発生するだろうと報告。規制者は特定の状況下で最高二年間のFMVSS適用除外を出せるとはいえ、これは多数の車両の未順守を無期限で許す目的ではない為、ある産業界の技術担当者は何らかの変更が将来必要になるだろうと主張。
  • 運輸省は自動走行車政策を毎年更新の予定。更新作業の前には、利害関係者やその他関係者からのコメントを受けるほか、専門家によるレビューも実施。
  • 運輸省高官は、将来の無人自動車設計で生じる問題への対応として規制を改正すべきかどうか検討中であると発言。現在のところ、連邦規制者は、数年がかりの規制策定プロセスは驀進する技術イノベーションにとって意味のない規制を生む可能性があるという懸念から、新規制策定には抵抗しており、むしろ、企業に対して情報の共有や、公道で走行可能な設計や機能に関する規制者への通報を要請。
  • Anthony Foxx運輸長官は電話インタビューで、自動走行(半自動走行も含む)システムが安全性に大きなリスクをもたらす場合、NHTSAは捜査を実施してリコールを呼びかけることを表明。NHTSAは、新ガイドラインは今年5月に衝突事故が起きたテズラを標的にしたものではなく、同事故よりもずっと以前に策定されていたと説明しているものの、ガイドラインに盛り込まれた、半自動運転システムは、注意散漫な運転者が車両をコントロール出来ないという事実を考慮にいれる必要があること; 半自動運転システムを安全性への大きなリスク・リコール対象と見なす可能性があるという指摘は、テズラの事故で明らかになった安全性問題への対応と見られる。
  • 運輸省高官は、自動運転システムが市場に出る前に、「差し迫った危険」とみなされる技術への迅速な対応を企業に要求する権限を規制者に付与することを政策策定者が検討していると示唆。但し、これには米国議会での承認が必要。
  • 運輸省は、車車間の交信に必要な技術(V2V技術)が搭載され、車両の安全性と乗員のプライバシーを守ることの出来る安全な方法で情報交換が行なわれることを確実にする新規定を2016年末までに発表予定。

 

1自動車メーカーや供給業者といった従来企業やテクノロジー企業やスタートアップといった従来とは異なる企業も含む。

2 これは、テズラの自動走行車が起こした死亡事故に応えて草案されたものと思われる。

調査レポート

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