エネルギー省、年次報告書『「Revolution … Now』を発表
2016年10月4日
NEDOワシントン事務所
松山貴代子
エネルギー省(DOE)は9月28日、クリーンエネルギーの主要5技術(陸上風力発電、ユティリティースケールの太陽光発電、分散型太陽光発電、発光ダイオード(LED)、電気自動車)に関するコスト・導入傾向を査定評価した報告書『Revolution Now: The Future Arrives for Five Clean Energy Technologies – 2016 Update』注1を発表した。
『Revolution Now』は、連邦政府や産業界による数十年来の投資の成果があがり、①2008年以来、陸上風力発電のコストは41%、ユティリティースケールの太陽光発電(PV)が64%、分散型PVは54%、LEDは94%、電気自動車は73%と大幅に低減;②これら技術の導入が急伸して、2015年に新設された陸上風力発電、ユティリティースケールPV及び分散型PVが米国の新規発電設備総容量の約66%に相当、したと報告している。
昨年の『Revolution Now』が、将来性のある「次なる改革」の新技術として、スマートビルディング、燃費の良い貨物輸送トラック、自動車用軽量素材を検討したのに対し、今年の報告書では、燃料電池、エネルギー管理システム、グリッド接続用の蓄電池、及び巨大3Dプリンターという4技術が「次なる改革」として考察されている。主要5技術の技術別の調査結果、及び「次なる改革」の4技術の概要は以下の通り。
技術別の調査結果
- 陸上風力発電
- ユティリティースケールの風力発電は全米41州とプエルトリコ及びグアム島で導入され、2015年時点の設備容量は約74,000メガワット(MW)。
- 風力発電が2015年の米国総発電量に占める割合は約5%ながら、アイオワ、サウスダコタ、カンザス、オクラホマ、ノースダコタ、ミネソタ、アイダホ、バーモント、コロラド、オレゴン、メイン、テキサスの12州においては州内発電量に対する風力の占有率が10%以上。
- 2015年には風力発電により、米国の二酸化炭素(CO2)排出が1億3,200万メトリックトン、水消費が730億ガロン減少。
- 風力の買電契約は2009年にはキロワット時(kWh)あたり$0.07であったが、ある地域では現在$0.02/kWhまで低下。
- ここ数年間の大幅なコスト削減と導入拡大の要因:
- 連邦政府の投資 … DOEの1976年から2014年までの風力R&D投資は24億ドル
- インフラストラクチャー開発 … 「Texas Competitive Renewable Energy Zone」プロジェクトを始めとする送電網増強プロジェクト
- 連邦・州政府のインセンティブ … 連邦政府の生産税控除(PTC)や州政府の再生可能エネルギー使用基準(RPS)等
- 次世代風力技術の更なる進歩によって、風力導入率が現在低い米国南東部地域においてもコスト面で競争可能となり、導入が促進すると期待
- ユティリティースケールPV
- ユティリティースケールPVの設置コストが$2.08/ワット(2008年比で64%減)まで低下したことが同部門の急成長をもたらし、2015年の総設備容量は2014年比43%増の約14,000 MWで、発電量は230億kWh。
- ユティティースケールPVの導入は加速傾向にあり、2016年1~6月の発電量は昨年同時期の34%増にあたる150億kWh。
- 2014年にはユティリティースケールPVにより、米国のCO2排出が1,700万メトリックトン、水消費が76億ガロン減少。
- 5年前には$0.10/kWhであった買電契約が2015年には平均$0.05/kWhまで低下。計画されている将来プロジェクトの買電価格は$0.035/kWh。
- ユティリティースケールPV開発業者から電力を直接調達するメリットを知った小売・金融・技術・製造部門の企業が2015年には1,000 MW余(2014年の4倍)を買電。
- 2016年半ばで既に8,400 MWが建設中であり、開発中プロジェクトも現在21,000 MW以上。
- 分散型PV
- 2015年に新規で設置された分散型PVは3,110 MW。
- 2015年の累積設備容量は11,638 MWで、発電量は120億kWh。
- 米国内における分散型PVシステムの設置台数は2016年春に100万を突破。
- 分散型PVの設置コストは2008年から54%低下し、2015年の住宅用PVシステムは約$4.05/ワット。
- 発行ダイオード(LED)注2
- LEDのコストは2008年から2015年までに94%低下。2015年に取り付けられたLED電球数は202万個(2014年比160%増)で、全米で2015年に取り付けられた全電球の約6%に相当。
- 2015年に設置されたLED電球により、米国のCO2排出が1,380万メトリックトン減少し、エネルギー費は28億ドルの節約。
- LED電球の成功は、コスト削減、効率・性能改善、及びLED照明部品・製品の国内製造業育成を目的とした政府・産業界のR&D投資の成果。
- DOEが固体素子照明(Solid State Lighting)プログラムで掲げるLED市場浸透目標(2035年までに85%)が達成されれば、米国は照明に伴うエネルギー消費を年間75%削減でき、2015年から2035年まで累積でエネルギー費を6,300億ドル節減。
- 電気自動車(EV)
- 2015年の国内EV売上台数は5万台を超え、累積台数は40万台余。
- 低価なガソリンにも拘らず、EV導入は2016年に入って更に拡大し、8月には49万台を突破。
- EVの開発・生産は米国経済に寄与し、リチウムイオン電池生産は2014年に4億ドルの経済効果を創出。
- 米国内には現在、公共及び民間のEV充電装置が5万基以上あり、その内の4,000余がDC急速充電器。
- 2015年のDOE「職場充電チャレンジ(Workplace Charging Challenge)」で、605の職場が雇用者にEV充電を提供すると確約。
- DOEが1992年から2012年まで行った10億ドルの電池R&D投資は、最先端電池の開発を6年間早め、35億ドル相当の経済価値を創出。
次なる改革
- 燃料電池
- トヨタとヒュンダイが既に燃料電池自動車(FCEVs)の販売・リースを行なっているほか、2016年後期にはホンダもFCEV販売を開始予定。
- FCEVが天然ガス由来の水素を利用している場合でも、温室効果ガス(GHG)排出量は在来型自動車に比べ50%減。水素が再生可能資源や低炭素エネルギー源から製造されれば、GHG排出を90%以上削減可能。
- DOEは燃料電池技術を大幅に改善する研究に投資。2007年以来、燃料電池に使用される白金の量が大幅に削減され、燃料電池コストは半減して2015年には$53/kWまで低下。
- DOEは、白金使用量の更なる削減、コスト削減、耐久性向上を目指す研究を進めるほか、低コストのカーボンフリーな水素製造R&Dを重視。
- エネルギー管理システム(Energy Management System)
- 国内エネルギーの32%を消費する産業部門は、ISO 50001やDOEのSuperior Energy Performance(SEP)プログラムの実施により、エネルギー消費とCO2排出を大幅に削減可能。
- ISO50001によるエネルギー管理がエネルギー消費や排出に与える影響は莫大で、広く世界的に実施されれば、2030年までにエネルギー費6,000億ドルの節減と65億トンのCO2削減(乗用車2億1,500万台の年間排出量に相当)が可能。
- グリッド接続用の蓄電池
- 風力発電や太陽光発電の増加に伴い、送電網には柔軟性が必要となっているが、グリッド接続用蓄電池は、こうした柔軟性を提供できる技術の一つ。
- グリッド接続用蓄電池の容量は2008年の約10倍に拡大。
- 殆どのグリッド接続用蓄電池で使用されているリチウムイオン電池パックのコストが2007年から2014年までに約60%低下。アナリストは、今後2年間で更に20~27%削減すると予想。
- コスト削減と大規模導入で、2021年の国内エネルギー貯蔵市場は29億ドルになる見通し。
- DOEは引続き、配電及びエネルギー信頼性(Electricity Delivery and Energy Reliability)部のエネルギー貯蔵プログラムやARPA-EのGRIDS(Grid-Scale Rampable Intermittent Dispatchable Storage)プログラム等を通して、エネルギー貯蔵の革新的な解決策を支援。
- Big Area Additive Manufacturing(以下、「巨大3Dプリンター」)
- DOE、オークリッジ国立研究所、及びシンシナチ社が共同開発した巨大3Dプリンターは、従来製造方法よりもエネルギー集約度が低く、迅速であり、クリーンエネルギー技術の次世代設計や製造への大きな貢献注3を期待。
- 巨大3Dプリンターの導入一番手と見られるのは、航空宇宙部門注4。コスト削減と性能改善が進むにつれ、より広範な製造部門が同技術の利益を享受。
- DOEは特に、金属や複合材料の工具・鋳型、軽量の自動車部品、再生可能エネルギー発電システムや高効率エネルギー発電システム、ビルディング技術といったクリーンエネルギー技術への用途を重視。
注1 2013年発表の「Revolution Now」初号では、対象は陸上風力発電、ソーラーパネル、電気自動車、LEDの4技術であったが、2015年11月に発表された更新版で、対象範囲が陸上風力発電、大規模太陽光発電、分散型太陽光発電、LED、電気自動車の5技術に拡大された。
注2 同報告書は、「LED電球」は家庭で一般に使用されるAタイプの電球を指す。
注3例えば、新型風力タービン翼の鋳型を3Dプリンター以外の積層技術の500~1000倍の速さで生産可能。タービン翼の生産に必要な時間とコストを削減するだけでなく、タービン翼設計におけるイノベーションの迅速化をも可能にする。
注4 オークリッジ国立研究所は先頃、巨大3Dプリンターを使って航空機翼を生産するツールを作成。これは、ボーイングの新型飛行機777Xの生産に使用される予定。